大体レベル70くらいの新米冒険者!   作:松脂松明

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初報酬って普通はこんなに高くない

 約束していた一週間は過ぎ、俺たちは無事に鉱山街ウィッカへと戻ってきた。戻って来る、というぐらいにはこの街を拠点としている気分が出てきたようだ。

 行きと違うのは俺が狼の皮と、バーゲストから採れた物を背負っているぐらいだろう。俺ばかり力を出しているのは適材適所もあるが、村で狼を相手にすることが分かったときの詫びだ。正直、俺はアランとミュゼのどちらかが死ぬだろうと思っていた。結果は二人とも自分の身ぐらい守れることを証明した。そこに少しの罪悪感を覚える。

 

 

「西のバザーに寄って狼の皮を売ろう。バーゲストの皮はどうするかな……俺たちが普通は倒せない魔物を倒した証になるんだよな?」

「倒したのはイサオだけどね。十級で相手をするような魔物じゃないことは確かだよ。角と鉤爪だけでも証拠にはなると思うけど……高値で売れたら皮は売っちゃおうか。イサオには悪いけど僕とミューはギリギリで生活してるんだ」

「ああ……装備もあまり良いものじゃなさそうだな。手入れは丁寧にするのが基本だぞ」

「うるさいわねえ。着替えがあるだけ私たちは上等よ。それに魔法使いの杖とかって高いんだから」

「……まぁ魔法使いに関してはよく知らんな」

 

 

 ネスタルさんなど、繊細な装飾が施されたマーメイドドレスっぽい服を纏っていた。アレは間違っても山に来る格好では無かったが、ほこり一つ無かった。あの人のことだから汚れない魔法とか知っていてもおかしくはない。

 現に【師匠】から貰ったこの革鎧も、不思議と臭ったりはしない。革が凄いのか、ワックスが凄いのか。それを判断する術は俺には無いけれども。

 

 

「でも西のバザーで皮を売るって……まさかあんた……」

「おーい、お婆ちゃん。また皮買い取ってくださいー」

 

 

 以前、熊の皮を売りに来た店へと一直線に行く。前回のやり取りで公平な買い手だと知っているからなのだが……なぜかアランとミュゼは遠巻きにしている。相変わらず不思議な圧力を放っているのは確かだけれど、近づかないほどではないと思う。

 

 

「ん……何だい、アンタ。生きてたのかい」

「お婆ちゃんが生きてる内は、俺も生きてるんじゃないですかね」

「口だけは一人前だね。今度は狼の皮かい。数はまぁまぁだが……鮮度が悪いねぇ。剥ぎ方もマチマチだ。これじゃ、そう高くは買い取ってやれないよ」

 

 

 皮剥ぎは手分けしてやったので、そこで差が付いてしまっているようだ。店主の好感度が下がった気配を察知するが、慌てない。おそらくこれで帳消しになるはずだ。

 

 

「そこで今回は珍しい皮が手に入りました。バーゲストの皮です」

「なんだって?」

「バーゲスト」

 

 

 老婆は素早い動きで俺が広げていた皮を引ったくり、丹念に調べ始めた。魔物だからか、バーゲストの皮は痛むのが随分と遅いようだった。魔力とかが関係しているんだろうか。

 とにかく黒い毛並みは撫でつけられたように滑らかだったし、獣脂もベタついていない。間違いなく高く売れる確信がアランと俺にはあった。良いものは高い。珍しいものは高い。相乗効果で価格は期待できる。

 

 

「ふぅむ……質が良い。トドメの傷以外無闇に傷ついてないのも良い。アンタら駆け出しだろうに、どうやってバーゲストを倒したんだい? コイツは狡猾で退くこともあるってのに」

「俺の得物は鎖ですからね。傷つけないようにするのもお手の物ってなもんで。で、いくら出してもらえます?」

「……狼の皮が銀貨五枚でバーゲストの皮が金貨三枚で、どうだい」

 

 

 金貨と聞いてアランとミュゼが身を固くした気配を感じる。どうやら金貨というものは銀貨とは圧倒的に差があるらしい。金貨三枚は俺たち一行で配分しやすい額で、そこも含めて好都合だ。

 だが、教わった者としてやらねばならないこともある。そう、交渉だ。

 

 

「もう一声欲しいですね。銀貨は十二枚では?」

「いらん知識を与えちまったみたいだねぇ。金貨はもう増やせないことは見切ったかい」

 

 

 別にそんな目端が利くようになったわけではないが、そんなことだろうと思ったのも事実だ。こうした値切りは細々とした数でやるのが基本だということを察したまで。この老婆が真っ当な商人であるという前提のもとでだが……これがたちの悪いやつ相手ならもっと大雑把になるかもしれない。

 

 

「まぁね。でもこのぐらいは、お婆ちゃんにとっては赤子の手を捻るようなものでしょう? 実際、俺の要求はごく僅かな値上げにすぎない」

「相場が分かっていないからね。アンタにあるのは熊の皮がいくらかという経験だけだ。ただ……弱点を連れて歩いていくるんじゃなかったね。アンタは均等に金を配分したい。だけど質の良い装備なのはアンタだけだ。だが、値上げには応じようかね。銀貨は九枚だ」

「それで引き下がるとして……銀貨三枚は貸しということでは」

「ハ! このババァに対していい度胸だ。貸しは無しだが、アンタを商売相手だと認めよう。これでも随分譲歩してるがね」

 

 

 布屋のお婆ちゃんに手を振って別れる。皮だけで金貨三枚となればバーゲストは良い金づるだ。狼の皮も売れたことは売れたし、小遣い稼ぎには丁度いいかもしれない。しかもバーゲストはまだ角と牙も残っている。なるほど、冒険者という仕事ができるわけだ。

 

 

「結構高く売れたな。しばらく飯には困らなそうだ」

「イサオ……あの人と知り合いだったのか?」

「うん? ああ、熊の皮を取引したことがあってな。そこで幾つか注意点を教わったよ。値段交渉とか」

「あんたねぇ……あの人、この西バザーの顔役よ?」

 

 

 なんと。そう言えば教えてくれた半裸の職人も少し気を遣っていた気がする。しかし、なら偉い人とお近づきになれたということで良いことではないだろうか。

 

 

「それは知らなかったが、魔物の皮の良い卸先ができたじゃないか」

「イサオは色々と規格外だなぁ」

「アランがリーダーなんだから、今度紹介しないとな。さぁ、今度はお待ちかねの依頼達成報告だ。俺にとっては初仕事が成功に終わったので、気分が良い。落ち着いたら報酬を分配しよう」

 

 

 俺たちは人通りの多いバザーを抜けて、冒険者組合へと向かう。

 

 一週間ぶりに顔を出したわけだが、組合長は入ってきた俺たちを見てニヤリと笑う。

 

 

「よう。報告は受けている……村から振り込みがあったという意味だが。あそこの連中、何やら苦い顔をしていたぞ」

「成功して欲しくなかったんでしょうや。相打ちが理想的な展開だったんじゃないですかね。戦利品も持ち帰ってきたんで、合わせてお願いします。アラン、後は任せた」

「ええ……ここにきて? コホン、村から依頼された期間の警戒は無事終わりました。それと、襲ってきた魔物の部位を鑑定して換金願います」

 

 

 ゴトリと音を立てて台の上にバーゲストの角と牙、それに鈎爪が置かれる。それを見て組合長は驚いた様子だったが、何やら俺を見て納得したようだった。まぁ【師匠】を知っているならさもありなん。【師匠】と比べればバーゲストなど飼い犬だ。

 

 

「バーゲストに出くわして生きている十級なんてのは、前代未聞だな。戦闘能力はともかく、あいつらはたちが悪いからなぁ……特徴も間違いない。報酬は直接渡しても良いが、パーティを組んだのなら組合預かりにもできるが?」

「じゃあ、預かってもらって良いですか。全財産を落とすようなことがあれば、洒落にならないですから」

「あいよ。だったら早いとこパーティ名を考えて、正式に登録するのを勧める。俺はイサオがいるパーティってことで区別しやすいが、遠くに行くとなるとそうもいかんからな」

 

 

 組合長の説明によると組合に預けた金は、別の支部でも引き出すことができるようになるらしい。随分と都合の良い仕組みもあったもんだと思ったが、組合は預かった金を元手にさらなる金儲けをしているらしい。いつか破綻しそうだ。

 

 まぁそれはともかく、ひと仕事終えたのだ。それぞれが銀貨を出し合って、盛大に飲み食いすることにした。




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