大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
“
ついでに俺が倒した
「ここに来てから竜と妙に縁があるよな……」
「あれを一人で倒した化け物が嘆くことじゃないけれどね。額の傷はもういいの?」
「ミュゼに心配されるとなんか怖いな……医者にくっ付けてもらいながら、マルグリットの〈
俺は珍しくミュゼと茶をしばいていた。ミュゼにはアランがいるので、デートではない。近くこの街からも去るのだから、こんな組み合わせも悪くはないだろう。
ミュゼは古い本を大事そうにしながら、読み進めている。俺は注文した甘味に舌鼓を打つ。山で育った俺には甘いものはいつだって鮮烈だ。
「よう。ココ良いか?」
「あ、ギヨームさん。お疲れ様です」
「また珍しい顔が来たわね……」
「義理を通しに来ただけだ。俺たちを標的にした魔族を代わりに討伐してくれたってな。状況上、礼は出せんが……誠意として頭を下げるくらいはいいだろう? 組合でやるとうるさいやつが多くてな」
喫茶店の外でも同じではなかろうか。そう思いながら“
「受け取りましたが……直接討ったのはアランですよ?」
「アランの坊主にはもう下げたさ。魔族は全て敵だから良いって言ってたがな。マルグリットの嬢ちゃんは教会にいたんで入りづらくてな……お前たちから伝言してくれ」
「了解です。俺たちは準備を終えたら、王都に向かって出発します。なので最後に顔を合わせられて良かったです」
「あんた、先輩には丁寧ね……」
ミュゼが呆れたように言ってくるが、俺とて相手次第でですますぐらい使う。単に配慮したくなる相手が少ないだけで。
「本当は引き止めたいんだよ。魔族との戦闘に終わりが見えないから、三級以上は各支部に一隊ずつしかいないのが現状だからな。上位の世界ってすげぇ狭いんだぜ。お前さん方も、相手から既に知られていても驚かないようにな」
「それはまた……ウィッカにもいたのかな? 失礼をしたかもしれないですね」
「いたけど領主の飼い犬的な扱いだったから、多分会ってないわよ。冒険者業界って、ちょっと裏社会に片足突っ込んでるところあるから、活動する範囲次第でそういうこともあるのよ」
貴族という存在は横暴なところがあるが、昨今の情勢により「そんなに元気があるなら、前線に行け」と王家から言われるのを避けるため、あまり表に出てこないらしい。その分、使い勝手が良い腕を欲しがるわけだ。
「“水蓮”に“
「観光ぐらいはしますけどね」
「こことウィッカは見世物には向いてねぇからなぁ。食料街や港湾街ならまた違うんだが……ま、精々楽しみな」
ギヨームは立ち上がった。その声は男性か女性かはっきりしないのが常なのだが、低い声でアドバイスを送ってきた。
「
「ははっ、それは全員有り余っていますよ」
「どうも、お世話様」
「会ったら“水蓮”にもよろしく言っといてくれ。じゃあな」
細い体が遠ざかっていく。今から研ぎ澄ましているのか、その姿には微塵の隙も無い。そういえば“夜蝶”の切り札を見損ねた……もう見る機会は無いかもな。
話している間に茶は冷めていた。俺たちも立ち上がり、出発の準備を整えることにした。
「今度は単独で街を出れるよ。三級になったから身分が保証されるからね」
「なに、そんな便利な制度があったの」
「ありますわよ。それに三級ともなれば下手な騎士より実入りがいいですからね。金持ち喧嘩せずですわ」
「なるほどなー」
夜になって宿で食事を取りながら、今後を話し合う。といってもそれほど濃い内容ではない。
王都近辺では賊の類は出ないので安全な旅になる。というのも盗賊などが出れば嬉々として捕まえられて、公開処刑という見世物にされるからだ。都会って怖い。
王都は何も生み出さない……偉い人が法律やら禁令などを出したりはする……ので各街と同じく独特の気風がある。もちろん田舎者は見下してくるし、態度は悪い。それ以上に“流行”というものが幅をきかせている。例えば裏社会の義賊を描いた劇が上演されたときは、にわかアウトローが大量に出現したそうな。
なのでどんな目に遭うかはさっぱりわからない。城を眺めて、マルグリットが中央教会に顔を出したら早めに出る計画になっている。良くも悪くも王都は長居する街ではなかった。
「僕たちの足なら三日もあれば着くだろうね。邪魔は入らないし。それにしても最近は凄い発明がされているね。見てよコレ、湯で溶かせばそのままコクのあるスープになる粉だってさ!」
「何それ怖い」
「他にも色々仕入れたから楽しい旅になるね」
確かに少数での旅は、依頼場所への移動以外ではしたことがない。ウィッカからザリオンへは定期便に便乗したからな。それにしてもアランが楽しそうなのはいいこと……なのか? 前線へ近づくごとに元気になっている気がする。普通は逆だろう。まぁ目的ができて個人的には楽ではあるものの……戦闘ではもう少し冷静に判断できることを祈る。
「そういえば、アンタ。本格的に
「ああ、これね」
革鎧に着けてあるバッジを見やる。竜の頭を模した装飾が銅で造られている。冒険者組合ではなく竜解体屋から貰った証で、“一人で”竜を倒した人に贈られる。俺は下位の
「何かの役には立つだろう。アランは魔族殺しとか無いんだな」
「まぁ個人的な感情を置いておけば、敵軍の幹部ってだけだからね。それに多すぎて埋もれてしまうだろうし……二つ名としてそう呼ばれるよう努力するよ」
その努力は殺しなのが物騒なところだ。個人的には恨みも無く殺す俺の方が人でなしだろうけれど。
それにしても二つ名か。三級冒険者ともなればそろそろ呼ばれだしてもおかしくはない。格好いいのを希望する。
翌日、利用した店などに挨拶して回り、いよいよ出発を待つだけになった。ザリオンでの思い出は正直なところ、余り無い。“水蓮”に“夜蝶”と出会った場所というだけで気軽に去れる。
さて、次は王都だが観光するだけの予定だ。通過してからはいよいよアランの夢に向かって、動き回る日々が始まる。それにしてもアランには直接の仇とも言うべき炎の魔族がいるはずだ。そこに執着は無いのだろうか。
開門時間になった。三級と書かれた冒険者証を見せて、通過する。自分が偉くなった気分だ。
旅の終わりが見えて来た……そこからは出たとこ勝負といこうじゃないか。俺たちはこうして鍛冶街ザリオンを後にした。
感想・評価励みになります