大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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鍛冶街ザリオン

 予想していたような危険は訪れず、目的地に着く。一定の距離を保っていた魔物たちだけが唯一気がかりだが……俺たちに関りがあるかどうかは微妙なところだ。

 輸送団の団長とザリオンの兵士らしき人物がリストに目を通して、人数と職業が一致した後に入ることができた。わりと雑な気がするが、輸送が長く続いてきた行事であることを考えると、こんなものであろう。

 

 

「ここが鍛冶街……!」

 

 

 アランが珍しく目を輝かせている。

 鍛冶街ザリオンはウィッカよりも熱気にあふれていた。人の盛り上がりという点もそうだが、見渡す限り鍛冶屋が軒を連ねており実際暑苦しい。煙の量も三倍増しといったところで、正直なところ荒れているように感じた。

 アランもウィッカ以外に行ったことがないようで、子どものようだ。一方俺たちはというとちょっとげんなりとしている。山育ちに教会育ち。そして魔術師からすればあまりに騒がしい。

 

 

「このまま集積所に向かうんだっけ……」

「ええ、その後冒険者組合ね」

「髪に煙が染みつきますわ……」

 

 

 つまりはまだ解散ではない。

 落ち着いて周りを見渡せばザリオンは人数も多い。いや、ウィッカでは人々が仕事に従って動いていたため、混雑することが無かっただけか。それにしても、こんなに鍛冶屋ばかり集まって、物が売れるのか心配になる。

 店を見やってみれば頑健そうな肉体だが、身長は人の半分ほどの人々が目に付く。

 

 

「なぁ……あの人たちは何だ? 鍛冶仕事をしているとあんな風になるのか?」

「え? ああ……彼らはドワーフと言って山間部の少数民族よ。石工とか鍛冶に秀でてるらしいわ。私も見るのは初めてだけど、魔族見た後だとインパクト薄いわね。あとはエルフっていう種族が森林地帯にいるらしいけど、そことは鍛冶の腕で張り合ってて仲が悪いらしいとかなんとか。まぁなんにせよ魔族の前にはささやかな違いね」

「そうなんですの? 教会では見かけたことはありませんが……」

「宗教の違いでもあるんでしょ。田舎だと結構変な風習が残ってたりするわよ」

 

 

 ミュゼ先生の講義のもと、街を進む。なんにせよ物資の運搬が終わらなければ、詳しく街を見ることができない。落ち着いて見れば、この街の良いところもきっと分かるだろう。

 解散場所まで着いていくと、巨大な建造物が建っていた。石造りは石造りでも黒色に近い、奇妙に直線的な建材で造られており、四方を円塔が支えている。堅牢という言葉が相応しい建物で、俺は街を見たとき以上にぼうっと見上げた。

 

 

「なんだこれ!? これが噂の城ってやつか!」

 

 

 口に出すと前後から笑いが飛んだ。笑われているのは、もちろん俺で。でも仕方ないじゃないか見たことないんだから。どうせ俺はお上りさんですよと、口をへの字に曲げると額を揉み解すミュゼと苦笑するマルグリットがいた。

 

 

「恥ずかしいからやめてよね……城はこんなものじゃないわよ。これは多分ただの領主館ね。金属のインゴットをここで集積して、各所に配分するからここに持って来たんでしょう。というか、あんたウィッカの領主館は見なかったの?」

「う……見てない」

「こちらの方が大きいですけれども、造りは同じようなものでしたわよ」

 

 

 番兵と揉めたことから、ウィッカの領主館には近づかないようにしていた。それが笑われる原因になったようだ。自分だけでなく、仲間までわらわれた恥に少しだけ顔が熱を持つ。顔色には出ない性質なので問題はないはずだ。

 行列が止まると領主館の中からわらわらと軽装歩兵が出てきて、運んできた馬車を囲みつつ荷卸しを始めた。

 輸送団の先頭に立つ騎兵が大声で叫ぶ。

 

 

「あー諸君! 我々は無事、噂の城っぽい建物に到着した! 荷運びに参加する者、撤収の準備にかかる者、ザリオンに残る者に分かれて作業を開始せよ!」

「「「ははははははっ」」」

 

 

 あの騎兵の顔面に鎖をぶつけてやろうか?

 いいだろ別に、城知らなくても!

 

 

「アランは笑わないな」

「面白いとは思うけどね。でも大抵の人が生まれ故郷を離れないものだから、城を見たことが無い人の方が多いんじゃないかな? 現に僕もまだ見てないし」

「別に珍しくて言ってたわけじゃないわよ。馬鹿みたいに騒ぐから呆れただけ。そういう声は秘めておきなさいな」

「わたくしは見たことありますわよ。というか教会本部もこれよりずっと大きいですわ。さ、もう一度からかわれないうちに冒険者組合に向かいましょう。ウィッカまでの通り道ですから、場所は分かりますわ」

 

 

 珍しくマルグリットを先頭に移動する。ザリオンもウィッカと同じで通りによって、色が違う。平民街めいた場所に幾つかの店があり、その端にザリオンの冒険者組合はあった。ウィッカのように端に位置していない。受け入れられているということだろうか。

 組合の扉を開けると、強烈な既視感を覚えた。ウィッカと全く一緒の内装なのだ。ここまで同じだと完全に狙ってやっているのだろう。だが、流石に人は違った。なんというかウィッカよりは上品だし、カウンターには女性が立っている。

 

 

「いらっしゃいませ! ご用件は?」

 

 

 カウンターの女性は赤髪を短くして、きっちりとした服を着ている。仕事として立っている感バリバリだった。ウィッカではこういう人いなかったなと考えていると、アランが強制徴集書もとい依頼書を広げて説明した。

 

 

「はい! この件でしたら伺っております! 宿屋の手配も済んでおりますので、そちらを使用してください。もちろんご自分で探されても結構ですが、その場合は場所の報告をお願いします」

「あれ? 期日内に来たけど、すぐ始まるわけじゃないのか」

「こちら、国内の合同任務ですので……一番遠い冒険者が日数的に間に合うように調整されています。正確にはその期日の最終日が過ぎると実際の任務に入ります」

「かなり暇になりますわね……」

「それじゃ、しばらくここで活動する予定なので、こちらの支部に移籍の手続きをお願いしたい」

「かしこまりました。では……」

 

 

 冒険者の証に例の不思議な羽ペンでウィッカの文字を埋めて、再度書き込んでいく。それから支部預かりの資産など、こまごまとした手続きに入って行って……終わるころには日が傾いていた。疲れた。魔物と戦う方がマシだ。どうやら書類仕事の適正は無いらしい。

 アランとマルグリットは俺ほど疲れてはいないし、ミュゼに至っては楽しかったと言わんばかりだ。

 

 

「それにしても宿が用意されているとはな……家財道具一式どうするんだ」

「とりあえず初日は無理やり部屋に入れておこう。明日から観光しながら安い宿を探して、拠点を確保だよ」

「わたくしは教会の方に報告とお祈りをしてきますわ。後で合流しましょう」

「私も宿組だから、別行動するのはマルグリットだけね」

 

 

 マルグリットは以前ここを通過しているので、地理とか大丈夫なのだろう。むしろ俺たちの方が心配だ。渡されたのは住所の書かれた紙だけで、見知らぬ街に取り残される。通りの名前すら分からないので、聞きながら進むしかない。

 

 

「それにしてもアレだな。所違えば人も違うというか……ここの冒険者って笑ってきたりとかしなかったな」

「ああ……むしろウィッカが独特なのかもしれないね。鉱夫とかと知り合ったりして、自然と気が荒くなっていったりとかで。そう考えると、日頃の態度に気をつけなければいけないかも……こっちの軽い発言がけんか腰に受け取られたりとかありそうじゃない?」

「アランは日頃から大丈夫でしょ。イサオはあんまり前に出ない方がいいかもね。あんたの発音って敬語でもなんか上から目線なのよ。腹立つわ」

「街の人じゃなく、ミュゼがムカついてるだけじゃねーか。なんでお前、俺にだけ当たりが強いの……」

 

 

 いつもの調子で宿を探すと、結構色んな場所に出て、観光の前倒しのようになった。夕暮れになったからか鍛冶職人たちも、歩いているのを見かけるようになった。これから飲みにでも行くのだろう。

 こうして回っていると、ウィッカと似ているようで少し違う。ウィッカの鉱夫たちは何というべきか意外と先々を考えて動いていた。いつ怪我をするか分からないのでそれに備えて金を貯めたりと定住している感があった。

 だが、ザリオンは二面性があるようだった。職人たちは気前よく騒いで刹那的な生き方で、鍛冶に関わらない人たちは穏やかだ。街が両極端に分かれている気がする。実際、通りによって服装から違ったりする。

 

 王都に近い都会的な片側か、豪放磊落な鍛冶屋たち。どちらに寄るべきか。冒険者にもそれを選ぶ必要があると感じた。

 

 

「それに何か、胡散臭いんだよな。この街」

「イサオ?」

「いや、単なる勘の話だ。これから結構長くいることになるんだから、慣れないとな……」

 

 

 宿にたどり着き、荷物が入る部屋があるとホッとした。

 そこで神官見習いから文が届いた。マルグリットはしばらく帰れないと……




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