大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
殺意の刃と熱線が老紳士めいた魔族を襲う。アランの剣腕は格段に上達し、そこらの騎士には劣らない。ミュゼの火炎は体系だった術ではないのか炎が幅広く躍りかかった。
「おっと……やはり若いというのはいいものだな」
しかし、そのどちらも魔族に傷をつけることができなかった。相手は空中を移動して、難なく躱す。厄介だなあの飛行能力。
敵が飛行しているというのは、こちらにとって最悪の条件だ。当然ながら人間には翼など無いので、追いかけるのは困難。俺としても、鎖が良いか、弓矢が良いかで迷うところだ。
「そう急がないで欲しいものだ。自己紹介がまだだったね。儂の名はイマノル。君たち風に言うと魔獣使いだ。よって、戦い方も……こうなる」
アランが着地しようとした地点に鋭利なハサミのような物体が顔を出す。俺は咄嗟に鎖を繰り出して、アランを引き戻した。地中から現れたのはクワガタに似た魔獣でぎちぎちと嫌な音を立てている。
次にマルグリットの足元から槍が突き出た。マルグリットは冷静にそれを盾で防いだが、反撃までは不可能だった。今度はカブトムシとでもいうのだろうか?
「趣味が悪いな。こっちの作戦を見切って、あらかじめここに魔獣を配置してたのか。くそっダウジングしておけばよかった!」
「そこは年の功ということで見逃してもらえないかね? 全く、君たち人間は個体差が大きくて、どれほど準備を重ねても足りないものだから。君らは魔族を憎むが、こちらも同様に辟易しているのだよ」
全く持って
そんなことを考えていると、イマノルが指を鳴らした。その顔は笑みに変わっていた。
「強者には強者を。出し惜しみはしない。こちらも札をきるとしよう」
その言葉と共に高速で何かが飛んでくる。羽があり飛んでいるが、鳥ではない。そのシルエットは鋭角を描き、鋭さと堅牢さを併せ持っているようだった。それを見たミュゼが叫ぶ。
「
「人間の魔法使いでも空を飛べる者は稀だ。ならばこうした手を使えば後方かく乱に使えるという訳だ。もっとも、ここでは戦力として使うがね」
地の底も空も抑えられた。我々は最大の危機に陥って、その心は。
「折れたりするわけないだろ。無謀や無茶など最初から承知さ。マルグリット、地上の魔物は全部任せる。イサオは
「任されましたわ」
「どうやって注意を引くかねぇ」
彼は魔族を殲滅すると誓った鋼の光。とんでもない無理難題を最初から自分で持っている男が、折れるはずもない。圧勝か敗北か。まぁいつものことだが、今度は一人で竜退治とは。
さて、
そして、その機会はすぐにやってきた。
アレがある以上、相手は一定の高さから降りてこない。かといって弓矢は本数が限られる。そしてアレを他所に行かせないという大前提があった。距離をできるだけ開けて角度を低くさせて一気に討ち取るか、ブレスを食らう覚悟で矢を放ち頭を撃ち抜くか。
「あまり長い間は息が続かないのが救いか」
走って逃げていた間に炎は止んだ。これなら少しは勝ち目がある。だがとりあえずは、こっちを向いていて貰わなくてはならない。再び近づくが鎖の範囲より高いので拾った石をぶん投げる。致命傷にはならないが、痛みが相手を苛立たせる。
投石は優秀な攻撃手段だ。伊達に昔から使われているわけではない。ただ、人間相手なら骨さえ折る一撃も、竜相手には鱗が邪魔して決定打になりえない。
「ギャアギャアとまぁやかましい。こっちは命がけだってのに」
思わず独り言が出る。そういえばおとぎ話の竜などは大体誇り高い。そこを利用して、相手を地上に降ろせないか? なけなしの知識を振り絞って出て来た案があったが、本当に実在するのか怪しい。まぁ試してみるだけは
今度は狙いを正確にして石を投げた。
曰く、竜の喉元には一枚だけ逆さになっている鱗がある。そこを触れられるとどんなに温厚なものでも激怒する。
「逆鱗……で、良かったよな?」
瞬間、放たれる炎の軌道が変わった。滞空するのではなく、飛行しながらこちらを追ってくる。その様子は炎で焼くだけでは物足りないとでもいうようで……闇雲に爪が振るわれ、ブレスが切れると嚙みついてくるようになった。
「あっはっはっは! マジか、こいつ! こんなバカなことがあるか!」
正直、滞空されて緩慢に攻撃されていたら賭けに出るしかなかった。だというのにコイツときたら、笑いが止まらない。生まれつきの体質というのは本当に不便だなぁ。
俺の上半身ぐらいある頭が迫って、噛みついて来ようとする。少しだけカスって額の傷は激しく噴き出た。だが、次の瞬間
立ち直ったのは俺の方が早かった。
「圧勝か敗北か。確かに強かったが、終わってみるとなんとも……むなしいな」
俺は転がる竜の頭にエストックをぶち込んだ。念には念をいれて何度も、何度も。最強の手札としてきられて、死ぬときはあっさりと。それはそのまま俺の未来のようだった。
そうならないように強くならなければ、まずはここを乗り切る。他の戦いに参加して、手助けする。まずは一番近いマルグリットが担当している最初の地点だ。
「あら、イサオ様はもう片付けたのですか」
駆け付けてみれば、いつもの調子のマルグリットがそこにいた。その姿に、いやその光景に一瞬言葉を失う。マルグリットの後ろにあるのは魔獣の死骸が積みあがった山だった。一体一体がそこまで弱かったわけはない。
次の瞬間、また地下から魔獣が現れた。猿のような姿をしたそいつは強烈な殴打をマルグリットに繰り出した。それを前に慌てず騒がず、まず相手の攻撃を盾で防ぐ、次にその盾に突き出された腕を鉄槌でへし折る。痛みでのけ反ったところに残りの間接に的確に打ち出される槌撃。それはいっそ惚れ惚れするような
マルグリットに奇策はない。防いで、攻撃する。徹底したカウンター狙いの戦闘スタイル。相手が何体であろうと関係ない。生きた城砦、それこそがマルグリット。
はっと気付く。見惚れてる場合ではない。時間をできるだけ節約せねば。
俺は鎖を地面に垂らし、わずかな振動を感知する。そして、そこに釘めいたエストックを打ち付ける。マルグリットが後手で攻めるなら、俺は徹底して先攻を取り続けた。
「これであらかた片付けたな。ダウジングにも生命力は引っかからない。それにしても、形が様々な魔獣を相手によくやるものだ。近接戦だと敵う気がしないな」
「イサオ様はそれなら、それ相応の戦法を繰り出して来るでしょうから、そう容易くはいきませんわ。それにわたくし、本職は神官でして……無駄口が過ぎましたね。今はアランさんたちのところへ行かなければ」
頷いて駆け出す。敵が浮遊しているせいだろうか。アランとミュゼの戦場は遠くへ移動している。あの魔人は油断ならない。魔獣使いと言っていたが、ああした手合いは弱点を潰しているものだ。
魔人本体の方が配下より強い可能性が高い。今のアランとミュゼならそう簡単に遅れは取らないだろうが、盤面を少しでも有利にすべく俺たちはリーダーのもとへ駆けつけた。
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