大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
魔術師というのは変人である。それが私の認識で、そう的外れなものではないと思う。
なぜ私がそんなものにならなければならないかというと、孤児だったらしい私を拾った義父が魔術師だったからだ。彼自身の予備として知識を吸収するのが私の役目。報酬は質素な食事と、辛うじて雨風をしのげる家に寝床。
生まれを考えると、まぁ幸運だったのだろう。なにせ魔術師になれる者というのはそう多くない。人は誰しも魔力というものを持つが、それを外部へ出力できるのは天賦の才。現に私の家がある村では、私以外にアランという少年しかいなかった。ああ、あと義父さんか。
まぁそんなわけで浮浪児にならずに済んだ訳である。拾われる前を多少覚えているから、こんな境遇でも十分だということは分かった。例え同年代の仲間に入れてもらえなくてもだ。
魔術師が変人になることには多少理由がある。それは一定のレベルに至らなければ全く社会に貢献できないからだ。例えば……いや実際にあるけれども光を出す魔法を苦労して習得したとしても、松明や
だから
「私はそんなのゴメンだけどね。〈マジックアロー〉!」
渾身の魔力を生のまま射出する。このやり方だと魔法は、一日に一度しか使えないが、代わりに根こそぎ持って行ってくれるので魔力量の修練にもってこいなのだ。魔力も筋肉と同じで酷使することで鍛えられていく。使い切るほど魔力を込めるのは一刻でも早く一人前になりたいからだ。
「ミューの魔術は相変わらず凄いな。的が粉々だ……こう、コントロールとかは練習しないのかい?」
「そっちは魔力量の後で鍛えるわ。確かに結界とかそういうのってコントロールが大事よ? でも余裕が無いと作るのすら覚束ないじゃない。アランだって魔法使えるんだから分かるでしょ」
「そうだけど僕は日々地道に使う方かな。複雑な魔術が使えるようになりたいわけでもないし」
「ふーん。まぁ便利だもんね身体強化。でも、私はさっさと村から出ていく力を身に着けるの」
何が面白いのか。村の子どもたちのリーダーであるアランは、やってきては、練習に付き合う。彼ならもっと良い遊び相手がいるだろうに。まぁ彼も魔法が使えるのが理由だろう。便利な魔法をさわりだけ習得していっているあたり、魔術師になるつもりは無いが利用する気ではあるのだ。
けば立ったローブと三角帽子を忌々しく撫でる。もっと質の良い綺麗なものが欲しい。色は得意な炎の魔法に合わせて赤がいいだろうか。義父さんに従っている限りそんな姿になることはない。
分かっている。義父さんは優れた魔術師だが、追い立てられるようにこの村へとやってきたのだ。そうでなければ、魔術師たちが集まる塔を取り仕切る塔主にでもなれていただろう。
まぁ何にせよ……私はもっと俗っぽい。こんな村で半ば狂ったようにコソコソと魔術の研究をするつもりはない。もっと陽の当たる場所で魔術とほどほどに付き合い、悠々自適に暮らすのだ。義父さんの魔術はそのための足掛かりだ。悪いがその能力だけ譲ってもらおう。
「村を出ていくかぁ……そうなったらミューとももう会えなくなるのか」
「アランだって、外でやっていけるでしょ」
田舎者の目線だが、アランは綺麗な金髪とそれによく合う整った形をしていると思う。さわりとは言え魔術も習得しているから、食っていくには困らないはずだ。
だが、アランはへにゃりとした笑いを浮かべて言った。
「僕はこの村が好きだよ。そりゃ欠点がないわけじゃないけれど、そこはいつか直せると思う。村長が色々教えてくれてね。村に残る皆と一緒にここを守っていくよ。ミューもたまにでいいから、寄ってくれると嬉しいな」
「……まぁたまにならね」
感情を持て余しながら、ミュゼは答えた。アランが治める村……それはさぞかし立派になるだろう。こんな自分と友人になる男だ。きっとそこは差別や偏見の無い誰もが対等に扱われる小さな理想郷になるはず。少なくとも私がこの村の出身だと胸を張れる村にしてくれるはずだ。
そして、その日は永遠に訪れなかった。
突如として起こった村の焼き討ち。それがどんな結果になったかなどはくどくど話すことでもない。
その最中私は義父さんの手伝いをしていた。義父さんは家の外に出現した火を見た瞬間、猛烈な勢いで動き始めた。いつの間にそんなものを作っていたのか床を引っぺがすと、石材に複雑な魔法陣が記してあった。それは私が見ても理屈が半分も理解できない魔術式で、なんとか結界の類だと分かった程度だった。義父さんが思っていたよりも遥かに優れた魔術師である証。
「ミュゼ! この結界に儂とお前の魔力を注ぐぞ! 生憎理屈を説明している時間は無い! 魔力の注ぎ方はじっくりと弱火を長続きさせるようにだ。ああ……なぜあんな存在がこんなところまで追ってくるのだ!?」
「落ち着いてよ、義父さん! ここで癇癪を起されたら、何をしたらいいのか分からなくなるわよ! 他の住人はどうするの?」
「……見捨てる。どのみちあの火が少しでも体を焼いたら、助からん。それにこの結界の効果範囲はこの家だけだ。全員を収容することはできん。いいか、あの火は魔界の炎。消そうとするなら、相応の術を用意せねばならない。儂に村の燃えた箇所を鎮火するだけの魔力量は無い。お前が十分に成長していれば……意味のない仮定だな。いいか、そもそも……」
「義父さん、ちょっと黙って! あれ、アランだわ!」
すると意外なことに義父さんは慌てた様子で、先ほどまで言っていたことと違うことを叫んだ。
「小僧! こっちだ!」
村人を見捨てると言っていたのに、アランに対しては積極的に助けようとしたのだ。それは気まぐれか、あるいは
結界術が解けたのは2日後。アランの両親も灰になり、彼はその顔に似合わぬ復讐を決意した。
そして私も……
「意外だな。お前が敵討ちとは……」
「自分でも意外よ。アランの影響でしょうね。仲間はずれにしてくる連中も、哀れな者を見る目で見てくる大人たちも……きっと私は嫌いじゃなかったのよ。好きでもなかったことは確かだけれど。それに勇者の旅立ちには魔術師が要るものでしょう?」
「ふん。後も継がず、恩を仇で返しおって……これを持っていけ」
別れの日。義父さんは一冊の本を押し付けてきた。装丁は地味で、表題も素っ気ない。“火に関する魔術について”。それは戦闘用の魔術だけでなく、本当にあらゆる系統の炎魔術についてが記されているようだった。
おそらく換金すれば途轍もない価格が付くだろう。
「お前に二兎を追う時間などあるまい。精々それがお似合いだ」
「本当に素直じゃないわね。義父さん」
「素直じゃないのはお前だ。あの小僧が気になるから旅に出るぐらい、口に出せんのか」
「……別にそんなんじゃないわよ」
古びた三角帽子を深くかぶり直す。きっと見せられない表情だから。
「次に会うときは炎以外の本も用意してなさいよ。それと定期的にお風呂に入らないと病気になるわよ。あと、掃除も欠かさないように。特に本の虫干しなんて……」
「ああ、もう良い。どうせここは地図から消えた。誰もきやせん」
「そう」
短く返事をして、背を向ける。私たち親子に物語のような別れは似合わない。時々帽子をかぶり直しながら、先を行くアランについていく。きっと厳しい旅になるだろうことを予感しながら。
『きっといつか、お前はあの忌まわしい炎さえ消し去れるようになる。娘よ……』
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