大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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九級へ

 それから俺たちは様々な依頼をこなした。といっても荷運びだったり、自警団の数合わせだとか、ひどい時には草むしりもあった。もはや冒険者とは何か? という哲学的な問いを心中に浮かべそうになる日々だった。もっとも世間を知る良い機会であったのは確かだ。

 そんな生活にも順応したある日のこと。今日は何をしようかと掲示板を見に来ると、珍しく組合長から話しかけられる。

 

 

「昇格試験ですか!?」

「ああ、そろそろいい頃合いだろう。十級の期間が長いのには理由がある。本当にこの世界でやっていく気があるのかという試し。そして、信用に値するかだ。お前たちは実力がそれなりなのに、時間がかかったのはそういう理由だな。試験内容は簡単だ。九級以上の依頼をこなせば良い。まぁお前らはイサオがいるから、その点楽だな」

 

 

 掲示板の紙切れを見て回る。十級が雑用ばかりだったのに対して、九級以上の依頼は討伐などが増えている。これが信用の差というものなのだろう。本当に討伐したかどうかを疑われないということであり、冒険者は実質九級から始まるというわけだ。

 リーダーのアランは真剣な顔で一枚の紙を見ている。そこにたかが九級という楽観的な思いは見えない。当然か……彼とミュゼにとって、目標は遥か先。だが、同時に階段の一段目から踏み外すわけにはいかず、むしろ簡単なことであってもいけないのだ。アランの復讐対象は魔王。階段は適度に高いほうが良い。

 

 

「鍛錬は続けている。イサオという戦力も加わった。足りないのは運という見えないチカラ。それを占うならやはりこれだろう」

「ゴブリン退治か……」

 

 

 組合長はアランが取った紙を見ずに言い当てた。

 ゴブリンとは体色は様々だが、総じて小柄な人間型の魔物だ。出来は良くないが武器を用いる上に、戦術じみたこともする。

 ゴブリン退治は新人にとってメジャーなものと聞いている。それでありながら同時に抜け出したい障がいであるとも。ゴブリンは単体では九級相当の難易度に過ぎないが、群れとなった場合なんと、最大五級まで膨れ上がる存在だ。もちろんそこまでにならないよう、定期的に組合が間引く強制依頼を出す。

 

 

「アランに従う。俺は伝聞ばかりで実際に相手取ったことはないからな。全力で潰すとしよう」

「私もよ。魔族の群れを相手にしようって女がビビっていられないもの」

「本気なのはありがたいけど、行ってみれば一体だったっていうこともあるからね。やる前に燃え尽きないようにしよう。これからは完璧に準備しつつ、体調も管理しないといけない」

「場所も銅街道沿いか。やっていないことばかりだ。明日出発するとして、それぞれ情報収集するとしよう」

 

 

 一旦解散する。コミュニケーション能力に長けたアランは、先輩たちから体験談を引き出すだろう。ミュゼは術師らしくゴブリンの生態などから作戦を考えるはず。俺は現実的に進めるとしよう。

 

 

「というわけなんだけれど、ゴブリンの部位で欲しいところとかあるかな? 婆ちゃん」

「無いと言ったほうが良いだろうね。駆除した証拠の耳もなにかに使うわけじゃなし。当然、皮もいらないよ。ゴブリンは縁起の悪い存在とされているんだ。昔、裏路地の薬屋が胡散臭い薬を作るのに牙を使ったって話はあったが……」

 

 

 まさに害獣駆除だな。というか縁起が良ければ人型の皮も扱うのだろうか?

 バザーの顔役、それも長老じみた婆ちゃんが言うのだから本当に商品価値は無いのだろう。まぁ元々期待はしていなかったが、追加報酬は無いということになる。だから掲示板にも貼り残されていたのだ。強制依頼まで放って置かれているのが常。

 

 問題になるのは、今回もできるだけアランたちに戦いを任せるかどうか。数が多ければ自然と加わることになるが、そうでない場合やはり譲った方が良いだろう。

 だが危ない時には手を出す。というぐらいには俺はゴブリンを軽視していない。子どものような体躯というのも攻撃が当たる面積が小さいということだし、すばしっこい印象を受ける。武器を使うというところから、こちらは一発攻撃を貰えば大損だ。

 恐らく熟練の冒険者たちもそれは分かっている。分かっているからギリギリまで受けたくないのだ。

 

 ……少し勿体ないが準備しておくか。俺は以前アランから教えてもらった治安の悪い地区に移動した。安い粗雑な食料が売っているように、ここもここで必要なところなのだ。

 

 

「……いらっしゃい」

 

 

 不健康そうな店番が迎えたのは、雑貨屋……のような店だ。ガラクタ屋と言っても良いかも知れない。誰かが拾ってきたような、どうしようもない品が並んでいる。そこで俺はナイフのように、小さく尖った物を選んで購入した。数はそれなりに揃えたのに、銅貨で支払いが済んでしまうあたり入荷経路が気になる。

 

 翌日、俺たちは決めてあった場所に集合した。俺は初めてだが、銅街道での仕事になるため、北側の門前だ。

 

 

「じゃあ、行こうか」

 

 

 アランは普通に出発を告げた。こうした度胸は大したものだ。俺も戦闘で不安になることは少ないが、それはあくまで【師匠】との鍛錬によって麻痺させられているからである。アランは素で泰然としている。

 英雄気質というものだろうか、勇者と英雄にどんな違いがあるかはわからない。器が大きいことは良いことだが……あまり前のめりになりすぎて死なれても困る。

 

 

「ミュゼ。アランを頼んだぞ」

「アンタに言われなくても、見てるわよ。むしろ心配なのは私だわ。ゴブリンで一番厄介なのは投石だって! 骨折でもしようものなら、今後が危うくなるわ」

 

 

 なるほど。石を投げてくるのはたしかに厄介だ。アランは接近してしまえば良いが、ミュゼはそうもいかない。二人に向かう分は俺が叩き落とすとしよう。

 

 銅街道を行く。街道自体は整備されているが左右は鬱蒼とした森であり、いかにもなにか出そうだ。聞いた話では銅は非常に重要らしい。まぁ貨幣の一つが銅なので当たり前な気もする。だからこそ街道警備が重要になるだろう。

 歩くこと、一日とちょっとで目撃情報があった場所にたどり着いた。何の目印もない森なので捜索から始めるとなると憂鬱になる。

 

 

「思うんだが、こっちの方が人数多かったら出てこないんじゃないかな」

「確かに! ゴブリンってそういう勇気があるタイプには思えないよね」

「勇気があるゴブリンって想像もしたくないんだけど……で、どうするの? 森を燃やすわけにもいかないから、個人的には街道に出てきて欲しいわ」

「仕方ない。俺が一人で森の中に入るから、アランとミュゼは街道で待っててくれ。一人なら遠慮なく遅いかかってくるだろうし、複数いるなら二人の方にも出てくる。どっちにしろ街道まで誘導すれば良い」

 

 

 森の中は深い緑の匂いに満ちていた。これで頭上が葉で覆われていなければ、タムル山を思い出せたのだが。

 鎖を回しながら探索する。……おかしい。森には動物がいない。これは恐らくゴブリンがいるせいだろう。だが、肝心のゴブリンに出くわさないということは。

 そこまで思い至った時、火の矢が空に打ち上がった。どうやらゴブリンはあちらの方に出たらしい。森に深入りしすぎた。大急ぎで街道まで戻る。二人に襲いかかったということは、少なくとも三匹はいるだろう。

 

 

「きゃあっ!」

 

 

 戻った時、ミュゼが頭を押さえているところだった。敵の数は五。はからずも俺は後ろから襲いかかることになる。用意していたナイフ状のガラクタをゴブリンに向かって投げる。過たず二体のゴブリンに命中して、連中は後ろを向く。

 敵の援軍が一人だと知って。禿頭の顔が二チャリと歪むが……背を向けたゴブリンにアランが切りかかった。一体目は綺麗に斬れたが、二体目は仕留めそこねた。

 あそこはアランに任せていいと判断して、背を向けたままの三体に向かう。

 ……大盤振る舞いだ。

 

 横薙ぎに軌道を描いた鎖は三体を丸ごと囲い込み締め上げた。それを俺は宙に放り投げた後、思い切り引っ張っる。骨がへし折れ肉が削ぎ落とされる音がしてゴブリンの皮剥ぎと骨砕きの完成だ。

 

 

「ミュー!」

 

 

 最後の一体を倒し終わったアランが、ミュゼに駆け寄る。

 

 

「ざまぁないわね……私、何の役にも立ってない……」

「アランはミュゼのそばにいてやれ、後始末は俺がやる。水で傷を洗って、布を当てて固定するんだ」

 

 

 我ながら嫌なやつだな、と思いながら俺は冷静にゴブリンの耳を削ぎ落とし証拠として確保。死体の始末にかかった。

 寄り添う二人の姿がやけに眩しかった。

 

 こうして俺たちは九級へと昇格したのだった。




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