大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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土竜叩き

 岩石亜竜(ロックイーター)はその巨大な口を俺に向かって叩きつけて来た。当然こちらは躱すしかない。尾を振り回す可能性を考えて、後方へと飛ぶ羽目になる。竜というより巨大なミミズと戦っている気分だった。

 冷静に相手を分析する。と言っても見かけ通りだが……あの口での攻撃をもらってしまえば、その時点でアウトだ。内部ですりつぶされて終わりだろう。そこから剣で脱出できる体になってるといいね。尾の方の威力も大したもので、流石は竜と言ったところだが、あれならマルグリットか俺なら三発ほどは耐えられる。

 

 

「俺が囮になる! 攻撃の要はミュゼだ! アランとマルグリットは意地でもミュゼを守れ!」

「ふん。責任重大ね。まぁ的は大きいからそこだけは救いか」

 

 

 鎖を敵の顔面に叩き込む。体勢的にも狙えるのは顔だけだが、唯一はっきりとした弱点は目なのでこれはまぁいい。問題は効果の程だったが……竜は再び俺を丸飲みしようと迫ってきた。

 

 

「効いてるな。岩のように見える部分は、皮膚の変形でむしろ脆いのか! いいぞ、勝ち筋が見えて来たじゃないか! 【師匠】が戦ったのは別種だったのか!?」

 

 

 鉄鎖術による攻撃は、かつてゴーレムと戦った時のように相手に痛覚が無い場合は効果が薄い。だが、岩石亜竜(ロックイーター)はむしろ痛みに敏感だ。最強種である竜である上に、日頃は反撃もしない岩を食らっているので慣れていないということか。

 立て続けに鎖を振るい、顔をこすり上げていく。だが流石に竜種、頭がいい。こちらの動きを見た上で、目が損傷しないよう動いている。正直、魔物といえどここまで思うようにいかないのは初めてだ。だが――こっちは一人じゃないんだよ。

 岩石亜竜(ロックイーター)の一見硬そうに見えて柔らかいと分かった、岩に見える部分。そこに火の玉が炸裂した。ミュゼの放った炎である。新しく装備した魔導具で強化されたそれは、大きな焼き跡を胴体に残す。火竜ならぬ身には炎は打ち消せない。

 

 

「んん、でも分類するなら地の生き物だものね。炎に対して若干抵抗力がある。増強して日頃の威力とトントンって感じねそして寒気がするわ。目立っちゃったものね、私」

「ミュー、一旦下がれ!」

 

 

 アランの一言でミュゼは素直に反対側へと、マルグリットと共に駆けた。残ったアランが〈身体強化(ストレングス)〉で竜に付けられた火傷後に取りついて剣を振るった。元々脆い上に傷を負った部位はアランの一撃をまともに受けた。血が噴き出て、こちら側が初の有効打を打ち込んだ形だ。

 だが、アランに注意はいかなかった。なぜなら竜は頭がいいから、大きく飛び跳ねて戦士二人を置き去りに大地へ潜航した。向かう先は……ミュゼたちの方角。ミュゼに対する鬱陶しさ(ヘイト)が俺を上回ってしまったのだ。

 

 

「させるか!」

「こっちを向け!」

 

 

 アランと共に新調した剣を地面に突き刺す。それは確かに効果を上げたが、岩石亜竜(ロックイーター)はそのままミュゼの下へ向かう。このまま()()にしてやろうかと。足を踏ん張ろうとした矢先に敵はさらに深く、潜り込み……一気にミュゼの近くで上昇した。近づけてしまったが、丸飲みは回避された。

 振るわれる巨大な尾。戦士ではないミュゼには防ぐ手段が無く……ゆえにマルグリットが立ちふさがった。放たれる裂帛の気合! それは冗談のような光景だった。竜の尾を人間が盾で受け止めていた。

 確かに俺でも尾の一撃を耐えることはできる。だが、それは防ぎきるという意味ではない。対して、マルグリットは完全に防いでみせた。足腰の強さなどでは説明のつかない境地。能力値(ステータス)の配分が違いすぎる……!

 

 

「おおおおぉっ、ですわ!」

 

 

 次いで弾かれる巨体。目の前の状況に呆けているわけにはいかない。今、ここに致命を晒した敵がいる。

 全員が同じ気持ちだった。アランが突撃し、ミュゼは杖に炎を灯し、マルグリットは追撃の鉄槌を、そして俺は鎖で竜の首を固定した。行け、と誰かが言った気がした。俺かも知れない。だが、この一体感の前にはどうでもいいことだった。

 最強種たる竜は目の前の光景を理解しただろうか? 人の織りなす奇跡がここにある。俺は渾身の力を込めて鎖を引き、竜頭を垂れさせた。火が、剣が、鉄槌が、全て小気味よく竜の頭蓋を破壊した――

 

 

「やれやれ、登竜門でこれか。まったく、先が思いやられる。被害が出なかったのはマルグリットのおかげだな。まさかアレをはじき返すとは、どんな訓練してきたのやら」

「あんまり何度もやれと言われても困りますわよ。種も仕掛けもあってこその技なのですから、単なる力押しではないと言っておきますわ」

「ミューを頼んで正解だったよ。でもけが人すら出なかったのはイサオが引き付けていてくれたおかげだよ」

「というか、これぐらいの相手になると怪我とか無いんじゃない? 文字通りの生きるか死ぬか。極端なまでに分かれると思う」

 

 

 頭がひしゃげ、燃えた敵の前で座り込み語らう。それにしても、よく倒せたものだ。運が味方したのが大きい。あの時は心底焦ったが、結果として岩石亜竜(ロックイーター)がミュゼに突撃したからこそ、必殺の機会になった。あのままだらだらと戦っていた方がよほど危険だった。こういう戦いもあるのかと学ぶ。そして、今更だが。

 

 

「ははは。で、どうやって持って帰るんだ竜の死骸って」

 

 

 あれから結局、三人が見張りに残り、アランが一旦冒険者組合に戻った。そして帰って来たときには、幾台もの荷馬車を合体させたかのような馬車と屈強な一団を連れていた。彼らは竜専門の解体屋だそうで、売り上げから幾ばくかの手数料を貰って生計を立てている。

 そして岩石亜竜(ロックイーター)が街に持ち込まれると、鍛冶屋たちが手ぐすねを引いて待っていた。

 

 

「俺は牙一式に金貨五枚出すぞ!」

「口の中にある咀嚼牙が無事? 言い値で買ったっていいぞ」

「さっさとしろ鍛冶師ども! 俺の店が肉を買ったんだ! 少しでも鮮度が落ちたらてめぇらのせいだからな!」

 

 

 何というか……竜に捨てるとこ無し? 凄まじい勢いで解体され、競りにかけられていく。金を貰う側の俺たちの方が呆然としている様だ。地味にありがたいのが解体屋の人たちが商売上手なところだ。それによって自分たちが得られる手数料が変動するので熱も入る。

 しかし、鍛冶師が竜の牙なぞ買ってどうするのだろう。削って武器に使うのか? それはもう削る道具の方が最強の武器ではないか。良く分からないが、こちらが取っておいても仕方がないので金に換える方を選んだ。

 ああ、例外はあった。岩石亜竜(ロックイーター)の皮は細工師に頼んで、ミュゼのローブと俺たちの旅用マントに加工してもらうことになっている。なにせミュゼの強化された火球に耐えるのを、この目で見ている。耐火性は折り紙付き、というわけだ。

 

 そんな喧騒の最中、水色の髪が見えた。人ごみに阻まれていたが、しばらくしてようやく突っ切って来れた。チーム“水蓮”のリーダーであるエディットだ。

 

 

「よう。エディット。本を読んでないとは珍しいな」

「いつも、というわけじゃない。岩石亜竜(ロックイーター)が討伐されたと聞いて来た」

「そういえば“水蓮”も岩石亜竜(ロックイーター)を倒していたんだったな。こっちはマルグリットがいなかったらヤバかったが、そっちはどうやったんだ?」

「別に複雑じゃない。イーなら目を射抜ける。それにアレは水の魔法に弱い。ちょっと度胸はいるけど」

 

 

 水の魔法に弱い……なるほど相性というものか。想像するとあの大口に大量に水を流し込むだとか、色々方法は浮かぶ。イーもアレの目を射抜けるとは、とんでもない技量だ。

 しかし、エディットは何の用だろうか?

 

 

岩石亜竜(ロックイーター)を倒したのは貴方たちだと思った。予想通り」

「その確認のためだけに来たのか?」

「そう。ここだけの話。岩石亜竜(ロックイーター)討伐は三級か二級の任務。腐っても竜」

「それは……」

 

 

 どう受け止めればいいのか。俺たちは選んだつもりだったが、実は誘導されていた……ということか。それが意味するところは……

 

 

「意味するところは……何だろう、アラン?」

「そこでこっちに振るのかい? つまりは功績の水増し。“夜蝶”あたりからの推薦か。さっさと僕らを三級に上げて、前線か探索に送り込みたいんだろうね」

「他のチームが受けたらどうするつもりだったのでしょうか?」

「適当な理由を付けて断ってたんじゃない? まぁ私たちの目的とは合致するけれど……あんまり経験積まない内に持ち上げられてもね。アンタらに比べれば私とアランは二枚ぐらい落ちることは自覚してるわ」

 

 

 ミュゼがぼやくが、それで戦闘中にちゃんと息を合わせられるので十分だと思う。前も言われたがエースと他の実力差は、どのチームでも抱えている課題だ。そもそも才も役割も違うのだから、ピッタリと揃うなんてことがあるわけがない。

 

 

「多分、“水蓮”と“不運(バッドラック)”に近いうち、合同任務があると思う。それを言いに来ただけ」

「マイペースだな……イーによろしく。さて……これで当面の活動資金はどうにかなるか」

 

 

 言うだけ言って去っていくエディットを見送る。目線を戻すと、岩石亜竜(ロックイーター)が肉をはぎ取られ、最後の骨が現れたところだった。これで俺たちも竜殺し(ドラゴンスレイヤー)か。なってみると味気ないものだった。




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