大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
馬鹿な、とお定まりのセリフを吐いて一人の魔族が死んだ。アランの剣は見事に魔族の胴体を貫いていた。こと、魔族相手の戦いに関しては俺が何か言う必要はない。ただ、高位の魔族はより高度な変身を遂げるらしいので、そこでまた必要になるかもしれない。
「おめでとう、アラン。これで三人目だな。しかし俺たちとしては喜ばしいが、こうも内部に入られているとは人類全体は頭が痛いだろうな」
「ありがとうイサオ。君につけてもらった稽古の成果さ。内側に入られているのはきっとこの国の構造がバレて、“鉄の道”に対して行動を起こしているんだろうね。僕たちが考えることじゃないけど“小麦の道”なんかを占領されたらと思うと、ゾッとする」
俺たちはこのひと月で、最初のドリューを含めれば三体の魔族を殺した。被害規模は最初のドリューが一番大きく、後の二体は活動を活発化させるまでに仕留めている。冒険者がここで活躍していいのかと思うのは、道を守る兵たちがいるからだ。彼らは日頃、こういった仕事はしないのか? それで偉ぶっているため街の雰囲気も少し悪くなってきていた。
「アラン、お疲れ様。イサオもまぁ……だけど、また私を後方に置き去りにしてくれたわね」
「魔術師が後方にいなくてどうするんだ。前に出たら、それこそ問題だ。それにこいつらが連れてきた魔物を倒すのも、重要な仕事だ。マルグリットは?」
普通の農村をぐるりと見渡す。アランの言う通り、魔族は人間がいかに食料を重視しているのか、気付いているのだろう。そしてその根幹を成す小規模な場所の攻めやすさも。
「マルグリットなら、村の人たちの手当てをしてるわよ。ああしてると、聖女サマって感じね」
「生き残りがいたのかい? ミューたちが後方を担当してくれてよかったよ」
「生き残りなんてもんじゃないわよ。けが人はいたけど死亡した人間はほとんどいなかったわ。この魔族が何を考えていたのか、さっぱり分からないわね」
「まぁリーダーの方針通り容赦はしないけれど……魔族ってなんなんだろうなぁ」
ともあれ今回の依頼は無事完了だ。ドリューが起こした事件の影響から魔族がらみと思われる依頼をチョイスして、依頼を受けているのがピタリとハマった。アランの復讐計画は順調。
チームとしても率先して厄介ごとを片付けることから、組合と教会の覚えがめでたい。四級への昇格も時間の問題と思われる。もっともそのおかげでチーム名は“炎縛剣”ではなく“
俺たちはマルグリットと合流して、後始末を行って鉱山街ウィッカへと帰還した。
帰還して報酬をもらったのは良かったが、支部長ハーヴェは俺たちをテーブル席ではなく、カウンター席に座らされた。四人なのでみっしりしている。あとマルグリットの縦ロール髪が頭にぶつかる。良い匂いがするのでいいけれど。
並ぶとエールの木製マグが次々と置かれた。注文していないのでサービスということだろう。それとも魔族を殺すということにそれぐらいしてやってもいいぐらい価値があるか。
「さて、まずは依頼達成おめでとう。これでお前たちは四級も視野に入った……無茶苦茶な速度で不安は残るがな。まぁ四級なら別に構わないが」
「はっきり言ったらどう? イサオとマルグリット以外は三級になるには力不足だって」
むぅと内心で唸る。アランとミュゼは役立たずなどでは断じてない。まぁミュゼは俺にちょっと当たりが強いけど! ただ俺やマルグリットとの間に差があるのも事実だ。天才だろうと一の努力で、百の研鑽を積んできた人間を飛び越せるかどうかは怪しい。時期の問題もある……先に始めたというだけでなく、より優秀な師について学んだという事実は覆らない。
加えて、当然ながら俺とマルグリットもまた成長し続けている。【師匠】の薫陶から抜け出して、自力で探りながらなので歩みは遅いがそれでも伸びている。結果として可能な限り努力しても、アランとミュゼは必然的に後追い側になることは避けられない。
「自己認識完璧なのにけんか腰なのがすげぇな、ミュゼの嬢ちゃん。だが、力不足とまでは言わねぇよ。エースとその他の実力差はどのチームでも抱えてる問題だ。大規模なチームでもな」
「でも、忠告だけでわざわざこうして隔離したりはしないでしょう? 僕たちになにかあるんですよね?」
ハーヴェ老は実に公平な人物だ。いや、支部長であるからには公平でなくては困るのだが。
エールも魔族がらみの報酬というわけではないらしい。つまり、そんな人物がエール一杯分ぐらいには不公平になった以上、面倒ごとが待っているに決まっていた。
「アランの坊ちゃんは末恐ろしいな。エースを自由にするのもリーダーの器ってわけだ。なに、お前たちに指名依頼が入ってるんだが……俺の経歴でも扱ったことが無い類なんでな。端的に言うと合同任務なんだよ」
「別に不思議でも無いのではありませんの? わたくしたちにとっては初めてでも、組合は扱ったことがありそうですけれども」
生憎、世間知らずの俺は合同任務がどんなものか知らない。しかし、想像はつく。要は相手の数が多すぎたり、護衛が広範囲だったりした場合に複数のチームでことにあたるのだろう。想像しただけで報酬や危険度で争いになるのが見えて、やりたいとは思わない。
「今回は国の肝いりなんだ。以前、話した通り三級から先は魔族相手や未開の地が対象になることが多い。と同時に、国が抱えてる英雄サマやら勇者サマと一緒に戦ったりすることもある。魔物を相手にしてきたことが多い冒険者の評価は、幸いと言っていいのか高い。そこで、将来三級に上がる可能性が高いチームの合同で魔獣退治の依頼が来たわけだ」
国が依頼主……とんでもない話になってきた。それにしても四級昇格前とはいえ五級を指定していいものだろうか? マルグリットの師はお偉いさんということなのでそれ絡みなのかな?
それと耳慣れない言葉に疑問を持つ。
「魔獣? 魔物とは違うのか? 魔物も動物じみた見た目は多いが」
「俺は学者先生じゃねぇが……分類としては変わりはない。そうだな……野生馬と軍馬みたいなものだ。魔獣ってのは強力なやつを魔族に従属させて、任務をこなすよう訓練されているんだ」
「つまり、向こう側の俺たちか」
「身も蓋もねぇな。他の冒険者の前で言うんじゃねぇぞ」
二足歩行の身なので想像できないが、統率されて戦闘方法を学んだ魔物がいるなら厄介に決まっている。ここに来るまで多少魔物と戦ってきた経験からして連中の死は大抵、本能を突かれてのことだ。
不利になったら一目散に逃走する。それを覚えられただけで、途端に難易度が上がるのは目に見えていた。
「こうして話をしているということは、依頼を受けるのはほぼ強制と考えても?」
「その通りだ。冒険者組合が国を超えて団結しているといっても、当然それぞれで作法が違う。王族の権力が強いこの国では、断ることは社会的な死と同義。貴族からの依頼だったらまだなんとかなったんだがな。一応、俺も本部に口だけは出させてもらったんだぞ? まぁ結果はこうして正式に発効されたがな」
安価な麻紙ではなく、封蝋がされていたと思しき羊皮紙に達筆な字が躍っている。そこには場所や期日の指定などが書かれており、文体は完全に命令だ。しかし……
「報酬、大金貨って……これ本当ですの?」
「すまん、マルグリット。俺に分かるように言ってくれ。大銀貨も貰ったことがあるし、チームの貯蓄は金貨単位に入り始めてるじゃないか」
「大金貨は単に大きい金貨という訳ではありませんの。国が功績をあげた人間に贈る、一種の記念硬貨ですわ。貴族家だと持っていることが誇りであり、大貴族になると何枚持ってるかがステータスになると。もちろん、わたくしが貰ったことがあるわけではありませんので、お師様の受け売りですけれど」
「アラン、知ってた?」
「ミューが知らないことを僕が知っているわけないじゃないか。ただ……勲章のようなもので、冒険者に換金も保管もできないものを贈るとなると、一種の首輪付けだろうね。招集されたチームは将来、最前線に出ることを期待されるわけだ」
ああ、なるほど。裕福さを味わうなら仮に一級に上がったとしても、危険な地域に寄らず適当な仕事をこなしていた方が良いわけか。そういった人材を強制的に対魔族の戦線に引きずり出すために、若いころから唾をつけておく。【師匠】やネスタルさんが世捨て人っぽいのもそこら辺に関係がありそうだな。
「名誉なんて“
「あ、チーム名そっちで行くんだ」
「よく考えたら“炎縛剣”は我ながらダサかったわ」
他に来る同格の冒険者も気になるし、敵の魔獣とはなんなのか。いずれにせよ我らがリーダーの復讐が本格化することに違いない。集合地点は“鉄の道”の出口、鍛冶街ザリオン。
聞いた次第では普通の平民は一生を同じ場所で送るらしいが、俺の人生はいよいよ広がっていく。それぐらい楽しんでもいいだろう。
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