大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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遺跡攻略・地上部分

 崖とも言えない、切り立った岩の中央にそれはあった。遥か昔は輝いていたであろう真白の門扉が姿を覗かせているのだ。

 これが散々備えた遺跡の入り口だ。大雨で岩が崩れて出土したとのことで、相当運が良かったか悪かったのだろう。今も冒険者組合に雇われた人足たちがその姿を明らかにしようと土砂を掘り、運んでいる。ただ形状からして地上部分は一階しかないのはほぼ確定。地下遺跡の確率が高いと見られる。

 外側を掘っているのは学術的な意味があるらしい。過去の時代では建築物がどんな形をしていたか、などを調べているのだ。俺としてはちょっと気になる程度だが、学者などにとってはこれ以上ない発見なのだろう。

 

 

「問題は中がどうなっているかだね。少なくとも無害じゃないんだろう?」

「ええ、姿をあらわした扉を見て一攫千金を狙ったのか、地元の若者が侵入していますが……帰ってこないそうです。長年隠れていたことから外から魔物が入ったということはありませんが……それでも危険なことは確かです」

 

 

 アランと神官セスが話し合っている。現在三級任務を代行している、二チーム。“不運(バッドラック)”と“水蓮”を合わせて、二級相当の扱いにして放り込む。それが冒険者組合の取った手だ。

 といっても、捨て石ではない。未踏遺跡を攻略させて、二つのチームを正式に三級へと昇格させて、更なる遺跡探索や魔族との戦線に送り出すための儀式。それが目的であり、生きて帰って来て欲しいと願われている。事実、撤退は自由のうえ探索期間もかなり長く設定されていた。

 

 

「このタイプの遺跡では、アンデッドなどがいることが多い。油断は禁物」

「アンデッドならまだいいわよ。ここが宗教とか魔法の研究施設なら、なにかヤバいモノを召喚しようとていた可能性だってある」

 

 

 エディットとミュゼが魔法使いらしい意見を述べる。どうやら面子の大半は慎重論に傾いている。まぁ実際それが正解なのだろうが、突っ込んでみなければ分からないこともある。

 

 

「まぁとにかく入ってみりゃ良い。どのみち決定事項だしな。中の注意はこの兄ちゃんと俺みたいなのが先頭行けばいいだろう」

「イーは後ろか」

「ん? ああ……前だけ警戒すりゃいいってもんだしな。イーはリーダー組について全方位警戒だ。エディットが言ったアンデッドはセスとマルグリットの嬢ちゃんが対応すればいい」

「そういうことなら異論はない。先頭は任せてもらおうか」

 

 

 ジェイと俺は比較的似た思考をしているようだ。年齢や経歴は向こうの方が上なので、俺より判断には長けるだろう。広ければ二人で前。狭ければジェイが最後尾だな。

 緑と土が付いた扉は思ったよりも軽かった。石扉だが、少し力を入れただけですんなりと開く。人が通れる隙間が開いたところで、俺は中に滑り込む。中も同じように白い石でできており、腐るを通り越してほとんど残ってない絨毯の跡が出迎えた。敵影は無い。四方に鎖を載せて見るが、罠なども感じられなかったので、俺は石扉を二回叩いた。侵入可能の合図だ。

 

 ジェイ、イー、セス、アラン、エディット、ミュゼ、マルグリットの順に侵入を果たした。全員を迎え入れた後も扉は鍵がかかったりもせず、ただの石扉のままだった。時折、中に人を入れた後で開かなくなる意地の悪い仕掛けもあるそうだが、ここはそうではない。撤退をしながらの持久方策も取れる。

 

 

「広い通路ですわね。まるで教会のよう……」

 

 

 マルグリットの放った何気ない一言が、静寂を切り裂いて反響する。案外広くもないのかもしれない。俺とジェイは武器を抜いたまま通路を先に進んだ。過去の文明は左右対称を好んでいたのかT字路になっていたが、覗いた限りでは左右にも何もない。ここまでは安心していいと、合図を送る。

 

 

「おい、足元」

「ホコリに靴の跡があるな。先に入った地元の人の足跡か……血の臭いもしないし、一階部分は安心かもしれない」

「臭いだけで判断するのは危険かもしれん。ちと賭けだが、二人で左右を確かめてみるか」

 

 

 乗った。俺は足跡のある右の道を、ジェイは左の道を進む。他の面子はそのままだ。これなら死ぬのは最悪、俺たちだけだ。戦士の補充は容易いからなぁ。

 しかし、続く道にも罠や敵はおらず、あっさりと合流できてしまった。何のために左右に分かれていたのかさっぱり分からない。逆T字路の先には今なお厳粛さを保った祭壇のようなものがあり……そこに二人の人間が倒れていた。

 後続が到達するのを待って、祭壇前で話し合う。

 

 

「分かりやすいというか、なんというか……あそこには何かあるみたいだね。祭壇の装飾品は時代が経っても綺麗なままだし、取ろうとして何かあった……としか考えられない」

「ミュゼ、この先の祭壇」

「そうね、なーんかおかしいわね。魔法的な何か……ぐらいしか分からないけど」

 

 

 エディットとミュゼは何か違和感を覚えているようだ。近づけば倒れるのか、略奪しようとした場合に何か発動するのか……それは分からない。しかし、このままでも埒が明かない。

 

 

「仕方ない。俺が行くか」

「イサオ……いや僕が」

「そこで代わりに行くというのが勇者サマの価値だ。俺かジェイが行くのが一番良い。だがジェイは“水蓮”で唯一の戦士だ。後腐れを憂うならここは俺がってね」

 

 

 この中で命の価値が軽いのは俺だ。それに自慢ではないが、死ぬまでに間がある罠などなら避ける自信がある。とは言っても別に死にたいわけでもないので祭壇の近くで鎖を放つ。

 祭壇に置かれている杯に向けて放ったのは分かりやすい冒涜だからだ。これで何もなければ近づいて……おや。祭壇から白いモヤのようなものが出て倒れている死体二つに入り込んだ。

 すると倒れていた二人がゆっくりと立ち上がり、首をこちら側まで捩じって大口を開いた。

 

 

迷える魂(ウィルオウィスプ)! イサオ様、その遺体は今ゾンビ―になりましたわ!」

「了解だ。念のため、このまま俺一人で処理する」

 

 

 肉厚のブロードソードを抜き放つ。相手の二人は体もこちらに向けて、闇雲に突っ込んでくる。そこに技巧は一切ない。死んでタガが外れているのか速度だけは大したものだが……流石にこの程度で死んではやれない。

 両足を断ち切り、次に順番に腕を切り落とす。四肢を失った状態では流石にどうにもできないだろう。これでまだ動いているので、少し怖いが。

 

 

「よし、これからどうすれば……」

「イサオ!」

 

 

 顔を仲間に向けた直後、地虫のようになった二体の口から迷える魂(ウィルオウィスプ)が再び現れた。

 ……いかん、油断した! 咄嗟に切りつけるが、それは青白い光になんの影響も与えなかった。更にこいつは俺を通り越して仲間の下へ行こうとしていた。神官であるセスやマルグリットは対抗策があるだろう。エディットとミュゼは魔法が使える。だが、アランとジェイ、そしてイーは?

 させはしないと無意識に鎖を放つと信じられないことが起きた。

 

 

「……え?」

 

 

 迷える魂(ウィルオウィスプ)が鎖に巻かれて身動き取れなくなっていた。先ほどの斬撃はすり抜けたというのに、【師匠】からのお下がりである鎖は不定形の存在を完全に捉えていたのだ。

 

 

「天へと向かいなさい!」

 

 

 セスが小さな瓶を光に投げつける。それも迷える魂(ウィルオウィスプ)に命中した。割れて中から出て来た液体が迷える魂(ウィルオウィスプ)にかかると、青白い魂は姿を保てなくなったように霧散していく。

 

 

「え、え、? 何だったんだ。今の」

「私が投げたのは教会で作られている聖水ですが……貴方の鎖は形なき魂を完全に拘束していましたね……」

「くぅ……投げるのが遅れましたわ……!」

 

 

 マルグリットも聖水を持っていたらしい。アンデッド退治には有効な手段なので神官たちは、常にこれを持ち歩いているのだという。終わってみればこちらも対抗手段があって万々歳だったのだが、俺の鎖に謎が増えた。

 

 

「これからは、イサオだけに危険な真似はさせないようにしよう」

「いや危険の前に出るのが仕事だから。話を戻すと、聖水の瓶も迷える魂(ウィルオウィスプ)だかに当たっていたよな? 俺の鎖も似たような代物で造られていると……」

「そうなりますが……金属となれば、その鎖は神器や聖剣と同じ素材ということに……」

 

 

 えぇ……それをポンとくれたのか【師匠】……確かにやたらと頑丈ではあったが、とんでもない珍品であることに気後れする。まぁありがたく使い続けるが。

 

 

「……それはともかく、他には危険はない? イサオとセス、マルグリットが調べると良いと思う」

「お、イーに名前呼ばれた」

「……深い意味は無い」

 

 

 イーの顔が髪と同じ色になったのに合わせて、俺の気分も上がった。

 それにしても奇妙な祭壇だ。岩に埋もれていたからには相当な年数が経っているはず。だが、ここまでの通路も敷物はともかく床には何の問題もなかった。それはこの祭壇も同じ。装飾品の類も綺麗に配置されている。

 

 エディットとミュゼが後ろから祭壇全体を見て、推測した。

 

 

「古代文明の内でも、魔法文明と呼ばれる類。この祭壇も魔法によって配置が保たれている」

「それを壊したからさっきの魂が出たのか?」

「正解ではあるけど、少しだけズレがあると思うわ。おそらくあんたが弾いた杯。アレは元々魂を吸収する代物だったのよ。見た目は綺麗だけれど用途は悪趣味ね。祭壇に置かれた代物が杯に魂を注ぎ込むのね」

「じゃあ、杯を元に戻せばいいのか? それだとまた哀れな魂が取り込まれるんじゃないか?」

「そうね。この二人の村人を殺したトラップもまだあるかもしれない……どう? マルグリット?」

「ありますわね。この宝石に似た物に吸魂の呪いがかけられていますわ」

 

 

 そりゃ分かりやすく金目の物に見えるな。宝石を頂戴しようとして魂を吸われたのか。うん? 待てよ……

 

 

「二人が吸魂のトラップに引っかかったのに出て来た迷える魂(ウィルオウィスプ)は一体だったよな? 残りはどこだ? そもそも一体で二人操れてるのも変だけど」

 

 

 大体、この二人の魂が迷える魂(ウィルオウィスプ)になっていたのなら、元の体に戻るだけなので、元々違う魂が杯に注がれていたと考える方が自然だ。

 

 

「分からねぇけど、この先に関係あるんじゃねぇかな」

 

 

 ジェイが床のわずかな出っ張りを蹴り上げると、地下へと続く階段があった。




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