大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
ザリオンから王都への旅路だが……びっくりするほど何もなかった。綺麗に道が舗装されていたのも驚いたのは最初だけだった。後は新しい携帯食料を味わっただけで終わった。
そして王都。流石にここは違っていた。防壁の高さはザリオンとは比べ物にならないほど。門にも無駄に装飾が施されていた。門番に冒険者証を見せて中に入ると、規則正しく動く人の多さにめまいがしそうになった。
「流石に多いな……ザリオンとウィッカを足したよりも多いんじゃないか?」
「それもだけど、熱気はあっても皆、整然と動いているね。これまでの街は人が多いところほど、雑多になっていたけど」
「それはわたくしでも知っています。王都は新規の居住者を受け入れていないのですわ」
教会への列に乗りながらマルグリットの解説に耳を澄ます。
王都というが魔族との戦争が始まってからは、田舎以上に閉鎖的な環境をわざと構築したそうだ。あらかじめ身元が保証された人間たちが書類で管理されて、その一族だけが王都に住む。ゆえに新しい店や家は誕生しない。物理的にも家を作るスペースももうないそうな。結果として人々は行き先への道順に従い、動くだけになる。
田舎と都会の逆転現象のような感じだが、それだけに人々は静かに流行を作り出し、ガス抜きをする。服やちょっとした動作に意味を持たせる。それに言葉もだ。動きが整然としているからといって人々の会話までは縛れない。閉鎖性と流動性を兼ね備えた街。それが王都だと。
「わたくしにはあまり関係がなかったですけれど、服や気風の流行に乗り遅れると恥ずかしいという風潮があるそうですわ」
「なるほど。それで今は何が流行っているんだ?」
「いくらマルグリットでも知っているわけないでしょう。最近はずっと私たちと行動していたんだから」
「あはは。田舎者なのは本当だし、多少恥をかくぐらいで丁度良いんじゃないかな。それにしても教会への道も随分と混んでいるね。流石は総本山なのかな?」
「いえ、流石にこの人数が礼拝に来るとは……」
巡礼者や観光客を含めてもおかしいそうだ。流石の俺もピンときた。これはつまり……流行っているんだな、教会が。なんで流行っているかは分からない。
「教会の劇でもウケたのかしらね?」
「教会って劇とかするの?」
「イサオは経験したことないもんね。僕が住んでた村なんかにも来てたけど、聖人のエピソードを紙芝居とかにして回ったりしてるんだ。大きな街なんかになると本格的な演劇でもおかしくないんじゃないかな」
「ええ、その通りですわ。敬虔な信徒ならば何度も見に来る方もいらっしゃいますし。ただ……不敬ですが流行になるほどでは……」
聖人列伝などは繰り返し行われている演目であり、大体皆があらすじを知っているので目新しさがないとのこと。俺はそんな本読んだこと無い、というかタムル山にそんなものは無かった。【師匠】からして信仰心が厚い様子は全然なかった。戦士の眷属神すら敬ってた覚えがない。俺も人のことは言えないが。
「最近、教会の人気が高まりそうなこと……あ」
「アランが何かに行きついた」
「うん。まぁ多分だけど、イサオも関係してるというか主犯だろうね」
何のことだ。俺がやったことで教会に関係することなんて……なんて……ああ、アレがあったか。教会はできるだけ完璧に事態を隠したが、人の口に戸は立てられぬとかなんとか。そこで劇か。政治というやつがコレか。
『おお、聖女よ……! 邪な企みは倒されました! これも全てあなたの導き……!』
『いいえ、勇敢なる騎士よ。あなたの信仰心の賜物です!』
大聖堂前の広間に舞台が設置され、そこでは劇が上演されていた。闇の力で人心を惑わす異端者、囚われの聖女、事態に気付き収拾をはかる聖堂騎士団。闇の力は麻薬で、聖女がマルグリットで、騎士が俺。ザリオンでの出来事は綺麗に塗り替えられていた。
さっきからアランとミュゼがプルプルしている。内情を知っていると面白くてたまらないだろう。くっさいセリフを吐く俺。聖女通り越してお姫様入ってるマルグリット。実名が出てこないのが救いだ。あ、マルグリットも真っ赤だ。
「ぷっ。あんた言ったの? 貴女の導きに従います! って」
「なんならお前にも言ってやろう。おお、ミュゼ! 貴女こそ闇夜の灯! その炎で道を照らしてください」
「気色悪いからやめて!」
「ぶふっ、やめようよ二人とも。イサオは結構落ち着いてるね」
「教会の騎士団がこんなことまでやるとは思っていなかったが……名前変わってるし、むしろ助かる。マルグリットは違うみたいだけど」
俺の役は騎士に変わっているから似ても似つかないものになっているが、聖女役の人には綺麗な巻き髪が覗いている。違いは修道服を着ているかどうかだけだ。そのせいでマルグリットは周囲の観客から、生温かい目で見られている。こっちが本人なのだが、熱心なファンみたいになっていた。
やがて劇が終わると、皆が喜捨箱に銀貨一枚を入れていく。たまにこっそり入れてない人もいる。王都というだけあってあれだけあれば、相当な稼ぎになるだろう。劇一回が外食一回分……安いのか高いのか。
「これは……お師匠様の仕業ですわね……!」
「フラーボス枢機卿だっけ。そんな細かい事するのか? いや枢機卿という言葉自体この前覚えたんだが」
「どう考えても僕らとは縁がない地位だし……銀貨集めて喜ぶ人なの?」
「喜びます! 少しでも利益をあげる機会があれば、逃さない人です! 文句を言いに行きましょう!」
「って、弟子のあんたはともかく……私たちには会えない身分の人でしょう。私たちは大聖堂を観光してるから一人で行ってきなさいよ」
「ぐぬぬ……今回は諦めましょう……エディットさんもいた方が良いでしょうし」
【師匠】の仲間だったフラーボス枢機卿か。興味が無いと言えば嘘になるが……旅の途中で出世のために離脱した人だとも聞いている。俺たち弟子の役割を知っているかどうかも怪しい。まぁ観光途中に会えるかもしれない。
大聖堂はザリオンにあった教会を五倍増しにした建造物だった。四本の四角錐が天まで届けと突き上げている。全体的に黒く作られており、魔の居城と言われたら信じてしまいそうだ。というか先にこっちが城だと言われたら俺は信じてしまいそうである。
「城というのはあながち間違いじゃありませんわよ。城砦としても機能するよう作られてますし……実際、高さだけ見れば、ほぼ王城と変わらないはずですわ。王都の建造物は全て王城より低く作られるのが暗黙の了解ですが、それを唯一許されるのが大聖堂なのです。神のましますところですから」
「外からは見ごたえあるが……中はどうなってるんだ?」
「一般の方が入れるのは大礼拝堂だけですわ。まぁあの大きさに詰める人数の生活の場でもありますから、他は見ても楽しくは無いかもしれませんね。造詣があれば、聖具保管庫はそれなりでしょうけれど……見どころがあるのはやはり大礼拝堂だけですわね」
「じゃあ大礼拝堂だけ見ていこうか」
「えー。ここまで来て説法なんて聞きたくはないわよ」
「今の時間は礼拝刻ではありませんから、内部だけ見れますわよ。と言ってもその時を狙って観光客が多いですから、皆考えることは一緒ですわね」
大きく開かれた扉は……ってマジでデカいな扉! 通る時横を見てみたが、鎖の巻き上げ機で動かしているようだ。内部は様々な色の共演である。高い天井には青を基調とした絵が描かれ、神話を表していた。奥には金や銀で造られた眷属神たちの像が並び、中央の最高神は高さが人間の三倍はある。
ただ、荘厳な空気の中なら感動できたかもしれないが、人が多過ぎた。一行で固まっているだけで精いっぱいだ。これはたまらない。早く出ようという時になって、フード姿の人物がマルグリットの横で何事か呟いた。
そして、マルグリットは外に出ようと合図を出して、俺たちを引き連れていった。
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