大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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一足お先に

 高位冒険者が魔族との戦闘に駆り出されている昨今。派手な活躍をする冒険者は数を減らした。だが、この鍛冶街には二つの新星が現れた。“不運(バッドラック)”と“水蓮”である。合同任務に当たった若手の内、ここに残ったのがこの二つであったからだ。

 ……などと自分で説明していると恥ずかしいものがあるが、俺たちは実質的には三級チームとして扱われている。冒険者組合も溜まっていた依頼を消化することができて万々歳。だったのだが、とうとう名実が揃う日が来てしまう。“水蓮”が正式に三級チームとして昇格することになったのだ。元々四級としてかなりの経歴を持ち、三級・二級の代理までしていた彼らを拘束することなどできない。

 

 

「元々やっていた任務だからな。昇格任務もかなりあっさりと終わらせたぜ」

「うーん、折角仲良くなってきたのに、残念だね。これから先は?」

「西の兵の道を通って最前線へ。と言っても、戦争ではなく発掘調査の方をメインにしたいと思っていますが」

 

 

 街の商業区画……鍛冶とは別の場所だ……にあるカフェの外で俺たちは別れを惜しんでいた。

 アラン、ジェイ、セスの苦労人トリオもこれで見納めか。俺たちは三級に昇格しても、アランの目的が魔族の殲滅である以上、戦争絡みが多くなるだろう。これで疎遠になるかもしれない。

 

 

「イーとのデートもこれで終わりかぁ……色々教わったし、もうちょっと色々お返ししたかったんだが」

「……また会うこともある」

「それにしてもイサオ様にとってデートは随分、軽い言葉ですわね。それにしてはエディットさんは誘いませんでしたが」

「んー、エディットはなぁ。誘っても本気で嫌がるだろうから誘わんよ。流石にそれぐらいは弁えている」

 

 

 暗にイーは結構楽しんでいたと言ってみる。実際、イーは寡黙なだけで結構根っこは人懐っこいと思っている。誘いやすくてマルグリットの機嫌を損ねてしまっていたが、これから穴埋めしていこう。

 

 

「しかし、西に行くとなると王都を通るのか。どんな場所なんだろうな。田舎の村の人とか一度は行ってみたいと結構言ってたけど。山育ちの俺が想像するのは難しい」

「別に。騒がしいだけ。何より許せないのは図書館に利用料金を設定しているところ」

「エディットらしい……って、エディットは王都行ったことあるのか」

「修行地は北にあったから。通ってこっちに来た。今思えば、イサオとマルグリットに出会わせるのが目的」

 

 

 ネスタルさんらしいと言えばらしいか。しかし、あの格好で北部は寒いのでは……聞いているほど温度差は無いのか? まぁ魔法的な何かで大丈夫なのだろう。あの人も【師匠】と同格だろうし、常識は通じない。

 それに加えてマルグリットの師であるフラーボス枢機卿か。苦戦する様子が浮かばないチームだが、それでも魔王は倒されていないあたり挑戦はしなかったのか? あるいはもっと強い?

 

 

「はー、エディットとともこれでお別れか。魔法談義が出来る相手がいなくなるわ」

「マルグリットがいるじゃないか」

「奇跡は体系が違うので、ところどころ話が通じないのですわ。そうでなかったらミュゼさんも治癒が使えるはずでしょう?」

「そんなものか。というかうちで魔法の素養が全くないの俺だけだな。今気付いた」

 

 

 そりゃミュゼと話が合わないわけだな。ただ、ミュゼは魔法のことを話したがるが、俺は鉄鎖術について話したりしないからな。迷惑度は俺の方が低いと思っておこう。

 お別れ会は終始和やかな雰囲気で進んだ。友好関係ではあるが、別チームでもある。それに冒険者には別れがつきものなのだ。それが単に別の方向に行くのか、終生の別れになるかの違いに過ぎない。

 

 

「僕たちもすぐに追いつくよ。行き先は同じだ。元気で!」

「いや、“夜蝶”が落ち着くまで、お前ら結構使い倒される気がするぞ」

「その時はその時。マルグリットの力でも借りて、正当に評価して貰うさ」

「アラン君も逞しくなりましたね。大人の知恵を身に着けたとも言いますが」

 

 

 アランが代表して別れを告げる。俺としては茶会で十分に別れを言ったつもりなので何か言う気は無いのだが……エディットが近づいて来た。相変わらず、何を考えているか読めない表情だ。

 

 

「イサオ、マルグリット……向こうで待っている。きっと私たちに何かが残されている」

「まぁ何かの役目だろうな。【師匠】は継いで欲しくないみたいだったが」

「折を見て、お師匠様にも聞いてみますわ」

 

 

 その場は西の最前線であると、俺たちは何故か疑っていなかった。師の隔絶性からか。来るべき時は最も危険な場所であると信じ切っている。

 エディットたちを見送ると、心を切り替える。彼らは先に登った。続くべきであり、そのために成すべきことがある。

 

 

「さて、俺たちは早速、次の依頼を受けるのか?」

「それも有りだろうけど、僕はもっと依頼はゆっくりにして、腕を上げたいと思う。“水蓮”はバランスの取れたチームだったが、アレはリーダーが前に出なくていいエースだったからだ。僕は剣士でリーダーだから、いつも出番を最後にされる。君の目が無くとも、離れられる力量が欲しい」

「それは私もね。まぁ問題点は練習相手がいないことだけれど……」

「なら、実戦形式の訓練を増やすか。ミュゼにも杖術を教えよう。咄嗟にしのげるようにな。俺も新しいことに挑戦したいし」

 

 

 そう言って俺は新たな得物を握った。太目なエストック。釘を思わせるシルエットの武器だ。あの商店に予約を入れておいたコレをようやく手に入れることができたのだ。

 

 

「なら話は簡単ですわね。形式は二対二。わたくしとイサオ様の二人組を相手に、お二人で一本入れていただきます」

 

 

 自分たちで言っておいて相当な無理がある目標だ。俺とマルグリットも成長しているのだ。単純な力量と駆け引きを両立させる必要があるだろう。場所は岩石亜竜(ロックイーター)を倒した平原を借りる。岩をどかす作業を手伝えば貸してくれるはずだ。

 スマンな“水蓮”。少し寄り道になる。そう心で詫びて新たな日々が始まった。

 

 

「ま、こうなるよな」

 

 

 短い草が風に揺れる平原で、俺とマルグリットは倒れ伏すアランとミュゼを見下ろしていた。

 アランとミュゼのペアは悪くない。典型的な前衛と後衛だ。だが、俺たちとは相性最悪だ。こちらは戦士二人。それも軽戦士と重戦士のペアだ。どちらかがアランの動きを止めた瞬間に勝敗は決まっている。そう言っていいだろう。

 

 

「あいたたた、背中打って立てない……」

「僕はどうもない。剣を合わせたと思ったら負けていた……」

 

 

 今回は俺の新武器の練習も兼ねて、俺がアランと当たり、マルグリットがミュゼ相手を担当した。レイピアでも槍でもない独特の使い心地に、俺は久しぶりに新しいことに挑戦している気分になっていた。

 新しい形ではあるが、刺突武器の使い方は知っている。と言っても【師匠】流なので明らかに優雅さからは程遠いが。

 

 

「アランは俺相手に負け続ければいつかは届くだろう。問題はミュゼだな。基礎体力はそこまで低くないのに、接近されると腰が引けている。今回もマルグリットが優しく杖に当てただけで体勢を崩した」

「魔法使い相手に無茶言わないでよ」

「とは言うが、接近されたとき逃げるぐらいはできて貰わないと困る。お前が放つ魔法も俺たちには当たらんしな」

 

 

 という訳でミュゼには杖術を習得してもらう。多少難易度が高いが、それだけ便利なのが杖術だ。なんだったか、持たば剣、突けば槍とかなんとか。

 その合間合間に依頼をこなすとなれば……まぁ【師匠】の訓練ほどではないか。キツいだろうけど頑張って欲しい。だが、マルグリットが設定した目的を二人ができたとき……俺たちのチームは面白いことになる。

 さて、楽しい時間のために、単調で苦しい日々の始まりだ。

 

 




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