弟がお姉ちゃんと呼んでくれない   作:狂骨

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修学旅行の時間

 

「E組で何が起きてるか…?」

 

「うん」

浅野からの依頼を聞いた桃矢は、一瞬、言葉が喉の奥で止まった。

教室の窓から吹き込む風が、彼の髪をほんの少し揺らす。

 

浅野は腕を組み、視線を外さず頷いた。

 

「今年はやけに理事長がE組に入れ込んでる。これまでのE組にはノータッチだったあの人が今年に入って何度もだよ。おかしいと思わないかい?」

 

「……別に、どうでもいいです。それで? その“調査”を私にやらせたいと」

 

「そういうことさ。引き受けてくれるかな?」

 

「武術教えた義理ではないのですか?」

 

「勿論それもあるよ。でもね、多忙な僕の時間を個人的に取るんだ。これぐらいはしてもらいたい」

 

「…」

 

桃矢は視線を落とす。机に落ちた影が、揺れたり縮んだりしていた。

 

最優先は桃花を本校舎に戻すこと。

彼女を“追い出した”のは自分だ。償いも、責任も含めて、戻すのは自分の役目。

 

そのためには浅野の指導は必要不可欠。

 

E組の秘密については興味はないし、それを知った浅野がどうするも興味はない。だが、それを探らなければ指導をしてもらえないとなると、受けざるを得ない。

 

「いいでしょう」

 

「感謝するよ。交渉成立だ」

 

了承すると、浅野は笑みを浮かべる。

 

「それと君、前よりも隈が酷くなっていないかい?それに、部活は?」

 

「部活などとっくに辞めました。あと、隈なんてどうでも良いです」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

それから浅野と別れた桃矢は荷物をまとめて下校していた。

 

そんな中で、改めて今回の桃花の成績について考え直していた。確かに彼女の成績は上昇し始めている。あの環境で勉強ができていること自体おかしいのだ。

 

そう思い返せば、確かに浅野の言う通り、

 

——今年のE組は、何かが違う。

 

校舎を出て正門を抜け始めたその時。

 

「桃矢〜!」

 

「…?」

 

後ろから明るい声が聞こえ、振り返るとE組校舎の山道に続く道から手を振りながら歩いて来る桃花と倉橋の姿があった。

 

「お〜い!」

 

「お久〜!桃矢ちゃん!」

 

「…」

 

テストの結果を気にせず、意気揚々としている。やはり今年のE組は例年と全く違う。

 

本当に何かあるのだろうか?

もしや、以前に話した教師『殺太』に何か____

 

 

____いや、余計な事は考えるな。自分がすべき事は桃花を何としてでも本校舎に。そのためには彼女を不安にさせない様に振る舞わなければならない。

 

だからこそ、笑みを浮かべる。

 

「桃花さん、倉橋さん。お疲れ様です」

 

それから何故か、彼女らと帰る流れになってしまった。

 

ーーーーー

ーーー

 

「いや〜桃矢ちゃんと帰るなんて久しぶりだね〜。元気だった?」

 

「えぇ」

 

久しぶりに会った倉橋が陽気に尋ねてくる。彼女はE組だけでなく本校舎にいた時も桃花と一番仲が良く相棒のような関係であり、よく家に遊びに来ていた。その時から何度か面識があり、数少ない話せる人でもある。

天真爛漫かつ誰にでも差別なく気軽に話し掛ける様子から、今でも本校舎でも人気がある。

 

「倉橋さんは、お変わりないご様子ですね」

 

「うん!桃矢ちゃんもね〜。あ、それよりも知ってる?君のお姉ちゃん、今回のテスト凄く良かったらしいよ?ね〜!」

 

「うん!」

 

倉橋に頷いた桃花は、今回のテストの結果を見せてきた。

 

「数学と理科、上がったんだ!これも桃矢のお陰だよ!」

 

「…」

 

確かに成績は上がったものの、その点数は50位に届く様な物ではなかった。それを見た途端に、心の奥底から自身に対する無力感が溢れ出て来てしまう。

 

それを知らずに倉橋が肩を叩いた。

 

「ほらほら!褒めてあげないと…あれ?どうしたの?」

 

「いえ…」

 

倉橋が肩を叩いてくるが、彼女になんて言葉を掛けて良いのか分からない。すると、自身の考えている事を察したのか、桃花の表情が曇り始める。

 

「あ…あの、もしかして、50位に行かなかった事……かな…?」

 

否定出来ず、何も返せなかった。

それによって、合っていると感じた桃花は苦笑する。

 

「あ〜ごめんね桃矢…」

 

「……別に、謝る必要はありません…」

 

その言葉を耳にした桃矢は自身の拳を握り締めてしまう。

謝る必要はない。元々は自分が招いた事だ。だから自分に責任があるから、謝る必要はない。寧ろ謝らないで欲しい。

そう言おうとするが、無理に言っては不安を煽るだけだ。

 

「まだ期末テストが残ってます!」

 

だから桃矢は笑みを崩さず答えた。

 

「分からないところがあったらまた教えますよ!」

 

「ほんと!?ありがとう!」

 

そう答えると、桃花は笑顔を輝かせた。

 

「そういえば、桃矢は決めた?修学旅行の行く所」

 

「え?」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

修学旅行とは、学生生活における一大イベントの一つであり、たとえ進学校のこの学校であっても、それは変わらない。

 

 

次の日

 

学校では来週に迫っていた修学旅行の班を決めるためにクラスは賑わっていた。そんな中で、班を作る事なく予習をしていた桃矢の元に進藤が声をかける。

 

「よぅ桃矢。修学旅行の班、俺と組もうぜ?」

 

「進藤くん?」

 

彼から声を掛けられた桃矢は勉強の手を止めると、尋ねた。

 

「私でいいのですか?」

 

「おぅ。気心知れてるのはコイツらやお前以外いないからな!まさかとは思うが、お前勉強するから行かないとか無いだろ?」

 

「……」

 

その予想は確かに合っている。元から修学旅行は行かずに勉学に没頭しようと考えていた。だが、改めて考えると旅費は学費の中から捻出される。即ちこのまま欠席すれば、出してもらった学費をドブに捨ててしまう事になる。

 

それは決して許されない。だからこそ、答えは決まっている。

 

「勿論行きますよ!」

 

「おぅ!じゃあサッサと回るとこ決めちまおうぜ!」

 

そう答えると、進藤は笑みを浮かべる。進藤はこの本校舎でも桃矢にとって数少ない友人の1人である。理由としては彼は向上心が強く、滅多にE組を卑下したりしないからだ。

 

 

それから進藤と班になった桃矢は勉強の手を止めると、班作業に参加した。既に他の班員の姿もあり、自身で最後のようだった。

 

「お前はどこ回りたいんだ?」

 

「そうですねぇ。まずは有名な所を回ってみたいですね。清水寺や伏見稲荷など」

 

修学旅行の費用は自身の叔父が出してくれた学費からだ。行くのは気掛かりであったが、行って楽しまなければ失礼極まりない。だからこそ、同じ班員の皆の雰囲気にも合わせ楽しまなければならない。

 

桃矢は笑みを浮かべながら有名な箇所を提案していった。

 

「あとは、列車なども乗ってみたい」

ーーーーー

ーーー

 

それから修学旅行当日。場所は新幹線の駅前集合であり、普段はぞんざいな扱いをされているE組はここでも扱いは酷く、グリーン車へと乗り込む中、E組の皆は普通車であった。

 

修学旅行の費用は学費から捻出され、A組〜D組の本校舎組はグリーン車に加えてホテルは高級かつ個室という、優遇っぷりであり、一方でE組は普通車に加えた止まる場所も大部屋2部屋の小さな安い旅館であった。

 

「…」

 

普通車に乗り込んでいくE組の皆を思わず見てしまった桃矢はすぐさま顔を逸らす。

 

「お…おい…大丈夫か…?」

 

「……えぇ」

 

事情を何となく察しているのか、進藤が気に掛けてくれるが、それでも耐えられなかった。

 

___自分があの時、あんな風にならなければ彼女も一緒に__。

 

 

「………早く乗りましょうか」

 

「お…おぅ」

 

 

それから新幹線は走り出し、無事に京都へと到着するのであった。そして、京都に着いた各組は泊まる旅館へと荷物を置いて、遂に本命となる京都旅行へと班ごとに向かう。

 

ーーーーー

ーーー

 

それから桃矢達の班は清水寺に足を運んだ。

 

「おぉ…すげぇ!!」

 

「良い眺めだなぁオイ!」

 

ついた途端に走り出した進藤達は清水の舞台から見える景色に心を奪われていた。

 

「はぁ…(清水寺の舞台…行ったことはないけど有名だから選んでみたら…そんなに凄いのか…?)」

 

進藤達のそのはしゃぎ様に、誇張がすぎるのではないかと疑問を抱きながらも、彼らに続く様に、その景色を目に入れた。

 

 

すると、そこに広がっていたのは、まさしく『絶景』と呼ぶに相応しいものであった。

 

広大な自然に加えて、その中から飛び出す古い建築物に、京都の街並み。写真やテレビなどの、限定的な角度や目線からしか見た事がなく、初めて自分の目で見るその景色に、進藤に続く様に思わず心を奪われてしまった。

 

「凄い…」

 

「だよなぁ!!おい写真撮ろうぜ!!こっちだこっち!」

 

「おおい!?押すなよ進藤!」

 

「ちょっと!アンタデカいんだからもうちょい離れなさいよ!!」

 

それから、ワチャワチャとしながらも、清水の舞台から見える景色を背景に皆で写真を撮った。

 

 

 

それから班の皆と写真を撮り、しばらく散策したのちに次は、伏見稲荷をまわった。

 

 

すると、

 

「桃矢もいい顔になってきたじゃねぇか」

 

「え?」

 

進藤のその言葉に、桃矢は近くのガラスに映った自身の顔を見る。そこには、いつもと違い、自然な笑みを浮かべる自身の姿があり、その顔はキラキラと輝いていた。

 

「案外、楽しんでんじゃねぇか?」

 

「…」

 

多くの場所を気心知れた人達と喋りながら回っていた事で、いつの間にか、自身は旅行を楽しんでいたのだ。

 

「ハハ。そうですね」

 

そして初めて、心の底から楽しいと感じると共に、両親と桃花の事を思い浮かべる。

 

湧き上がるのは罪悪感ではなく、寧ろ心からの感謝。何かを送ってやりたいと思ってしまった。

 

「家族にお土産でも買ってこうかな…」

 

「おぅ!じゃあそうするか!!」

 

「「「「賛成〜!!」」」」

 

進藤が頷き、皆も賛成すると、その場からお土産屋さんへと向かった。

 

「なぁなぁ!買うとすればカステラか!?」

 

「バ〜カ!七味だろ七味!」

 

「はぁ?普通、スイーツでしょ?」

 

皆が談笑していく中、桃矢も心の中で期待と胸を膨らませていた。

 

「(隆さんと橙子さん…あと桃花さんには何を送ろうかな…)」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

それから一同は、人混みから外れ、人気のない路地を歩いていた。

 

「ちょっと〜こっちであってるの?」

 

「あぁ。地図だと、ここが一番近道だぜ?ほら」

 

同じ班の心菜に地図を見せ、説明しながら進藤は歩いていき、桃矢も後に続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

____おい!車回せ!

 

「…ん?」

 

どこかからか声が聞こえた。それも複数人だ。

 

「どうした?」

 

「シッ…」

 

進藤を静かにさせると、耳を研ぎ澄ませる。すると、その声はより鮮明に聞こえてきた。

 

_大人しくしてろ!!

 

__暴れんな!!

 

声からして、やや年上の男達だった。だが、男の声だけじゃない。

 

 

____離してよ!!

 

__どこ触ってんだよ!!

 

「…え?」

 

女子の声も聞こえてきた。しかも二つの声のうち、もう一つは倉橋の声だった。

 

「なんで倉橋さんの声も…まさか…!!」

 

倉橋は桃花と一番仲が良い。となれば、修学旅行でも同じ班になる可能性も高い。倉橋の声が聞こえてきたということは、彼女も_____

 

 

 

 

____いや、そんなことあってはならない。

 

 

「お…おい!なんか聞こえねぇか!?」

 

「あぁ…ヤバそうな声だった……おい桃矢。どうす___」

 

皆が慌て始める中、倉橋の声を耳にした事で、桃矢はすぐさま神経を研ぎ澄ませながら耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

聞こえてはいけない女子の声が聞こえてきた。

 

 

_____ちょっと!触んないでよ!!

 

「ッ!!!!」

 

それを耳にした瞬間 桃矢の目が血走り、すぐさま声の聞こえた方向へと目を向けると駆け出した。

 

「あ、おい桃矢!!」

 

 

 

ーーーーーーー

 

間違いない。あの声は紛れもない桃花の声だった。他の女子や倉橋の声から察したが、彼女までも捕まっていたのだ。

 

 

なぜ彼女らが?

 

一体誰が?

 

 

 

いや、そんな事などどうでも良かった。

 

「ぐぅ…!!!」

 

持てる力を全て絞り出し、声の大きさや聞こえてきた方向から正確な位置を予測して、その方向へと向かった。

 

 

「(桃花さん…!!桃花さん…!!)」

 

間に合え。間に合えと___。

 

心の中で何度も何度も彼女の名前を口にし、無事を祈りながら走り抜ける。

 

そして、ついに小さな路地を抜け、その入り口に出た。

 

 

「…!!!」

 

その光景を見た途端、思考が停止してしまった。

 

「あぁ?」

 

「なんだテメェ」

 

そこにいたのは、およそ8名の学ランをきた柄の悪い男子高校生達が数名の女子を車に乗せようとする姿と_____

 

 

______数名の高校生に取り押さえられていた桃花だった。

 

 

「桃花…さん…」

 

思わず名前を口にしてしまう。すると、コチラに気づいた彼女は涙を流した。

 

「桃矢…!」

 

 

 

 

「…ッ!!!」

 

 

 

 

それを見た瞬間、頭の中が真っ暗になると共に何かが“プツン”と切

 

 

「ア”ァ”ア”ア”ァァァア”ァ”ア”ア”ァア”ァ”ア”ア”ァァァアアア”ァ”ア”ァァアアア”ァ” ア”ァ”ア”ア”ァァァアアア”ァ”ア”ア”アアア”ァ”ア”ア”ァァァアアアアアアアアアッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

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