大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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功績の手土産

 教会において麻薬が作られていた! それは世間に衝撃を……別に与えなかった。教会は自浄作用の機関を持っており、そこから聖堂騎士なるものが派遣されて事態は収束した。徹底的に外へは漏らさないまま、関係者を粛々と処理して、痕跡を消し去っていく様子はさながら処刑器具のような無機質さだった。

 さて、俺は見逃されるだろうかと疑ったが、下手に騒ぎ立てなかったことで許しが得られた。ただし、吹聴するようなことがあれば……とも言われたが、こちらはマルグリットが何も言わないなら構わない。そのあっさりとした態度が功を奏したらしく、口止め料まで貰った。冒険者組合の功績にも秘密裏に記されるというから恐れ入る。

 この世界の機関は全部繋がっているんじゃないか? いや、まさかな……

 

 

「へ? 捕縛依頼?」

「はい。この件に関わったあなた方にしか頼めない任務です」

 

 

 冒険者組合に顔を出そうとすると、奥の部屋に通されフルフェイスで顔を覆った女性騎士から俺たちは依頼を持ち掛けられた。

 

 

「いくら内々に処理して、あなた方の口が堅くとも件の薬は市場に出回っています。それらの中に腐敗者のことを知っている輩がいないとも限りません。ですが我々が出ていることを知らしめるのもマズい。そこで薬物中毒者をできうる限り、捕縛して欲しいのです。我々は売人の元締めと交渉せねばなりませんし。そちらの方は薬の効果も知っているでしょう?」

「ああ……なんか液体飲ませたらニヤニヤしてたな。まぁ依頼に関してはリーダーが受けるのなら当然、俺も同行するよ。どうするアラン?」

「うん。綺麗ごとでは済まない任務だね。ただ我々が教会に対して不信感を抱いていないと示すために引き受けましょう」

「いいの、アラン? この依頼ってつまり中毒者は……」

「それは解毒させるように、わたくしがお師様に取り計らいますわ。何もかも切り捨てて達成ではあまりにも非道!」

「そこに関しては私も権限を持っていないので、枢機卿を説得できるというのならお任せします。ただ、決裂した場合()()することはお忘れなく」

 

 

 というやり取りの結果、再び潜入用の格好に着替えて街の裏路地を回ることになった。薬物中毒者は鍛冶街ザリオンの負の側面だった。ここでは余りにも多くの鍛冶屋と工房が軒を連ねている。それが()()()()()のだ。

 数の膨張は熾烈な競争を呼び、結果として勝者より多くの敗者を生み出した。彼らが薬物に走る土壌はあったということ。敗者に鞭打つような真似をすることになって嫌になるね、全く。

 

 

「俺は不機嫌だが、別にお前のせいじゃないぞ。マルグリット」

「いえ、全ては身内から出た汚れですし……解決にここまでの協力をさせてしまうのは……」

「ははっ。イサオはね、こう見えて世の仕組みを憂いているんだよ。人里を離れていたからこそ、人間同士が争うことに納得がいかないでいるんだ。狩りとかは平気でするのにね」

「別にそこまで善人じゃない。ただ、この街は同職の集まりだろう。もう少しまとまりが欲しいだけだ」

「素直じゃないわね。私は純粋に薬を売りつけているやつに反吐が出るけど」

 

 

 薬で身を持ち崩す連中は自業自得だとも思っていたが、案外自分は納得がいっていないのか? ただ、こうした事態に備える施設も教会にはあるらしいので、そこは救いか。

 アランの影響を受けたのか、善悪に対して過敏になっている気がする。あまり良くない傾向のような……

 

 

「それはイサオが徐々に世間を知ってきて、判断するようになったってことさ。君は善人じゃないかもしれないけど、自分が思っているほど薄情じゃない。それだけだよ」

「そんなもんかね。まぁあそこに見える連中を捕まえて確認してみるか」

 

 

 裏路地の行き止まり、いや吹き溜まりとでも言った方が正解か。そこには十名ほどのグループが座り込み、そして笑っていた。自分で薬を飲まされたあの神官のように皆がニヤニヤ笑いながら動かない。

 鍛冶や商人のなれの果て。だが、彼らは幸せそうだ。もう競争しなくていいと思っているのか、それとも彼らの頭の中では自分たちが勝者なのか……分かるようになってはダメだろう。共感してはならないものもあるのだと教えてくれるようだ。

 

 

「薬が効いている内に捕まえれば楽そうだな。急に暴れられても困る」

「っていうか……気絶させた方が良いでしょう」

 

 

 ミュゼがそう言うと一人の男ががくがくと揺れ始めた。薬がきれたのか、多すぎたのか、あるいは現実に返ってしまったのか俺には分からない。ミュゼはそいつの脇腹を軽く殴る。すると今度はぐったりと男の体から力が抜けた。

 

 

「ミュゼに接近戦の素養があるとは知らなかった。<ストレングス>か?」

「いいえ、<マジックアロー>の応用よ。魔力の塊を投げずにキープするの。あんたもさっさと働きなさいな。痛めつけるの得意でしょう?」

「そんな訳ないだろう。優しくやるのは専門外だ」

 

 

 素手でやると、どうにもやり過ぎてしまうんだよな。半端だと効果がないので力を込め過ぎてしまう。だからこう……鎖を次々に首へかけてキュッと。頸動脈を上手く縛ると相手も暴れない。動いていないやつだからできる技だな。

 

 

「リーダーに頼んですまないが、荷車かなにか借りて来れないかな。こうも多いと担いで運ぶのも目立つ」

「分かったよ。僕には気絶させるような真似はできないしね。それと大きな布で隠せるようにしよう」

「あ、教会の物置にありましたわ。布は持ってきます」

「えぇ……俺とミュゼの二人が残るの?」

「あんたって本当に喧嘩売るの得意よね。ついでに殴るわよ」

 

 

 こうして俺たちは中毒者たちを教会の息のかかった治療所へ何度も運んだ。人間を多数乗せた荷馬車を引いたのはもちろん俺だ。馬は目立つ上に路地が入り組み過ぎていて使えなかったのだ。俺がいなかったら、どうしていたのだろうか。マルグリットが引くのか?

 

 

「それにしても腑に落ちないな。増強剤を使っている者が一人もいなかったが……」

「人間が獣のようになる薬だったか。使いどころが限られるからもしかしたら……いや、考え過ぎかな」

 

 

 アランの考えたことがしばらくしてから、俺にも分かった。アレは売人側。あるいは()()()()()使うための代物だったのではないだろうか。前者ならまぁ納得はいくが、後者であったのなら気付いた者は……これ以上考えない方が良いということに俺もたどり着いた。

 

 

「それにしても本当に治療の許可が下りるとは、マルグリットの師匠って本当に偉いんだな」

「そうですわよ。それでも治療した後のことまでは、とも手紙にありましたが……」

 

 

 彼らが社会に復帰できるかどうかは完全に個人個人に委ねられている。一度絶望の淵に行ってしまった者が同じことを繰り返すのは、俺にも予想がついた。それでも何人かは立ち直れるだろう。腕前があったにも関わらず運が悪かった者もいるはずだ。

 結局のところ中級冒険者にできることなどそれぐらいなのだろう。俺たちが全てを元通りにするほどの権力を握るには、それこそ一級冒険者になる必要がある。成り上がりの目が残っているだけマシかも知れないな。

 アランの理想のためには最低でも三級冒険者にならなければならない。そこからさらに上を目指せるかは努力だけではなく、運も求められるだろう。そこに関しては一切自信が無い。

 こうして日々を教会側への協力に費やし続けた。それでも恐らくは全員を収容できたかは分からないが、できる限りはしたと言っても良いだろう。組合支部に顔を出さないまま功績だけが積み上がり、四級への昇格試験を受ける許可にまでなった……というか

 

 

「合同任務がそのまま昇格試験か。余程難易度が高いのかねぇ」

「それにしても最後のチームが来るまで長かったわ。魔法使いなのに肉体労働者になった気分よ」

「皆さん、今回は本当にありがとうございました。おかげさまで、この地の教会も人員から刷新されることになりましたわ。輝かしき神の家が復活できるのは皆さまの信心によるものです」

「よしてくれよ、マルグリット。というか八割がたイサオの働きだからね」

「俺も大したことはした気分にならないな。久々の絶食だったぐらいだ。まぁこんなこともあるということで区切りを付けて……行くとするか」

 

 

 四級への昇格試験にして、未来の英雄への第一歩。合同任務の日がやってくる。

 




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