大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
目的地に着き、道中役に立つこともなかったので荷馬車の持ち主に大銅貨を渡す。空きスペースに荷物を置いて少しでも儲けようとする、商人根性だ。ついでに道中の護衛にもなり、出番があった場合運賃は必要ない。
踏み出した先は、緑の絨毯でアクセントに肉牛と飼料が置いてある。なるほど、この規模の牧場なら報酬に金貨を出せるだろう。牧場の入口には人好きのする笑顔の青年が立っていた。このあたりでは珍しい黒髪だが、目は平凡な青色でそこまで違和感は無い。
「ようこそ、ホーステッド牧場へ! 窓から荷馬車が見えたので、お迎えしましたが、“炎縛剣”の皆さんですね?」
「ええ、リーダーのアランです。それにしても五級のチームをご希望とは珍しい……と言って良いのですかね?」
「そのあたりの事情は中で説明しましょう。さぁ我が家へどうぞ!」
全員で顔を見合わせて、案内された建物に入っていく。その家は下級貴族の家と言っても遜色ないほど立派なものだった。間取りを記憶しながら進む。通された応接室では茶の用意が整っていた。
「申し遅れましたが、私はドリューと言います。生憎父が臥せっているので私が、この屋敷と牧場の差配をしております。いやぁ、若輩者にはとても務まらないもので、毎日四苦八苦していますよ」
「そうですか。ホーステッド牧場はウィッカの街にも肉を卸す、大規模牧場ですからね。それは大変だ」
アランが笑みで返す。いかにも穏やかな会話だ。茶はドリュー自らが注ぎ入れ、皆の前に置かれた。
「それで、なぜわたくしたちをご指名に? というお話でしたね? ドリューさん」
「ああ。それは簡単な理由ですよ。経験、というものを期待してのことです。下位の冒険者がジャイアントバットを仕留めたという話は、同業者間で広く知られています。そのチームは頭角を現し、今や新進気鋭の名をほしいままにしていると……こちらも対処を経験者にお任せしたかった。出たのですよ、ここのあたりでジャイアントバットが」
「……それはまた運が悪いわね。ジャイアントバットはそうそう出る魔物じゃないわ。もっともそう出ないから有名な魔物なんだけれど」
ここに来た時の光景を思い出す。広々とした牧場に、放牧されてのびのびとしていた肉牛たち。ジャイアントバットは夜行性。それも吸血という特殊な殺し方をする。出たと言うなら既に被害にあっているだろう。
もういい加減面倒になってきたので茶を口に含む。ドリューは笑み顔を崩さない。
「それで……どうかな、イサオ」
「うん。これ飲めないわ」
ダバァと口から茶をそのまま吐き出す。同時に鎖でドリューの足を拘束する。
何なんだよ、この茶番。俺だけ割食って無いかと、思うと同時に全員の得物がドリューに突きつけられる。
こちとら山育ちである。おまけに修行で放置されてきたため、毒の類など一通り味わっている。この茶に入っていた物は流石に飲んだことはなかったが……飲めば強烈な麻痺を引き起こし、散々苦しむ趣味の悪い毒物だ。【師匠】も殺傷力の高い毒だけは、流石に事前に教えてくれていたのである。なにせ毒の類は大体
「おやおや、これはどういうことですかな?」
水袋でうがいをした俺が吐き出しながら答える。
「お前の脳は間抜けか。奉公人がいない牧場がどこにある」
「ついでに言うと、ホーステッド牧場の取引はここ数ヶ月で、急速に回数が減っている。僕らを殺そうとした証拠を手に入れるために、わざと屋敷へ入ったんだ。おかげでイサオが無理することになったけど」
「さて、この場で死ぬか、街で裁かれて死ぬか、選んでくださいまし」
「アッハハハハ! どれでもないなぁ!」
拘束していた足の鎖が、突然手応えを失う。振るわれたアランとマルグリットの一撃が空を切る。ドリューがその場から跳躍したのだ。
ドリューの足がまるで鹿のような形に変化していた。魔力の扱いに長け、人に近しくも異形へと姿を変えられる種族。アランが顔に似合わぬ憎悪を込めてその名を呼んだ。
「魔族……!」
「正解。まぁ君たちが言う魔族って種族は厳密には存在しないけど。敵対的な種族を丸ごとくくってるんだから、人間って馬鹿だよね。まるで戦を広げようとしているみたいだ。まぁ僕の種族は本当に人間の敵だけどね! あははぁっ!」
アランがキレているので、毒茶を口に含まされた鬱憤がどこかへ行ってしまった。おかげで冷静に観察できる。
アレは姿を自由に変化させられる種族と言ったところか。だが、動物の形になっている以上、制約はあると見える。鎖で巻くには少々面倒くさい。などと思っている合間に、ドリューが屋敷の外へ向けて一気に跳ねた。
それは虚を突く行動だった。確かに室内では機動力があっても完全には活かせないが、同時に俺たちも武器を上手く扱えない。この屋敷をねぐらにしていたのなら罠も仕掛けられただろうに。
追って外に出ると、その目論見が分かった。
「僕らの任務は人間の後方を疲弊させることさ。自然発生した魔物なんかを率いて、地味にね」
そこにいたのは夜行性のはずのバーゲストやジャイアントバット、他にも今まで倒してきた魔物が勢揃いしていた。俺たちは困っていた農家や村の依頼を受けていた。手引きしていた存在がいるのなら、間違いない。
「道理で運が悪いって言われるわけだ。いや、この場合良いのか? お前の作戦を妨害できたんだから」
「悪は自然と滅びるものですわ。それを逆恨みされては困るというもの」
ドリューは変わらず笑っている。何の自信があるのか知らないが、そのニヤつきを止めてやる……のは俺の役目じゃない。アランの憎悪がそれを成す。故郷を滅ぼされた怒りというのはそれほどまでに凄まじいのか、俺には分からない話ではあるが分は弁えている。
「アラン、周りは気にするな。そこは俺がやる。マルグリットとミュゼはそこらの魔物を頼む」
「まぁね。一度倒した相手を出されるなんて屈辱だわ。〈ファイヤー・レイ〉!」
ミュゼの杖から熱線が放たれ曲線を描きながら、ジャイアントバットを叩き落とす。それを開戦の号砲として、アランもドリューへ向けて駆け出した。
ドリューはその優れた足で後方へとステップを踏むように、離れていく。
「人間は面倒だ。個体差が大きすぎる。だからこうやって、英雄になりそうなやつは間引いておく。アラン君よりイサオ君の方が優先度は上だけれどね。だから君のためにこんな物まで用意したんだ」
「ああ? そりゃまた見る目が無いにも程があるってもんだが……なるほど、確かに俺対策か」
そこらにあった。いや、設置されていたのであろう岩が巨大な人型を成していく。関節部分は繋がっておらず、魔力を宿す魔物であると証明している。顔と思しき四角い岩に赤い光が灯る……目、なのであろうか? 人が呼んで曰く。
「ゴーレムってやつか。なるほど痛みを感じる頭もありゃしないな。俺が鉄鎖術を使うのも調査済みってわけだ」
「おおおおぉおお!」
だがそんなことはお構い無しにアランは叫びながら怨敵に向かう。日頃が穏やかなだけに、より凶悪に見える。俺はアランの真後ろに付いて走りながらゴーレムの相手をする。
小気味良い音を立てながら打ち据えた鉄鎖だったが、岩肌を欠けさせた程度で終わる。意外と速い足で追いかけて来た。
「さて、援護しながらコレを壊すのか。前衛は辛いね」
位置取りだけは慎重にしながら俺は分厚いナイフを抜き放った。
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