大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
麻薬。その存在は山育ちの俺でも知っている。人を堕落させるというか、毒物としてだ。なにせ材料はその辺に生えてた。だが、【師匠】も俺も手を出したことはない。まぁ毒キノコの方が美味しいようなものだろうとしか……
しかし、教会と麻薬がどうつながるのだろうか。教会は信者からお金を集めていると聞く。勝手に集まってくる金で満足できなかった……わけではないだろう。つまりは教会ぐるみではなく、ここの一グループが勝手にやっていると考えるのが自然だ。
「しかし、連中はマルグリットを殺さなかった……つまりお前さんを知ってたんだな」
フラーボスだったか。マルグリットの師匠である人はスウキキョウとかいうかなりのお偉いさんらしいから、その悪人たちも持て余したのだろう。麻薬を作っている連中はそう大きな権力を持っていないらしい。これは随分とやりやすくなった。
「書類と帳簿を見たところ、結構な数を売りさばいているようですわ。身内の恥ですけれど、この大きな教会は何かを作るのにちょうど良かったのでしょう」
「麻薬なら匂いを嗅げば俺が追えるんだが、問題はその過程で犠牲が出て良いか。それと証拠をどうするかだな」
マルグリットが見れたような書類は恐らく隠されたか、燃やされたはず。待てよ、その前にどうなれば解決なのかが、俺にはよく分からない。証拠を突き出して、公正に見てくれるというか判断してくれる連中がいるだろう。
「お師様に力添えを頼もうと思いますの。一度告発してもその間に片付けられたら、逃げられてしまいますし」
「よし。中央広場にアランとミュゼがいる。マルグリットは合流してそっちの手配を頼む」
「イサオ様はまさか……」
「ここで製造現場を占領する。書類だのより余程良い証拠になるだろうし、なにより俺が分かりやすい。ああ、お前の装備も見つかれば回収しておくのも忘れない」
千切れたロープやら置いてあった布地で、即席だが降りるための道具は完成した。マルグリットは巻き込んでしまったことに申し訳なさそうだが、最後は無言で降りて行った。
「思えばアイツなら飛び降りても大丈夫だった気もするな。さて、俺も動き出すかね」
抜けない独り言を口にした後で、俺も窓の外に出る。ただし、下には降りない。壁にぴったりと張り付き、マルグリットがいないことに気付く連中が来るまで待ち構える。むしろ気付くのが遅いぐらいの速度で、男たちがやってくる。
「これは……おい。どうなっている?」
「拘束していたはずですが……」
「拘束? フラーボス枢機卿の弟子をその辺のロープで縛って拘束したとでも言いたいのか? ……ええい、もういい。我々は少人数だ。お前みたいなのでも駒には変わらん。街中を探せ。それと他の連中に郵便物の検閲をさせろ。門衛は金でどうとでもできる」
リーダーらしき人物は、やはりあの胡散臭い神官だった。それにしても少人数とは、また有益な情報だ。連中は外に出るだろうから、俺も入り口付近で待ち構えて郵便物をどうこうする役目の男を捕まえる。
しゃかしゃかと建物の壁を蜘蛛のように移動して、入り口の真上で待ち構えた。
「ぐえぇつ」
一人目は見逃がし、検閲を命じられた男の首に鎖を巻き付けたのだが、やり過ぎたか? 叫ばれても困るので、喉を狙ったのだが相手が予想以上の速度で走っていたためぐったりとしている。
まぁいいやと思いつつ、男の肉体を抱えたまま再び外に出て、元の部屋に戻る。マルグリットのいた部屋にあった適当なもので拘束し、猿ぐつわを取り付ける。死んでいると思うが、念のためだ。生きているなら良い証人になるし。
俺は次の探索に取り掛かった。先ほどまでは外。なら今度は内側だ。こういったときに麻薬を作るような設備をどこに置けるか?
「地下か……でも換気ができないよな。案外上の広い部屋でやっているかもしれないが……どういう薬か聞いておけば良かったなぁ」
練って作る物なら地下でもできる。火を使うような物なら新鮮な空気が必要だろう。そういえばマルグリットは香で眠らされたと言っていたな。地下から探すか。
時に壁に張り付き、時に天井にへばりついて進んでいく。次第にこの教会の歪さが見えてきた。人が少なすぎる。
教会がどう運営されているかなど俺には分からんが、これだけの大きさをしている建物だ。維持するための人員はそれなりの数が必要なはず。また普通の神官や神官見習いもいるはずなのだが……先ほど一グループの仕業と考えたが……まさかその一グループしかここにはいないのか?
先に会った胡散臭い神官を追えば分かるはず。俺は礼拝堂への道を探りながら辿って行く。マルグリットが逃げた以上、あの神官もなにか動きを見せる。
そうしてたどり着いた礼拝堂。ただしその天井だが……着いた時には例の神官が別の部屋に移動しようとしているところだった。運がいい。音を立てないように俺も続く。その部屋の絨毯をめくりあげたところに地下への入り口があった。
ここに来てはもう隠れもできない。あちらとこちらで我慢比べと行こうじゃないか。
「……誰だっ!?」
「さて、なんと名乗るのが良いんだろうな。まぁ……俺はここからあんたを出さないし。俺も出ない。仲良くやろうじゃないか」
地下室で鎖をめぐらす俺は蜘蛛のようだろう。鎖が地下と地上を繋げる扉を縛って開かなくする。
周囲を見渡すとまるで錬金術師の工房に見えた。灯りが緑色なのはなにか魔法の産物か。鼻につく刺激臭をしっかりと覚える。これで地上の売人や使用者も追えるだろう……と思っていると。
「くそっ。訳も分からないまま閉じ込められてたまるか!」
胡散臭い神官はその刺激臭がする丸薬を歯で噛み砕いた。即効性があるらしく顔面の血管が張り詰め異相と化す。どうやらあれは。
「何かの増強剤か? もしくは
鎖は閉じ込めるのに使っている。神官は凄まじい速度で俺に飛び掛かってくる。まるで獣に変じたようで、精神にも作用するのだろう。
神官の五指が俺に届く瞬間、反対側の壁まで彼は吹き飛んだ。
「徒手空拳は【師匠】から褒められたことがないんだ。というわけで……手加減ができないのは諦めてくれ」
腰を落として右手を前に突き出す。さて、あまりうるさくしても……ああ、もういいか。とりあえずここを占拠してしまえば何でもいい。
半時後にはボロくずのようになった神官が転がり、俺は無傷だった。だが、相手が弱かったわけではない。薬を使ってくる相手に一撃でも貰うのは避けたかったのだ。
しかし妙だ。マルグリットは麻薬と言っていたが、こいつが使用した増強剤は狂乱するものだ。そんなものが娯楽になるはずがない。ああした薬物はあくまで一定の範囲内で収まるからこそ需要が出る。獣化するかのような代物ならとっくに表ざたになっているはずだ。
「とりあえず……ここで作っている物、全部解説してくれ。じゃないと俺も、趣味に合わないことをしなけりゃならんくなる」
神官の首根っこを捕まえて、机に叩きつける。そこには色々な物が乗っていた。瓶に入った水薬。薬研と刺激臭のする枯草。奇妙な軟膏。さて麻薬はどれだ。まぁ喋らなくても構わない。こいつに飲ませたりして試せば良い。
厳粛な教会の地下に叫び声があがったが、地上はことも無し。俺はにやにやとして楽しそうに弛緩している神官を横目に、置いてある紙を読むことにした。
ふぅむ。麻薬にもスタイルがあり、気分が高揚するのを楽しむ者もいれば、逆に落ち込むのを楽しむ者もいるのか……後者が特に理解できない。それは楽しんでいることになるのか?
最初の何日かは無理やり扉を開こうとする連中もいたが、二日ほどで諦めたらしい。もう二日経った頃扉がノックされて女の声が聞こえた。ようやく奇妙な同居生活が終わる。
修行で何日か飲まず食わずで動ける俺は元気だったが、神官は元気とは言えなかった。調合に使う水が無ければ死んでいたかもしれないが、生きて帰れたのでこれからは善人として暮らして欲しい。
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