大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
朝日が見えたのを感じて、目を覚ます。アランはまだ寝ている。“傭兵隊”はまさにアランが言っていた我関せずな集団だったが、男女の別ぐらいは付けるらしくテントは二つ貰った。装備を身に着け、外に出る。
この半ば占拠された物資集積所は使われなくなった城壁の近くにある。たまにはお日様でも拝もうか、とボロボロの階段を登っていくと先客がいた。隊長であるブライアーだ。
ブライアーは軽く手を挙げて挨拶とした。
「よう。朝、早いんだな」
「田舎で暮らしていたら、自然とそうなるよ。特に朝飯を狩りにいかなければいけなかったりすると」
「こう言っちゃなんだが、少し憧れるな。俺は生まれも育ちも傭兵だったからな」
「生まれも?」
「団付きの娼婦が身ごもったのさ。まぁたまにあることだ」
そうか、とだけ返した。ブライアーは自分の生まれを卑下していない。ただ、普通の家庭に生まれたかったというのも本当なのだろう。その思いは両立する。
俺とて現状に不満はないが、できるなら金持ちの家に生まれたかったと思わないでもない。
ブライアーは楽し気に朝の様子を見ている。俺はまだ見慣れていない景色だ。砦の人々は、ぼつぼつと起き始めている。そんな光景、ブライアーは数え切れないほど見てきているだろうに。
「何がそんなに楽しい?」
「楽しいし、嬉しいさ。俺がこの手で守っている光景だ」
傭兵というのはもっとドライかと思っていた。金で動く連中だと、正直今も思っている。だが、ブライアーは違うらしい。己の仕事に誇りを持つ。まるで職人のような男だった。
ブライアーはすっと人差し指を立てて、遠くを見始めた。何を見始めたのか良く分からない。その方角にあるのは城砦だからだ。
「砦を見て何かわかるのか?」
「見ているのは砦の先さ。月並みだが、今日は死ぬにはいい日だな」
超常の力を持つ者の感覚とでもいうのか。ブライアーはどうやら今日が戦いになると思っているらしい。俺にはその光景はまだ見えない。本当かどうか疑ってさえいた。
そう思った瞬間、鐘が三回鳴った。
「鐘が一回は単なる時刻の知らせ、二回は兵どもの集合の合図、三回は襲撃の兆候ありだ。三回以外は覚えなくていいな。飯を食う前で良かったよ」
「別に腹を刺される気はない」
「へぇ」
腹に食事が入ったまま深い傷を負うと、それが原因で死ぬことがあるという。といっても基本的に一対一で気を付けることで、決闘の作法のようなものだ。
ブライアーは俺がそれを知っているのが嬉しかったようだ。
「よし! 野郎ども! 戦の時間だ!」
「「「へーい」」」
なんとも締まらない軍団であるが、行動は素早い。寝ていた連中もサッと起きて装備をすませる。こちらもアランたちが合流してきた。ブライアーはアランの肩に手を回して歌い出しそうな調子で言った。
「“
ブライアーの周囲にも三人の仲間が集まる。口まで黒い布で隠した女戦士は珍しい逆手刀を持っている。子どもにしか見えないような人物が一人。弓……だと思われる巨大な木材を持っている男が一人。流石は一級冒険者チーム。癖が強い。
流れに乗るように城砦の外に出てみれば、こちらの勢力は四つに分かれていた。整然とした“勇者隊”が左翼。中央には正規の兵たちが。そして右翼に“傭兵隊”が固まり、城壁の前には経験の浅そうな兵たちが群れを成している。
対する敵軍は……横陣をしいている。しかし、その様子が異常だった。漆黒めいた全身鎧を着た兵士のような存在が、そっくり同じ形で列を作っている。まるで判を押したように同じ姿で、これまでに見た魔獣などは一つも見当たらない。
「敵兵のアレは……何なのですか」
「サクラスと軍では呼んでいるね。魔獣を改造して同じ姿、同じ能力に押し込めた存在さ。ただ殴りかかってくるだけだが、余りに揃い過ぎてて完璧な連携を駆使した攻めに優れる。反面、同一存在をかばうという発想もないから防御力はやや控えめだよ」
ブライアーのチームにいる少年が教えてくれる。堅牢そうな見た目がズラリと並ぶ姿は圧巻だが、逆に攻めで強く守りでは弱いという。いずれにせよこれまでの経験にない敵だ。
「魔族はどこにいるんですか?」
「大体後方だね。思念であれらを操作する指揮官役だ。下位魔族がサクラスを操り、その下位魔族には総指揮官……中位の魔族が命令する。上位魔族は滅多に出てこないけど、出てきたら一人で戦うのは止すんだね」
「出てきて欲しいですね」
「またアランの悪い癖が出てるな。今は俺たちも組織にいるんだし、周囲に迷惑をかけるなよ」
アランの性根からすれば陣をぶち抜いて魔族を直接狙うだろう。そこまで突出してしまえば、助けようとする味方が出て、バランスを崩してしまう。さてどうしようか。
「ミュゼ、マルグリット。俺たちは初陣だ。アランも俺たちで足並みを揃えさせるぞ」
「そうね。考えてみれば、アンタもマルグリットも戦場に出たことはないのよね」
「どんな場所であっても、防いで見せますわ」
どうせ未経験なのだ。とりあえず一塊になることだけ考えて、後は死なない程度に活躍しよう。魔族皆殺しを掲げるアランには一度くらい我慢してもらおう。
そこまで考えて、自分が自然と最前線にいることに気付く。正確にはブライアーの少し後ろだが、陣形もろくに整えない“傭兵隊”では頭一つ抜けた位置にいる。
初陣で最前線という状況でも、俺たちはパニックには陥っていない。
「さぁて、そろそろ始まるぞ。俺たち“〈
そういえばブライアーのチーム名もパーティメンバーの名前も何も知らなかった。“〈
つまらないことを考えて、最前線で名乗りをあげられてしまったことから思考を逸らす。
そんなことをしても、どうあっても活躍せざるを得なくなった状況に変化は見られない。
「じゃあ、行くぜ野郎ども!」
号令と共に駆けだした。命令された感覚はない。ただ、自然とそうなっている。これが一級冒険者か!
敵もからくりじみた、完璧に揃った足並みでこちらに突撃してくる。こちらとあちらが互いに近づいた結果、恐ろしいほど早く相手と接敵する。
ぶつかる! と思った瞬間、目線が合ったサクラスの顔がはじけ飛んだ。ブライアーの仲間が放った一矢の威力は据え置き型の弩もかくやといったところで、貫通して三体ほどお亡くなりになった。
そこで逆刃使いが回転しながらそこに割り込む。今度は左右の敵の首が飛んで、陣に凹ができあがり……そこへ向けての。
「そうりゃぁ! ハッハッハァ!」
ブライアーの剛閃。敵側に穴ができたが、彼は両刃使いでもある。女剣士と合わせて回転しながら穴がどんどん広がっていく。
「これは負けてられないな。イサオ、ミュゼ! 混乱を広げよう! マルグリットはミュゼと僕の守りを頼んだ!」
「そういうことなら……」
サクラスの拳が迫る。武術家のような鋭い一撃だ。なるほど三級冒険者が戦線に出る意味が良く分かった……で、だから?
鎖使いに向けて四肢を差し出すなど、縛ってくれと言っているようなものだ。一体のサクラスは雁字搦めにして振り回すだけ振り回してから、敵のどこかに投げ捨てる。これでどこかの誰かも楽になるはずだ。
「〈ファイヤーレイ〉! 〈ファイヤーレイ〉! 〈ファイヤーレイ〉!」
ミュゼは噴水のように熱線をまき散らしていた。とにかく相手の整列を崩せばいいという発想の下に、速射を重視して放っていく。熱線を絞り、杖に付けた魔導具による低燃費の術をばら撒く。
隙だらけなので当然、近くのサクラスがミュゼに拳を振るうが、それは甘い考えだ。
絶対の守り手マルグリットの盾が精密な一撃を、更に精密な動きで防ぎ。返す刃ならぬ鈍器で相手の頭を殴り飛ばす。
「驚いた。やるようになったな、あいつ。戦場向きなのか?」
わけても驚くべきはアランだろう、サクラス一体一体の力量は決して低くない。それを一体ずつ黙々と切り倒していく。この状況で群がられないのは常に次を考えて動いているからだ。
その剣技の熟練度は俺に近いとさえ言えた。
「だが、派手さが無いな。その分、盛り上げるか」
俺はミュゼと同じく、サクラスを次から次へと放り投げる方向に転換した。なるべく先導しているブライアーを邪魔しそうなやつめがけて投擲する。そうすれば体勢を崩した敵など彼らの敵では無い。
気が付けば、“〈
その勢いのまま、ブライアーが奥にいた魔族を一撃で切り倒すと、周囲のサクラスたちの動きが一斉に精彩を欠きはじめた。右翼は“傭兵隊”が圧倒的に有利となったのだ。
「おう。ぼさっとすんな。次の現場が待ってるぞ」
ブライアーに頭をはたかれる。そうだここは戦場だった。自分たちが一回勝ったから終わりではない。後ろでは“傭兵隊”が思い思いに殺戮に耽っている。
それを尻目にアランと俺たちはブライアーに続いて進んだ。
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