大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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洗礼返し

 合同任務の集合場所は大きいだけの建物だった。中に入ると、元は倉庫か何かだったのか、調度品が何もない。ただ広いだけの空間だ。そこに集ったのは六チームほどだろうか? 正直なところ、マトモな人間とは思えない集まりがほとんどだ。俺たちともう一チームだけが若く、社交性がありそうだ。

 集まったチーム同士で直接やり合いはしないが、がんを飛ばして見たりととにかくガラが悪い。こんなんで合同任務なんてできるのかな? そう思っていると強い気配を感じて、扉を見やる。一人の細い男が入ってきて手をパンパンと叩きながら、部屋の壁際で注目を集める。

 

 

「王国の任務だ。お上品にいくぞ。私は今回の任務の監督者“夜蝶(やちょう)”のギヨームだ。まぁ諸君の内、何人かとは縁ができるかもしれないな。さて、任務の内容は全員知っての通り魔獣の討伐だ。本来なら三級の任務となるが、六チームもいればどうにかなるだろう。魔獣は鍛冶街ザリオンが燃料となる木材を切り出している森の一画を占拠している。そう、そこのお前が感じた通りだ」

 

 

 ギヨームはまともに見えるもう一方のチームの若い女を指して言っていた。魔獣の動きについて感じるところがあったのだろう。まぁ何も考えず聞いていた俺が呼ばれないのは仕方ない。が、意味があると聞かされれば納得する。

 

 

「これが魔物と魔獣の違いだ。連中は命をかけて、鍛冶街ザリオンの活動を妨害しようという使命感がある。魔族の命令を受けて、粉骨砕身しているわけだ。“不運(バッドラック)”、下級とはいえ魔族を倒してきたお前たちも分かるだろう?」

「ええ、まぁ。前線から離れても忠誠心があって、結構なことですね」

 

 

 アランとギヨームの会話に他のチームがざわりと一瞬動揺が走った。魔族を相手にしたことがないチームも意外と多いらしい。先ほどの女冒険者は平然としている。彼女は経験してきたのだろう。というか、かなり強いな彼女。マルグリットも察したのか、目がそちらに向いている。ただ、彼女はローブ姿で身長に近い杖を持っており、魔法使いに見える。なので、正確な力量が俺には把握できない。漠然と強い。そう感じるだけだ。

 

 

「マルグリット、あの子どれくらい強い?」

「そうですわね。わたくしより少し上……イサオ様と同じくらいでしょうか」

 

 

 同じ理由で俺はマルグリットの全力も測れない。個人的にはマルグリットと互角だと思っていたので意外だ。神官戦士であるマルグリットは武術と魔法、両方の力を感じ取れる。

 俺はやはりマルグリットと自分は互角だと思う。なぜならマルグリットは、素直に相手を自分より上だと評価できる精神を持っているから。わきまえた奴ほど手強いのはどの分野でも同じだと思う。まぁそのおかげで初対面の時のように、格下相手だと調子に乗ったりもするのが玉に瑕だ。

 

 

「魔獣は目的達成のためには、知恵も絞り出す。()()()()()()

 

 

 ギヨームが指を鳴らした、その瞬間、黒装束たちが現れ、集まったチームに剣を突き付けていた。するとギヨームは困った顔をする。その顔が本気なのかは分からないが、これだけの人数を従える才能は凄いな。

 

 

「洗礼のつもりだったんだが……これではなぁ」

 

 

 俺たち“不運(バッドラック)”の背後を取った四人のうち三人は首に俺の放った鎖が巻き付いている。マルグリットの背後を取ろうとした人物は床に叩きつけられて、首に盾を当てられている。余計な動きをすれば、首を押しつぶすつもりか。なるほど、下手に動かれて斬ってしまう可能性がある刃物よりいい方法……いや、怖いよマルグリット!

 そして、話題に上がっていた女魔法使いの周囲には水球が四つ浮かんで、中に刺客を取り込んでいる。呼吸とかどうしてるんだろうか?

 

 

「ミュゼ……なにあの魔法?」

「そのまんま水玉(ウォーターボール)よ。本来は頭ぐらいの大きさが限界のはずだけれど……規格外ね彼女。どうやって水を集めたのかすら分からないわ。あらかじめ水を集めてたのか……もし魔力を直接水に変えていたのなら本格的に化け物よ」

 

 

 この結果を見て困惑していたギヨームは、一転して大笑した。

 

 

「あっはっはっは! すでに上級クラスの実力を持った連中がいるな! 数で補っているとはいえ、“夜蝶(やちょう)”は二級チームなんだが……お前たち三人は、そうだな。少なく見積もって三級と二級の間くらいの力があるな!」

 

 

 よく笑えたものだ。この“夜蝶(やちょう)”とかいうチームは数で強いというのも事実なのだろうが……何よりこのギヨームという男自体が強い。後ろに立ったのが彼だったならしのげていたか怪しい。エースをリーダーが務めて、配下を手足のように操る。それが“夜蝶(やちょう)”というチームなのだろう。

 

 

「まぁ、なんだ。ちょいと驚かすには足りなかったが、これが魔獣の怖さだ。後ろに回り込むぐらいは平気でやってくるぞ。ところで嬢ちゃんたち、うちの面子をそろそろ解放してやってくれないか」

「あら、そうして慈悲を見せた瞬間に反撃してくるのも、裏をかく手段ではありませんの?」

「一本取られたが、そのままなのも困るだろう。“夜蝶(やちょう)”の面子にかけて、断言する。そんな真似はさせない」

「マルグリット、放していいぞ。もし、動いたら俺が即座に殺す。そうやって順番に解放していこう」

 

 

 まず、俺が三人解放して鎖が自由になってから、マルグリットが押さえつけるのをやめる。十分に距離を取ってから女魔法使いに頷いて解放させる。ただ……俺はしかめっ面になってしまう。ここまで気付かなかったのを呪いたいぐらいだ。

 

 

「ギヨームさん。なぜ、天井裏の彼を使わなかったので?」

「へぇ……お前は本当に強いな。ただ、それ以上言うなら本気でけしかけるから止めておけ。欲をかかないのも一流になる素養だ」

 

 

 何かがいる。板を挟んでいるとはいえ、真上に来るまで俺も気付かなかった。化け物はギヨームだけではない。これが二級冒険者チームの凄みということか。だが見ていろ。いずれ俺もそこに並ぶ。そしてアランもミュゼもそれだけの器を持っている。

 

 

「ただ……惜しいな。まぁ正解に近いのは確かだ。だが俺たちは“夜蝶(やちょう)”だぞ? 彼じゃなくて彼女だ。そこの連中も含めてな」

「えっ」

 

 

 アランが驚きの声を上げるが、俺も驚いた。気配でもまるで判別できない。というか、どうやってこれだけの腕の持ち主たちを女性だけで構成したのか。

 

 

「まさかとは思うが、ギヨームさんも……」

「さぁな。どっちか一生悩んでろ。というわけで未来ある冒険者諸君、魔獣退治に出発しようじゃないかね」

 

 

 俺たちは狐につままれたようなな気分で、移動を開始した。確かに実力の前には性別など無意味だが……などと考えていると、例の目立っていた女魔法使いがこちらに寄って来た。

 

 

「あんたか……大した魔法使いのようだな。短いがよろしく頼む」

「短くならないかもしれない」

「うん? どういう意味だ?」

「私はエディット。ネスタルの弟子エディット」

「ネスタル様の!?」

 

 

 俺より早くマルグリットが反応していた。そういえばコイツはネスタルさんのファンだったな。

 それにしてもあのネスタルさんの弟子か。珍しい水色の髪をしており、それを短くしている。服装は先に述べたようにいかにも魔術師という感じのローブと長い杖。正直言ってネスタルさんには似ていない。いや、俺も【師匠】に似ていたら困るけど。

 

 

「あなたたちのことは聞いていたけど、名前は知らない」

「ああ、そうか……俺は外に出されるときに名付けられたんだよ。イサオという」

「マルグリットですわ。それにしてもネスタル様の弟子なら、あの実力も納得ですわね」

「……あなたたちのチームはいいね。強そう。でも、負けない。私たち“水蓮”が先に名を上げる」

 

 

 宣戦布告というわけか。そうして彼女は自分のチームへ戻っていった。

 

 

「しかし……これは競争じゃなくて、合同任務なんだけど」

「リーダーもアランのように穏健派ばかりとはいかないようだな」

 

 

 俺たちは微妙な気分で最後尾を進んだ。




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