大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
一階にあった祭壇は神官セスとマルグリットが慎重に処理した。俺には何をやっているかはさっぱり分からなかったが、大規模な呪いなどはその強大さゆえに脆い部分があるとかなんとか。最終的に吸魂の宝石は取り外されて、祭壇は無力化された。
宝石は戦利品になるかと思ったが、マルグリットが預かった。なんでもこうした品は基本的に売ってはならないので、教会にて秘匿されるそうだ。ただ、表があるということは裏もあるのだろう。そこで売れば金になったかもしれないが、俺たちはそこまで悪人にはなれない。
「この祭壇、長く置かれている割にはあんまり魂を集められていなかったね。いや他の場所にからくりがあるのかな?」
「多分、アランの言う通りだと思うがね。ここで集まった魂を地下に送り、何かに使うってのが素人想像だが……どうだセス」
「恐らくお二人の意見が正しいでしょう。魂や精神を下……地上より下という意味ですが……に送るというのは、呪いにとって重大な意味を持ちます。冥府が遥か深淵にあると思われているように、死した魂の在りかとしてはそちらの方が好ましい。このあたりは魔法的な解釈でどうにでもできるので、何に使っているかは分かりませんが」
アランとジェイにセスの考えを聞く。決定は彼らがすれば良い。俺にとっての問題は戦闘に関してだけだ。先ほどの魂のようなものが相手だと鎖が有効で、剣は無力だということが分かった。折角、買ったばかりなのに。
「アンデッドの相手は俺が鎖でするか。聖水は消耗品だし、魔法は魔力ってのを使うんだろう?」
「まぁ、そうだけど。相手の数が多ければそうも言ってられないわよ」
「炎魔法はアンデッドに有効。水魔法はひと手間工夫が必要」
「……僕が一番効果がないね」
「まぁそういう時もあるだろう。普通の敵がいないとも限らんし……お、話し合いが終わったか」
ジェイとセスがエディットに話しかけて、エディットは頷いていた。アランは困ったような顔で、それでもハッキリと言った。
「僕らはこれから地下に向かう。何があるかは分からないけれど、確実に危険だ。それでも一階部分を制圧しただけで、功績になるかといえば否だと思う。依頼を成功という形に持っていくために、地下で何が行われているかは突き止めたい」
「よし来た。肉壁は任せろ」
「うーん。本来は盾持ちである、わたくしが前に出たいところですけれど……」
「イサオには全体の前を張ってもらうけど、マルグリットには第二の盾をお願いするよ。特にエディットとミューの守りを頼みたい」
下手をすれば一本道の先鋒。罠や敵との接触で死んでもおかしくない。だが、それで良いと俺は思っていた。精一杯やれば、ということが前に来るが、責任が無いのが素晴らしい。流石にアイツのせいで全滅したとかは、ご勘弁である。
さぁて、下を見学に行こうじゃないか。趣味は全く合わないだろうが。
「うっ……空気が淀んでいるわね」
「一番前を進んでいる、俺の鼻は馬鹿になりそうだ。どんどん濃くなるぞ」
「なんというか新鮮に腐っているような臭いだな。言ってることが変なのは承知しているが」
「ジェイの言うことが一番近いかな。時間をかけて殺害をしている現場……そんな感じだ」
上の一応取り繕われた遺跡とはうって変わって、地下の空気は最悪だった。しかも、まだ階段の途中なのだ。鼻が曲がった俺は、感覚の一部を失ったため、鎖を地面に当てながら進んでいる。
ようやく階段に終わりが見えた時。
「あ、止まってくれ。最後の段、イーが教えてくれた圧力罠だ」
なんという意地の悪さ。圧力罠とはそのままの意味で一定の力が加わると発動する罠だ。慎重に降りて来た者の精神的緩みを狙い、あるいは外に出れると浮かれる者の第一歩を狙っているのだろう。どういう罠か、調べておきたい気もするが、刃が飛び出してくるようなものなら良くても、ガスが噴き出るようなものなら試す訳にもいかない。ここは回避だろう。
「元気な奴は飛んで超えてくれ、自信が無いやつは俺が鎖で投げる。帰る時にも忘れないようにな……あと報告書にもか……」
「……私が見本を見せる」
イーが階段を一段飛ばして飛ぶ。さらに着地した後、次の階を警戒して弓を構えた。流石は元猟師だが、その顔は険しい。地下は見ただけでろくでもないのだろう。
ともあれ一人が勇気を出したため、男たちは続けて飛んだ。男の見栄というやつはこういう時、無駄に発揮される。
残ったのはミュゼとエディットだけだ。
「アラン、ジェイ。結構勢いつけて飛ばすから、上手く受け止めてくれ」
二人が腰を落として構えたのを見てから、鎖でくくったミュゼとエディットを放り投げる。アランはミュゼをお姫様抱っこのような形で受け止め、ジェイはクッションとなった。
最後に俺が飛び降りて全員地下にたどり着いた。
「アラン、ミュゼ。いつまでそうしているつもりだ?」
「えっ、ああ! 違うのよ! そんな意図があったわけじゃ……!」
「ははは、物語の一幕のようだね」
こいつがその気になれば、恋人を作り放題な気がする。キザさではなく、爽やかさを感じるのだ。嫌味もない。
そんな二人を置いて俺は前に出て、周囲を警戒する他のメンバーに声をかけた。全員が武器を構えているあたり、まぁお察しではある。
地下一階は広大な広間を、小区画で割ったような構造になっていた。それぞれの区画では魔法と思しき光が立ち上り、その下には骸骨としか言いようがない存在がしきりに魔方陣的な模様を拝んでいた。
それぞれが謎の儀式に取り組んでいるせいか、侵入者である俺たちにも気付いていないようだ。
「とりあえず邪悪そう、ということは分かったぞ」
「それは誰だって分かるぜ。兄ちゃん。エディットの解説を聞こうや」
「見ての通り。魔法使いをアンデッドになるまで儀式を行わしている。魂が天に還ろうとしても、一階にあった杯がそれを受け止める仕組み。多分黄泉に落ちようとしている魂を捕らえる仕組みもあるから、下の階があってそこにも上と同じ吸魂の祭壇がある。それで半永久的に儀式を続けている」
「うむ。エディットって結構喋るんだな」
「真面目に聞いた方がいいですわよイサオ様……ですが、わたくしたちが一階の祭壇は壊してしまいましたし、魔法の回転は止まっているのでは?」
「そう。でも死霊術は難しい。儀式と自衛ぐらいしか命令を入れてないと思う」
「大体それで何をしようと?」
「魔力を一か所に集中させて、何かを維持させている。多分、不老不死とかそのあたり」
なるほど。理屈は分かったが、こんな狭い世界の一か所に留まって永遠を過ごす。そんな生活は俺だったら耐えられる気がしない。その存在にはそうしてまでしたいことがあるのだろうか。
そんなことを侵入者側が感じても、仕方がないだろう。
「だけど、今の時代の人間に被害が出ている以上は止めなければならない。たとえそれが欲望から出た被害であってもね」
「大体、今の人間に場所を知られたからには遅かれ早かれ、ってやつだ。儀式を完全に止めるぞ、エディット。それでいいか?」
「問題ない。この仕組みでは私が求める知識も得られない」
「……エディットが求めているもの?」
イーも知らないということは仲間にも話していないのか。エディットの目的とは……正直興味は無かった。俺なんて食うためとアランに助力するためしかないからな。高尚な理屈が無くても命を賭けられる。それはきっと良くないことなのだろうが、俺はこんな性格なので仕方がない。
儀式を完全に止めるということは、あの魔方陣でごちゃごちゃやっている骸骨たちも残らず潰すということだ。先の話を聞く限り、こちらから仕掛けることで戦闘は始まる。つまり俺たちが圧倒的に有利ということだ。
連中にも鎖の方が効果的なのか、試してみるとしよう。
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