大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
折角、鍛冶街に来たのだから装備を新調しよう。そういう流れになったのはなぜだったか。アランが発端な気もするし、俺が原因な気もする。まぁ朝の会話でとにかくそういうことになった。どうせ合同任務に合わせて借りられた宿から、あまり家賃が高くない宿を探して移ることになるのだから、街をうろつくのは悪くないだろう。
装備の交換が必要なのはアランと俺だ。ミュゼも変えたいところだが、金属の街に魔法使い用の杖があるかは怪しい。
アランの剣は元々安値にしては良い方という程度の剣だったが、使用期間が長すぎて壊れる可能性があった。剣術のスタイルを決めるためにもここは良い物を買った方が無難だろう。防具の方も体の動きを妨げない程度に金属を使った物に変えたい。
そして俺が原因と言ったのは、魔獣退治で俺が一撃貰ったためだ。どうにも今まで戦闘面で無敵だと思われていて、その幻想にヒビが入ったのだ。俺としても殺傷能力の高いサブウェポンが欲しいところだったので丁度いい。
ちなみにマルグリットの装備品は王都の最高級品だったことが判明した。華美じゃないから全然気付かなかったよ。言われてみれば鉄槌が曲がることも、盾が歪むことも無かった。
「それにしても不思議なのはイサオ様の鎖ですわ。普通、魔獣の口輪などに用いれば、ちょっとぐらい駄目になるものですわ」
「さぁ……単なる【師匠】のおさがりなんだが……」
言われてみれば無駄なほどに頑丈な鎖だ。これで習ったので疑問を抱かなかったが、鉄鎖術の鎖としても長すぎる……まぁ便利だからいいか。防具も革鎧なので、手入れの必要はあっても交換の必要はない。基本的に我らがリーダーのための買い物だな。
と、言ってもどこを回るか迷うものだ。鍛冶街にも幾つかの区画があり、花形の工房区、商業区、居住区、素材区、行政区と分かれている。
買い物をするなら商業区に行けばいいが、売っているのは既に作られた物になる。だからと言って悪いわけではなく、一定の品質は揃えられている上に、偶然できあがった傑作を保管していたりもする。
もう一つの選択肢は工房区でそのまま注文することだ。偏屈な工房主などを相手にしなければならないなどの欠点はあれど、形から指定できるのは魅力的だ。ちょっと変わった代物を手に入れるならここだ。
「俺は本当は工房に興味があるんだが……布屋の婆ちゃんに貰った商業組合への紹介状があるから、商業区に行ってくる。まぁ高い物には手が出ないから、冷やかしになりそうだが、掘り出し物を探しても見る」
「そっか。じゃあ僕は工房区に行ってみるよ。多少値が張っても、良い物に変えないとね」
「私も工房区。杖は期待薄だけど、良い飾り物はあるかもしれないし」
俺もミュゼから聞いて知ったのだが、意外にも杖に専用のタリスマンを付けることで威力が上下するらしい。ミュゼなら火のタリスマンを作ってもらうのだろう。後はルーンなる文字を刻んだ代物など意外とあるんだとか。魔法使いは鍛冶街に用が無いと思っていたよ。
「マルグリットは……聞くまでもないか?」
「ええ。教会に行ってきますわ。先日〈
魔法ってややこしいな。ミュゼも火の眷属神に祈ってたりするんだろうか。徳を積むと威力や魔力が増大でもするのか? それぐらいの恩恵は欲しいところだ。
教会の主たる神とその眷属たちに祈りを捧げる者はかなり多い。というか、ほとんどの人が無難に主神に祈るのはもちろん、商売や放浪の眷属に祈ったりだ。
戦士も戦を司る眷属や、勇気を司る眷属に祈りをささげる者がいる。稀にだが、本当に恩恵がもたらされることもあるそうで、祈っておいて損はないということだろう。
ちなみに俺は十二歳くらいで行われる、教会に帰依するための洗礼式にすら出てないので論外である。そのうち金が余ったら行こうぐらいの気持ちだ。
「先日の薬事件の顛末とか分かったら教えてくれ。ちょっとは気になる。じゃあここで」
俺たちはそれぞれが行く方向に分かれた。仲良しチームも日頃はこんな感じだったりする。団体行動を強制しないから、逆に良い方向に働いているのかも知れないが。
商業区は意外にも全体的に白い建物が多かった。荒れてる雰囲気は一切なく、鉱山街との違いを感じさせる。ウィッカは良くも悪くも雑多だったが、あそこの方が俺には好ましく思える。ここは値切り交渉とかできない感じがする。
それは商業組合にも表れていた。ウィッカは元締めが普通に店をやっていたが、ここはやたらにデカい建物だ。具体的に言うと隣接する店舗の倍ぐらい高さがある。
中も品の良さを感じさせる。綺麗な木細工と白の石が織りなす厳粛な施設。もっとも中では、人が何かに急き立てられるように動き回っていてせわしない。秩序の中の混沌と言った具合だ。面倒くさそう。俺には商人は向いていないな。
「なんですか? 仕事探しなら別の場所ですよ」
「ウィッカの元締めから紹介状を預かっているだけだ。俺もいたくているわけじゃない」
小奇麗な受付嬢は顔が良くても、相手の身なりで人を判断するタイプだ。いきなりつっけんどんなので、俺もむっとした感じで返事をする。面倒くさそうな動作で封書を開いた受付嬢は顔をみるみる白くさせていった。
「しょ……少々お待ちください!」
慌てた様子で奥へと引っ込んでいき、しばらくすると若いが身なりの良い男が、笑顔とともに顔を出す。すっげぇ胡散臭い。
「どうも。当組合の支配人を任されております、セルヒオと申します。イサオ様、確かに紹介状を拝見しました。お茶でもいかがでしょうか」
「いや……うん。何かもう面倒になってきたから、どうなったかだけ教えてください」
「はい。ではこちらをお持ちください」
金属製のカードを渡される。冒険者組合の組合証と似ている。これも魔法の品なのだろうか。
「こちら、当組合が身分を保証させていただいたという証明書になります。商業区での売買において手数料の無料化や値引きなど、様々な特典がございます。残念ながら工房区では使用できませんが……再発行には金貨一枚が必要になりますのでご注意ください。ですが、あの方のご紹介ということなので直接指名してくだされば……」
「あ、どうも」
このようなやりとりのあと、さっさと商業組合を出た。何者なんだよ、布屋の婆ちゃん。
とにかくこのカードの効果は簡単だと理解した。つまり店先で見せれば、ぼったくられ無くなる。商人が損を選ぶはずがない。そしてこのカードを持っている人間は多いはずだ。ということは店先で表示されている価格はあらかじめ高く設定されているのだ。なんという社会の裏。
「まぁ俺にとっては良いことにしておくか……ん? あれは……」
遠くに見える、あのアーチャーハットは……俺は小走りで近づいた。
「おーい、イー! 任務以来だな」
「あ……うん。どうも」
美少年風の少女。イーである。もっとも年齢は知らないので本当に少女かは分からない。
“水蓮”も今日は休養日らしい。ジェイやエディットは何をしているか大体わかる、神官セスもマルグリットと同じく教会にでも行っているのかもしれない。だが、イーとここで出くわすとは思っていなかった。
「俺はここに初めて来たんだが……イーはよく来るのか?」
「うん。矢の補充に。工房に仕立ててもらうことはあまり無いんだ。鏑矢ぐらいで。普通に使う矢は意外かも知れないけど、こういう区画の既製品が良いんだ。なにせ品質にバラつきがなくて、常に一定の品質だからね。長期任務だと自分で石の矢じりを作ったりもするけど、やっぱり専門家の作る物には敵わない。でも知ってるかい? 実は石の矢じりと鉄製のものは威力に関して言えばほとんど同じなんだ。それでも鉄の矢ばかりなのは量産性だよね。というわけで、定期的に買いに来てる……」
自分の得意分野に関しては相変わらず凄い饒舌ぶりであるが、途中で気付いたのか、最後は尻すぼみになってしまった。俺は案外、こういう無駄知識は嫌いではないので、ミュゼなんかにも魔法の話を聞いたりする。
イーは髪の色と同じくらい顔を赤くしてしまった。本人は恥ずかしがっているが、見ていて面白いというのが俺の感想だ。
「じゃあ、イーの買い物に俺も付き合っていいか? どの店に入るのかもまだ良く分かっていなくてな」
「あ……うん」
「折角のデートだし、飯ぐらいは奢るぞ」
「デっ……!?」
イーの顔色は紅葉色を突破した。
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