大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
仲間たちが魔獣を引き付けてくれている。その間に僕とミューは目的である魔族討伐に集中できていた。二人の力が無くともやって見せようと、はやる心がうごめく。だが一方で、イサオに鍛えられた感覚はそれを否定する。そんなに甘い相手ではないと警告を発するのだ。
「仲間がいなくて平気かね。いいや、そもそもその仲間は無事役割を終えられるかな? 儂の魔獣たちを突破して無事駆け付けて来れるか? ああ、仲間の絆が試されている! 儂も魔獣使いだからね。そうした友愛には目が無いのだよ」
「ふざけるな、魔族がどの口で絆を語る」
僕は聖銀剣を振るう。未だに銘を入れられないこの剣こそ、自分たちの繋がりだ。それを快く譲ってくれた仲間たちの期待に応えるべく、〈ストレングス〉を重ねがけして敵を追う。
常に浮いているイマノルを討つには、こちらも同じ高さまで跳躍する必要がある。大体、一般的な家の高さ程度があの浮遊能力の標準らしい。魔法で強化された脚力なら何とか届く。しかし、小回りが利く敵は悠々と回避してしまう。
そして問題なのが、再び地面に降り立つまでの時間、隙を見せてしまうことにある。
「〈甲針虫〉」
「こんなもの!」
左右から大きな針の形をした虫が迫ってくる。体をねじって剣で叩き落す。こんな真似ができるのはイサオとの訓練のおかげだ。彼の突きに比べれば虫の突きなど、ただ速いだけ。その速さも彼に劣っているのだから、見切るのは容易い。
その時下から炎の小さな球がイマノルとその周囲にばら撒かれた。ミューが新しく開発した魔法だ。分類としては単なる〈
広範囲にばら撒かれるのでちょっとした移動程度では全部は避けきれない。放たれる度に小さな傷を負い、内心は揺らいでいるだろう。
内心が揺らいでいるのは僕もだ。魔族、魔族、魔族、魔族! 故郷を、両親を焼いた奴らがのうのうと生きている。許せない。許せるというやつなどいればクソでも食っていればいい! ああ、ああ、でもイサオの教えが少しだけ心を落ち着けてくれる。奴らは数が多い。だから効率的にやらなければならない。こんなやつにいちいち反吐など出してはいられない。次に、次に、待っているやつがいるんだからとっとと死ねよ、クソボケが!
着地と同時に今度は相手が避けることも想定して、連撃を用意する。イマノルは最小限の動きで避けようとする、カスみたいな性格をしていた。空中では二度目の移動ができないので、徐々に攻めを冴えわたらせていこう。相手が焦って大げさに避けるようになったら、勝率が下がってしまう。
それはミューも承知のようだ。長い付き合いから考えていることが分かる。相手がどう避けるか、試すように小火球を放つようになった。ミューはずっと無言だ。激高しやすい性格の彼女だったが、武術の訓練と同時に己を律することに成功していた。流石は僕の幼馴染。連携も実戦でどんどん磨かれて行っている。
「これはなんとも……困った。前線から離れた街に、新進気鋭の冒険者がいるとは聞いていたが、これほどの使い手とは。老人には厳しい相手だ」
「僕を相手にそんなことを言っている時点で、たかが知れているな」
それでも口調には余裕がある。こちらを殺せる手段があるなら、とうに使ってきているだろうから逃走手段。それを未だに抱えているから、のらりくらりと躱しているのだろう。どこまでも馬鹿にしてくれる。
縦切りから〈ストレングス〉の配分を切り替えて、無理やり横切りにつなげる。ようやく、僕の刃がこのクズに裂傷を刻む。聖銀剣に斬られたイマノルの傷からは煙があがる。僕らにとっての毒のように、傷が敵の体をむしばんでいくのだ。
聖銀が魔族に有効であるという証拠だ。そう思ったのだが、イマノルは訳の分からないことを言いだした。
「その剣は……一体何だ。まさか失われた武具の一つか……!?」
「単なる聖銀剣だ」
「……使い手自身が知らないのか。この場より逃げれば良いと考えていたが、その剣を見た以上ただでは帰れん。担い手もろとも消すことが使命となった! 行け! 〈餓狼群〉!」
その声に応え、大量の狼がこちらに向かってくるのが見えた。狼といっても戯画したかのようで目は笑みの形をしており、口は喉元まで裂けている。足は奇妙に反り返って、子供向けの絵本から抜け出て来たかのようだ。
逃走用に用意していたと見えて、数だけは多い。
逃げるのを諦めたイマノルも浮遊しながら、徒手空拳で攻めてくる。思っていたより鋭いが力強さが欠けている。本人が言うように既に老人なのだろう。だが避けは上手く、行動を阻害される。挟み撃ちの形になり厄介だ。ミューは狼の方に〈小火球〉を乱射し始めていた。イマノルに向けると、僕に当たる可能性があるからだ。
「このまま潰れるが良い!」
「じゃあ、お前はねじりきってやろう」
その時、長い鎖がイマノルの腕に絡みついて、締め上げた。大きく引っ張られる様は、釣りのよう。強制的に僕と距離を取らされたイマノルだが、それでも鎖は離れない。こんなことができるのは一人しかいない。
「イサオ!」
「悪い、ちょっと遅くなった。相手が結構強くてな。こっちはこっちで老人をなぶっているようで気が引けるが……」
「馬鹿な! 〈
「ちょっと無理したおかげで、額から血がドバっと出たぞ……ってあんたも腕から何か出てるぞ」
イマノルの腕。鎖が絡みついた場所から、先ほどの聖銀剣のように煙が上がっている。イサオはかつて、チームを組んだ頃は銀
「貴様、この鎖を一体どこから……!」
「いや、【師匠】から貰っただけの、鎖だが。銀
「銀
「えぇ……また謎の情報が出て来たよ。まぁ、それはともかく、あんた……このままだと死ぬぞ」
冷えた声とともに、イサオはイマノルを捕まえたまま鎖を回転させ始めた。そして速度が乗ると地面や岩にぶつけ出す。イマノルはもはや犬に与えられた玩具同然の扱いを受けていた。いい気味だ。
だが、しばらくするとまた浮遊状態に戻ったが、その姿は見るも無残だった。個人的にはもっと重傷で良いが。
「ふーっ! ふーっ! 舐めるな若造! これぐらいの覚悟はしてきている!」
「あっちゃあ、確かに舐めてたな。できる奴なんてほとんどいないからな」
イマノルの整えられた髪は乱れ、品の良い顔は血でまみれている。そして、それ以上に鎖が絡まっていた右腕が無くなっている。
「口惜しいが、ここは引こう。腕が再生してから、今度はお前たちを標的に陣営を整える。お前たちは危険だ……〈餓狼群〉が時間を稼いでいるうちに……」
「それを聞いて逃がすとでも? それにその〈餓狼群〉とやらを見てみたらどうだ?」
「再生するとか言われたらなぁ。アラン、お前の獲物だ」
件の〈餓狼群〉は今もまだこちらに来ていない。防いでいるのだ。ミューと、そしてマルグリットが。彼女たち二人が組み合わされば、まさに鉄壁。結局、イサオとマルグリットに頼ってしまったな、と苦笑する。
イサオの鎖が岩に巻き付く。それをイマノルに向けて軽々と持ち上げて、彼が叫んだ。
「乗れ! アラン!」
「無茶苦茶だね!」
〈ストレングス〉で足を強化して振り落とされないようにした。回転する岩の上に乗りながら、イマノルとすれ違う。その顔は恐怖に歪んでいた。ああ……いいぞ。そんな顔が見たかった!
咄嗟にどこかへ行こうとしたイマノルに向けて跳躍する。着地が大変だろうなと苦笑したまま、喜びを感じる。
逃げられたと思い込んでいたイマノルを十字に切り捨てた。
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