大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
西の城砦コルネットに到着した。ここは一言で言うなら混沌だ。規律正しく整列した軍団の横で、腰かけて剣をのんびりと研いでいる傭兵がいる。地面に寝かされた負傷兵がうめき声をあげる横で、商人の屋台が煙を出している。いかつい鍛冶師が鉄を打ち付ける隣で、パンが大量に焼かれていた。生も死も、創造と破壊も、全てがここにあるのだ。
「道中、助かったわい。儂らは移動酒場をやるから、見かけたら来てくれ。歓迎するぞい」
「ええ、必ず行きますよ」
「それではの」
護衛していた商人とも別れ、いよいよ、ここでの生活が始まる。となればまずは冒険者組合に登録するところから始まる。都市ではないが、ここにも組合は存在した。ここで活動する冒険者のためでもあるが、貴重な魔獣の素材が真っ先に手に入ることと無関係でもあるまい。
掘っ立て小屋が立ち並ぶ区画の一番表通りに、ここの組合はある。扉を開けて入ると、冒険者組合らしからぬ静けさが充満していた。彼らは最低でも四級。選ばれて尚、さらなる危険に立ち向かう一流の集まり。新人だからといって侮る者はいない。
「移転登録をしたいのですが」
「ああ。答えなくてもいいが、戦場組か? 探索組か?」
カウンターにいるのは白髪をボサボサにした巨漢で腰に斧を下げている。服装からして彼が支部長だ。今でも現役で通用しそうな支部長は余計なことは言わないらしい。
探索組とは“水蓮”のように未完了の遺跡を攻略していくチームを指すのだろう。そして戦場組は言わずもがな。アランは迷わず答えた。
「戦場組です」
「そうか。戦場組は主に“勇者隊”と“傭兵隊”に分かれている。“勇者隊”は規律正しく華々しい。“傭兵隊”は孤立しないためだけの隊で、好き勝手やっている。好きな方に寄るといい。チーム単体というのはほぼ無駄だ。まぁ昔はそれでも武勲をあげてた連中もいたがな……お節介はここまでだ。良い戦を」
言葉はそこまでで、事務処理は淡々と進められた。最初は寡黙だと思っていたが、結構いい人そうなマスターだった。それにしても二択問題か……普通は“勇者隊”を選ぶ。安全だからだ。
ところが冒険者はチームごとに特色がある。軍隊のように振る舞えないチームも多いだろう。そこで“傭兵隊”のような存在が生まれたとみえる。
「“勇者隊”は規律正しい、っていうのは多分、職業ごとに分けるんだろうな。戦士は前衛へ、魔法使いは後衛へという感じに……それでもって、それだと……」
「鎖使いなんて世にも珍しいアンタはハブられるわね。マルグリットも前線か後衛か分からないけれど」
「前で治癒してる暇なんてないと思いますけれど……こうなるともう決まったようなものとはいえ、不安ですわ」
「そうだね。僕たちは“傭兵隊”の方がいいだろうね。離れ離れにならなくて済むし、これまでの戦法も使える。組合にいた人たちと同じように我関せずな人だとありがたいけれど」
「話がまとまったところで……どこで申し込むんだ?」
誰も知っているわけがない。その辺にいる冒険者に話しかけてみるか、と思い始めた頃に突然後ろから声をかけられた。
「お前たち、“傭兵隊”に入りたいのか?」
野太い声だった。そしてデカい。低くはない俺とアランでも見上げるかたちになる。魔物の毛皮のマントを羽織り、継ぎはぎだらけの鎧で全身を覆っている。武器は珍しい刃が両方にある双刃だった。総じて獅子を思わせる外見だが何か愛嬌を感じる。
そして何より……強いな。勝てるかどうか分からない。【師匠】に近い存在だ。流石にあそこまで人間やめていないようだが。
「はい。今日からこっちに来た“
「その名前、本気か……いや面白いやつらが来たな。“傭兵隊”の集まりはこっちだ。入りたいならついてきな」
俺たちは不用心にもついていくことにした。そうさせる魅力が大男にはあった。アランとはまた違う、自然と人が集まるようなカリスマだ。
つれていかれたのは物資の木箱が積みあがっている一画だった。箱の上に乗った男女が思い思いに過ごしている。奥には布の兵舎があり、そこの椅子に大男はどっかと腰をかけた。
「ようこそ“
「これはまた凄い偶然だな」
「そうでもない。俺たちは規模としては“勇者隊”には及ばないからな、常に人を探している。商隊が着いた日ぐらいは探す気になるだろ」
「オヤジ、そんな不吉な名前の連中を入れるのか? それにお上品ぶってて気に入らねぇ」
兵舎に入ってきた少年がそう言う。個人的には好ましいと思った。疑っている理由は隊のことを思ってのことだし、外から見れば比較してお上品にも見えるだろう。嘘がない、というのは美徳だ。
「は。お上品ぶってるんじゃなくて、実際にお上品なのよ。アンタみたいなチンクシャと違ってね」
「チン……! て、てめぇ、覚悟はできてるんだろうな……!」
「アンタこそ丸焼けになる覚悟はある? 今日の夕食に並べてあげるわ」
「ちょ、ちょっと、ミュゼさん」
「やめとけラーク。大体お前は“傭兵隊”じゃねぇだろうが。前線に出るのは三級冒険者以上だぞ」
ミュゼが煽りに煽ったラークという少年は三級ではないらしい。それでは今のミュゼに勝つのは難しいだろう。それに言ってはなんだが、才気が感じられない。まぁ俺も【師匠】に強制的に強くされたクチなので、可能性がないとは言えないが。
「で、でも四級になれば仕事はできる!」
「それも随分と先の話じゃねえか。大体いつも言っているだろ。“傭兵隊”になんて憧れるんじゃねぇよ」
少年は顔を真っ赤にして、泣きそうな顔で出て行った。ブライアーは髪をがしがしとかきながら参ったように、視線を下に落とす。気まずそうだが、ミュゼの口の悪さが発揮されたこっちも気まずい。
「悪いな。身内の話なんざ見せちまって」
「こっちも身内が大人げないところを見せたし、お互い様でいいんじゃないかな」
「なによ。アランも分かってるでしょ、ああいうのは最初にガツンとやるのよ」
「思ってたよか馴染みそうだな。アイツも悪気があるわけじゃねぇんだよ。許してやってくれ」
「ははぁ。察するところラーク少年はここで生まれ育った?」
ブライアーはまた頭をかいた。困ったときや照れたときのクセらしい。どうにも愚痴をこぼしたいようだ。
「ああ。普通は二級に三級か、裏方仕事の四級がここに来るが、たまにいるんだよ。ここ以外知らないってやつがな。そんでもってアイツは昔、俺たちを見て憧れちまった。ここに入ろうと躍起になっているわけだ。普通は“勇者隊”に憧れそうなもんだが……話が逸れたな俺たちは自由な戦士だ。実力があれば歓迎する。よろしくな」
「試さなくていいのか」
「見りゃ分かる。お前たちもそうだろうが。特にそっちの二人は」
「俺より強いやつはあんまりお目にかかれないから、不思議な気分だよ」
「ブライアーさんは二級冒険者なんですの?」
「いや、そこを聞かれると弱いんだが……一級だ」
これには驚いた。一級冒険者となるともはや伝説的な存在だ。それにしては気さく過ぎる気もするが、実力と性格が連動するわけでもない。冒険者勢力の片側を率いているのは伊達ではないということか。
「“勇者隊”の隊長も一級冒険者だ。ただなぁ……昔の一級冒険者に比べると今の俺たちは小粒な気がするんだよ。部下の手前あんまり言えないがな。魔族もそんな感じがする。長話しちまったな。あっちのナイフをぐるぐる回しているヤツに言って、テントを貰ってくれ。ここらは俺たちの縄張りだからな。どこに建てても構わん」
陽気な集団というわけでなく、夜中も酒を飲み騒いだりしない。不思議な愚連隊に俺たちは入隊した。
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