大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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首をつっこむ

 あらためて手紙を見てみるが、やはり内容は同じだ。届けてきた神官見習いも詳しいことは知らないという。ただの教会での仕事ならもっと詳しく書いているはず。ところが、手紙は走り書きのようなもの。どう考えてもマルグリットに何かあったと判断するしかない。マルグリットはそのあたり省くよりも詳しく説明するタイプだ。

 ここで決断を下すのはリーダーであるアランだ。だが、話し合ってはいけないということもない。

 

 

「単純に仕事が忙しくて帰れないっていうなら問題はない。だけど突然訪れた神官戦士に大量に仕事を押し付けるものか? まだ家庭の事情と言われた方が話が通る」

「いや、どっちにしろ問題はあるわよ。私たち、合同任務の依頼で来てるのよ。最後のチームが来た時が時間切れ。マルグリット抜きでやるか、下手したらチームが揃ってないっていうことで、何か言われるかもしれないわ」

「うん……正直なところ教会に関わりたくはないんだけど。生真面目なマルグリットがこの街の教会で、何か見過ごせないものを見つけて急いでそれに取り掛かっている……というところかな。マルグリットは他者に頼れる人間ではなくて、抱え込む性質(たち)だ。イサオも来た時、この街はなにか胡散臭いって言ってたところが気になるかな」

 

 

 あらためて教会のことを考える。教会とは至高神とその眷属たちを崇めている勢力……らしい。教会という呼び名通り、基本的には人間が信仰しているのはそれだけという話だが。あ、でもミュゼによるとエルフやドワーフは土着の信仰があるんだっけか。

 山で自然の恵みだけを享受してた身としては、宗教自体にいまいち実感が沸かない。ただ、大半の人間が教会を通じて神に祈るというのなら、それはとんでもない勢力だろう。

 そこのお偉いさんの弟子ということは、マルグリットはあれで凄いやつなのだ。

 

 まぁ問題はマルグリットを助けるか否か。教会という勢力に一度はまれば、そうそう足抜けできないだろう。

 

 

「僕としてはマルグリットを助ける方に進みたい。手早くやらないといけない依頼もないわけだし。合同任務で成功できるよう動いた方が良い」

「まぁ、そうなるよな。賛成」

「私も賛成だけど、条件付き。なんか手下になったみたいで嫌だけど、影から助ける形にしたいわ。どうせ手足がいるんでしょうし。ああいう子だからコソコソ動くなんて絶対無理でしょ」

 

 

 マルグリットが腰をかがめて隠密行動しようとしている場面を想像してしまう。あの巻き髪がはみ出て、見つかる未来しか想像できない。まぁそうなると接触するのは俺か。アランは妙なオーラがあるし、ミュゼは体力に問題がある。そうなるとマルグリットの現在位置が教会か、外かで変わってくる。

 まぁ教会に向かうしかない。幸いかはわからないが、俺の容姿は全く目立たない。革鎧さえ脱いでしまえば正面からでも入れる。

 

 

「俺が教会に行ってみるから、集合場所を決めよう」

「そうと決まれば。まずは出発しようか」

 

 

 平服に着替えた俺たちはアラン以外、どこにでもいる見た目になった。

 集合地点は街の中央広場にする。葉を隠すのなら森の中というが、ここの人通りは凄まじく、俺たちのように誰かを待っている人も大勢。どうでもいいが中央の中央にはドでかいハンマーの像があり、ちょっと笑いそうになった。

 

 

「ミュゼは杖がなくても魔法は使えるのか?」

「使えるに決まってるでしょ。精度は大分落ちるし、補助効果もなくなるけどね。できる限り良い杖を持った方が良いっていうのは、魔法に大きな影響を与えるから。まぁ素手での魔法は想像力次第ね。あんたこそ鎖はどうしたのよ?」

「体に巻き付けてある。袖から出す訓練は死ぬほど痛い目にあったが……修業時代を思い出すとよく耐えられたな俺。鎖帷子代わりにもなって結構実用的だ。アランは堂々と帯剣しているが……」

「隠そうとしなければ案外バレないものさ。実際、悪いことをしているわけじゃなし。僕たちはここでマルグリットが通らないか見張る。イサオは教会を探る。夜になったら宿に戻ることにしよう」

 

 

 了解、と軽く頷いて行動を開始する。教会への道のりはそこらの人に聞いて知ることができた。そうしてたどり着いた建物は、個人的には何だか刺々した装飾が施された巨大な建物という印象だ。ウィッカにあった協会より遥かに大きいのは、流石は鍛冶街ザリオンといったところか。鉄の道の出口に相応しい。

 さて、まずは正面から入って堂々と聞くことにしよう。何のことはなく、ただ仕事が多かったという線も消えていないからな。巨大な建物に見合うだけの巨大な扉だったが、よく見ると人の身長ぐらいのところにまた扉が開く。この大きな扉が開く時はなにかの催しでもあるときなのだろう。

 中に入るとその荘厳さに合わせた大量の椅子と、見合わない一人の男性が立っていた。

 

 

「おや、どうしましたか? 今日の礼拝の時間はもうとっくに終わっていますよ?」

「失礼をお許しください。ここにお……私の知り合いである神官マルグリットが来ているはずなのですが、会わせていただきたく」

 

 

 男性の声は穏やかだが、この街と同じくどこか胡散臭い。頭はアランとミュゼが使えばいい。俺としては直観だけを頼っていく。それが告げるのは、この男の胡散臭さは見下しから来るものだ。自分が知っていることをこいつは知らない。そういった印象がある。

 

 

「ああ、なるほど。マルグリット殿の知り合いの方でしたか。彼女はもうここにはいません。行き違いになってしまいましたね。街の方を探すと良いでしょう。もしくは宿に戻るか」

「……そうでしたか。では折角なのでお祈りをして、帰ります」

 

 

 献金皿に銀貨一枚を乗せて、マルグリットがやっていたように祭壇の前に跪いて拝む。その間、男から俺を探るような視線を感じる。なぜ分かるかというと俺もこの短い時間を活用して周囲を観察していたからだ。

 

 

「ではこれで失礼します」

「あなたに神のご加護がありますように」

 

 

 神官式の礼とでもいうのだろうか、手をかざして男は言った。俺もさっさと中から退散する。

 外に出て息を大きく吸う。慣れない敬語など使うからこうなる。そして、先ほどの会話を思い出す。宿()()()()? 俺はマルグリットのことを知り合いとしか言っていないのに? ますます怪しい。気配を消して、教会の周囲をうろつく。

 マルグリットの安否が気にかかる。勘だが、教会の中にいるように感じた。マルグリットは確かに強いが、俺とは違いお上品だ。つけ入る隙がないでもない。

 

 

「こんな妙な装飾をするから……」

 

 

 がきがきと体を捻じ曲げ、袖から鎖を放つ。それは窓の近くにある飾りに引っかかり、俺を上へと運ぶとっかかりとなる。全部で四階ぐらいか? 同じことを繰り返して、次々と窓の中を確認していく。そして三階の物置のような場所に倒れているマルグリットを発見した。金がある教会らしく、ガラス窓など付けるからこうして発見しやすいのだ。

 割れる音などが聞こえないように、鎖を窓の端に引っ掛けて丸ごと引きはがす。窓ごと鎖につないで侵入する男は俺が初めてだろう。泥棒でもそんなことはしない。

 

 中に入るとマルグリットは四肢を拘束されていたが、それ以前に眠っている。拘束は縄によるもので、起きいてたら素で引きちぎっていたような気がするが、侵入が無駄だと思いたくはない。マルグリットから奇妙な甘い匂いがする。薬で眠らされたか。暇になったらからかってみよう。

 

 

「ふんっ!」

「げはっ! ごほっ! な、なんですの?!」

 

 

 多少乱暴だが、臓腑に衝撃を与えて気付けにした。肺の中の空気を押し出すイメージでやったので、とりあえずマルグリットは目を覚ます。

 

 

「あら? イサオ様? わたくしは……って!」

「まず待て。拘束を解く。あと体から痺れが抜けるまで大人しくしていてくれ。急がば回れ。それと言う情報を整理していろ」

 

 

 ナイフを置いてきてしまったので強引に縄を引きちぎる。【師匠】仕込みの剛腕だ。この程度の縄を千切るなど朝飯前だ……いや、本当に質の悪い縄だな! マルグリットでも引きちぎれていただろう。

 

 

「イサオ様。手紙を受け取ったのではないのですか? どうして助けに?」

「結果的には助けたが、助けるべきか確認しに来たんだよ。大事な依頼前だからな。それで、何を見つけたんだ? 金でも横領されていたか?」

「だったら、楽だったのですが……端的に言えば、この教会は麻薬を作っていたのですわ」

 

 

 ほう、麻薬。麻薬……うん、使うやつの自業自得じゃね? と思ったが、口には出さない分別が俺にも身についていた。かく言う俺も気付けのための薬などを危ない植物から作ったりするが、街には街の常識がある。

 つまりはマルグリットは世間を毒する存在を許せないと思い、調査を始めたわけだ。ちょっと俺には崇高過ぎる。

 

 

「書類などを調べて、追っていたところ……ここの神官が炊いていた香に引っかかり……情けない限りですわ」

「それって礼拝所にいた神官かな。どう見ても怪しかったけど」

「最初は身内で片を付けようと思っていたのですが……恥を忍んでお願いしますわ。イサオ様、どうか手伝っていただけないでしょうか? そしてこの街を蝕む悪意を一掃するのです!」

「いいよー」

 

 

 これはアランとミュゼも手伝うとか言い出しそうだなぁ。なんとかこの建物内で終わらせられないものか……




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