大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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兵の道

 フラーボス枢機卿から話を聞いた後、俺たちは予定を変更して王都で一泊することにした。まさか一泊で大銀貨が使われるとは思っていなかったが、流石は王都というところだ。ちなみに夕食の味は別に普通だった。

 今日、聞いた話は中々衝撃があった。【師匠】たちがまさか魔王を倒しているとは思わなかった。そして、それでも戦争は続いているということも。どうやら首一つとった程度で終わるものではないらしい。

 

 

「僕としては聞いても変わりない情報だったね。魔族は根絶やしにすべきだ」

「村を焼き払った代償は払って貰わないとね」

 

 

 物騒な意見だが、俺も魔族の所業を見てきているので反対する気はない。ただ、真正面から正々堂々と粉砕したいところではあるが。教会の敬虔な信徒であるマルグリットも反対はしなかった。

 

 

「方針には従うさ。ただ、魔族って何だろうなという疑問は消化したいかな」

 

 

 詳しい年代は知らないが、西方でかなり長い期間争っている。魔族も生き物なら手を休めたりしても良いはずだが……延々と続く地獄絵図。その理由を知りたいとも思う。少なくともそれだけの情熱をかける価値が王国にはあるということだから。

 魔族の地に何かがあるのか? それともこちら側に何かがあるのか? 王国軍は西の戦線に釘付けになっている。どちらかと言えば魔族の侵略を受けている側だ。ならば魔族側に欲するものがあるのか……答えは出ない。恐らくそれは俺だけではないはず。前線の人々すら知らない可能性が高い。

 

 

「行ってみて確認しなきゃな」

「ええ。わたくしたちの使命も不明のままですし」

 

 

 王都に来た意味がこれだけというのも寂しいが、一つだけでも収穫があったので良しとしよう。俺たちは子どものように話し合いながら、気付いたら眠りについていた。

 翌朝、出発の準備を整えて、さっさと王都を出る。物語なら王様から頼まれごとをしたり、お忍びの王族と出会ったりするものだが、そんな展開はゴメンなのだ。平民が貴族と出会っていいことなど一つもない、というのが一般的な考え方で俺たちもそれに倣う。目指すは西、兵の道。

 

 開門の列に並んだ俺たちだったが、周りは確かに兵隊だらけだった。戦力の補充なのか若い兵が多い。俺たちはそっとそういう面子とは距離を取って商人たちの列に近づいた。こっちは女性がいるのだ。戦を前にした兵の近くになどいられない。

 

 

「あんたら、高位冒険者かね?」

「なりたて、ですけどね」

 

 

 クッションに埋もれた、成金趣味らしき商人に話しかけられる。アランは無難に済ませるつもりだった。しかし、商人が食いついてきた。

 

 

「ほう、ほう。その若さで大したものだ。さらに西へ向かうという命知らずときたか。ここで出会ったのも何かの縁だ。儂らの専属にならないかね」

「残念ですが、それは無理ですね。血を求めて行くので」

「むぅ。報酬ならば弾むぞ、と言っても聞かぬ顔をしているな。実に残念だ」

「あんたら商人も十分命知らずに見えるがな。西に向かうのはあんたたちも同じだろう」

「ほっほっほ。商人は金のあるところには必ずいるものよ。雇うのは諦めたが、同道しないかね? 女性がいるので兵から離れておるのだろう。儂らも同じでな」

「そう言って体よく護衛に使う気ね。これだから商人は」

 

 

 兵たちが進む道に、敵が出るものだろうか? いや、敵からすれば増援を邪魔することもできるわけか。

 見れば他の商人も傭兵や冒険者を連れている。こういうのを商魂たくましいというのか。確かに兵を相手に商売すれば、儲かりはするだろうが乱暴者も多いだろう。そこに好き好んでいくのだ。大した度胸である。

 

 

「俺以外の三人を馬車に載せてくれるなら、護衛してもいいぞ」

「イサオ!」

「どうせ襲われたら戦いに首突っ込むだろう? 俺なら気配を察知して対応できるしな」

「個性的なチームじゃのう。まぁ食と水に関しても提供しよう」

 

 

 そう話して、俺は馬車の左側についた。そこが森との狭間だからだ。右に関しては腐っても兵士がいるので問題ないとした。

 そう思っていたのだが……

 

 

「あ、これ美味しい」

「王都から離れて少ししか経っていないのに、もう懐かしいですわね」

「料理も見たことがないものばかりだ」

「兵士も全員が酒好きではないからの。こうしたものを供するとかえってウケるんじゃよ」

 

 

 ミュゼとマルグリットは果実水を飲み、アランはコメだかなんだかの料理を食っている。なんだあの商人裕福過ぎるだろ! 俺は携帯食料を齧りながら黙々と歩いていく。自分で言ったことなので仕方がない。

 どうやらあの馬車は簡易店舗として使えるものらしい。見れば給仕の女性たちも見たことのない衣装や肌の色をしていて、高級感に溢れている。戦線のある西の領域は荒れ果てていると勝手に想像していたが、実は栄えているのかも知れない。

 まぁ死と隣り合わせなのだ。栄えていないとやってられないだろう。そう思いながら森を見る。

 

 

「三人とも念のために降りてきてくれ。商人さんは給仕入れて窓を閉めて」

「ほいきた」

「イサオ? ということは……」

「敵がいる……という段階だな。こっちに向かってきてるわけじゃないが……」

 

 

 それにしても商人も慣れたものだ。あっさりと護衛の指示に従う。見ればベテランらしき傭兵を連れている馬車は早々に閉じていく。知らぬは右手側の兵士ばかりなり。

 

 

「質はそうでもないですけれど、数が多いですわね」

「そんなに強いのがいても困るわよ」

「ということは狙いは……」

「まぁ指揮官がいるなら、お察しだな。他の連中も察したようだ……5秒で来るぞ」

 

 

 森から小型の人間のような魔物が飛び出してくる。アランもミュゼも真面目に迎え討とうとしたが……小人たちは俺たちには目もくれず、すり抜けていく。

 

 

「うわっ」

「敵襲ーー!」

「魔物ってこいつら!?」

 

 

 右側の兵士たちに群がって襲い掛かっていた。戦闘経験が少ない彼らは大慌てだ。さらに魔物が小柄なのが混乱に拍車をかけていく。上手く武器を当てることもできずに、足を掴まれて倒されていく。混乱の悪循環だな。

 一方のこちら側はそれを冷静に眺めていた。理由は様々だ。仕事を優先する者、兵士が嫌い、そして恐慌状態にある部隊に近づけない。武器を持って錯乱する兵たちを助けに行っても、その兵士たちに傷を負わされる可能性が大きいのだ。

 

 

「兵士っていってもあんなものなのね」

「四人組と百人体制を一緒にするのもどうかと思うけどね」

「どっちにしろ、こっちは動けん。護衛もあるからな……あの気配を相手に護衛できるか、という疑問もあるが」

「指揮官でしょうか? 同時に動かれたら全滅もあり得たでしょうに、訳が分かりませんわ」

 

 

 左手側の森に大きい気配が一つ。傭兵の中には雇い主を離れさせようとするやつもいた。

 ただ、非常に静かな雰囲気を放っている。まるで興味がないようだ。魔族にも規律から外れたやつがいるのか。アランは行きたそうだが、世話になった人を守るということでこらえてくれている。

 

 

「奇妙ですわね。戦う気配はないというのに、こっちを見てますわ」

「知り合いかもな」

 

 

 まるで気の利いていない冗談だが、向こうはこちらを知っているということはあり得るだろう。イマノルという魔人も最近倒したばかりだ。魔族も人間のように友愛があってもおかしくはないのだから。

 しばらくするとふっと、その気配は消えた。小人集団は見捨てるつもりのようだ。元より捨て駒なのだろうが、やはり冷徹な種族なのか?

 

 結局、部隊の混乱は小人を殺し終わるまで続いた。

 

 

『あれがイマノルを倒した連中か。二人ほど厄介そうなやつはいたな』

『よろしかったのですか? 仇を討たなくて』

『私がやる義理はないよ。仕事は終わったしね。悪いのも連中じゃなく、年寄りまで駆り出した上の者たちだろう。責任は自分たちでとることだ』

『さすがは閣下。上層部も恐れませんな』

『元、だよ。私も年をとり過ぎた。若い英雄の相手などやってられないよ』




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