大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
アランは鋼の胸当てに新しい片刃の剣を身に着けている。ミュゼは杖の先端に金属球のような物が付いていた。変わらないのはマルグリットぐらいだが、新しい階位を授かったとかで首にかけた十字架が輝いている。
「一人ずつに金貨一枚とは、僕らも偉くなったものだね」
「まぁこの街じゃ最上級の物とはいかなかったが……」
工房もピンキリ。あえて安価な物を作る工房もあれば、お手頃な価格帯を作る工房に、最上級の素材を使用する工房もある。流石は鍛冶街というわけだ。採算度外視で傑作を作ることのみに心血を注ぐ職人などもいたが……商売っ気が無くともそうした作品は前線の高位戦士に贈られる。
四級冒険者ならもう少し良い物を買っていてもおかしくはないのだが、異例の速度で昇進したためこなした依頼数が足りていない。我々“
「ふっふっふ。まさか炎の金属球が売ってるなんてついてたわ。これ一個で魔法の精度と効率が馬鹿みたいに上がるわ!」
一番喜んでいるのはミュゼだ。散々聞かされた俺とアランは魔法使いの装備にやたら詳しくなってしまった、悪いことではないが……
これまで魔法使いは対応したオーブで力を底上げしていた。要は宝石のようなもので、価格は天井知らずだったが、そこで登場したのが金属製の魔道具。魔術の回路を彫り込んだ物で、魔力を流すと勝手に無駄を修正してくれる。現在も様々な研究が行われている最新技術の結晶である。説明が長い? 俺も聞いていてそう思った。これでも要約しているのだが。
そんな代物がなぜ手に入ったかというと日進月歩の業界で、以前作られた物はすぐ型落ちになってしまうそうな。
「マルグリットはああいうの買わないのか?」
「イサオ様、聖なる奇跡は使用と感謝を折り重ねることで強くなるのですわ。正直なところを言えば保守派と新技術派が争っていて、わたくしが保守派というわけです」
若いのに意外な……これは彼女を鍛えた人物の思想が影響しているのやも。しかし、自力を上げるということに目を向ければ間違いでは無い、か。宗教的な争いは俺には分からん。
「では四級初の任務といこうか!」
俺たちは冒険者組合に向かい、依頼を吟味する。三級以上は様々な制限が取り払われる。ということは使い走りめいた依頼では四級が最高位ということになる。護衛任務、チーム名で却下される。運搬任務、報酬が安すぎる。
「結局、討伐任務か」
「正確には探索任務も兼ねて、だね。対象は
俺は【師匠】の手帳を取り出す。読み進めていくと
「挑戦としては悪くないか。鍛冶街は石材取りにさほど熱心じゃないから目撃されたのかもしれないな。とりあえず行ってみるに一票。武器を新調したアランには申し訳ないがな」
「こいつぐらいは倒せないと、中位以上の魔族は厳しいはず。私も挑戦に一票。ただ、無暗にツッコむのは無しよ」
「わたくしの武器とは相性が良さそうです。時には運命に身を任せ、試練に身を投じるのも一興でしょう」
「この時点で多数決で決まりだね。武器の新調をしたのはイサオも同じだと思うけど」
「俺のコレは叩き切る系だからな。それに、鎖の限界も試したい」
アランは受付に依頼書を持って行ったが、等級審査で意志を再確認された。恐らくは四級でも、上澄みが受けることを想定しているのだろう。だが、それで怯むアランではない。任務は受理され、受付の厚意で撤退しても経歴に傷が付かないようにしてくれた。
「おい……アイツら、
「だけどあの歳で四級ってことは、この前来てた有望株だろう? “水蓮”も
「それにしても良いねぇ。俺たちは未だに五級で、昼間から酒飲んでやがる。クソっ!」
そんな周りの声が聞こえてきた。“水蓮”は倒している。なら、やるしかないな。じゃないと格好よくイーとデートというわけにはいかない。マルグリットの目もあるし、期待には応えるのが筋だろう。
「まずは探索からだね。被害にあった地域を重点的に探そう」
全員異議は無かった。
竜の卵採集などはこの習性を利用したものだ。大抵は怒り狂った竜が報復に来るのだが、そんな依頼を出す奴と受ける奴がまともであるはずもなかった。近隣の村などが焼かれても知ったことではないとばかりに。
全部【師匠】の手記の受け売りだ。昔は冒険者の
俺たちは鍛冶街ザリオンから北の野原に来ている。ここは地形がデコボコな上に、岩が突き出しており農業には全く向かなかったので放置されていた。木も育たないので誰も用がない。ただ近年放牧地として活用する計画があり、それゆえの依頼だった。無駄な人死にが出なさそうでホッと安心できる。
「岩を食うなら、理想的な地形だな。被害者もいないし、なんだか気の毒になってくるな……ええと、
「一撃で全滅、という事態を避けるためにある程度の距離を保って探そう。いきなり戦闘になった場合に備えて、四人同じ方向には動くけど。ミュー、魔力か何かで探せないかい?」
「腐っても竜なら動いてる時は感知できるでしょうけど……地下で寝られでもしたら無理ね」
「ですが、戦闘に入った時には感知は便利そうですわね。敵が地面に潜ることも考えられますし」
俺の感覚でも捉えられない。生きた天災とも称される竜だが、休んでいるときは他の動物魔物より気配が薄いのか。それは魔物の王様になるわけである。念のため鎖でダウジングしながら歩き回って見るが、特に変化はない。
このダウジングという技術は嘘くさいと思われているし、実際に大半はそうである。だが、鎖の材質に持ち手の能力が揃えば話は別になる。【師匠】によると元々はこの国の技ではないらしいが、何か生命力じみた力を探知するらしい……まぁそんな方法を使っても見つけられない。
本当にいるのか? 疑問に思ったが、他ならぬアランがいるはずだと言ったのだ。
「ここをうろついていて思ったんだ。そりゃあ人間にとっては不毛の地だけどさ……この原っぱ、小動物さえいない」
確かにその通りだった。思い出すと、虫すらも見てないような気がする。蒼穹の下、和やかな自然はまるで動物の存在を許さないかのように草だけが揺れている。
「そうは言ってもね。出て来てくれるかは別問題。朝から同じ景色を歩かされて、私は疲れたわよ」
そう言ってミュゼは汚れていない岩に座って休憩を要求した。
次瞬、鎖から伝わる戦の気配。
「ミュゼ! そこから離れろ!」
「何、いきなり。え、地震?」
いや違う。俺たちが立っている場所だけが、波打っている。まるで土が流体に変わったかのよう。周辺に草が生えていない岩。もっと警戒すべきだった。そう考えても後の祭りだ。
鎖を放ち、ミュゼを捕らえて無理やりに引き寄せる。アランとマルグリットは流石に後方へと下がり始めていた。
「これが……竜?」
砂色の体表に、似たような色の岩が張り付いている。唯一目だけが赤色に光っていた。その顔面は口が常に大きく開き、何もかも飲み込むという意思を感じさせる。翼と手足は退化したのか申し訳程度に跡がある。そして……何より体全体が太かった。
なるほど。ロックイーターに相応しい。巨岩を丸呑みしてもおかしくない巨体が、こちらを向く。
「竜というより蛇、いや地虫か?」
こちらの声があざけりにでも聞こえたのか、甲高い鳥のような声で周囲を揺らす。
吠え一つでこの圧力。なるほど、相手にとって不足なし。魔物相手に初めてそう思う。
「上等! 叩きに叩いてやる!」
ミュゼを後方へと放り、俺は鎖を岩の無い箇所に正確に打ち付けた。
ここに“
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