大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
六チームによる大規模任務が終わったが、特に仲良く打ち上げなどは行われなかった。なにせ報酬の大金貨はその価値を発揮できないため、実入りが無かったためだ。これで死傷者が出たチームは完全に損しただけだろう。国としては参加チームに親交を深める場を作った気でもあったのだろうが、思いっきり外れている。大集団は終始互いに警戒しつつ終わった。
「というわけで、“
「そっちのリーダーはまとめる能力あっていいなぁ」
唯一、魔獣との戦いにおいて、協力し合った二チームだけが更なる交流をはかった。鍛冶街の比較的裕福な通りの店で、お茶会だ。随分と子どもっぽいと思われるかもしれないが、互いに酒飲みはチームに一人もいなかった。ジェイとマルグリットは酒精に対してかなり強いらしいが、別に好きではないそうな。
「エディットってリーダー適性無いの?」
「戦闘中はあるんですけどね。終わると延々と本を読みだすんですよ。今日も連れ出すのに苦労しましたが……連れ出されたことを理解しているかはあやしいですね」
神官セスはそう言ってため息をついた。顔は綺麗な金髪をしたチャラい兄ちゃんなのだが、見た目だけでありチームの縁の下の力持ちであるようだ。苦労人とも言う。
「時間は有限。私は未熟。ゆえに世俗の些事とは関わらない。それが魔法使い」
「次のページめくりなさいよ。ここの理論がいまいち納得いかないのよ!」
そのエディットだが、意外にも普通だった。というより絡んでくるミュゼを前に集中を解かずにはいられなかった、というのが正解のようだ。セスがボソッとああいうやり方があるとは……と口にした。これから彼もエディットの操縦で楽ができるかもしれない。
俺のテーブルには他にマルグリットとイーが座っている。俺は折角なのでイーと交流を図ることにした。なにせ巨狼を相手どった関係だ。
「イー、昨日は助かった。見事な腕と度胸だったが、専門の教育でも受けたのか?」
「……元、猟師」
するとイーは顔を真っ赤にしてアーチャーハットを目深に動かした。その微妙な対応に俺は首を傾げる。
その時、菓子がテーブルの上に乗った。サンボゲードという菓子でチーズを使った物だ。大きなソレを切り分けて、三人で分け合う。意外に感じられるが、冒険者は菓子が好きな者が多い。もっとも同じくらい肉と酒という人も多いが、俺は両方いける。
「イーは肉派か? 菓子派?」
「イサオ様、女の子が肉が好きとは答え辛いと思うのですが……」
「え?」
マルグリットの言葉にちょっと思考が止まる。会話の流れからしてイーのことを指している。あらためて見てみれば中性的な体つきだが、肩幅が狭く、喉仏も無い。つまりこの寡黙な射手は……女の子!
「ははは、俺はそういう気遣いがまだまだだなぁ」
「イサオ様、ひょっとしてイーさんのことを男の子だと……」
「いやいや、そんなワケナイヨ」
気付かないまま、両手に華だったらしい。だが、ポジティブに切り替えよう。これはこれで男としては楽しいことではないだろうか。イーは美形には違いないし、紅葉のような髪も珍しい。ただ、帽子を目深にする仕草などを見ると、あまり女性として持ち上げられるのも慣れていないのだろう。単に人見知りなだけかもしれないが。
三つに分けた菓子を配りながら、俺はあまりイーに関して無暗につつかないことにした。俺も人並みの欲はあるが、相手の嫌なことをするつもりはない。それより今の位置を楽しもう。
「それにしても弓か。使える奴は多いんだけど、不思議なことに有能なやつは少ないんだよな。射程が長い方が有利なのに」
「持って行く矢の本数とか、相手の弱点を見破るとか、そういった知識が必要になるから。昨日の狼型もそうだけど、効果が薄い相手にどう使うかの問題もある。メジャーな弱点はやっぱり頭部だけど、矢が貫通しない頭蓋骨を持った魔物とか多いからね。弓の腕が良いなんて前提条件なんだよ。僕としては……」
……自分の得意な話題には饒舌になるようだ。まぁ席の会話が途切れないのは良いことである。後何気に自分を僕と呼んでいた。猟師をしていたことから男としての役割を果たすことが多かったのだろう。
他の連中は小難しいトークをしていて、よく飽きないなと思う。エディットとミュゼの会話は専門用語が多すぎて、何を言っているか分からない。アラン、ジェイ、セスは苦労話というか愚痴というかをこぼしまくっている。外部との接触は何も悪いことだけではないな。“水蓮”が人間的に穏やかな集団というのが大きい。
こちらも仲良く話ができた。俺が弓も使えるからだ。ただ、生きるために培った技術なので、専門家の講義は大いに役立った。マルグリットが自分の盾なら全部防げるとか言い出して、ちょっと空気が悪くなったぐらいだ。
「と、いう訳で“
「お前のチームなんだから好きにすればいい……っていうのは今回の相手が良かったからだな。じゃあ、これから組合に登録しに行くのか」
友好関係というと軽いが、実のところ正式に組合が認める制度である。相手が最近こなした依頼が閲覧可能になったり、かなり値が張るが特別な配達員に物や手紙を託すこともできる。これは実はチームに人数制限が設けられていないから生まれた制度だ。二十人近くいた“夜蝶”が近いが、最早軍団というようなチームも存在するらしい。
これを使えば距離にもよるのでそれなりだが、合同任務に誘ったり、情報や物資のやり取りができるそうな。バックに冒険者組合自体が付くので、品物をちょろまかされたりしないのが利点だ。実際に上位のチームでは自分たちでは使えなかった魔法の剣とかを、別のチームと交換したりするらしい。
「では、行くとしましょうか。エディット、本は後ですよ」
「流石にこの状況では落ち着いて勉強できない。さっさと済ませる」
セスに促されてエディットは椅子から立ち上がる。ネスタルさんは随分と個性を尊重した訓練を施したようだ。羨ましい。俺はイーと一方的な会話をしながら皆の後に着いていった。
友好関係の登録は一種の儀式じみており、メンバー全員が揃った中で、リーダーであるエディットとアランが互いの会員証に例の魔法ペンを用いて契約を交わした。
互いに四級のチームだが、なったばかりの“
「エディットたちは三級になったらどうするんだ? 開拓か探検か、それとも……」
「前線に。イサオ、マルグリット。私たちの師匠には何かの思惑があって現役を交代している。それが何かは教えてくれなかったけど……きっとそれは前に行かなければ見えないモノだと思う」
「確かに……そうでなければ政争の時間を潰してまで、お師匠様が私を鍛えた意味がありませんわね」
「その何かに、この三人で何かに対処しなければならない。現役時代、師匠たちは四人チームだったそうだけどアルネスティ様はお亡くなりになったそうだから」
真摯に聞いたし、理解もしたので頷きで返す。ただ……【師匠】は俺にその役目を継がせる気は無かったと思うのだ。あの人の下で暮らした日々はとても厳しかったけれど、何者かになれなどとは一言も言わなかった。期待していなかったのだ。それが変わったのがネスタルさんが来訪した日か。
「しばらくは私たちもこの街にいる。互いに交流を深める。それとイサオ……ちゃんと責任は取るように」
「……何の?」
「イーがあそこまで男性に心を許したことは無かった。それじゃ」
エディットは言うだけ言ってジェイたちのところに戻って行った。
……何で? 一度任務を共にして、一日会話しただけだろうに。そう思って立ち尽くす俺に、マルグリットが呆れたようにため息をついた。いかにも仕方なさそうだった。
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