大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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遺跡攻略・完了

 天井から部屋中に炎の塊が落ちてくる様は、この世の終わりのような光景だった。流石は元魔法使いと言ったところ。だが、俺から見ると甘さが見える。赤黒の炎が落ちてくる速度が揃っていないのだ。これが一斉に落ちてくるようなら多少の怪我は覚悟しなければならなかったが、これなら避けられる。魔法を行使することで強敵化したのは変わりないが、とりあえず当面はだ。

 

 

「奇遇だな、イー」

「……目には自信がある」

 

 

 イーもそれに気づいていたのであろう。俺と同じルートを走っていた。

 見れば他の面々もそれぞれの仕方で対処している。マルグリットは俺たちと同じ方法に加えて盾で、エディットを守っている。アランとミュゼは上から来る炎を同じく炎で相殺することにしたようだ。

 

 

「問題はこの炎弾がいつまで降るか……というところだな」

 

 

 敵は驚くほど合理的だった。小細工無しで延々と炎を展開する。こちらは体力や魔力といった要素があり、それが尽きればまともに喰らってしまう。一方の敵は今まで不老不死に回してた分の魔力残量を攻撃に回しているのだろう。儀式を妨害した以上、無限ではないだろうが……焦りが一切見えないあたり、この戦いの終わりまで保てると思っているのは間違いなかった。様子といっても顔は骸骨だが。

 

 

「……大丈夫」

「イー? 逆転の手を持っているのか?」

「……エディットが何とかする。その証拠に、マルグリットに()()()()()()

 

 

 なるほど。水使いの彼女なら自身の身を守るのは可能なところを、マルグリットにやらせている。この状況を脱却する手段を持っているのだろう。そして、同時にそれ相応の時間がかかるという訳だ。なら俺がやることは決まっている。

 

 

「アランにやらせるのも危険だしな。小器用なのも苦労する」

「……私は離れてやる。そっちはそっちで」

「足は止めないようにな」

 

 

 俺とイーは二手に分かれた。俺は中距離から鎖を振るう。セスが言っていたように、この鎖は普通の物ではないのだろう。確かに全力で叩きつけたが、普通ならばあの巨体が傾ぐほどではないはずだ。【師匠】も良く分からないものをくれたものだ。だが、徹底的に利用させてもらう。

 というより、他の方法を思案するほど余裕があるわけではないのだ。炎というものは性質(たち)の悪い悪友のようなもので、適切な距離を保たなければならない。近づくだけで傷つけてくる。まぁ人間にとってはどの属性もそんなものだが……そこから導き出される戦法は少ない。

 イーの矢が放たれる。回避に注力し過ぎたのだろう。ようやくの一矢だ。それはあばら骨の下の方繋がらずに浮く、最も脆い場所に突き刺さった。それによってヒビが入ったところに俺の鎖をブチ当てる。骨の一部がへし折れて、骨の巨人が怒り狂う。痛覚は残っているのか? だが、これで敵の目は俺とイーに向いた。

 その分だけエディットが使える時間が増えていく。同時にこちらの危機は深刻になるが、必要経費だ。

 

 敵が炎陣と共に直接攻撃を加えてくる。もっとも強力なソレを、俺とイーは意図的に受け持った。こいつは熟練の魔法使いであり、強大なアンデッドで……戦士ではない。効率が一番いいことをしてくるが、戦闘というのは相手の手札が見えないものだということを失念している。

 

 

「とはいえ、確実に避けないといけないがっ!」

 

 

 なにせ赤黒い炎が降り注ぐ中だ。巨体から繰り出される攻撃を受け止めて、体勢を崩されたら今度は焼かれる。思いっきり体をのけ反らせて、骨の蹴りを回避する。死とすれ違う感覚。脳がひりひりする。まるでこの状況を楽しんでいるように……おれはこんな戦闘狂だったか? そうだった気もするし、違った気もする。とにかく避けて、避けて、叩いて、避けて……一瞬が永遠に引き延ばされて、それが完成した。

 

 

「〈氷牢(フローズンジェイル)〉」

 

 

 エディットの小さな呟きが部屋中を揺らした。それは氷の結界。灼熱の中、()()()()氷が部屋の中に領域を広げた。俺たちは揃ってその中にいる。そして炎陣は外に、確かに氷も水の内だろうが、降り注ぐ炎の中で堅牢さは維持できるのか? しかしそれはいらぬ心配だった。

 

 

「なんだ、コレは……!? なぜ我が炎が氷ごときに阻まれる!?」

「理屈としては貴方の死霊術とほとんど一緒。桁違いの低温で、溶けた傍から再凍結される」

 

 

 エディットがくるりと杖を回して、体の前で構える。そこに日頃の本に熱中する少女はどこにもいない。水と氷の支配者が君臨していた。

 

 

「大魔法使いネスタルの弟子、エディットの力を知れ」

 

 

 は、と笑いが出た。理屈などさっぱり知らないが育て上げた人の名前を出されては、こちらもやる気になるというものだ。そうだろう【師匠】?

 

 

「ついでに未来の勇者アランの剣、イサオの名前もあの世に持っていけ!」

「フラーボスの弟子、マルグリットの名前もお忘れなく」

 

 

 エディットが単独行動に移ったため、マルグリットが自由になった。マルグリットの鉄槌は骨を相手に効果的だ。いくら相手が硬かろうと、無理やり、へし折っていく。

 俺とイーも移動を邪魔されることが無くなった。俺は吠えた手前、かなり接近して勝負を挑む。結果として起こるのは袋叩きだ。全員の攻撃が降りかかり、さらには蹴りの際に俺に片足を取られて転がった。

 

 

「やめろ……! 貴様ら、自分たちが何をしているのか分かっているのか!? 私の頭脳がどれほど貴重か」

「皆、興味ないってさ」

「こんな期間の計算。どうせ神様になろうとしたとか、世界平和とかが大体」

「なぜ、それを! いや、ならなぜ我が研究を敬わん!?」

「外からの情報も仕入れずにやろうとするなんて、ただの馬鹿」

 

 

 〈氷牢(フローズンジェイル)〉の一部が形を変えそのまま落ちてくる。目標はもちろん……口でも戦い方でも容赦がないな。エディットが言うことが確かなら確かに壮大な計画だったが……まぁいい。

 

 

「こんなこんな最期! 認めんぞ! この私こそが……永遠の繁栄を下民どもにも分け与える。最高の支配者なのだ! そうすれば誰もが分かるだろう! 己の間違いを……!」

「あなたには無理」

 

 

 エディットが対魔力が優れていたらしいが、あの氷の塊に潰されれば関係ないよな。俺たちは暴れる巨大な骸骨を抑えるべく、ギリギリまで攻撃を加え続ける。イーの矢が、俺の鎖が、アランの剣が、ミュゼの魔法が荒れ狂う。最後まで原型を保っていたのは大したものだ。コイツが戦士だったら負けていたかもしれない。

 だがまぁ理想と同じでスペックしか見ていなかったのだろう。とうとう起き上がることもできずに氷の墓標に沈んだ。

 

 

「……倒せたのか? エディット?」

「これから分かる」

 

 

 確かに戦闘不能には追い込んだが、なにせアンデッドだ。潰れた状態でも無理やり動いてくるかもしれない。そう思って警戒を解かずにいると、上で見た迷える魂(ウィルオウィスプ)に似た白いモヤが氷の下から這い出て来て、部屋の端にあった祭壇へと流れていった。

 

 

「自分で作った仕掛けに、自分で入った」

「しかし、もう上の階は機能していないから、ここに永遠に囚われる……ということかな? 終わってみれば呆気ないようにも感じるけど、戦っている最中は生きた心地がしなかったね」

「リーダーのくせに前に出るからだ。まぁ今回はエディットも前に出てきたが」

 

 

 全員で脱力して、床に座り込む。対処方法があったとはいえ、延々と走りながら戦ったのだ。疲労感が凄まじい。だが、ここに何かないか探さないといけない。だるさを抑えて立ち上がり、周囲を探索する。

 とりあえず、ここより下の階層は無いらしい。そう思った頃にマルグリットも立ち上がって、祭壇の分解に取り掛かり始めた。

 

 

「資料なんかの遺物は私が見る」

「何であんな大掛かりな魔法使って元気なのよ……」

「……私はジェイとセスを呼んでくる」

「アラン、お前まで探索するのかよ」

「そりゃあね。少しは仕事しておかないと経験にならないし」

 

 

 少しして、イーたちが降りてくる。ジェイはセスの肩を借りているので、治癒に何の代償も無しとはいかなかったようだ。しかし、あの怪我からここまで回復するとは治癒が凄いのか、セスが凄いのか。当人は戦闘に参加できなかったことを悔やんでいるようだが、あんなもの経験しなくていいと思う。

 その後、アランが大量の宝石が入った箱を見つけてくるなど驚きの出来事もあったが、俺たちの遺跡探索は無事に完了したのだった。




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