大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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十級のお仕事

 ぬるりとした感触が足に伝わり、とっさに滑らないよう足のバランスを調整した。ここは鉱山街ウィッカの地下水道だ。いわゆる下水道と違って鉱石を採掘したり精錬したときの排水が流れ込んでいる。

 ここは定期的に冒険者組合へと依頼を出している。魔法使いではない俺には理解できないことだが、魔力や瘴気で巨大化したネズミや小型の魔獣が出没するらしい。それらを狩る必要があるのだ。

 

 

「討伐対象から何も採れる物が無いから、人気もない。結果として下位の冒険者に回されるいわゆる汚れ仕事の一つだね」

「興味深いな。それに思っていたより人がたくさんいるのはなんでだ?」

「長い棒を持って天井のあたりを探っているでしょ。先に多少熱を帯びたクズ魔石を付けて、ガスが貯まる前に軽く火を点けたり、瘴気を払っているのよ。そういう人たちがいるから、襲われないように冒険者が害獣を狩るわけ」

「ほほぅ。詳しいなミュゼ」

「ここの仕事は常にあるからよ。依頼料安いけど、あれだけ数をこなせば嫌でも知識が付くわよ」

「はは。まぁ天井を掃除するのが彼らで、地面を掃除するのが僕らというわけだ」

 

 

 常にぬかるんでいるような感触の地面だが、しっかりとした石造りだ。恐らく作られた当時は文字通りの掃除もされていたのだろう。だが、今やそんな仕事をする人間はいないというわけで。

 この仕事の敵は討伐対象以上に、自分の迂闊な行動だ。流れる水路に落ちてしまえば鉱毒病や瘴気病に繋がりかねない。無傷で仕事をこなさないと損しかない。

 俺にとっては下手な相手より難しく感じる。師匠の手記にも『意外と面倒。あとたまに割に合わない魔獣と出くわす』とあった。

 

 鎖を取り出し、手元でぶんぶんと重く回す。俺はその音色に耳を傾ける。

 

 

「それは?」

「空気の流れを作ってる。それを正確に把握してしまえば……」

 

 

 鎖が曲線を描いて放たれた。曲がり角の入口へと飛び、高く短い鳴き声がした。鎖を引き戻すと端の鉄柄に貫かれた、異常な大きさのネズミが引っかかている。何食って生きてるんだこいつ。そしてなんか嫌な感じがする。

 

 

「この通り身を潜めているやつを、感知できる。それはともかく、どうしようコレ」

「そこが面倒なところでね。腐らせて病気を蔓延させてもいけないから、外の焼却場に持っていかなければならない。汚れ仕事兼力仕事なわけだ。イサオはあっさり倒したけど、正面から戦うと結構厄介だから依頼としてはハズレなのさ」

「それでこの汚い大袋か。力仕事は俺の役目だな。持ち運ぶのは俺がするから、どんどん倒してくれ。まぁ袋背負っててもある程度はやれるから、危ない時は手ぇ出すけど」

 

 

 パーティを組んだ時に決めたことだ。戦闘能力という点で俺が突き抜け過ぎているのが問題になった。アランもミュゼも大望ある身なのだから、腕を上げないといけない。よって俺は基本出しゃばらないことになっている。むしろ俺は戦闘面以外の部分を学ぶ。

 

 よく依頼を受けていたというだけあって、二人の動きは手慣れている。特にミュゼは〈ファイヤーアロー〉をよく大ネズミに当てられるものだと感心してしまう。下手でも俺は魔法に口出しはできないが。

 一方のアランの動きは我流なのだろう。攻撃はまぁまぁ鋭いが、防御と回避が雑で見ていてハラハラしてしまう。

 

 

「〈ストレングス〉!」

 

 

 それでもやっていけるのは補助魔法のおかげだ。実はアランは魔法も使えるのだ。ミュゼとの役割分担で自己強化中心らしいが、流石は勇者様見習いといったところか。でも攻撃魔法も覚えた方が良いと思う。

 

 

「最初に景色を見て、切り込んだ後は最低でも飛び退けー。戦士は立ち位置が大事だけど、盾無しなら動き回らないとヤバいぞ」

「分かってる……つもりなんだけどなぁ!」

 

 

 うん。才能はある。問題は大怪我でもしたら、夢が一発でおシャカになる現実だ。たかがネズミといってもあそこまでサイズがあると、指ぐらいは持っていかれるだろう。ハズレ依頼とはよく言ったものだ。

 入口から少し進んだ、円形の空間での戦いはこうして終わった。というか、その後も多少の危険はあれども同じような調子で終わった。俺としては補助役としての経験を積めたが、果たしてこれが二人の修行になるのか疑問だった。

 

 

「大ネズミは金になる部位とか無いのか?」

「それはこれからだよ。焼却した後の骨粉が唯一売り物になる部分。安いけどね」

「ふーむ。錬金術とかで使うのか、物作りに使うのか」

 

 

 汚い肉が焼かれていく臭いに顔をしかめながら焼却を見守る。するとアランが神妙な顔で聞いてきた。

 

 

「なぁ、イサオ。僕って才能ないかな?」

「いや? 剣に関しては俺より才能あると思う。思うが、ちゃんとした訓練を受けて、体も鍛えられてる俺と比較するのはやめとくんだな。アランはそうだなぁ……悪い言い方になるが器用貧乏を目指すのが良いかもな。魔法まで使えるとは思わなんだ」

「魔法が使える戦士は結構多いよ」

「羨ましい話だ。ただアランがリーダーだからな。全体を見て、前衛が足りなければ前衛に。魔法がさらに必要なら後方に……という感じで目まぐるしく役割を変えるような強さ。それがあれば、仲間のこともよく分かるんじゃないかと」

 

 

 アランが目指しているような勇者になる時には、人数は三人では無くなっているような気がする。そうでなくとも味方を鼓舞したり、知識が必要になる場合もあるだろう。お偉方がどのように魔族とやらと戦っているかは知らないが、冒険にせよ戦場にせよ役割の想像は間違ってはいないだろう。

 俺としてもリーダーが自分より頭が回るほうが嬉しい。

 

 

「俺は人を率いる才能が無い。山を降りてつくづくそう思ったよ。【師匠】から武芸百般を習っているから、どんな状況でも無理矢理こじ開けようとしてしまう。要は非効率的なんだな。世慣れていないのも地味に解消していかなきゃならんし、道のりの長さではお前らと大差無いだろうな……そろそろ焼けたんじゃないか?」

「ああ、こいつら凄く火に弱いからすぐ焼けるんだ。冷めたら骨を集めて細かく砕こう」

 

 

 そういえばミュゼの〈ファイヤーアロー〉を食らって、悶えることもせず焼け死んでたな。魔法の世界は不思議だ。

 しばらくして集めた骨を大雑把に砕いて、ミュゼのところに持っていく。さらに細かくする道具を持っているのはミュゼだけなのだ。

 

 

「今日はまた多いわね。腕が疲れそうだわ」

「そうなのか。俺は今回が初めてだから、これぐらいが普通なのかと」

「まぁ、あれよ。単純に人数が増えたから成果も増えたってことね。別にアンタが特別、能率を上げたとかじゃないから」

「ミューは口が悪いけど、本音がダダ漏れなんだよな」

「乳棒と乳鉢まで使って細かくするのか。何に使われるんだろうなぁ」

「人の話聞きなさいよ。調子狂うわね……」

 

 

 そうして出来上がった骨粉を持って行く先は、少しばかり寂れた雑貨屋……というか陶器屋だった。陶器と骨に全く関連性が見いだせない。俺はやや混乱しながらとりあえず着いていった。

 暗い顔で未来など無いような顔をした人物が、骨粉を見て触って、までは理解できるが舐めた。ええ……それ大ネズミの骨だよ? 軽く引いている俺を他所に量が多かったということで銀貨を貰うことができて、二人は喜んでいた。

 

 

「なぁ……あの骨の灰って何に使われるの?」

「店見たでしょ。当然、食器とか壺とか……そういうのを作るのに使われるのよ。骨を混ぜた焼き物は綺麗な白色になるの」

「えぇ……大ネズミの骨が食器に使われる? それで食事したくない……」

「あっはっは。まぁイサオの感想も分かるな。実際、高級なものは牛の骨を使うそうだよ」

 

 

 つまり安物は駄目じゃないですか。だから寂れてるんじゃないのか、あの店。とりあえず食事の時はなるべく器のことは考えないようにしよう。

 それはともかく、今回も銀貨が手に入った。俺たち“炎縛剣”はそれぞれに分配する金とは別に、いくらか組合に貯金している。俺は自分に来る金より、その資産が増えることが嬉しい。

 

 

「九級に上がるのには、あと何回仕事をこなさないといけないのかね」

「十と九の間は結構広いからね。でも……近々その機会がありそうな気がするよ」

 

 

 イサオが加わったからね。とアランは微笑んだ。




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