大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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闇夜の魔獣

 ギヨームに付いて、件の森までたどり着いたものの相当な距離だった。行軍などの一見地味な過程からもふるいにかける……あるいは評価しているのだろう。時刻は既に陽が沈み始めている。そのことに各チームは不満を募らせている。

 

 

「このままじゃ、夜になっちまうんじゃねぇか?」

「おい、どういうことだよ! まさか暗闇で魔獣を相手どれって言うのかよ!」

「その通りだが、どうかしたか?」

「「なっ」」

 

 

 文句を言う、ある種勇気のある連中は短い返答で呆気にとられている。

 しかし、彼らも国の将来を担う戦力候補……無暗に減らしていい存在ではない。つまり、そうするだけの理由があるというわけだ。アランはそれを察していたらしく、あらかじめ龕灯(がんどう)を用意していた。他のチームも松明ぐらいは用意している。文句を言うチームが準備不足だっただけであり、同時にそれが夜に任務をこなす理由。

 

 

「夜にしか出ない……じゃないな。それだと街の妨害にならない。よく気を回すよなアランは」

「うん。冒険者みたいな武装した相手だと夜しか戦わない。少し頭が回るどころじゃなくて、ほとんど人間じみた思考だね。魔獣というだけはある。決して無理はしないだろうから、逃げられる可能性も考慮しないと」

 

 

 この時点でチーム毎に差が出始めている。とはいえ、最悪を想定していたチームの方がまだ多いため、準備はしてある。灯した明かりを目がけて奴らは襲ってくるのだろう。普通なら先手を相手に取られた形になるはずだが、俺たちは違う。

 エディットのいる“水蓮”と話をすることにした。なにせこれは合同任務だ。競い合いではない。

 

 

「エディットさん。敵の数は十体だ。ただ気配からすると一体だけ大型だ。こいつは要注意だな」

「足跡と気配からして四足獣ですわね。エディットさん、そちらは?」

 

 

 エディットは少し困惑してから、手のひらに青い水の玉を作り出した。その水は特定の方角へと輝いている。見たことのない魔法である。門外漢である俺が知らないだけかも。次いで水玉は皿のような形になる。

 

 

「さんはいらない……方角は南東。これは……狼型? 既にこちらに気付いている」

「それ! 〈水鏡〉の術に独自の改良を加えてるの? はー、綺麗な組み方だわ」

「ちょちょっと近い……」

 

 

 ミュゼが興奮してエディットに詰め寄っている。というかミュゼの意外な一面を見たような気分だ。なんというか研究馬鹿な一面も持っていたらしい。先の〈水玉(ウォーターボール)〉は単に出力が凄いというだけで反応しなかったらしいが、新魔法には大興奮している。

 それを横目に一人の男が仕方なさげに、俺たちの前に出た。

 

 

「相手の頭がキレるとなると後ろからの奇襲があるかもな。おっと、俺はジェイという。覚えなくても良いが、戦士ということは覚えておいてくれ。“不運(バッドラック)”のことは噂では聞いていたぜ。他に弓使いのイーと、神官のセスが俺たち“水蓮”だ」

「弓使いがいるのは良いなぁ。こっちは戦士二人と神官戦士に魔法使い……攻撃的なチームだな」

 

 

 ジェイは黒髪を短く刈り上げた恵まれた体格の男だった。人懐っこさとサバサバした感覚を併せ持つ、いい意味で軽い男か。防具は軽装備なのに両手剣を背負っている。回避によほど自信があるのだろう。エディットがあまり社交的には見えないので、彼を通して向こうのチームに話しかけた方が良い。

 

 

「よろしく頼むぜ。エディット、アランさんよ。六チームがいきなり連携行動を取れるわけがねぇ。ここは俺たち二つのチームで共闘しないか? 不幸にも俺たちは後ろの方だ。奇襲や混乱をもろに受けちまう」

「そうだね。それでこちらは構わない。ただ……この場合の奇襲は後ろからだけじゃないと思うんだ。縦に行動している以上、効果的なのは……」

「なるほどな。じゃあどうするよ?」

「イサオはその大型の敵にぶつけたい。幸い戦士は合計で四人もいる。前方は他のチームがいるから、左右と後ろの各方向を一瞬守って、すぐにイサオを大型に向かわせる」

「始まってからの陣形の変更が難点だな。悪いが他のチームは盾代わりにさせてもらうか」

 

 

 東にマルグリット、西にアラン、後方にジェイという形で守りを固める。俺は一応後衛組の前に立つが、大型の相手で役割は決定。他の四つのチームは最初からあてにしない。

 気配が近くなってくるのに連動して俺は鎖を徐々に握る。大損害を出すまでまったく手伝わないということか。ギヨーム以外の“夜蝶”の面子は木や石と一体化していた。

 

 

「来た!」

 

 

 黒い狼たちが薄い横腹を食らおうと、東側からなだれ込んでくる。幸いにも東側に戦士がいたチームは初撃を凌いだ。狼たちは一直線に陣形を突き破り混乱を誘う。だが、彼らとて四級五級のチームだ。次にまた来るかき回しに備えて、態勢を立て直した。

 

 

「ということは後ろ!」

 

 

 大きく後方に俺は飛んだ。目線があったのは巨狼。四足獣だというのに頭まで人間三人分はあった。他の狼たちと同じで黒いが、特徴的なのは目が六つあることだ。四つの目は俺をじっと見ているが、残りの二つはせわしなく四方八方を見ている。

 

 

「ああ、お前たちにも考える頭は付いてるわな。俺一人じゃ不足か?」

「イサオ! 僕らは他の狼に対処する……任せたよ!」

「はいはいっと。よく考えたら気配を察知するのは獣の方が上手いわな。他の狼たちは弱そうなところを狙い、マルグリットとエディットもお前が抑えるつもりだったんだろうが……残念、俺一人でやる」

 

 

 他の狼も眼前の巨狼よりは小さいが、それでも普通の狼よりは遥かに大きい。だが、こっちには倍の人数がいる。加えて俺が巨狼を抑えている限り、怪物二人が他の援護に回れる。

 

 

「さぁ始めようか……っ!」

 

 

 巨狼がいきなり跳躍。俺は鎖を咄嗟に上へと放つ。鎖は足に絡みついて、なんとか引き離されずに済んだ。この野郎、手間がかかる俺を後回しにしようとしやがった!

 そうだ。こいつは()()()()命令に従う。いわば軍人。面倒くさい相手など無視して、ひたすらこちらの数を減らそうと試みるのは当然。

 自分の命すら勘定に入れない巨狼は、後のために大きな戦果を上げてから死のうとしている。気が付けば俺こそが混乱の中心点にいた。鎖を今度はノズルに絡みつけて、ナイフを抜く。鎖は相手に付いていくために固定された。そして俺は化け物じみた大きさの爪に、このナイフで挑まなければならない。

 互いに持つのは仲間への信頼。それぞれのチームが役割を果たして駆け付けてくれると信じている。最悪の泥仕合が始まった。

 

 ぐるぐると相手の頭の動きで宙を舞いながら、全方位を一瞬観察。趨勢はこちらの方が有利だ。エディットとマルグリットの遊兵化が大きいだろう。

 次いで繰り出された右前足の前蹴りをナイフで受け止める。比べるのも馬鹿馬鹿しいサイズ差だが、真芯をわずかもずれずに放たれた一撃で鋼鉄の盾と昇華させる。代償に地上に戻る猶予が与えられず、空中で翻弄され続ける。

 

 

「……目が回るな、多少は動揺しているようで助かる」

 

 

 ここで一番困るのはあくまで俺を無視して、四方八方に横槍を入れられることだ。だが巨狼は俺を高く評価()()()()いるらしい。俺の隙をついて殺そうとご苦労なことだ。最初の考え通り数を減らす方向に転じれば良いのに、ここで俺を殺すことが最大戦果だと思い込んだようである。

 しかし、困ると言っても冷徹に判断すればエディットのチームはともかく、他の四チームは最悪どうでもいい。やはり俺は人でなしだが、その分は仲間が補ってくれる。そのため気は楽だ……思いっきり鎖を引っ張り、突撃して鼻先にわずかな裂傷を刻む。

 今度から携帯できる剣を探そうかな、ナイフでは致命傷に遠い。それでも繰り返す。相手の注意を引き付けるために。巨狼はその度に頭を回転させる。頭に乗り移られたら厄介だからだ。

 

 血の水浴びごっこは延々と続く。それは時間との闘いだけであることも示していた。結果は無常に示されるだろう。




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