大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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 掛け声と共にアランとミュゼがそれぞれの長さの棒を振る。日課の鍛錬だ。ちなみにノルマは二千回である。俺が【師匠】から受けた訓練を参考にしている。始めた時はこれだけで手一杯だったが、今では準備運動と言えるぐらいになった。

 訓練を本格的に始めてから大分経っていた。任務の際も心を鬼にして、アランとミュゼだけに対応させることもあった。もちろん死なないようにこっそりと隠れて付いて行ってたが。

 

 

「まぁ鍛えて見るもんだな。アランは元々才能があったが、ミュゼまでとは」

 

 

 腕組みをしながら一人頷く。まるで理解者面だが、そうなるほどの成果を二人とも上げていた。今では百回に一回は自分に一本当てられるほどの腕前に成長していたのだ。快挙とさえ言っていい。

 ミュゼは元々が強気なためか、()()打ち据えたら反骨心が顔を出した。そこからの上達は凄まじかった。ひょっとしなくても魔法より才能があるのではないかと疑いたくなるほどだ。後は相手を防ぎながら魔法を唱えられるようになれば、立派な魔法戦士である。

 

 運命論者だった覚えは無いが、このチームは出会うべくして出会ったような気さえする。

 

 

「俺も魔法使えたらなぁ」

「なによ。またその話? 体を使うことと違って、完全にセンスの問題だから出来ないやつは出来ないのよ。その代わり、狂ったような武術使えるんだから高望みしない」

 

 

 指導は受ける側は勿論だが、教える側にも恩恵がある。今の俺はアランとの訓練で剣技の冴えを高め、魔法への理解を深めた。魔法に関しては使うことはできなかったが、逆に相手が使いそうなときにタイミングを感知できるようになった。

 

 

「そういえば先日アランが火球(ファイヤーボール)を撃ってきたときは、腰を抜かすかと思った」

「秘密にしていて、至近距離から撃ったのに躱された僕が言いたいよ。あの時の模擬戦のために用意した隠し玉だったのに……」

 

 

 アランは何というか()()()()になった。その隠し玉が成功していたら俺は火だるまになっていただろう。割と洒落になっていないが、それぐらい訓練の恨みが溜まっていたのだろうか。

 

 

「でも意外というかなんというか……」

「意外でも何でもないぞ。こいつが自分を過小評価しているだけだ。なぁマルグリット」

「そうでしょうか……わたくし、未だにイサオ様に勝てる気はしないのですけれど」

 

 

 アランとミュゼは百回に一回は俺に一本入れられるようになった。だが、マルグリットには千回やっても届かないだろう。防戦に長けた神官戦士の堅牢さを、二人は成長して初めて感じ取れたのだ。マルグリットが本気で構えた盾はもはや城砦のそれだ。ミュゼの魔法すら防いで見せた。

 

 

「それが相性ってものかもな。しかし、困ったな。これでは昇格の方が、目標より早くなってしまうぞ。自画自賛するようだが、俺の技とマルグリットの盾がこれほど嚙み合うものだとは」

 

 

 俺も新しい突剣とのすり合わせは済んだ。今では曲芸のような軌跡を描いて相手を貫く。それをマルグリットの盾越しに行うと、こちらが一方的に攻撃できる。さらに鎖を併用すれば、我ながら結構強いのではないだろうか。

 【師匠】? あれは無理。今でも人外の存在にしか思えない。武芸百般で届かない以上、俺なりの戦い方を独自に編み出す以外で超えることはできない。それを目指しての特殊な形の武器として、突剣を選んだのだ。まぁそれは遠い未来の話だ。今はとりあえず目的に向かって進もう。

 

 訓練を終了するが、以前とは違い、もうアランとミュゼも倒れたりはしない。こちらも負けてはいられないが上に行けばいくほど上達が難しいのが難点だ。体を作るために食事にでも行こう。

 

 

「イサオ、今日の食事はどうする? 訓練の後だから個人的には果実水があるところがいいけど」

「金槌亭で肉が食いたい。どこだろうと肉を選ぶがな」

「よく飽きない、もといよく食えるわね……農村育ちとしては付いていけないわ」

「わたくしもそうですわね。というより教会は清貧を旨としていますから、シンプルな定食一択ですわね」

「ここでもハブられるのか俺……」

 

 

 この鍛冶街は王都に近いだけあって、金に余裕があれば何だって揃う。だが、我が少年期を支えて来た熊肉があまり出回らない……というかクソ高い。なぜかというと山から離れているからだ。

 流石に無駄遣いはできないので、俺もバランスの取れたメニューを選ぶことになってしまった。偏食も悪くないと思うんだがなぁ。そんなこんなでやってきたのは馬の人参亭。ここは一般住人や教会関係者が良く利用しているので落ち着いた雰囲気がある。ちなみに先にあがった金槌亭は真逆で常時酔っぱらっているような場所だ。

 

 

「食う店を選べるとは思えば遠くにきたものだ。組合の素っ気ない酒場が長かった」

「あそこは同業者がいるという雰囲気込みだから、あんまり安くも無かったけどね。気付くのには随分時間がかかったけど」

「それはいいのですが、視線が落ち着かないのでたまに恋しくなりますね」

「あー、今“夜蝶”の次だからね私たち。名が売れるのはいいことかしら」

 

 

 等級の高い冒険者で落ち着いていれば、色々な視線にさらされるものだ。荒くれだったり低位だとごみを見るような目だというのに、随分と差が激しいものである。

 しかし、あまり笑ってもいられないだろう。いや、俺にとってではなく街がであるが。定着する高位冒険者がいないということは、強力な存在に太刀打ちできないことを示している。実力はあるという自覚は芽生えているが、四級冒険者を有名人扱いは本当に危うい。俺たちは三級冒険者に上がったら、この街を出てしまう。“夜蝶”だっていつかは去るかもしれない。その時、彼らはどうするのか……サラダを前にした現実逃避が終了した。

 からくりのように葉っぱを口に運ぶ。味はなるべく考えない。これさえ処理してしまえば、後はパンとシチューだ!

 

 

「もう少しで昇格ね。西に向かうために王都を通るわね。楽しみだわ。王立図書館にはぜひ寄りたいわ」

「あれ? エディットが金取られるとか言ってなかったっけ。あいつが嫌がるって相当な額だろ」

「そのために貯金してるわよ。まぁ、田舎育ちとしては一生に一度はって夢見るわね。王都ってどんなところなんだろうってね。ここまでの街も十分大きかったけど。桁違いだもの」

 

 

 田舎育ちは俺もだ。確かに王都に対する興味はあるが……同時に貴族とかの身分で絶対面倒くさいだろうなと思う俺がいる。ちなみに冒険者が功績を認められて貴族になるパターンは実際にあるらしい。西の対魔族の最前線に投入しているため一代騎士などはかなり増えているとか。子に継がせられる爵位は滅多に出ないのも噂で聞いた。

 

 

「マルグリットは王都出身なんだよね? どういうところ?」

「どうって、わたくしが教会育ちなことをお忘れでは? まぁそれでも人の多さだけは凄いと素直に言えますわ。教会も区画ごとにあるぐらいですし。ちなみにわたくしは中央聖堂にいたので、どんなものがあるかとかはあまり知りませんわね」

「まぁ城を見ておけば、また馬鹿にされるようなこともなくなるか」

 

 

 笑われたことは忘れない。王都へ一生行かずに過ごす人が大半なのだ。それをあの隊長め。

 ただ、現状、人が多いということと、デカいということが分かっているだけだ。俺たちにとっては西への通過点に過ぎないが、ちょっとぐらいの見物も楽しいだろう。

 ああ、それと分かっているのはもう一つあった。王都には冒険者組合の本部があるらしい。ただ王都は治安などは全て自前で賄っており、依頼などは無いらしい。またもや、らしいだらけだ。

 

 飯を食い終わる。パンとシチューがなければ腹は満たされなかっただろう。時々、野菜だけ食っているミュゼとマルグリットが恐ろしい。

 

 そして、次の日。俺たち“不運(バッドラック)”に昇格依頼が通達されたのだった。




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