大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
ホーステッド牧場で俺とマルグリットは大量の人骨を見つけた。どうやら魔物の餌にしてしまったらしい。俺としては埋葬のためになるべく原型を留めた骨を集める作業というだけだが、マルグリットにとっては違うようだった。考えてみれば彼女は生粋の神官戦士だ。理不尽に殺された人々の冥福を静かに、されど人数分祈っていた。
俺ほど教会から縁遠い人間も稀だろうが、とりあえず一緒に祈ってみた。心は凪いでいて、さざ波のようだったが思えば彼らは我々のような存在のために、目を付けられてしまったわけで。流石に謝罪の意ぐらいは込めた。
俺はやはりどこか壊れているのだろう。だが、善意を真似ることはできる。マルグリットは良い見本になるだろう。
「教会と冒険者組合の連名で、今回の依頼については口外するなという指示が来た。代わりに架空の依頼をこなしたことになって、報酬ももらえる。まぁ僕としては今回は魔族を倒せたから、それで良かったんだけど」
「俺が言えた義理じゃないが、アランも大概人でなしだな。まともなのはマルグリットだけか」
鉱山街ウィッカに戻った俺たちは拠点で今回の顛末を聞いた。
今回の事件は相当な衝撃と、煩雑な作業をもたらした。有力な牧場だったこともあって、世話人を秘密裏に選定して住まわせるなどお上は随分と苦労したらしい。
「この一件でわたくしも痛感しましたわ。アランさんの下で魔族を倒すことを全力で支援いたします。こんなこと……あんまりです。冒険者を罠に嵌める。それだけのために無辜の民を巻き込むなんて……」
「私とアランなんて当事者よ。何もない村だったのに焼かれたんだから」
涙を滲ませる部外者と、淡々とした当事者か。だが、ミュゼの性格を思えば苛烈な怒りが秘められているのだろう。一方で少し疑問に思う。アランたちの村は本当に何もない村だったのだろうか? 今回は有力な牧場が対象だった上に、一人も人を逃がさない徹底ぶりだ。それに静かに行っている。
実行者の性格の違いといえばそれまでなのかもしれないが、結局二人も逃がしている。まぁ結局は妄想だろう。逃がしてしまった
「とりあえず、しばらくは大人しくしておくということで良いのか? アラン」
「うん。教会や組合から呼び出しがかかる可能性があるからね。四級は目の前だけど、ここで少し休止だ。僕としても昇格よりも魔族に関する情報や指示がある方がありがたい」
このやり取りを経て、それぞれが自由時間となった。しかし、困ったことに俺は装備を手入れしたら、やることが無くなってしまう。そこで他の連中に声をかけてみることにした。
「それで、なんでわたくしとお茶というお話になりますの?」
「アランは思索にふけっているし、ミュゼも俺を相手にしないからかな。菓子とか結構好きなんだけど、男一人だと入りづらい。独り身の寂しい男だとか、軟派目的だとも思われたくないし。その点、マルグリットは同行していて鼻が高くなれるからな」
「ふ、ふーん。仕方ありませんわね! 付き合って差し上げます!」
無骨な鉱山街にも洒落た場所はあるものだ。中流以上が通う店が軒をつらねる、この通りなどがそうである。高給取りの山師の家族や、権力者に近い人々が主な客。そこの屋外喫茶で俺はマルグリットと顔を突き合わせていた。
思えば我々“炎縛剣”は仲間同士の交流が薄い。リーダーの方針で束縛が緩い上に、生まれ育ちがバラバラなのでそうなる。まぁ半分が復讐鬼でもう半分は気ままな組み合わせだ。しょうがないといえばしょうがない。
菓子が来た。スコーンというらしい。ジャムを塗って食べると酸味と食感が合わさって、とても美味かった。しかし、果物など野生の物を勝手に取っていた俺はこれで金を取られることに、若干疑問を抱く。
「マルグリットは普通に仕事が無い日は何してるんだ?」
「教会にお祈りに行ったり、孤児院の手伝いに行ったりしてますわ。力ある神官戦士の義務です」
「真面目過ぎる……せっかく美人なのにな」
何だかエリート意識の強いマルグリットだが、言葉だけで実際にはとんでもない善人だ。野心の強いお偉いさんの弟子とは思えないぐらいである。いや俺も【師匠】とは似てないし、そういうものなのか?
「そ、そういうイサオ様は何を!」
「武具の手入れと……情報収集?」
「そっちこそ真面目過ぎではありませんか!」
そう言われても色んな店に寄って、情報を集めるのは楽しいのだ。もちろん確定情報は商人にとっては武器。そこは絶対明かしてくれないが、噂話やもう広がった情報は案外、気軽に話してくれる。驚いたのは彼らが冒険者の動向に詳しいこと詳しいこと。どこの誰それがケガをした。あそこが希少な薬草を収集したから、そろそろ少し流通するはずだ。
その過程でしかめつらしく語ったり、陽気に笑い飛ばすのを見るのが好きだ。生き馬の目を抜く世界で命を賭けているのは冒険者だけでない。この鉱山街ではいつ転落するかも分からないから本気で、表情を作る。
まぁバザーの元締め、布屋の婆さんはいつも苦虫を嚙み潰したような顔だが、あの歳まで生き抜いた貫禄というものかもしれない。
「だからこうして、たまの不真面目に挑戦してるわけだ。女の子と縁がないからな俺。山にいたころは女性自体ネスタルさんしか見たことないぐらいだし」
「ネスタル様って……あの方、絶世の美女と謳われた大魔導士じゃないですか」
「あ、そうなんだ。確かになんか……独特な、なんというか男の扱いに慣れてそうな感じだったしな」
大魔導士って何だろうか? ミュゼの上位種みたいなものか?
組合長と最初会った時の話を思い出す限り、【師匠】とネスタルさん、フラーボスなるマルグリットの師匠にあと一人で随分と暴れていたらしい。想像してみるとうちのチームは極めて常識的だ。
茶をすすると、もうぬるくなっていた。
「今頃アランとミュゼは何をしているやら。俺たちは二人の苦悩に同情はできても、同調は無理だからな。お前さんは別の意見らしいが」
「当然ですわ! 魔族のしていることは許されることではありません!」
そういう風に種族ごとにくくってしまえれば楽なんだろうが……俺はどうにもノリについていけない。人間の悪人だって大概なことをするだろうし、魔族も醜悪な者ばかりでは社会を維持できないだろう。
それはそれとして依頼があれば殺す俺が、一番性格が悪い気がしてきた。今ぐらいは楽しんでおこう。
「ま、いいさ。珍しい非番なんだから、引き続きデートを楽しもう。マルグリットは装飾品とか服とか興味ないの?」
「デっ!? せ、清貧を旨とするわたくしとしては、その、あまり経験が無いといいますか……」
「よし。俺も行ったことないし。そういう店を回ってみよう。そう高くなければプレゼントできるしな」
俺は席から立ちあがって、マルグリットの手を取った。マルグリットは顔を赤くして、借りてきた猫のように大人しく言われるがまま。なんだ、可愛いところあるじゃないか。世間では女性の買い物の方が長い傾向にあるらしいが、俺たちは逆だった。
通りにある服飾店をはしごして、店員の話を興味深く聞きながら品物を買っていく。気が付けば俺も自分用の衣類を買っていた始末だ。マルグリットにはシンプルなアンク調のメダルが付いた首飾りを贈った。財布には余裕があり、五級に上がっていて良かったと思う。
前回の戦いから鎖に改造を施す計画もあったが、それよりも高飛車で面白い女の子へのプレゼントが優先だ。
アランもミュゼとこういう時間を過ごしているのだろうか……?
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