大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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まず一人

 ゴーレムが迫ってきているが、難しいのは速度だ。ドリューとアランが戦闘を開始したら、それを援護しつつゴーレムを相手にするのが理想だ。ドリューとて永遠に逃げはしないだろう。魔族である彼にとってここは敵地だ。なるべくならこの牧場で決着を付けたいはずだが、魔物たちだけでは俺たちを倒せない以上、ドリューも戦力にならなければならないのだ。

 

 

「端から切り刻んでいくしかないか」

 

 

 そう呟き、ゴーレムの岩でできた腕が振り下ろされるのと同時に、ギリギリまですれ違うように避けつつ斬る。ゴーレムは岩でできているが、岩程度の硬さを斬るのは問題ない。

 

 

「と、言ってもこれじゃあな」

 

 

 ナイフは頑丈な物を選んでいるが、刀身の短さはどうにもならない。ゴーレムの手を半分程度まで斬れただけだ。切り離すには逆からも斬るしかない。必然的に時間がかかる。

 舌打ち一つ。これからさらに後ろまで気を付けなければならないのだ。

 

 

「追いついたぞ! 魔族め! シネェェェェ!」

「完全に周りが見えなくなってるし……というより人格が変わってる……」

 

 

 ドリューも逃げは止めたらしい。俺とアランが連携できない距離を保ちつつ戦う気だろう。ようやくゴーレムの手を切り落とした俺の耳にドリューのあざける声が届く。

 

 

「ゴーレムでも足止め程度にしかならないか。だけどリーダーがこの様でどこまでもつかなぁ。それにしてもこれじゃまるで、君の方が魔族の名に相応しい。ああ……僕らに何かされたクチかな? 残念だけど多分、僕の仕事じゃないよ」

 

 

 ドリューの手から爪が変化して鋭く長い刃物に変化する。飛び掛かったアランの剣を受け止めたあたり、強度もあるようだ。ヤツの狙いは即座にアランを倒して、俺にゴーレムと二人がかりで襲い掛かることか。あるいはアランだけ仕留めて、さっさと逃げるつもりか。

 優先順位がどうこうと言っていたが、あまり信用できない。大体、本気なら俺をアランの上に置く時点で見る目がないにも程がある。

 

 

「ああ……アラン落ち着け。<ストレングス>をうまく使って戦うんだ。今のお前ならそいつを倒すのは難しいことじゃない」

「なに?」

 

 

 ゴーレムの攻撃をさばきつつ、鎖を使ってドリューを牽制する。そして、俺の言葉に対してこいつは過敏に反応した。想像した敵の人物像はそう的外れではないらしい。こちらをあざけることに随分と熱が入っていたが、それは高すぎる自尊心の現れだ。

 

 

「前線から遠く離れた地で、部下も下位の魔物だけ。それも現地調達もしている。つまりは捨て駒だ」

 

 

 ドリューは顔を赤くして足を止めている。魔王と戦っている地は遠く離れているらしい。戦争状態にあるということは、魔王軍だってそれなりに人間が侮れないということを知っているだろう。だが、こいつの反応は自分が上という思い込みを示している。

 

 

「どうせ復讐するなら、淡々と対処しようぜ。熱くなって雑魚を仕留めそこなったら嫌だろう?」

 

 

 そういった矢先にアランはピタリと止まった。ふざけている。あの狂乱状態から一瞬で人がこうも意識を切り替えられるものか? 常人なら絶対不可能だ。そもそも言葉さえ耳に入らないに違いない。つまりアランは怒りで勢いを増していただけでなく、無意識に全感覚を研ぎ澄ませていたということ。

 アランは穏やかとさえ言える口調で、言葉を返してくる。その異常さに味方ながら震えが来る。俺や【師匠】が肉体的怪物というなら、アランは精神の怪物だった。それを後押ししてしまったのは俺。

 

 

「イサオ……そうだね。その通りだ。魔族はまだまだいる。粛々と処刑していくことにしよう。これが始まりだけれど、特別扱いになどしてやらない。僕は結果的に魔族を殺せれば、それでいいんだ」

「うん。確かにそう言いたかったんだけど、急に冷静になるあたり、やっぱり怖いなリーダーは」

「黙っていればべらべらと……たかだかひな鳥の分際で……」

 

 

 ドリューにとって余程気に入らない扱いだったのだろう。足を止めて猛然と攻め立ててきたが、アランは冷静さを取り戻して……いや、それ以上だ。まるで処刑器具のような動きに変わる。

 アランはまさにリーダーに相応しい、天才だった。戦いの中で成長していく。対爪という人間同士なら体験できない戦いに、剣一本で対処する。ならば俺も見せ場の一つぐらいは盛り上げてやろう。

 

 

「こちらも負けてはいられないかね」

 

 

 戦士としては俺の方が先達だ。俺も冷静に、ナイフでゴーレムを処理(・・)しながら鎖を同時に操る。片手にナイフ、片手に鉄鎖という変則的構え。それを可能にしたのは【師匠】の教え。全部の武器に習熟するという教育の成果だ。

 こちらとしては一度近づいてくれれば、それで良かったのだ。もう逃がさない。ゴーレムは痛覚がないが、ドリューはそうではない。鎖で痛めつけることもできるし、仮に頭を冷やして再び下がろうとしても妨害できる。

 さらに時間はこちらの味方だ。後方での戦いも、俺に近い実力を持つマルグリットがいる限り、いずれ終わって駆け付けてくる。まぁその前に仕留めるが。

 

 

「この、人間、風情がぁぁぁぁ!」

「小物感満載になってきたな」

「優劣なんてどうでもいいことが分かった。それには感謝するけれど、願わくば一方的に死んでくれ」

 

 

 徐々に真綿で首を締めるように傾いてくる戦況。やはりドリューは大した魔族ではない。攻撃手段は爪による接近攻撃だけ。鹿のような足による突進もぴったりと張り付いたアランには通じない。

 積もっていく損傷はゴーレムもドリューも大差ない。切り刻まれて次第に死んでいく。ドリューは痛みと絶望に沈んで復讐の炎に焼かれて行く。そして、とうとうアランの一撃が臓腑をとらえる。

 

 

「何が……ひな鳥だ。お前たちのほうがよっぽど怪物じゃないか……」

 

 

 絶命の瞬間に発した言葉が耳に残る。ドリューは大量に血を失って、まるで人間のように死んだ。ああ……思い返せばそうだ。人型を殺したのは初めてだ。だというのに恐怖も高揚も無い。俺もアラン同様に壊れていた。後天的か先天的かの違いに過ぎない。気づけばいつも通りに話し始めていた。

 

 

「マルグリットたちも来たな。事後処理の方が頭が痛い」

「いやぁ感慨深いね。魔族をようやく一人殺せた」

「だから怖いって」

 

 

 四肢を切断されてもがいているゴーレムの胴体を解体すると、赤い石のような部分が見つかり、砕くと完全に動かなくなった。どうやらこれが核らしい。これでゴーレム相手にも今後は対処方法が分かった。

 

 

「こちらも済んだようですわね」

「アラン! やったのね! これでようやく一人……!」

 

 

 ミュゼがアランに飛びつく。俺はマルグリットと静かにうなずき合った。邪魔するところではない。仲間ではあるが、過去を共有しているのはこの二人だけなのだから。

 

 

「そっちもな。と言っても魔族ってこんな小物ばかりじゃないんだろ、アラン?」

「うん。こいつは一番格の低い種族だよ。大物になるほど、変形がより高度になっていくし、何より魔法を巧みに使う。ドリューは体に備わった生態だけで戦っていた……まぁ冷静になって考えると、人間に溶け込むには下位の魔族の方が良いのかもね」

 

 

 この事態は組合と話し合って、慎重に処理されるべきだ。隣人が魔族かもしれないという考えを一般の人間が抱くのは避けるべきだと、俺でも分かる。あるいはそういったノウハウを持つのは教会かもしれない。

 

 

「マルグリット、こういう風に人間の住居が乗っ取られるのはよくあることなのか?」

「記録にはありますけれど……現在では聞いたことがありませんわね。高位神官なら何か知っているかもしれませんけれど」

 

 

 前線で戦いながら、敵の後背に一手を仕掛ける。人間同士の争いと変わらない気がする。ならばこちらも同じようなことを魔族にしているのかも知れない。

 

 

「俺たちはこの牧場の人たちの捜索に行こう。あれだな、人の何かを邪魔すると馬に蹴られるというやつだ」

「それは恋路の話でしてよ……」

 

 

 だが、見つかるのは死体だろうと考えると、少しばかり気が滅入る。確かに冒険者とは夢のない職業だとは思っていたが、こうも血なまぐさいとは思わなかった。思えば、アランを頭にいただいた時点でこういう道のりに入ることは決定していたのだろう。

 俺とマルグリットもつれ合って歩き回ったが、色っぽい話には全くならなかった。




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