大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
デート、というものはマルグリットとしか、したことが無い。そもそも山育ちの俺がなぜデートを知っているかと言うと、ネスタルさんが教えてくれたからだ。互いに好意がある男女が、一緒に遊んだり食事をともにするということだと。そして、そこで男の甲斐性が問われるのだとも。
意外にも【師匠】はそうしたところで如才なかったらしく、結構女の人に気が遣えたそうな。その優しさが弟子に全く向かないのはなぜだろう。男だからか? いや関係ないな。あの人は相手が女性でも顔面を殴れるタイプだ。
「ここがイーの行きつけの店か。流石に外からは何も分からないな」
「行きつけというか……矢を樽に入れて大量に売っているから……」
「聞いたことがあるぞ。お徳用セットというやつだな。俺に向いた武器も売ってるといいが……」
イーが連れて来てくれた商店は、周りに合わせて白色ではあるものの、どこか素っ気ない印象を受ける。ここはバザーではなく、商店街なのだからまず目立つことが大事なはず。そこで看板だけ、ということは余程自信があるか、あるいは儲ける気がないのかもしれない。
まぁとりあえず入ってみるか。扉を開くと来客ベルが小さく鳴り響く。中は意外にも綺麗な造りをしていた。磨かれた木の棚に一本一本綺麗に商品が置かれて、手に取って見やすくなっている。防具も木人形に装着されて、実際どういう風に見えるのかを紹介してくれていた。
だが、そんな客に尽くした作りの割に店長らしき人物は素っ気ない。中年絡みで、気難しそうな文官風の男だが、いらっしゃいの一言もない。典型的な買うなら売ってやるというスタイルを貫いているらしい。
……なんだか、何もかもがちぐはぐな店だな! 売る気のない店主、凝った店内。安い品物もあれば高い品もあり。どこを購買層にしているのかもさっぱり分からない。
「これが安売りの矢」
「どれどれ……へぇ。確かに、無難な作りだが綺麗に量産されているな。鉄も安物じゃない。どこかの工房と提携しているのかな? あ、俺が持つよ。樽ごと持って行っていいのか?」
「うん。いつもは手数料で届けて貰うんだけど……」
「こういう時、男は荷物持ちらしいぞ。とりあえずこれだけでも買っておくか。すいません、これ売ってください」
男は唸るような声を出した。それが了解の返事らしい。ウィッカの安物店ですら見たことがない態度であり、ある意味この男の強心臓ぶりに敬意が払えるレベルだ。
「値段は……」
「あ、この組合証使えますかね?」
「ヴー……大銀貨一枚だ」
流石にこれを払う義理もないし、払える余裕もない。まぁ一応、今日の買い物のために金貨も持ってきているが、あくまで装備を更新してチームに寄与するためだ。
肩に矢の詰まった樽を担いで、イーが精算を終えるのを待つ。ふと気付いたが、店主のいるカウンターの上には随分と変わった武器が立てかけられて並んでいる。片刃の大剣。赤と青に色分れした双剣。
どれも傑作というよりは際物めいた武具の数々だ。それらを一つ一つ興味深く見ていると……
「ちょっと、アンタ! またかい! 折角のお客さんに愛想笑いの一つもできないのかい?」
「マルタ……本当の客は店員で買うものを選ばない……」
「選ぶわよ! このすっとこどっこい! すいませんね、うちの主人が。妻のマルタです。ああ、イーちゃん、いつも買ってくれてありがとうね。あなたのおかげで矢の在庫がよくはけるわ」
革のエプロンを着た恰幅の良いおばちゃんが店の奥から現れた。どうやら、この店で商売っ気を受け持っているのはこの人らしい。確かにこの店長だけでは何度も通う気にはなれないだろう。面白いのは表情が変わらずとも店主は尻に敷かれているらしいことだ。
この通りは武具の店も多いはず。そこで商売して生きていこうと思うなら、他所とは違うことをしなければならない。ということは矢のまとめ売りや品のあるレイアウトはこの人が考えたことだろうか?
「あら、お客さんは……初めてね」
「よくお分かりで。イーと同じ四級冒険者のイサオです」
「ははぁ……あなた、イーちゃんのいい人ね?」
「そうです」
「違っ! 二人とも止めてよぉ……」
「これ以上はいじめになるか。悪かったよ、イー。だが、勘違いされるのも結構楽しかったぞ」
いくらデートとはいえ、相手の機嫌を損ねるわけにもいくまい。
俺は気になっていることを聞くことにした。
「壁に飾り付けてある武具は売り物じゃないので?」
「売り物は売り物よ。でも工房が茶目っ気を出して作った変わり種を置くことで飾りにしているの。そうすればこの店は品ぞろえが豊富だなって思ってくれるでしょう? うちの人はこういうところには頭が回るのよね」
「武具にも相応しい置き場所が必要だ」
想像とは逆だった。店内で工夫を凝らしているのは意外にも店長らしい。それでなぜ愛想だけ欠けているのか。もしかすると武具を愛しているだけで商売には興味がないのかもしれないな。
「さて、イサオさんの方は何をお探しですか?」
「漠然としたイメージしかなかったんだが……アレがちょっと気になっている」
変わり種というものの一つ。
それを指さすとああ、とマルタさんが話をしてくれた。
「アレは昔、吸血鬼退治に使うとか言って注文された品なのよ。ところが作成を依頼した人が帰って来なくてねぇ。まぁ作りは単純だし、前金は貰っていたそうだから工房の損にはならなかったようだけど……見ての通り突くしかできないから長年、埃を被っているのよ」
「へぇ……相場はいくらぐらい?」
「それがねぇ……似たような武器がないから相場なんてないし、仕入れ値も安かったものだからそうお高くはないけれど」
「あけすけに話すねぇ。金貨一枚で買えるなら買いたい」
正直なところ、かなり気になってはいる。不便そうだが、似た武器の扱いも学んでいた。片手サイズの刺突武器だがレイピアなどと違って頑丈そうではあるし、この前の戦いから魔獣サイズの敵には刺した方が有効というのもある。
運命的な出会いというやつであるが、買えないなら仕方がない。無難な剣でお茶を濁そう。
「うーん。流石に金貨一枚じゃねぇ。これでも一点ものだから……あら商業組合証を持っているのね。売れないけど予約済みにしてあげる。四級冒険者ならすぐに稼げると思うわ」
「流石にそう美味い話は無いか……代わりに頑丈な剣を見繕ってくれ」
「はいはい。金貨一枚なら組合証に免じて工房が作った良いのが出せるわよ」
「ブロードソード……だけど肉厚だな。よし、これで」
頑丈な剣は【師匠】がよく使っていた。鉄鎖術ほどではないが、かなり使える方だと思う。
あの奇妙なエストックを目指して、頑張って依頼に励むとしますか。
「さて、待たせたなイー。丁度いい時間だし食事に行こう」
「……良いの? お金」
「あの金貨はあくまで俺個人用の一部だ。食事なんかにはチームで貯めてる金が使えるんだ。この辺の食事処には詳しいか?」
「あんまり……」
「じゃあ運試しだな。約束通り奢るよ」
樽を担ぎ直して、イーと共に出る。店主がふんと鼻を鳴らし、マルタさんが笑顔で送り出してくれた。
イーと一緒に探して見つけた店は食事より甘い物が豊富な店だった。顔には出さないが、楽しんでるイーを見て俺も楽しい。
「……私たちは近々三級に上がる。そうそうこんな機会は無い」
「うちのリーダーならすぐ追いつくさ。前線で待っててくれ。そしたらまた一緒に出掛けよう」
こうしてその日は時間が流れた。マルグリットとのデートは騒がしく楽しいが、イーは微笑ましくて楽しい。俺は意外と女好きなのかな?
そして、これから“水蓮”に追いつくための怒涛の日々が始まるのだった。
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