大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
こいつらが弱い。それは確かなのだが、何というか弱いモノいじめをした感覚に陥ってしまう。それは地下一階の骸骨たちのことだ。エディットの解説通り、骸骨たちは儀式を邪魔されない限り何もしてこない。つまり後ろから叩き壊してしまえば、それで済んでしまうのだ。アンデッドであるゆえに崩れた姿で襲い掛かって来ようとするが、相手になるはずもない。真っ当な戦闘は一回しかなかった。
「地上の祭壇は壊した。この階の儀式は破綻させた。となると、つまり……ここの親玉は凄く怒ってそうだな」
「まぁ、そうですわね。親玉という表現はちょっと微妙ですが」
マルグリットと話しながら【師匠】の手記を見る。いわく、遺跡やダンジョンと呼ばれる場所にはそこを統括する存在が多いということだ。遺跡とダンジョンがどう違うのかはさっぱり分からないが。
「不老不死が機能しなくなった。もう死んでいる可能性もある」
「そりゃ、ちょっと希望的観測過ぎねぇかなぁ……」
「そうだね。ここは強い親玉が待っていると思った方が精神に良さそうだ」
全員でさらに下への階段へと集まる。さて、敵は待ち構えているか? それともここに来ようとしているか? 流石に俺も階段部分で戦うのは経験が無い。降りるか待つか、そんな判断はアランに任せてしまうが……
「階段部分で全員共倒れは避けたいね。この階段だとどうしても一列になってしまうから……と言っても今更か」
「大体、地上からここへは普通に降りた」
「ですが、ここのなんというか……ボスが狙いたいのはそこなのでは?」
俺が考えつくようなことは皆、考える。そして結論ももう決まっている。最初に死ぬのは俺であるべきだ。“
「というわけで、俺が全速力で下に降りる。上手く行けば鎖で壁を叩くから、それを聞いてから来てくれ」
「ちょいと待ちな、兄ちゃん。ここへ来るときもお前さんが一番前だったんだ。なら次は俺の番だろう。罠に関しても特別な力は無いが、知識と経験がある。機転に関しても俺の方が上だ」
「むぅ……」
ジェイは引きそうにない。彼なりの信義の形なのだろう。自分がそうであるように、彼は“水蓮”の盾なのだ。俺とて自分が最初に死ぬのが役割だと受け入れてはいるが、別に望んで死にたいわけではない。というか、そんなやついるか。他者が代わってくれるというのなら、それに従うのも有ではないだろうか。
俺は自分の強さに酔ってはいないか? 確かに世間一般の戦士より強いという自覚は出てきたが……だめだ考えると目が回りそうになる。それでも何とか最後に答えを出した。
「分かった。ジェイに任せる。何かあったらすぐに戻ってきてくれ」
「そりゃ言われなくとも戻るさ。まだまだやるべきことがあるんでね」
やるべきこと、か。俺はアランの大願成就における剣だ。それがこんなところで、死んでは役に立たない。死んでいいなどと思うべきではないのかも知れない。
降りていくジェイを見守る。彼は死んでもおかしくない状況に、帰ってくる気で挑んでいる。年長者に学ぶべきことは多いな。
ジェイは素早く階段を降りていく。罠を警戒してゆっくり進むのも定番なら、罠が間に合わないように動くのも有りだ。もっとも彼の場合、自身が一瞬で判断できるというところだろうが。
しかし、彼が降りて行ってからそれなりの時間が経過した。下の階にはもう着いているであろうし、これは何かあったかと次を送り出すか否かの話し合いをしようとした時。轟音と同時に粉塵がここまで届いた。
「イサオ!」
「了解」
短い指示に短い返答。ほとんど滑り落ちるようにして、俺は階段を降りる。次の階までそう時間はかからなかった。
そこの光景は非現実的だったが、現実的な方向にだけ対応した。壁に
「よ、よう。慣れないことはするもんじゃねぇな。あいつと話し合おうとしたらこの様だ」
「よく喋れるな。体中あり得ない方向に曲がっているぞ。といっても出血は鼻からだけか。残念ながら戦闘不能だな」
「可能でも、ぐ、ごめんだがな」
あらためて状況を整理する。部屋にあるのは中心部の机に椅子。そして壁際に地上と同じ祭壇があるだけのガランとした空間だ。だが広くは感じない。圧倒的な存在感を放つやつがいるからだ。
それの背丈はこちらの四、五倍と言ったところ、胴体にはツタが巻き付いて鎧のようになっている。着こんでいるのは縮尺がおかしい骸骨である。伝承に謳われる巨人族が骨になったらこうなるかもしれない。
「あれと話し合おうとしたって?」
「さ、最初は常識的なサイズだったんだよ」
ジェイを抱えて、四方八方に駆け回り、無駄に部屋を数周したあと入り口に戻り、そこで彼を降ろす。改めて部屋に出た俺に強烈な蹴りが飛んできた。咄嗟に鎖を張り自分から飛ぶようにして衝撃を殺すと、壁際で止まった。危うく俺も装飾品になるところだった。
「お前も我が研究を邪魔した者か」
喋れるのかい。見た目は骸骨そのままで、喉に肉など残っていない。これは魔法的な何かだろう。それ以上は知らん。だが、不可思議な力で動いているなら鎖が有効な可能性が出て来た。
「上の階にあった諸々のことなら、そうだな。主に俺がぶっ壊した」
「あれらは我が研究を成すために、寿命を延ばす装置だった。その冒涜。お前の命などでは贖えん」
「いや、贖う気なんてさらさらないが。大体にして趣味が悪いし、延々とここに居座ってするような研究は世間には不要だろう。その見た目でどうやって発表する気だったんだ。そして、何の研究かも俺にはどうでもいい。手早く無抵抗で倒されてくれ」
骸骨から赤黒い蒸気のようなものが立ち上った。どうやら怒ったらしい。
さて、怒った存在というのは膂力が増すものだ。受け止めるのはもうやめた方がいいな。速度で殺す。
そう決めた瞬間、骸骨の巨体に水の円錐が突き刺さろうとして弾けた。
「流石、元魔法使い。対魔力が行き届いている」
「エディット!」
遅れてやってきた仲間たちが、神官セスを除いた面々が部屋の各所に散らばった。アランも前に出ているのが気にかかるが、言っても聞かないだろう。同じリーダーのエディットが前に出ているから尚更だ。
「私はジェイを上で治療します。皆さん、どうかお気をつけて」
「マルグリットもいなくて大丈夫か?」
「ええ、ここで必要になるでしょうし。では」
わずかな打ち合わせを巨体を許してくれなかった。同じ魔法使い同士、なにか思うところでもあるのか、エディットへと拳を振りかぶった。だが、彼女に届く前にマルグリットの盾に防がれる。相変わらず、どうやっているのか……防いで一歩も下がりはしない。
「させませんわ! わたくしがいる限り、仲間にその手が届くことは無いと知りなさい!」
「……僕の足には元々付いてこれないだろうけどね」
イーが走りながら矢を放つ。ろくに狙いなど付かないであろう動きだが、しかし的確に肋骨の部分に命中させていく。骨の硬さは鉄並みだが、脆い部分に当てることで遠距離支援を果たしていた。
ならば俺も負けていられない。鎖を振り回しながら、接近、跳躍。頭部や背骨に打擲を加えていく。鎖が特別性というのは間違いないようで、明らかに常より威力が出ている。
「その腰のツタ邪魔でしょう? 焼いてあげるわ〈ファイヤーレイ〉!」
「そして切り裂こう」
ミュゼとアランは息の合ったコンビプレイで攻め立てる。かなり接近しているので、見ているこちらとしては落ち着かないが、アランは自分のリズムを保って、無理に突撃しない。
全体的に優位。数と質の暴力で小さな方が巨体を追い詰めていくぞ。
「鬱陶しい……虫は虫らしく、大人しく潰されればいいものを……良いだろう」
「皆、気を付けて!」
エディットが叫ぶ。いつものように簡潔に事態を説明する。それはこれから訪れる変化に対してだった。
「こいつは
頭上から赤黒い炎が落ちて来た。
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