キヴォトス生徒、スタンド使い概念   作:砂糖多呂鵜

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 遅れてすみませぬ、けっこー無理やりかも。
 


砂狼シロコと悪霊 その①

 

 

 ブローノ・ブチャラティ…  

 先生はそう名乗った。 

 

 

 
 後で知ったところ、イタリアのネアポリスという街の、小さな漁村で生まれ育ち、日本語はキヴォトスに来てから覚えたとの事。

 好きな音楽はマイルス・デイビスというジャズ・ミュージシャンで……

 父親は漁師であったらしい。

 年齢については、なんだかぼかされたものの、二十代後半を超えていないことは明らかだった。

 『先生』になったのは、このキヴォトスが初めてのようだった。 

    

 

 

 私たちとそう大きく歳が離れていないけど…

 先生の立ち振る舞いや言葉は、その肩書に何一つ恥じ入る所が無いほど洗練されていた。 

 二十年は修羅場を潜り抜けたかのような、歴戦の武道家とも思えるような、

 無言の凄みがあった… 

 

 

 

 そしてこの先生の『存在』が…

 私に、自分の運命を気付かせることになる。 

 

 

 

砂狼(すなおおかみ)シロコと悪霊(スタンド) その①

 

 

 ブロロロロォォォォォォォ 

 

 

「____この前の偵察が確かなら」「この道を真っすぐ行った先に、ヘルメット団の『前哨基地』があるはずだよォ~」

 

 ヘルメット団の襲撃を退けた後。

 アビドスの面々は、ブチャラティ先生が運転するジープに乗っていた。後部座席のホシノが話しながら、スマホの地図アプリを操作して、あるポイントに目印をつける。

 

「向こうもまさか、今日のすぐで反撃してくるなんて思わない……」「ホシノ先輩にしては、理に敵った作戦ですね◎」

 

「うへェ、その反応はいくらおじさんでも傷ついちゃうよォ~」シクシク

 

 荒れ果てた街の道路を進みながら、彼女らは軽口を叩きつつ作戦を話す。

 

 先のヘルメット団襲撃は、今回が珍しいという訳ではない。ここ数か月にわたり、数日毎のサイクルで、何度もアビドス高校に襲撃を掛けてきているのだ。

 彼女たちの物資の不足は、この連続した襲撃に依るところが大きかった。

 なれば、先生の介入によって物資が補給できた今のうちに、基地を叩いてしまおうという話になったわけである。

 

「……」

 

「シロコ先輩?どーかしたんですか?」

 

「っ、ん……何でもない、大丈夫」

 

 セリカの言葉にそう返すシロコだったが、彼女の頭の中は今、混乱の中にあった。

 先ほど彼女から現れた、『謎の幽霊』……いや、幽霊という表現が正しいのかも分からないがとにかく、その幽霊の事が、ずうっと頭の中にこびりついてしょうがなかった。

 

 

 

 『自分の身体に何かが起こっている』……

 それは、間違いない 

 

 

 

 でもこんなとびッきりの『ホラー』みたいなこと……

 皆にどう説明すればいいの……

 

 

 シロコの心の中は、例えるならば暗い洞窟の奥でたった一人取り残された、開拓者のように孤独であった。

 誰も、自分の身に起きていることが分かっていない……

 

 自分だけが見える『世界』。

 

 そんな、モテない中学生がノートの端っこにでも書いていそうな言葉が、これほどの恐怖の質量を持つとは、予想だにしていなかったのである。

 

 シロコは恐怖を紛らわすように、窓の外を眺めた。

 ジープが走り去る外の景色には、荒れ果てたコンクリートと、砂が広がるのみである。

 

 ここが『()()()()の世界』……

 時が死んでしまった街。

 

「……荒れているな」

 

 ポツリと一言、ブチャラティ先生が言った。

 窓の外を見るシロコの視線と呼応したかのようだった。その言葉が気にかかったのか、後部座席に座るセリカが口を開いた。

 

「……えェそうよ。この砂漠化でみんなアビドスから逃げてった。残ったのは私達五人。

 立て直すために対策委員会なんて言ってやってるけど、正直五人だけじゃ、学校を守るだけで手一杯」

 

「オマケに…」「すごォく難しくてツマンナイ『問題』があるんだよねェ」

 

 ホシノが口を挟む。

 その単語に心当たりがあるのか、アビドスからの遠隔通信で参加していたアヤネがハッとした表情になった。

 

『ホシノ先輩っ、それ言っちゃうんですか?』

 

「別に隠すようなことじゃあないしねェ。

 私たちがどーこーしてこうなった訳でもないんだしさァ〜」

 

 やはり間延びした口調のホシノに、ブチャラティが視線を細める。

 

「『借金』、の事か?」

 

「……うへェ、知ってたんだ」

 

「『それ』がある、という事実だけだ。幾らこさえていたのか、そこまではまだ把握していない」

 

「そ。ざっと『9億』の借金。

 過去のアビドスが残した負の遺産」

 

 ホシノが両手の指で9を表しながら、神妙そうな声でそう答える。

 その言葉に、ブチャラティは少し考え込むような様子をしてから首を傾げた。

 

「ちょっと待ってくれ。『9億』……だと?」「『リラ』ではなく、『』で……9億だとッ!?」

 

『正確には『9億6235万円』です」「数十年前、このアビドスで『想像を絶する砂嵐』が起こりました』

 

   奥空アヤネが語ったことは、ヘルメット団などという下っ端のチンピラよりも、遥かに『理不尽な厄災』とでも言うべきものだった…  

 

  度々、小規模ながらアビドスで起きていたその砂嵐は

 数十年前のある時、突如として、荒れ狂うような凄まじさで以って、アビドスを襲った。

 

 学区の多くが砂の中に埋もれた。

 『交通』『通信』『生産』…

 あらゆるインフラが、ただ一度の砂嵐のために崩壊したのだ

 

 この状況を解決するために、当時の生徒会は多額の資金繰りに走った。

 想像以上に難航した末、頼ったのは阿漕な闇金業者。 

 

 更に不幸なことに、その後立て続いて巨大な砂嵐は頻発し…

 ついにその砂は、『アビドス領土の半分』を覆いつくし、最早生徒たちではどうにもならないほどになったのだ。

 そして借金もまた連動するようにして、見る見るうちに膨れ上がったのである。  

 

 アヤネが事のあらましを話し終えると、ホシノが再び口を開いた。

 

「……ね?ツマンナイ話だったでしょ」「しょォ~じきなトコ……もう『利息』を返すだけでも手一杯なんだよねェ」

 

「……そういう、ことだったのか」

 

 ホシノの言葉の中には、幾度味わったのかも分からないような、諦めの色が混じっていた。

 

「『そういう事』?えェそうよ。『そ~いう事』よ!

 何ベンも同じこと言ってたわ!そんな台詞を吐いた『大人たち』は、誰もアタシ達の事なんか気にも留めなかったッ!!」

 

「セリカちゃん、落ち着いて!」

 

 堪りかねた、セリカの叫び。

 ノノミが止めようとしたが、ブチャラティがそれを手で制した。

 

「助けてくれたことには感謝するわ。

 でもね、この『借金』は、私たち『アビドスの問題』なのよ!

 今までだってそうしてきた!もしそれを、今更大人がどうこうしようってなら……

 私は『認めない』ッ!」

 

 それは、『社会から見捨てられた者』の血の叫びだった。

 大人という存在を、加害者か傍観者というものとしか見られない環境に育ったことは、明らかであった。

 

「……セリカ、お前の言葉は何も間違っちゃあいない。

 俺がお前の立場なら、きっと同じような台詞を吐いただろう」

 

 ブチャラティの物言いは、あくまでも冷静そのものだった。

 しかしその声音は、食って掛かったセリカの心をも、どこか包み込むような優しさがにじみ出ている。

 

「だが今の話を聞いて、なおさら『()()()()()()()()()』。

 そんな状況を、見て見ぬふりをすることはできない

 ……俺に、お前たちの『問題』に関わらせて欲しい」

 

 その言葉に、ホシノが静かに目を細めた。

 

「それがどぉ~ゆう『意味』か……分かって言ってる?」

 

「ああ。今のお前たちには、吞み込み難く聞こえるかもしれないが……

 俺は、自分が『正しい』と信じられる道を歩いていきたい」

「『学校』が、そんな理不尽のために潰れることなど、あっちゃあならない」

 

 ブチャラティのその言葉を、ホシノはじっと聞いていた。

 瞠目の後に、やはり変わらずにゆっくりと口を開く。

 

「……それなら私は、ずっと『見ているよ』

 

「ああ。期待に応えるとしよう」

 

 先生の言葉には、如何程の動揺も、虚飾も存在しえなかった。

 

「キャー♡そこまで言われちゃったら、頼るしかないですねぇ☆」

 

『先生…ありがとうございます!』

 

 ノノミとアヤネは、その言葉を真っすぐに受け止めた。

 

「ん……ありがとう、ブチャラティ先生」

 

 困惑の中にあったシロコも、この時ばかりは、ブチャラティに感謝した。

 完全に信用しきれたわけではないが……彼の言葉や、短いながらも誠意の感じられたこれまでの行動は、彼女らに僅かな安心を齎したのだろう。

 

「……」「フンッ!」

 

 セリカだけは納得いかないような調子で、腕を組み座席にふんぞり返ったが。

 と、その時。

 

間モ無ク、目的地周辺デス

 

「っ、あそこだ。全員、備えろ」

 

『ッ!』

 

 カーナビの音声が、浮足立っていた全員の意識を呼び戻した。

 

「この時を待ってたわ……ッ!」「全員、『嫌ァッ!』てくらいぶっ飛ばしてやるんだからぁッ!」

 

 血気盛んなセリカは、両目に闘志の炎をギラギラと燃やしながら叫んだ。

 相反するような冷静な声が、通信から響く。

 

『皆さん、直後でも気を付けてください。

 ヘルメット団に関する、『妙な噂』もありますから』

 

「『』?どーゆう意味、アヤネちゃん」

 

 セリカが聞き返す。

 

『ここ数か月、ヘルメット団の活動領域が急速に増しているんです。

 今までは勢力の差があっても、ハッキリ言って『下っ端のチンピラ集団』の域を過ぎていませんでした。

 それがどんなマジックを使ったのか、急に戦力が増してきていて、各地でも鎮圧に時間がかかっているようなんです』

 

「……」

 

 アヤネの言葉に、ブチャラティは思案を巡らせる。

 彼女の言うとおり、キヴォトスのチンピラ集団であるヘルメット団の行動は、ここ数か月でより苛烈なものとなっていた。

 

 

 止むに止まれない不登校生徒による団員の増加は、減少してきている。

 全体の母数としても、少なくなってきているはずだ。

 だのに……戦力自体が増えている理由は…… 

 

「……」

 

「?」

 

 ブチャラティの顔に影が差しているのを、ノノミは不思議がった。

 

 

 ◆

 

 アビドス郊外 工場跡地 

 

 

 

 

バンバンバンバンッ!! 

 

 

 

 カタカタヘルメット団の『前線基地』___アビドス高校から少し離れた場所にある、砂嵐により放棄された廃工場の敷地に、複数の銃声が鳴り響いた。

 

「ん、口ほどにも無い」

 

「でも、やっぱり数が多いですッ(・_・;)」

 

 シロコが前進しながら交戦し、ノノミが機関銃を乱射する。

 絶え間ない銃撃が団員たちを押し返すが、相手もすぐに散開して応戦してきた。

 

「ッもォ~ッ!しぶといッたらありゃしないわねぇッ!

 給料でも出るってぇのッ!?こっちに寄こしなさいよ!」

 

「セリカ!相手の動きを崩すぞ。

 お前から見て右側にある、錆びた鉄骨を撃てッ!」

 

 タブレットに表示された情報と視界の戦場を交互に見ながら、ブチャラティが叫んだ。

 

「ッ!……やれば、『イイ』んでしょうねッ!?」

 

 セリカが僅かな逡巡の後に、交戦していた団員を退け銃弾を鉄骨にぶち込む。

 

 

ガガガガガッ!! 

 

                  グググゴォォォォ   

 

 

 鉄骨は弾丸の衝撃により瞬く間に倒れ、鉄板の屋根を巻き込んでいく。

 そして鉄骨の倒れる線上にあった廃車に激突。土煙とボロ屑が周囲に巻き散らかされた。

 

「なんだ、クソッ!」「前が潰されたぞ!?」

 

「ん、先生、セリカ。ナイス」

 

 団員たちが混乱した隙を縫うように、シロコが改造ドローンと共に突入。ドローンから放たれるミサイルと銃弾を撃ち込み、敵を確実に、穿つようにして仕留める。

 

「……ふぅいィ~~ッ!一先ず外のは片付いた、かなァ?」

 

 ホシノが一息吐き、一度盾を下げる。

 

「だが、まだ全員じゃあない」

 

 ブチャラティが周囲を見渡し、やがて敷地の中央にある、崩れかけたフェンスの向こう側の建物を指す。

 錆びたシャッターが半開きになり、周囲の空気ごと、建物の奥にある暗闇へ引きずり込まれていくような、どこか異様な雰囲気を漂わせていた。

 

「ふゥん!」「『前線基地』なんて大層な名前にしちゃあ……随分寂れた建物ね」

 

『いっそ眠ってるくらいに静かですね……』

 

 通信兼索敵用ドローンから、アビドスに待機しているアヤネの声が響く。

 確かに、あれほどの団員たちが出入りしていたにしては、人の喧騒などが全く聞こえてこない。

 

「皆、油断するなよ。」

「もしこの状況を『狩り(ハンティング)』に例えるなら……静かなのは獲物が掛かるのをじっと待っているからだ」「『自分は自然の中の一部さ』ってな……そうしてどこまでも、『狩るタイミング』ってのを待ち続ける」

 

「大げさねェ。所詮相手は格下のチンピラよ。アタシ達の敵じゃあないわ」

 

 セリカのその言葉に、ブチャラティが眉をひそめた。

 しかしそれは苛立ちからなどではなく、まだ世の中の広いことを知る由の無かった、子供に対して教え諭すような口調だった。

 

「____セリカ。お前たちが相手の事を憎んでるって気持ちは、分からなくもない。

 だが、『勝つため』に戦うのか、『守るため』に戦うのか____それを正しく認識しなければ、今の言葉はセリカ、お前自身を食いかねないぞ」

 

「ッ……」

 

 ブチャラティのその言葉には、単なる憂さ晴らしの説教とは別物の、重みがあった。

 セリカの事を見下してるわけでも、軽んじてるわけでもない。ただ、子供の行く末を案じる、奇妙な暖かさが存在していた。

 

「……フンッ、分かってるわよ」

 

「それならいい。____用心して行くぞ」

 

 そして前に進もうとするブチャラティの隣に、ホシノが歩み寄ってきた。

 

「先生も私達から離れないでよォ~?」「いざって時に守れないかもしれないからさァ」

 

「大丈夫さ。俺は『死なない』」

 

「……」

 

 ブチャラティの意味ありげな言葉に、ホシノはじっと視線を向けつつも、やはりどこか諦めた様子で、ショットガンと盾を構える。

 

「それじゃあ___行こうか」

 

 ホシノの言葉と共に、全員が自然と頷いた。

 

 

 ピチャッ、ピチチャッ

 

 

 工場の中は異様なほどに暗く、外部からの明かりが、板材やテープの目張りで不自然に遮断されていた。

 入口から入り込む明かりが、微かに内部の床を照らし___そこかしこに散らばった廃材や工具が、寂れてしまった時の流れを、否応なしに実感させた。

 

「く、暗い、ですね……;」

 

「こんなとこじゃあ集まって話すどころか、相手の顔すらわかんないんじゃないのぉ?」

 

「……っ」

 

「シロコ、どうかしたか?」

 

「っ、…ん、何でもない。ありがとう、先生」

 

 シロコは溢れ出る冷や汗を拭いながら、皆と共に足を進めていた。

 先ほどから、ヒリヒリと突き刺す冷気のようなプレッシャーが、シロコの肌を覆っていた。今日起こった奇妙な現象も併せて、シロコの精神は最悪の体調と言って差し支えなかった。全くもって大丈夫ではない。

 

「(吐き気を抱えながら、トイレを探して土地勘の無い場所を彷徨っている気分……スカッとは気分が晴れなさそう……)」

 

 転ばぬ先の杖のように、愛銃の『ホワイトファング』を強く握り締める。

 

 

  ピチャッ、ピチチャッ

 

 

「……泥?こんな場所で」

 

 先刻から聴こえた水音の方向にシロコが顔を向け、何か『黒い液体』のような物を見た瞬間だった。

 

 物事が始まる時。それは得てして、唐突な物である。

 

 

 

ズガシュギィインッ!! 

 

 

 何か硬いもの同士が『刺さった』ような音がした瞬間。

 

「なッ!?」

 

()()()()が、そんなッ!?」

 

 支援用に映像を飛ばしていたアヤネのドローンが、潰されたアルミ缶のように、空中で突然ぺしゃんこになっていた。

 少なくともセリカやノノミの目には、そう見えていた。

 

「何あれ……『ハンマー』…?」

 

 シロコの目には____大工や鍛冶師が使うような巨大なハンマーが、ドローン目掛けて上から落ちてきたように、見えていた。

 

「アヤネちゃんッ!?聞こえてる!?」「アヤネちゃァんッ!!」

 

「セリカちゃん、落ち着いて下さい!」「『スマホ』なら、アヤネちゃんに連絡できます☎」

 

「だ、駄目だよノノミ先輩、繋がんないッ! ……『圏外』って出てる!?」

 

 セリカが半ば叫びながらスマホを叩く。

 ホシノも焦ったようにイヤーピースを外してはめ直すが、ザーッという砂嵐のようなノイズしか返ってこない。

 

「電波妨害……っ!?でも、どうして?ただのチンピラ集団のヘルメット団が、こんな手を取れるとは思えない……」

 

 その時。

 

「……全員、下がれ」

 

 そう言い放つブチャラティの声が、低く響いた。

 

「先生……!?」

 

「いいから下がるんだ!

 また来るぞ……俺たちは既に____ッ!」

 

 その瞬間であった。

 

 

 

 

ズドロロロロロォォォオオオ!! 

 

 

 

 古い鉄の壁や床が、まるで『裏返る』ようにしてうねり、生き物のように軋んでいったのは。

 

()()()()()()()()()()()()

 

「な……ッ!?」

 

「何なのよ、これはァァァアアアアッーーーー!!」

 

 セリカの絶叫が、工場内に鋭くこだました。

 

 

 ◆

 

 

「____んッんん~~ッ!」「()()()()()()()だねェ、気分がいいよォッ!これも『アトちゃん』のおかげさねェ」

 

「あ、ありがとおォ、『ブランちゃん』」

 

 震えている工場の奥___ブチャラティやシロコ達が認識していないその場所で、二人の少女が身を潜めていた。

 二人とも黒いヘルメットを被っていて__一人のはヘルメットの後ろ、後頭部にあたる部分に『BLAN』とペイントを施している。

 ()()()()()()、と呼ばれたその少女は不敵な笑みを浮かべて、耳に手を当て()()()()()と呼んだ少女の頭をがっしがっしと撫でた、

 

「で、もォオ。大丈夫、かなァ~!?」「これでっ、良かったのかなァア~~!?もしっ、もしっブランちゃんがやられたら、打つ手が無い、よォお」

 

「オイオイオイオイオイ!ビビり過ぎん無いことさねェ、アトちゃん」

 

 うるうると目に涙を浮かべながら、ぐるぐるとした長髪を揺らすアトの事を、ブランは溜息交じりに励ます。

 先に述べておくと____この二人の間に血の繋がりはない。

 

 だが、『』よりも濃い『』があるように____家族という物差しでは測れない友情というものも、また存在する。

 

「ううッ、ごめんよう、ブランちゃあん」「いっつもいィッつも、ど~してどォ~して私は、決めきれないのかなァ」

「取るに足らないことで、『迷っちゃう』のかなァ~~ッ!」

 

「泣かないの!そのアンタの『迷いグセ』___それがあるからいいんじゃあない」「それがあるから、この『能力』が身に付いたのかもよ!」

 

 ブランはそう言って立ち上がると、右手で傍に落ちていたレンチを拾い上げる。

 そして隣に落ちていた、古い雑誌をちらと見やった。

 開いた紙面に印刷されていた、とある一文のフレーズを眺め___アトの方を向く。

 

「……ねェ~~アトぉ。アンタの能力……名前決まってたかェ?」

 

「まっ、まだ決まってないよォ。『ハウス・オブ・ラブ』とか、『安らぎの家』とか___どっかで見たよーな名前だけど、この二つで迷ってるんだァ……」

 

「あんたさァア~~、この『迷路』のどこに『(ラブ)』と『安らぎ』があるってェのよさ」「今、ピッタリなのを見つけたのよ」

 

 そう言ってニヤリと笑い、レンチをぎゅっと握りしめる。

 

「ど~いう『マジック』で、()()()()()()()()()()……」「そこンところは、ど~だってイイさね」

 

 

 その瞬間____

 

 

「___重要なのはいつも『中身』の方ッ!!」

 

 

 手に握りしめた薄汚い、錆びだらけのレンチが一瞬のうちに、まるでサナギから蝶が生まれ出るように___顔までクッキリと浮かぶくらいピカピカに磨かれた、『一本のナイフ』に()()()()

 

 

「あんたのこの『迷路の力』___『スリップ・インサイド・ディス・ハウス』と、私の『能力』!」

 

「組み合わされば、私たちは無敵よォッ!!」「1×1=(イチかけるイチイコール)最強ッ!!

 

「クヘヘェ……ブランちゃんは算数もネーミングセンスも最強だァ~~」

 

 二人の少女は、確かな『希望』を胸に___()()()()()()()()

 

 

 ◆

 

 

「一体……何が、起きたの……」

 

「閉じ込められた____いや、『隔離された』、と言うべきか」

 

 シロコとブチャラティは、いまだ工場の中で息をしている。

 しかし工場の中は、入った時とは殆ど別物に変貌してしまっていた。

 

 二人の周囲一面____()()()()()()()()()()()()に覆われ、硬いはずの床も、指で摘ままれた粘土のように、ぐにゃりと変形している。

 二人がいる空間から、道は二手に伸びており___左右にさらに枝分かれしている。まるで、『迷路』のように。

 

「ホシノがとっさに突き飛ばしてくれたおかげで、元の位置から然程動かずに済んだが____この現象は……」

 

 沸騰したようにドクドクと早打つ胸を押さえながら、シロコが荒い呼吸で叫んだ。

 

「みんな……ッ!どこにいるのッ!?いるなら、返事を……」

 

 しかしその瞬間。

 

「シロコ、伏せろッ!」

 

「え___」

 

 ブチャラティの声が響いた瞬間、バシュウッ!!と風を切る音と共に、シロコの顔の横を何かが高速で通り過ぎて行った。

 刹那に見えたのは、キラリと銀色に光る、幅広の刃。

 

「ナッ、ナイフ!?」

 

「俺の背中に寄れッ!距離を開けては危険だ!」

 

 何が何なのか。混乱する頭の中で、どうにかこうにか息を呑み、ブチャラティと背中合わせの状態になる。

 彼の言葉と大きな背中は幾何か、シロコの気持ちに安心を与えた。会って数時間程度。会話も決して、そう多いわけじゃない。

 しかし、このブチャラティという『大人』から感じられる自信と、真っすぐな目。そして、自分たちを信頼してくれつつも、慮っている姿勢。

 

 とりあえずこの人に背中を預けることに、何の恐れも湧かなかった。

 

 だがそれとは別に、道の現象に対して一度湧いた恐怖と焦燥、好奇心の前に____シロコは遂に疑問をぶつけた。

 

「先生……何なの……ッ!これは一体、何が起きているのッ!?

 不思議なことが、何度もあった___私の目に今、()()()()()()()()()()

 

「……シロコお前、まさか……ッ」

 

 ただならないシロコの様子に、ブチャラティは少しの間、黙った。

 が、やがてシロコをかばうように、半身を寄せ視線を暗闇へ向けると___重たげな口を開いた。

 

「……今のお前には、計り知れないことだろうが___これは、人間の持つ『能力』。

 それが起こした、結果の一つだ」

 

「人間の……能、力…?」

 

 ブチャラティは頷き、話を続ける。

 

「ある一定の才能を持つ人間が、生まれついてか____もしくは後天的な要因によって、その『精神の中枢』に眠っていたパワーを、『ヴィジョン』として目覚めさせた物ッ!!」

 

()()()()()……ま、まさかッ!?」

 

 

 シュバウッ!!

 

 

 その言葉に何か確信めいたものを覚えた瞬間、再びシロコ達目掛けて、銀のナイフが飛んできた。

 

「ま、また来る……ッ!!」

 

 目の前で光る___この暗い工場の中の、僅かな光を全てかき集めたような輝きを放つナイフの切っ先が、眼前に差し迫った時。

 

 シロコの中から、何かが『弾けた』。

 

 

ドヒュウウウゥゥッ!!

 

 

 シロコは自身の内側___()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 竜巻が、シロコを守るように前に現れ、その台風の目から湧き出るようにして____

 

 

 

ユラリ

 

 

 

「ウオォォームッ!!!」

 

 

 

 雄叫びを挙げながら、『一体の異形』が姿を現した。

 そして振り上げた両方の拳で、飛んできたナイフを殴り折る。

 

 シルエットそれ自体は、人間のそれである。腕が二本。『前足』じゃなく腕と、足が二本。

 

 そしてその腕は_____()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「こ、これは……」

 

「……やはり、『そう』だったのか」

 

 ブチャラティが、予感していたように呟く。

 そんな彼の傍には、同じく異形の人型があった。

 

 

「そう……そのヴィジョンこそ、お前の精神エネルギーが形となって現れた物。

 『傍に現れ、共に立ち向かう物』。人はそれをこう呼ぶ________」

 

 

 

「『幽波紋(スタンド)』ッ!!」

 

 

 

 




・砂狼シロコ
学年二年生
趣味ジョギング、体力トレーニング、ロードバイク
好きな食べ物チキンソテー、フルーツ味のカロリーバー、オレンジ
嫌いな食べ物苦い物。特にゴーヤ
好きな音楽ヴァンパイア・ウィークエンド
好きな映画『レザボア・ドッグス』
好きなスポーツ選手クリス・フルーム
男性のタイプ真っすぐな目をしている人
好きな色透き通るような青色
家族知らない。本人はアビドスの皆の事をそう思っている
将来の夢プロの競輪選手
恐怖何の物音もない場所で一人になる事
口癖「ん…」
イメージソングステッペンウルフ『ボーン・トゥ・ビー・ワイルド』
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