大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
あれから俺たちは実に多くの魔物と戦った。いずれも街の近郊だというのにあり得ないような確率だった。仲間を軽んじるわけではないが、俺とマルグリットがいなければ死亡者が出ていただろう。
それに応じて上がる階級と、アランとミュゼの腕前。気がつけば俺たちは新進気鋭のチームとして認識され、未確認依頼を多く受けた実績が評価されて五級までトントン拍子で上がった。
ここまで来ると、社会的地位も実入りも中々のものになってきて生活は安定した。命を賭ける仕事なため、そういった意味での不安定さはあるが……少なくとも飢えることはない。
しかし、復讐を最終目的とした一行だ。それに慢心する暇など無い。
「はぁ……はぁ……ありがとうございました」
「お疲れ様。今日はこの辺にしておこう」
このように俺もアランに剣を教えている。【師匠】が掲げていた通り、俺も武芸百般に通じている。当然、片手剣も習得しており、それを伝授している。問題だったのは自分が使えるからといって、人に教えられるかは別の才能ということだった。
そもそも、人に教えた経験など無い。結局、実戦的な訓練で教えることになる。幸運だったのはアランに才能があるため、そこからでも吸収できたということだ。そう、アランの剣才はずば抜けていた。訓練を始めて数ヶ月で、魔法で身体強化をしたのならば俺の半分ほどに達していた。代わりにというか剣と魔法以外の才は普通だが、充分だろう。
「付け焼き刃だから仕方ないが、アランは素の身体能力がそれほどでも無いのが気になるな。魔法で強化するにしても限界はあるんだろう? 反復練習を増やすか、模擬戦で俺がもっと力を込めるか……模擬戦の方が良いか。俺の剣は上品さが全くないしな。素振っても得られるものが少なそうだ」
「だね……イサオはろくに汗もかいてないし。差が大きくてへこむなぁ」
「技量はともかく、体力で俺に勝とうとするのは間違いだぞ。訓練してきた期間が違いすぎる」
付け加えると【師匠】の容赦のなさを、他人に押し付けるのはどうかと思うのでそのあたりは真似していない。今思うとアレは人間にやらせていい訓練量ではない。それによって現在の自分があるのが複雑だが……
「俺なら魔法をもっと活かすようにするかな。いいよなぁ、魔法の才能。冷静になると、チームで魔法使えないの俺だけじゃないか」
「それでもイサオが一番強いじゃないか。実際、鎖使ってもらったことあったけど誰一人相手にならなかったし」
「そりゃあ、鉄鎖術は対人用だしな。この前、本で読んだけど昔の決闘で一番強かったのは網らしいぞ。動きを制限する物は強いってことだな。魔法だって派手じゃないやつが鬱陶しい」
アランが汗を拭くのを待ってから歩き出す。最近、安宿ではあるが拠点ができた。多少硬いベッドだろうが、屋根の下で寝れるだけありがたい。頼めば飯も出るが、組合の料理のほうが味が良いのが難点だ。
ミュゼとマルグリットも訓練を終えていたらしく、先に帰っていた。彼女たちの訓練は魔法使いらしい読書や祈りなどもあって、必ずしも汗をかくようなものとは限らない。最近は接近された場合に備えての杖術などもやっているらしいが。
部屋は二つとってある。男部屋と女部屋だ。方針などを話し合う時は男部屋を使う。リーダーのアランの部屋だからであり、ベッドとベッドの間に小さな円卓が置いてある。ベッドは椅子代わりでもある。
ちなみに夜中にこの机で俺はカードゲームや賭け事を教わったりしている。勝率はお察しの通りで、俺に集団を動かす才は無かった。
「遅いわよ、二人とも」
「それはアランが粘れるようになってきたからで、遅くなるのはいいことじゃないか」
「相変わらず口の減らない……」
「はいはい。そこまでですわ。イサオ様は思ったことを口に出しすぎです。ミュゼの一言一言に律儀に反応するからそうなるのですわよ」
「むぅ……」
出会いでは険悪だったミュゼとマルグリットだが、今では結託していた。アランと親しいミュゼに、俺と近しいマルグリットで方向性が衝突しないようになったらしい。後、マルグリットの話はですが多いな。
育った環境は特殊でも、日常的に人と接することが多かったマルグリットは、俺と違って空気が読める。一方で読みたくても読めないのが俺だ。今回だって悪気はゼロだが、ミュゼの機嫌を損ねてしまった。
「ははは。僕たち“炎縛剣”は今日も仲が良いね」
「チーム名にマルグリット要素をどういれるかも決まってないけどな」
「……おっと、ミュー。反論してこれ以上ややこしくしないでくれよ? 今回の件はこの指名依頼についてだ。皆も一通り見ただろう?」
そう言ってアランは一枚の紙を机の上に置く。依頼書は書き写しであると分かるようにすれば、一枚模写することが認められている。今回の場合は俺たちが指名されているため、組合の方で書き写しが用意されていた。
指名依頼とは名前の通り、請け負う人物やチームを指定してくることで、依頼人もある程度責任を持つことになっていた。
「五級って指名依頼が来てもおかしくないのか?」
「聞いて回ったところ、あってもおかしくはないけど、珍しいって感じだったね。三級以上が未知や対魔族に挑む以上、指名依頼は基本的に四級に回ってくるらしい」
「胡散臭いにもほどがあるわね。私たちって活動実績はそこそこある方と自負してるけど、“炎縛剣”の名前は押し出していないもの」
「きっとわたくしの輝かしい活躍が引き寄せてしまったんですわ!」
「「「……」」」
俺たちは黙ってしまった。正直、無いとは言えないのだ。マルグリットの師匠は教会という宗教勢力の大物だ。言ってしまえば鳴り物入りでデビューした新人で、俺たちもかなりの速度で五級まで上ってしまった。それがマルグリットの功績と思われても仕方がない。俺は【師匠】の名前すら教えて貰えなかったからな。
ただ、ミュゼの言うことも本当である。討伐対象で魔物にやたら出くわすので、俺たちは“炎縛剣”ではなく“
「伸るか反るか……」
「受ける方に一票。確かに怪しくはあるが、逃げ出したと思われるとかなわん」
「同じ意見なのは不服だけど、私も乗るわ。ただし活動記録を細かく付けましょう。依頼者がろくでもない場合に備えてね」
「わたくし。正面からの攻撃は全部受け止めて防ぐ
「僕の直感だと怪しいと思うけど……逃げてはいられないのも確かだ。ミュゼの言う通り依頼人と対象の双方に警戒しながら活動する。いいね? 報酬は金貨だ。上手く行けば大きい」
「「「応!」」」
活動前はアランが、活動期間中は俺が依頼人のことを調査することに決まった。依頼人は少し離れた位置にある大牧場主だ。高い報酬を出せることに不思議はないが、評判などをアランが調べる。そして依頼の段に入ったのならば、隠形にも長けた俺が探る。
次いで、装備の確認や物資の調達が始まる。アランもミュゼも当然、駆け出しだった頃の装備ではない。アランは質のいい胸甲と、シンプルだが頑丈な剣を買っている。ミュゼはローブと杖を新調して、怪しげな魔導書も持っていた。
俺とマルグリットは予備とサブウェポンの充実に金をかけている。投げナイフに、鎖が効かない相手用の分厚い短剣などだ。
しかし、何と言っても嬉しいのは携帯食料の向上だろう。かつては貧民街の堅パンだったのが、冒険者御用達の物に代わり、干し肉やドライフルーツなども買えるようになった。
目指すは北。翌日、銅鉱山の道を進む荷馬車へ乗せてもらい、俺たちは出発した。
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