大体レベル70くらいの新米冒険者! 作:松脂松明
俺にとって、敵との殺し合いというのはごく当たり前のことだ。食うか食われるかが根底にあり、鉱山街ウィッカに来てもそれは変わらない。間に金銭を挟むようになっただけ。だから聞かれても困るということもある。
「冒険の果ての目標?」
仕事を終えて手に入った銀貨を使い、冒険者組合で飲み食い……俺の加入と仕事終わりの祝も含めてるらしい……しているときにその話題になった。それは俺にとって意味不明とさえ言える。冒険の目標は分かるというか、それこそ生活をするための仕事だ。だが、その先になにかあるかなどと考えたこともなかった。
「無いなぁ。飯食って寝床確保する。冒険者が駄目になったら猟師でもするって感じだ」
「あんなに強いのに? それはちょっと勿体ない気がするよ」
「と、言われてもだな。上には上がいるし、そもそも強くなるのは生きるのを楽にするためだろう?」
生きるために強くなる。それが道理だ。能力が高くなれば生存率が上がる。エールをぐいっと呷りながら考えてみるが、俺にはそれ以外何も無い。まぁ何か考えて生きている人にとっては、単純過ぎるのもかもは知れない。
だが周囲のテーブルで騒いでいる冒険者も、どちらかと言えば俺寄りの考えだろう。ただ、根っこを掘り下げると哲学的な話になりそうではあるが。
生きることを目標にではなく、手段にするほうが異常なのだ。
「ということはアランは日々の生活以上に大事なことがあるわけだ」
「ああ。今はここで足踏みをしているけど、必ず成し遂げて見せる」
それはまた難儀なことだ。成功確率も今のところは低いままのようだし、少しかじっただけだが冒険者は依頼に命を賭けることもある。それらを全部なぎ倒す必要がある。
「そんなことをこいつに語っても無駄よ。いくら強くてもケダモノなんだから」
「そりゃそうだろ。人も熊も変わらんし、バーゲストを見るに魔物も変わらん。より強いケダモノだから今日を生きれる。現にケダモノの俺が今回の仕事では役に立っただろう?」
「ぐっ。なんでアンタ、アホっぽいくせに口が達者なのよ」
というよりアホの俺に押される時点でミュゼが駄目だとしか思えない。とりあえずミュゼもアランと同じように考えていることが分かった。要は強さを生きる以外にも還元しろという話なのだ。
なんとなく想像してみるが、駄目だな。俺の思考は基本的に【師匠】譲りだ。【師匠】は生きる術しか教えてくれなかった。
「イサオ、その強さを僕たちに貸してくれないだろうか?」
「お前たちの目標ってやつか」
アランは真剣な顔だ。なんというか精神的には俺より高潔なので、若干ノリがズレる。
黒パンをシチューに浸してかじりつく。真面目な話になって素直に食事を楽しめない。
「ああ……僕たちは魔王を倒す」
アランの真剣な言葉に周囲の卓の冒険者たちがピタリと動きを止める。次いで沸き起こったのは爆笑だ。無関係な連中はアランの言った内容が心底おかしいらしい。
「新米が魔王を倒す? いやー、参った! この街から英雄が出ちまうな!」
「魔王より先にそっちの嬢ちゃんを押し倒した方が良いんじゃないか?」
瞬間、手が動いていた。
無骨な鉄鎖がアランを直接揶揄した二人の木製マグをぶち抜く。
「なにかおかしいか? あくまでアランの目標なんだから、アンタたちは黙って飯食ってりゃ良いんだよ」
「おいおい、新入りが喧嘩を売るつもりか?」
「もうとっくに売っている。買うなら早く買ってくれよ」
室内の全員を相手にするべく、片付ける順番を頭の中で組み立てる。鉄鎖術は本来、多数を相手にする得物ではないが【師匠】から教わった技術はそんな常識など覆す。
一触即発の張り詰めた感覚が肌を突き刺すが、ものともしない。最初に狙いをつけた男に鎖を放とうとした瞬間、大きな音が店内を震わせた。組合長がカップを台に叩きつけた音だった。
「ここでの争いは禁止だ。というより冒険者同士の殺し合いは基本的に推奨していない。未来を棒に振る覚悟が無いやつは抑えるんだな。それとイサオ、マグ弁償だ」
組合長の落ち着いた声と同時に、店内に気まずい静けさがやってきた。
だが、俺はあえて話を続けた。
「魔王ってなんでまた。それこそ勇者様やら英雄が戦っているんじゃないのか」
「よくある話さ。復讐だよ。僕とミューが生まれた村は魔族によって焼かれた。それもよくある話だろうけど、僕はどうしても我慢できない」
「実際に見てないアンタには分からないでしょうけどね」
「それはそうだ。俺には親も兄弟もいないし隣人もいないからな」
「……ゴメン」
謝られるのも気持ちが悪い。俺にとってはそれが普通だったのだから。
最初から無いものは失えない。ならばアランとミュゼの胸中はいかばかりか。俺には無い激しさが渦巻いていることは想像できた。だが、悲しいかな、人は生きるのに食わなければならない。未熟な二人はそれに足を引っ張られ、目標に向かうどころか研鑽を積むことさえできずにいたのだろう。今までは。
「良いよ。俺には目標も何も無いから、誰かに乗っかるぐらいで丁度いいだろう」
「本当かい!? ありがとう、イサオ!」
「ああ、ただ着いていけるところまでだ」
「どういう意味よ」
「そのままだ。多少腕に覚えはあるが、いくらなんでも魔王って呼ばれてるやつより強いはずはないだろう。俺は今より強くなれるか分からん。お前たちと違ってな」
俺が現状の強さは【師匠】あってのものだ。絶対に越えられない壁があればこそ、成長できたと言って良い。アランとミュゼが本当に魔王を退治できるところまで行けたのなら、その時俺は……まぁそこで考えればいいか。
「じゃあとりあえず、三級を目指さなくちゃな。そこから未知が始まるんだろう? まぁ俺にとっては大抵が知らんものばかりだけれど」
「あははっ。イサオはもう三級ぐらいの強さがありそうだけどね」
「俺は世間知らずだから、そこを考えるとそこまででは無いんじゃないか。まずアランはパーティ名を考えるところから始まりだなぁ」
「アランのネーミングセンスだと凄い大仰なのが出てきそうね……」
「そうなの?」
その後、食事をしながら各人アイデアを出し合ったが、確かにアランの発案は凄かった。〈闇夜を舞うフェンリル〉とかせめて駆けてくれと思ったし、〈魔を打ち貫く嚆矢〉とか弓使ってるの一人もいない。
かといって俺にもその手の才能は無いようだった。地味というか単純なものしか出せなかった。
必然、ミュゼにお鉢が回ることになる。魔法使いなんだし、頭を使うのには慣れているだろうと期待する他無い。彼女はパーティ名は後から変更がきくとあっさりとしたものだった。
「〈
「後から人を入れたらどうするんだ」
「別に。追加しても構わないし、大きく変えてもいいわよ」
というわけで〈炎縛剣〉を名乗って活動することになった。三人とも酒が入っていたのもあり、やや格好つけた名前だ。しかし、この名前を考える限りミュゼは火の類しか魔法は使えないんだろうか。
二人は自分たちの寝床に帰り、俺は組合の中の客室を借りた。銀貨一枚取られたが……依頼料を考えるとしばらくは火の車のように働かなければ元は取れないだろう。やはり熊を狩った方が割に合う気がする。
ともあれパーティ名も決まり、俺たちは昇格を目指して依頼を次々と受けることにしたのだった。十級の依頼は華やかさとは無縁なので、早々に脱したい。
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