大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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面倒な癒やし手

 組合でアランとミュゼを待つことしばし。結構遅れて二人はやって来た。仲のよろしいことで、と思う他ない。俺もそれまでにマルグリットからある程度の事情を聞き出していた。ついでに説得も。

 

 

「というわけで、チームに参加希望のマルグリットだ。丁度探してた神官戦士ということだから、大いに役立つだろう」

「なにが、というわけでなのか分からないよ、イサオ」

「いや、何。単純に【師匠】同士が知り合いだったというだけだから」

 

 

 マルグリットは二人を遠慮なく品定めして、厳しい顔つきになっている。言いたいことは理解できたが言ってはならないだろう。俺でもそれぐらいの分別はついているというもの。

 

 

「貧相で弱いですわね。貴方たち」

 

 

 ……言いやがった。しかも、弱いとまで言い切った。

 俺と【師匠】がタムル山で生態系の頂点に君臨していたのと同様、見ようと思えば(レベル)はある程度分かる。しかし、二人は現状には足りているし、俺の持っていない知識を持つため、十分に仲間として満足していた。

 マルグリットが俺とチームを組もうとしていたのは、見た時の印象が強いのだろう。それにマルグリットは既に八級であり、冒険者としての知識は足りている。

 

 

「なによ、コイツ。いきなり失礼なんじゃない? 本当に加入希望?」

「あら、見たままを口にしたまでですわ。装備は貧弱で、貴方たちからは何の圧力も感じませんもの」

「マルグリット、お前、マジで……」

 

 

 マルグリットの強みにして弱み。コイツは一人でやって来たのだ。だからこそ現状の自分が見えている反面、他者への要求が厳しくなる。早い話、将来性というものを加味していないのだ。

 俺はアランとミュゼを足手まといだと思ったことはない。アランは他者との関わりに優れているし、才能は万遍ない。ミュゼは気性こそ問題あれど、知識に優れる。“現状の強さ”でいくら俺が上だろうと、活かしてくれるのは二人がいてこそだ。何より俺にはない目標があった。

 そこいくところ、マルグリットはあくまで【師匠】たちの後を継ぐことしか考えていない。面倒くさいことに、一人では限界があることも分かってはいるらしい。こいつ的には自分に釣り合う存在でパーティを組み上げたいのだろう。

 

 

「イサオ、これはちょっと……ミュゼもやられっぱなしの性分じゃないし」

「うん。正直、すまなかったと思っている。能力的には惜しいものの、捨ててしまおうか」

「何を言っているんですの!? イサオ様もこの方たちの能力には不満があるでしょう!」

「いや、無い。二人とも俺の道を示してくれる、星のような存在だ。さっき話していた才気を感じ取れないのなら、俺は今の居場所を尊重する。自分に相応しい仲間を存分に探してくれ」

「……そんなのいませんわよ」

 

 

 ボソリと呟いた言葉には、思っても見なかった寂寥感が漂っていた。口喧嘩していたミュゼも黙るほどだ。

 ……マルグリットからすれば、俺は初めて見た“同類”なのだろう。冒険者組合が飛び級でも容認していれば、相応しい仲間と巡り会えていたのかもしれないが……

 見たところ俺の方がマルグリットよりわずかに強いのが、執着に繋がるのかも知れない。

 

 

「というか、アンタ。その態度だとどこ行っても断られるわよ」

「ううっ」

「まぁ、言うだけの強さがあるとしても寄生虫みたいな手合いか、使い潰そうとする連中しか寄ってこないでしょうね。どうするの?」

「だから……イサオ様と組んで……ぐすっ」

「そこが理解不能なのよね。別に強いからって強い連中とだけ組む必要ないじゃない。この世間知らずは確かに強いけど、少なくとも強さだけで人は見ないしね」

「悪かったな、世間知らずで」

 

 

 若干涙目になったマルグリットにアランが近づく。優しげな顔だが、なにか張り付いた感じがある。

 

 

「だから、僕たちもあなたにおんぶに抱っこを望みはしない。怪我をしたとき、時々癒やしてくれるだけでも凄くありがたい。イサオと二人で後ろから見守ってくれないだろうか?」

「ぐすっ……仕方ありませんわね。とりあえず我慢して差し上げますわ」

 

 

 さすがはアランだ。譲歩してるように見せかけた上に、協力を取り付けやがった。一緒にいれば敵は当然、マルグリットの立場など気にしない。必然的に巻き込まれる。

 アランも清廉潔白一辺倒のやつじゃないんだよな……大体、旅の理由に復讐心があるし。

 まぁいいや、パーティ名どうなるんだろうかぐらいに思っておこう。

 

 

「そういえば組合長。フラーボスって人は知ってます?」

「再び懐かしい名前だな。かなり強い冒険者だったが、政治的に強い野心があるやつでな。伝手を頼ってお前さんの【師匠】たちから離脱した。今はお偉いさんだから、こんな口利けないけどな」

「ほほぅ。でも弟子を育てるぐらいには、冒険者に思い入れあるんですね」

「どうだろうな……あいつのことだ。なにか目的があるかも知れん。その時はお前が守ってやりな。権力を気にせず横からぶん殴るのも、お前の【師匠】の特技だったぞ」

「寝てる人間を思いっきり蹴り上げて起こす人と、同列にはなりたくないですが……」

 

 

 まぁマルグリットはどうも情緒が不安定なようだ。そういう役目をこなすのも悪くない。少なくとも暴走でもした日には、止められるのは俺だけなのだから。

 俺は組合長との話を切り上げて、仲間たちのところに戻る。

 

 

「さて……まずは俺たちも八級に上がるか」

「そうだね。九級からかなり討伐依頼が増えるから、こなしていこう」

「そこのあたりは、わたくしが先輩として教えて差し上げますわ!」

「切り替え早いわね、コイツ……」

 

 

 話し合いの結果、俺たちはあえて難易度の高い依頼に挑戦することにした。いや、実際には高いかどうかも分からない。討伐対象不明という依頼だ。場所は銀山の方角にある村の近く。

 この対象不明という依頼は下手に上の階級の依頼よりも、かなり高く評価されるそうだ。考えてみたら新人が受けたら竜が出てきた……ということもあり得るのだからさもありなん。

 いつも通り食費を抑えるように携帯食料はボロい店の物を購入した。これにマルグリットは文句がありそうだったが、黙っていた。いい傾向だ。見た目の高貴さに見合うよう、日頃は高いものを買っていたのかも知れない。

 

 銀山の道とあって、道中度々警らの兵士たちを見た。彼らが冒険者を見る目は厳しいが、同時に不安そうにも見えた。きちんとした防具に身を包み、槍を持った彼らだが何をそんなに恐れるのだろうか。

 

 

「うーん。一つには冒険者が敵になる可能性を警戒しているってことかな。特に下級の冒険者はならず者と変わらないし、実際に賊が化けていることもあるしね。銅や鉄と違って銀は買い手がつきやすいから」

「それともう一つ、冒険者が出たということは、人間以外の敵が出現したことを意味するからですわ。彼らはあくまで人間相手を想定していますから、魔物とは勝手が違いますの」

「こっちからすると人間を殺せる方が怖いわよ。特に兵士は権力側だから、こっちから手は出せないし」

「皆、詳しいな……」

 

 

 多分、実際に揉め事を経験しているのだろう。俺でも鉱山街に入るとき、門番と揉めたのだから。今思えば結構危ない展開だった。

 不審なものをみる視線は依頼のあった村に着いてからも続いた。これも仲間によると、魔物を人里に誘導して仕事を作り出す輩がいるからだとか。

 案内についた若者が人懐っこいのが救いだった。彼は被害のあった現場に連れて行ってくれながら、事情をテンション高く話してくれた。

 

 

「いや、こんな気味の悪い出来事は初めてだよ。朝起きると牛が死んでるんだから。しかもうちは乳牛を扱っているからね。狙われたらたまったものじゃないけれど、死体を見て俺は驚いたね。ただ牛は倒れているだけなんだ……暴れた後も無ければ傷もない。最初は病気かと思ったぐらいさ。でも昼は何も無い。決まって夜だけ被害が出るんだ。ただ殺すだけだから盗人とかじゃない。こりゃ専門家に依頼するしか無いってわけさ。でも冒険者って女の子もたくさんいるんだな」

「夜だけ……? 死体はそのまま……」

「お、マルグリットが何か知っているか」

「ええ、これを見てくださいまし」

「なにコレ、ちっさい穴?」

 

 

 牛の死骸の首筋をマルグリットは見せた。そこには確かに穴が空いていた。一箇所だけだ。

 

 

「牛を完全に抑えつけて、血だけ抜き取って殺す。ちょっと……いえ、結構面倒な相手ですわ」

「勿体つけてないで教えなさいよ」

「夜行性で吸血系の魔物。人ではなく家畜を狙う……十中八九、ジャイアントバットですわね……単純なランクでは七か六級相当。最悪なのは飛行する魔物だということ。下手な五級よりある意味戦いにくい魔物ですわね……」

 

 

 牛を抑えつけるほどに巨大なコウモリの存在を、俺はここで初めて知った。




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