大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
目の前にある長い行列には最初は感嘆したが、今ではあくびしか出てこない。騎乗用では無い太い馬が二頭がかりで荷馬車を引いていく。最終的には王都へ向かうのだろうが、そのころにはこの行列ではなくなっているはず。その前の鍛冶街ザリオンへとこの荷物は届けられ、そこでまた加工されるのだ。
「どの荷馬車に何が載っているのか分からないようにしてあるんだね。馬車自体もなんか罪人送りの箱に似てるけど」
「俺たちや賊が銀を襲わないようにだろうな。その作業した兵士たちにはバレバレだろうが」
前を行く騎兵たちに嫌味を送る。護衛兵士たちは豪華なことに、騎兵で揃えられて荷馬車を取り囲む格好だ。武装は槍と弓で、まぁ歩兵では相手にならないだろう。
連中と荷馬車が馬で行くのに対し、俺たち同行者は最後尾で徒歩だ。まぁ馬に乗っていくのと歩きのどちらが楽かは人によるが。
同行者は哀れにも荷物持ちにされた下級兵士、許可を受けた商人たち、馬糞拾い、そして俺たち招待された冒険者。騎兵たちは明らかに目に優越感を漂わせて見てくる。
「兄ちゃん、あんたすげぇ荷物だな。どういう力してんだ」
「はぁ、まぁチームで一番ではありますね。こういう扱いを見越して日用品だの、色々と積み込んでるんでさ」
背嚢を背負った下級兵士が話しかけてくる。中年に見えるので、余程苦労しているか出世に縁が無いかのどちらか。得物も粗雑な剣一本。彼が言ったように俺の背には荷物が山と積んである。日用品と言ったが引っ越しに伴う荷物全てである。これで今度はザリオンで拠点を借りて、ウィッカの生活をそのまま持っていける。
この荷物配分は俺が決めた。涙が出ることに、俺一人に任せるのはいかがなものかと意見が出たが、アラン達も大量の食糧や水を背負うのだ。基本的に魔法使いであり、女性でもあるミュゼやマルグリットにまで公平に持たせることに、俺はなけなしの男らしさを示すべく重荷を背負う。と言ってはみたが、実際には俺にとってこの程度は大して重くないのが実情である。
いざという時に動きやすいように俺が背負っただけで、別に女性陣に楽をさせようという高潔さでは全く無い。結果として割を食ってるように見えるだけだ。
「全く定期的にあるこれが無きゃいいんだがな。そうすると溶鉱連中の仕事がなくなるし、中央から文句も来るだろうなぁ。それにしても兄ちゃんは俺が話しかけても嫌な顔しないな」
「ああ……なんか兵士嫌われてますよねウィッカ。俺も好きってわけではないですけど、あなた個人に恨みがあるわけでもないので」
「はっきり言うな、気に入ったぜ。ウィッカの領主直轄兵は何か勘違いしてるからな。俺たち下っ端は住んでるところから違うから、冒険者やら近所とは上手くやって行きてぇと思ってるんだが」
俺の兵士に対するイメージは街に入った時の門番だ。今思えば、横柄で人の物を取ろうとするとんでもない連中だった。街道でも人のために働こうという気概がある者もいなかった。だから、何となく兵士全体が威張り腐った連中と思ってきたが、どうも違うらしい。察するに兵士の中でも格付けや階級があるのだろう。
「嫌われると分かっているのに兵士をしているんですか?」
「ああーまぁな。鉱夫もいつも募集されてるんだが、実のところ死ぬ確率は兵士の方が低いんだよ。落盤やら瘴気溜まりなんかで鉱夫は死にやすい。ところが兵士は基本的に死ぬような仕事は回ってこない。まぁ給料は圧倒的に負けてるんだが……定住しようと思うなら兵士の方が安定してるわけさ」
「死ぬような仕事は回ってこないって……まぁ魔物なんかは冒険者にお鉢が回って来ますが、人間相手も危険はあるでしょう?」
「そうならないように世の中回ってるってことさ。特に盗賊相手なんかはな。領主様が嫌われてるのも分かるだろう?」
最後は声を小さくして、ほとんどささやきのようだった。
世間知らずの俺が、世の中をちょっと知った瞬間だ。つまり領主は盗賊なんかとは話をつけてあるのだろう。あるいは見返りを貰っているまであるかもしれない。嫌な話もあるものだ。
どうやら俺はこの兵士に良い旅の道連れとみなされてしまったらしく、その後も延々と会話に付き合った。それなりの暇つぶしにはなったと言っておく。
俺たち徒歩組ではなく、馬のための大休止を幾度かはさんで陽が傾いた。話しかけてきた兵士たちも揃って野営の準備に取り掛かっていく。俺たちも荷物を降ろし、準備を始めた。
「ぷっくくく。随分と気に入られてたわね。こっちは静かなものだったわ。どう? 羨ましい?」
「場所を入れ替えてもいいんだぞ、ミュゼ。話し相手が女の子の方が向こうも盛り上がるだろうしな」
「はいはい。そこまで。夜番は男でするから、準備を終えたら。僕とイサオは仮眠しよう。ミュゼとマルグリットは女の子だから絡まれないよう気を付けて」
「そんな輩は制裁してやりますわ。久々にわたくしのメイスがうなります」
実際、騎兵たちの態度を見ればやりかねない。他にも何人か女性はいるが、ミュゼとマルグリットは飛びぬけて目立つ。撃退は容易だが、難癖を付けられてはたまらない。相手は領主の部下なのだ。
結局は女二人も武装は解かずに、簡易天幕にさっさと引っ込んだ。炊事はせずに携帯食料のみの夕食は味気ない。
「……横に起きている連中がいると眠りにくいな。アランはそういうの気にならない方か?」
「村じゃ子ども同士で集まって過ごすとかあったから、じゃあ、おやすみ」
まぁ俺は寝なくとも動ける。そのように訓練されている。そうして久々に山での生活を思い出すと、俺の意識も溶けていった。
……起こされる前に自分で目覚めた。寝る前に意識しておけば、その時間に起きれるものだ。アランを揺り起こして、女性陣と交代する。二人とも不機嫌だ。
「……何かあった?」
「無礼な兵士が酌をしろと言ってきたので、ミュゼさんが頭髪を燃やしてしまったぐらいですわね」
「なによ。マルグリットだって、締め上げてたじゃない」
「まぁ、この二人が何も起こさないわけ無いか。先が思いやられるが……女にしてやられたってことで連中も表立っては騒がんだろ。荷物一式揃えて来てて良かったな。嫌がらせされても食っていける」
実は気付いていて放置したのだが。俺が二人を抑えて、恨みを買う方が恐ろしい。
恐ろしいと言えば、あの状況で寝ていられるアランの神経だろう。
夜番に立つ。徒歩組の中には見張りを立てていない者もいるが、兵士に囲まれているという状況がそうさせるのだろうか。俺たちはやらかしてしまったので兵士は敵と見た方が良い。
「良く捕縛されなかったね。あの二人。まぁ捕まえるのも無理だろうけど……逮捕する権利が無いのかな。僕たちは公的な依頼でここにいるわけだし。冒険者組合も領主と繋がっているのかな」
「もう繋がってない組織の方が少ないんじゃないか? まぁ平民には怖い存在でも、領主にとっては替えのきく駒でしかないってことか。これが世知辛いというやつだな」
騎兵たちを見れば大半がだらしなく、危機感を持っているのは少数だ。大体停止しているとはいえ行軍中に酒を飲んでる時点で、どうかと思う。見たところ武力面でもお察しの様子である。
「それでイサオ、何か感じるんだけど、過敏かな?」
「いや、合ってる。魔物だな……十匹ぐらい間隔をとってついて来てる。統率が取れているみたいだが、魔族っぽい気配は無い。夜闇に乗じて襲い掛かってこないのは良くわからん」
“鉄の道”の片側に森があり、そこに気配を感じてはいる。だが、警戒も緩いこの集団を狙ってこないのは何故か。人数差で負けていると思っているのか、はたまた他に目的があるのか……この大集団だ。襲われても全員助けられるわけではない。商人や下働きにはいくらか被害が出てもおかしくはない。
「追えば引きそうな気がするな。まぁ自分たちの防衛ぐらいは、兵士自身にやってもらうとするか」
しかし、心配とは裏腹に魔物は距離を保ったまま、街道の終わりまで見ているだけだった。
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