大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
駆け付けた先、中央の兵団はぐちゃぐちゃにかき混ぜられていた。サクラスが防御に弱いといってもキッチリと連動して動くし、痛みを恐れない。正規兵にありがちな騎兵突撃をしてから、歩兵で制圧。という方法が通用しないのだ。
槍が腹に刺さった状態のサクラスが騎兵を馬から叩き落し、障害物に阻まれた馬は混乱して暴れまわり……会戦ではなく遭遇戦のようだ。
「ちっ、今日はハズレの日か」
「ハズレ?」
ブライアーは目の前の混乱に呆れたようだが、正規兵自体を貶める気はないらしい。
「正規兵は指揮官次第でかなり強力な戦力になる。逆もまたってやつだ。指揮官の名誉を求めて、トップが定まらないのさ。できるやつなら……そうだな。騎兵に槍を投げさせたあと離脱。歩兵で押しつぶしたりする」
「なるほど。そういう駄目な指揮官に限って、助けられても感謝しなかったりするんだね?」
アランの問いにブライアーは苦笑で応えた。最前線でも中々連帯感は生まれないのだろう。それを含めてのハズレ。それでも助けないといけないといけないのが辛いところだ。
さて、どうするかという顔をブライアーはしていた。助けに行くのは決定事項でもタイミングというものがある。こちらごと弓兵の射撃を受けたら目も当てられない。
「横入り、ではなく横釣りといこう。こちらの遠距離攻撃を横に打ち込んで注意を惹く。そうすれば、その隙に“勇者隊”が合わせて動く」
「対立派閥なのにえらく評価してるわね」
「末端の馬が合わないだけで、俺と“勇者隊”の隊長とはそれなりに友好的だからな。力量も信頼している。こっちが敵を抜いたのなら、あっちもそうだろう。おら、弓と魔法使い、出番だぞ!」
「「「へーい」」」
相変わらず気の抜けた返事だが、それなりの距離があるサクラスたちを正確に撃ち抜いていく。三級冒険者ともなれば当然か。
ブライアーの仲間も矢を装填し始めたのだが……
「何その何……?」
角材の前方を押し開くと弦と矢が装填されていく。恐ろしいのは弦が恐ろしく弾力性があることと、矢の太さだ。これが先ほどの戦いで一番に敵に届いた射撃の正体だった。
「グレンのボウガンは特別製だ。本来城壁の上に設置して使う物を無理やり携帯用にしている。あの装填は俺でもできん」
見ればグレンの腕は倍ほども怒張していた。その準備に対して、軽い引き金を引くとサクラスの首が三つ無くなった。それに対してグレンは不満そうな顔をしている。恐らく標的が脆すぎて、威力が無駄になっていることが気に食わないのだろう。
「どちらかと言えば対大型用といったところですね」
「まぁ非効率だな。実際、旅の時はそういう使いみちだったし……ドラゴンやゴーレム相手にぶっぱなすもんだな」
射撃は長く続いたが、指揮官が我慢できなくなったらしく、ついにこちらに兵力を分散した。当然、こちらも俺たち前衛が立ちはだかり、一気に掃除という末路は訪れない。俺はエストックをサクラスの顔面に叩き込みながら、アランと背を預け合っていた。無理やり抽出された敵と、好き勝手やる“傭兵隊”の前衛は乱戦模様だ。
「マルグリットはミュゼと一緒になって、とんでもないことやってるな」
「まさかの前衛魔法使い、だね。僕たちも合流しよう」
マルグリットの盾に隠れながら、ミュゼは炎をまき散らしている。危険極まるが、確かに敵の中央部分に穴は空く。流石に他のチームの魔法使いはここまで前に出てきていない。個性としか言いようがないと思う。
マルグリットがいない場合どうするんだアイツ。まさか俺が盾になるのか。
ブライアーと離れてチーム単位で戦う。鎖で陣形を乱し、剣によって斬られ、最後には炎で燃やされる。“
未だブライアーのチームほどの練度は無いが……そう考えていた矢先に、敵の陣形が大きく崩れ始めた。
これは……反対側からの攻撃だ!
『撃てぇーー!』
「うわ!? なんだこの大声」
「拡声魔法よ。お祭りとか式典で使われるのを、軍隊が使うとこうなるのね」
「軍隊じゃなくて、“勇者隊”ですけれど。あちら様は統率して戦っているのでしたわね。こっちにも分かってありがたいこと」
サクラスでなくとも両側から攻められれば混乱は避けられない。正確にはサクラスは混乱などしないのだが、指揮官の指揮が乱れに乱れる。
さて、我々はどう動くか? 指揮官目がけてさらに攻め入るか? 正規兵を助けに千切れた陣をさらに押しつぶすか? より取り見取りの美味しい状況だ。
『よし、お前らー。正規兵様を助けに戻るぞー』
おや意外な判断。ガラの悪い彼らは手柄を求めて先に進むと思っていたが、それは誤りのようだ。俺たちも隣のブライアーの“
「おう。来たな。使えるぞ“
「そうでもない。うちのリーダーは魔族を殺しに行きたくてたまらないクチだから、説明が要る」
「あ? あー、そうか。ここの戦いはこんなの日常茶飯事だ。だから、ぱっと見で弱く見えても支えているのは正規兵なんだよ。俺たちの数は中々増えないしな。あの連中も一度経験すりゃ次はまぁまぁ使えるようになる」
なるほど。納得がいくものだった。早いと言われた俺たちでも三級冒険者になるには、それなりの時間を経ている。だから損害はそうそう補充できない。負けたとはいえ今日の状況も、兵士たちが作ったものだ。主役はあくまで彼らか。
「だ、そうだアラン。諦めろ」
「……」
「黙らないでよ。怖いんだけれど」
「ああ……分かっているよ、イサオ、ミュー。隊に所属した以上、勝手は許されない。最終的に魔族が滅びれば、それでいい」
こっちは納得がいっていないようだ。だが、アランが全ての魔族を殺すなど、そもそも不可能なのだ。飲み込んでもらう他ない。
マルグリットが盾を構えて先頭に立つ。
「お話がまとまったところで、行きましょう。道中の攻撃は全てわたくしが受けきって見せますわ」
「無茶苦茶するなぁうちの盾役は。まぁ確かに味方の矢が一番怖いが」
マルグリットが声をかけたのも、不毛な会話を断ち切るためだろう。今一番冷静でいられるのは彼女だ。
感謝しつつ彼女の影に隠れる。いざという時は俺も鎖を回転させて、防御に加わる必要があるだろう。
“
“傭兵隊”の支援が始まる。各チームにまとまっているため、動きはバラバラだが、それがかえって大激突や斉射を受けない利点となっている。各チームは防御のやり方も違う。全員が剣士で矢を叩き落しているチームすらいた。
先頭を行く“
「〈プロテクション〉ね! 本来、一瞬だけ防御する魔法だけど……自動的にしてるのか、それとも常に発動しているのか……どちらにせよとんでもないことだわ」
「それは良いが、放火魔の本領を発揮してくれ」
サクラスはしばらく背後にまるで注意をはらっていなかったが、突然半分が向きを変えた。指揮官の命令が届いたのだろう。だが、そこからは序盤の焼き直しだ。
俺はサクラスを捕まえて、振り回す。マルグリットとミュゼのコンビが敵を焼き払う。強いて言えばアランが前に出過ぎていたが、ストレスの発散か。俺はアランが負傷しないよう敵より彼を見ている羽目になった。
しばらくすると、人間の兵士と出会った。気が付けば互いにすりつぶし終わっていたらしい。兵士は若く、泣き出しそうな顔をしている。俺は彼の肩を強く叩いた。
そのとき“勇者隊”の報告が飛んだ。総指揮官を討ち取ったと。アランの顔が喜びと悔しさで、奇妙な表情になっていた。
まぁいずれにせよ……俺たちは初戦を生き残ったのだった。
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