大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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竜殺し後

 アランが震えている。あの涼しい顔でクソ度胸をしているアランがだ。目の前には一枚の紙。それに書かれている内容に見習い勇者は戦慄しているのだ。

 まぁ気持ちは分かる。俺だってこんなことになるとは思ってもみなかった。“不運(バッドラック)”の面子で良い育ちをしているのはマルグリットのみ。後は残らず田舎者だ。いずれは、と思っていてもこうなるとは信じていなかったのが本音だろう。

 

 

「金貨五十枚……!?」

 

 

 岩石亜竜(ロックイーター)の討伐報酬と素材の買い取り額の合計が紙に書かれていた。

 

 うん。まぁ即座にチームの共同資産にぶち込んだけどさ。こんな金、普通は見ないよね。田舎なら金貨なぞ一生見ない人だっている。それなりの飯が銀貨一枚であると考えると、三年間ぐらい過ごせる金額だ。まさに“竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”には相応しい額ではあるけれど、自分たちがなってみると戸惑うものだ。

 

 

「普通はそこまで高くありませんよ。ただ、この岩石亜竜(ロックイーター)、皮膚が柔らかかったでしょう?」

「確かに。【師匠】の手記だとまさに岩だと書いてあったから、変だなとは思ったけれど」

 

 

 竜解体業者の一人と冒険者組合で話をしている。彼らへの手数料を引かれて尚、金貨五十枚なのだ。竜専門でなる彼らが損を切るはずはない。自分たちもウハウハになった上での買い取り額のはずだ。

 

 

「つまりあの岩石亜竜(ロックイーター)は余程若い個体か、脱皮直後の個体になるんです。竜の遺骸自体珍しい物ですが、さらに珍品ですね。貴族にいるんですよね。若い竜の肉とか求めるグルメだとか。牙も岩で削れていない状態なので、若い個体だと思いますが、そこでも希少価値が付いての価格ですね。念のため言っておきますが、ボったくってたりはしませんよ?」

「疑ってたりはしませんわ。確かに竜がほいほい市場に出回ったりはしませんものね。登竜門といっても、そう倒せる相手じゃないんでしょう?」

「ええ。特に今は上位冒険者が魔族との最前線に出払っていますから。失礼を承知で言えば、中級冒険者が狩れる相手じゃありませんし……そんなこんなで今、相場が高いんですよね」

 

 

 チーム名に反してなんという幸運。ただ、条件が緩和された状態で戦ったというのは少々不満だ。戦士として言えば、全盛の状態で戦ってみたかった。日頃はそういう性質(たち)でもないが、折角の“竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”という称号が色あせてしまう気がする。

 

 

「我々も“不運(バッドラック)”とは友好な関係を築きたいと思います。出物があればまた……国全土の支部と通じていますので、どこででも大丈夫ですよ。それでは私はこれで……」

「あ、どうもお疲れさまでした」

 

 

 解体業者は去って行った。彼ら日頃はどうやって生活してるのかね? 微妙に気になる。だが、それよりも今は忘我の境地に至ったリーダーを再起動させないといけない。

 

 

「アラン。いい加減シャキッとしなさいよ。私でももう回復したわよ」

「はっ! すまないミュー。うん。この大金を得たことで何をするかの方が問題だね」

「そうだけど、装備も新調したばかりだしな。俺は武器屋に予約している代物があるから、個人に回せるなら歓迎だが……」

「個人的には教会に寄付したいところですが……」

 

 

 教会に寄付といっても、先日の騒ぎでろくなことに使われない想像しかわいてこない。それなら孤児院のスポンサーにでもなった方がマシだ。

 それに大金が手に入ったことでやらなければならないことがある。それは……

 

 

「宴会だ!」

「そりゃそうだろうが、俺たちも誘われていいのかね」

「良いだろう。というか、“不運(バッドラック)”だけだとお茶会になるからな。まぁ酒好きがいない以上、食う方がメインだが」

 

 

 先日、竜の肉を買って行った食堂で俺たちと“水蓮”はそろって祝杯をあげた。酒に興味がない一行とて、最初の一杯ぐらいはというやつだ。そこから運ばれてくる料理の数々に食欲と達成感を覚える。

 竜を倒した、という実感もこの時にようやく味わえたぐらいだ。

 宴の流れは前と変わらない。俺がイーとマルグリットにちょっかいを出して、ミュゼがエディットに絡む。ジェイとセスがアランと真面目に語り合う。次第に話題は一つに落ち着いていく。

 

 

「“水蓮”と“不運(バッドラック)”の合同任務って何するんだ。というかエディットはなぜそれを知っている?」

 

 

 未来の方針。今後訪れることについて。

 先の合同任務や竜退治で俺たちが的にかけられたのは分かる。絞られたといった方がいいかもしれないが、こちらとしては外部から勝手に決められるのは何とも言えない。一方エディットは先に情報を仕入れている。この差は大きく、秘密を知りたいと思っても不思議ではないだろう。

 エディットは顔色一つ変えずにあっさりと告げた。

 

 

「知っている理由は簡単。ネスタル先生の信奉者が冒険者組合本部にいる。事情を定期的に流してくるのもそこから」

「うちの【師匠】にはその辺期待できないなぁ」

 

 

 もうほとんど確信しているが、【師匠】たちのチームはかつて多大な影響力を持っていたらしい。もちろん相応の実力を備えていたこともよく知っている。なぜかというと全ての武器を使いこなせる戦士なんて、他にいるとは思えないからだ。

 その中でもネスタルさんは見た目からして、ファンが付きそうな存在だ。おまけにかつての英雄となれば、それは肩入れする者もいるだろう。焼かれた肉を食いながら、納得する。

 

 

「イサオ、よくこの流れで食事できるね……」

「だって勿体ないし。一回の飯に大銀貨取られてるんだから、元は取るよ。話を戻すぞ。情報源からして本部が絡んでいるのか? そんなに魔族との前線っていうのは厳しいのか」

「そう。一進一退……らしい。普通の兵士は足りているから英雄が必要」

 

 

 魔族や魔物といっても全員が全員、強者ではないのだろう。実際に俺たちもこれまで魔物にも魔族にも後れをとっていない。逆に言えば向こうにも突き抜けた存在がおり、相手どってくれる強者が欲しい。

 

 

「俺もその辺は噂で聞いているがな。一進一退っていっても兵士たちは使い捨てられ、勇者サマや一級冒険者で巻き返すような地獄らしいぞ。ああ、地獄だとそりゃ魔族の方が強いな」

「従軍神官もかなり後方で治療しているそうですね。貴重な癒し手を消耗しても困りますからね」

「冒険者組合本部はそこで重要なポストを占めようと躍起になっている」

 

 

 聞けば聞くほど、そこで投入される戦力に入っていることが気を滅入らせる。しかし、それこそがアランの目的だ。俺たちもそれについていく。魔王まで滅ぼそうというのなら相当な修練がアランやミュゼには必要だろう。俺たちも最後まで行けるかは分からないが。

 

 

「……で、すっかり忘れてたけど合同任務の内容は?」

「遺跡攻略。高位冒険者が前線に取られるから、探索者が足りない」

「遺跡ねぇ。イーは何か知っている?」

「それは勿論。古代には失われた魔法技術があったそうでね。そこでの発掘品によってはとんでもない進歩がもたらされることがあるんだよ。まぁ魔剣聖剣なんでもありだね。その分、魔物の住処になってたり、古代の防衛機構が生きてたりして難易度もまたとんでもないんだけど。僕が気になるのはやっぱり魔弓の類だね。必ず当たるなんて効果が歴史書に記されているんだ。そういった品物が埋もれたままなのは損失。実際的に考えてもお手軽な強化方法だし……うん、まぁ難しいけど貴重な品があったりするってこと」

 

 

 特別な武器ねぇ。【師匠】から貰ったこの鎖もそんな感じだな。しかし、聖剣か。それはアランには必要なものだろう。勇者の手には聖剣があるのがお約束じゃあないか。

 しかし二チームで探索とは相当デカいのかな。狭い場所では八人で行列を成すわけにもいかない。

 

 ともかく知りたいことは知れた。その任務までにできるだけ功績を上げて、(レベル)を高めるとしよう。

 

 俺はイーとマルグリットに挟まれたご機嫌な食事に意識を戻した。




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