それは数分前の出来事だった。
磯貝、前原、木村、岡野、片岡、そして倉橋と班を組んだ桃花は、皆とそれぞれの観光名所を回っており、それを終え、お土産を選ぶために有名な店へと向かっていた。
「随分と人気がないんだな」
「祇園と違ってな。渚達は祇園を暗殺の場所にしたらしい」
その道を歩く中、磯貝が渚達が同様の場所を暗殺場所に選んだ事を前原に教えると片岡は顎に手を当てる。
「良い案かもしれないけど、銃声とか聞き取られ易いんじゃない?」
「そう。だから人がいるうえに環境音もある列車を選んだんだ」
磯貝や前原に続き、皆もその静かな景観を観察しながら路地を進んでいた。
すると、磯貝の携帯からメールの通知音が鳴りだす。差出人は渚だ。
「渚?なんだ…えぇ!?」
「なんだ?どうした?」
渚からのメッセージに驚いた磯貝に前原が尋ねると、磯貝は眉間に皺を寄せながら答えた。
「茅野と神崎さんが高校生に捕まったって…」
「マジかよ!?」
「しかもソイツら、他の班の女子も仲間とつるんで攫おうとしてるらしいんだ!」
「「「えぇ!?」」」
それを耳にした一同は驚くと共に、女子達は表情を青ざめる。
「そうなると、ここ不味いんじゃ!?人気もないし路地も狭いよ!?」
「殺せんせーに連絡しないと…!それまでできる限り人混みにいた方が良い。すぐに大通りに出よう」
慌てふためく倉橋に片岡は頷き、皆へ大通りに向かう様に促すと歩き出した。
その時であった。
「お〜っと」
「通行止めだぜ?」
「「!?」」
その一本道の出口から複数の影が現れた。それは自身らよりも大柄な6名もの大柄な高校生達だった。
それだけじゃない。自分らが入ってきた道の入り口からも4人の高校生達の姿があった。
ーーーーーーー
そこからは一瞬だった。
「が!?」
「磯貝!!お前よく___がぁ!?」
抵抗しようとした磯貝や前原、そして木村は腹部を殴られたり、背後から殴られたりと、数と体格差によって瞬く間に倒されてしまい、蹴りを放ち抵抗しようとした岡野と片岡、そして倉橋までもが捕まってしまった。
「ほら暴れんなよ!」
「ちょっと!気安く触んないでよ!!」
「いっつ!?この猿女が!?」
拘束された岡野は柔軟な動きで蹴りをいれるが、やはり体格差に勝てず、その拘束を解くことは出来なかった。
「よし!女どもゲ〜ット」
「しかも上玉だぜ?」
蹴りを放ち抵抗していた岡野と片岡を2人の不良が抑え、桃花と倉橋を1人の不良が抑え込んだ。
「四人も収穫しちまった。リューキくんに連絡しな!追加のゲストだ」
ーーーーー
ーーー
ー
「サッサと乗れ!」
「ぐ…!」
その後、捕まってしまった片岡達は次々と車に乗せられていった。携帯も取られてしまった為に、殺せんせーにも烏間にも連絡ができない。磯貝達も未だ気絶している。
「どうすれば…」
片岡が悩んだ時であった。
「それよりも、随分とデカいなぁ?」
「ひぃ!?」
外から悲鳴が聞こえ、見れば最後に乗せられようとしていた桃花の腕を掴んだリーダー格の男の不良が、彼女の胸を掴んだ。
「や…やめ…!!」
それを見た岡野は激怒する。
「アンタらいい加減に…!!」
「お〜っと。大人しくしてな!」
飛び出そうとした岡野は止めるべく、車内から出ようとするも、それを別の不良がドアを閉める形で塞がれてしまう。
そうしている合間にも、桃花は更に追い込まれていった。
「やっぱエリート様だから美味いモン食ってるからかな?発育がいいぜぇ」
ゆっくりと、ジワジワと、唸りながら迫り来るその手に桃花は恐怖し、震えていった。
「やめ…!!」
振り解こうにも、力強い腕は解けられない。舐めるように触ってくるその腕に、身体が震え始め、涙が出てくる。
「「…!!」
「!!!」
車の中から必死に出ようと抵抗する岡野達の声も聞こえない。もう、誰も助けてはくれなかった。
そして、心の中で思わず、この場にいない人へと叫んでしまった。
______助けて…桃矢…!!
「桃花さん…?」
「…!!」
不意に後ろから聞こえてきた声に、思わず振り向いてしまう。そこには、自身が心の中で助けを願った桃矢の姿があった。
それを見た途端、安堵と共に目元から涙が溢れ出てしまう。
「桃矢…!!」
だが、状況は最悪だった。
桃矢が現れたことで岡野や片岡達を乗せ終えた不良達が車から降りて桃矢へと向かって行った。
「あ?なんだテメェは」
「ガキはすっこんでろ!!」
そう言いながら2人のうち、1人の不良は桃矢へと近づくと、その胸ぐらを掴み上げ、顔を近づける。
「何とか言えよチビ。ビビってるでちゅか〜?」
「おいおい!よく見りゃソイツもコイツらと同じ椚ヶ丘の奴らじゃねぇか?」
「マジかよ?」
その言葉と共に、桃矢よりも大幅に体格のある不良の手が、桃矢の胸ぐらを掴み上げた。
「まぁ見られたからには、やっちまわねぇとなぁ〜」
その言葉と共に不良の拳が桃矢へと向けられる。
「桃矢!!逃げ___」
握り締められた拳が桃矢へと迫ろうとした時であった。
「ア”ァ”ア”ア”ァァァア”ァ”ア”ア”ァア”ァ”ア”ア”ァァァアアア”ァ”ア”ァァアアア”ァ” ア”ァ”ア”ア”ァァァアアア”ァ”ア”ア”アアア”ァ”ア”ア”ァァァアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
「「「「「「!?」」」」」」
ゴシャッ
桃矢が巨大な叫び声を上げると同時に、胸ぐらを掴んだ不良の身体が吹き飛んだ。
「え…?」
思わず目を疑ってしまった。桃矢よりも大幅に大柄な不良の身体が、桃矢の腕の一振りで倒されてしまったのだ。殴り飛ばされた不良は後頭部から近くの電柱へと叩きつけられ、血を流しながら崩れ落ちた。
「な!?や…やりやがったなテメェ!!」
それを見たもう1人の不良は逆上し、桃矢へと殴り掛かるが、桃矢はすぐさま駆け出し不良の懐へと入り込むと、指を抉り込ませるかのように顔を掴んだ。
だが、その顔を掴む指は頬骨のみならず、目にも突き刺さっていたのだ。
「うぎゃあああああ!!!!目がぁあああ!!!ゔぁああああ!!!」
顔全体から鼻が軋む音と共に、目に食い込んだその指は更に奥へと入り込み、遂には大量の血が溢れ始め、その激痛に耐えきれず、不良は絶叫しながら膝から崩れ落ちた。
「クソ!!てめ_____」
___ッ!!!!!!
恨みのこもった目を向けるよりも早く。桃矢の手が不良の顔面から離れると同時に、その顔を蹴り飛ばした。
「が…あ…」
遠心力を纏ったその蹴りは見事に弱点である顎へと放たれ、肉が叩きつけられる鈍い音が響き渡らせながら、不良の意識を刈り取った。
「…」
たった一瞬で2人を倒してしまったその桃矢の風貌と光景に、一同は絶句してしまう。
そして不良達も桃矢をただの学生ではない上に状況が少しまずいと悟り始めた。
「な…何なんだよコイツ…!?」
1人の不良が冷や汗を流す。本来ならば2人やられた程度で、残り8名もいる。数の差で有利であるために臆することは無いはずだ。
だが、その倒され方が惨いモノだった。
1人は後頭部から血を流しながら倒れ、もう1人は片目を潰された上に口から血を吐き出しながら倒れている。
未成年の彼らにとっては耐えられるモノではなかった。
その一方で、一瞬で2人を倒した桃矢は、真っ黒な目を向けながら、走り出した。
「ヴゥゥアア"ア"ア"!!!」
「「「「「!?」」」」」
耳の奥を振動させる巨大な叫び声をあげながら迫ってくる桃矢に、不良達は驚きを隠せず、その叫び声に再び硬直してしまう。
そして叫び声を上げた桃矢は目の前の耳を塞いでいた不良を殴り飛ばした。
「ヴァアアアアア!!!」
「ヒィ!?くるな_____!?」
___ッ!!!!
鈍い音と共に、桃矢の拳が不良の顔半分へとめり込みむと、殴り飛ばされたその身体は車体へと叩きつけられ、窓ガラスが砕け散った。
「が…ぁ…!」
窓ガラスの破片が散らばる中、ガラスを突き破りながら車体の中に放り込まれた不良は一瞬、痙攣したかと思うと、そのまま動かなくなってしまった。
「………」
そして、3人目を片付けた桃矢の目が、残りの7名へと向けられると、ゆっくりと歩いて向かってくる。
「こ…コイツ強ぇ!!喧嘩に慣れてやがる!?」
「何ビビってんだ!!こっちはまだ7人いるんだ!あんなチビ1人にやられてたまるか!?おいお前ら!!アイツを抑えてやっちまえ!!」
リーダー格の不良の指示に頷いた残りの7名のうち、3名の不良達は桃矢を取り囲むようにして立ち、2人が左右から飛びかかり、腰に抱きついた。
「おい!!押さえたぞ!!」
「やっちまえ!!」
「おうよ!!」
腰を押さえつけた不良の号令に、頷き、拘束された桃矢へと拳を握り締める。
「よくもやりやがったなチビがぁあああ!!」
その時であった。
「ヴォアアアアア!!!」
「へ____」
桃矢が再び叫び声を上げると同時に、肘を腰にしがみつく2人のうち、片方の不良の後頭部へと叩きつけた。
____ッ!!!
「いで____」
凄まじく硬い音が鳴り響くと共に、またもや肉を叩く鈍い音が鳴り響く。後頭部に打ち付けられた痛みで離れた不良の顔を両手で掴むと、その脚の膝へと顔面を叩きつけたのだ。
「…!!」
鈍い音と共に、血が吹き出し、膝へと叩きつけられた不良はゆっくりと、その場に崩れ落ちた。
「な!?やりや_____」
そして、もう1人の身体に手を掛けると、なんと持ち上げ、殴りつけようとした目の前の不良へと投げ飛ばしたのだ。
「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
「うぎゃあああ!!!」
「え!?嘘だろ!?」
避けようとするが、投げ出された時にはもう遅く、その不良は投げ飛ばされた不良に乗しかかれる形で後ろに倒れてしまった。
「いっ!?おい!!早く退けよ!」
「分かってるって___うぎゃぁああああ!!!」
不良がすぐさま身体を退かせようとしたその瞬間、桃矢は跳躍し、倒れた不良の背中を踏みつけた。
それによって、革靴が深く肉体へと食い込み、絶叫する。
「いでぇえええ!!」
「ぐぅう!?テメェ苦しいだろ!!早くど____」
悶える不良の体重に、下敷きにされた不良が無理矢理にも退かせようとした時であった。
そんな不良を見下ろすかのように桃矢が真上に立つ。
「あ…ああ…!!」
こちらを見下ろす血走った目に加えて、右足を振り上げるその姿勢に、2人の不良達は顔面を蒼白させる。
「ま…待て!!やめ____」
その言葉は衝撃に遮られ、最後まで続く事はなかった。
____ッ!!!
桃矢の脚が横たわる不良の顔を蹴り飛ばし、骨を軋ませる音と共に2人の身体は倒れて、そのまま動かなくなった。
「…」
そして、ゆっくりと桃矢の目が此方へと振り向き、残りの不良達を捕えると、歯を剥き出しにしながら襲いかかった。
「ァ”ア”ア”ァァァア”ァ”ア”ア”ァア”ァ”ア”ア”ァァァアアア”ァ”ア”ァァアアア”ァ” ア”ァ”ア”ア”ァァァアアア”ァ”ア”ア”アアア”ァ”ア”ア”ァァァアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
ーーーーーーー
そこからはもう地獄絵図だった。
暴走した桃矢は止まる事なく叫び声を上げながら次々と不良達を倒して行った。車体へ叩きつけたり、骨を折ったり、両目を潰したり、たとえ複数人に飛び掛かられたとしても、押さえつけた不良の顔に膝を打ち込み、顎や歯を砕き、更にもう1人の股間を蹴り飛ばし、痙攣した隙に膝を顔面に打ち出すなど、恐ろしい方法で倒していった。
勿論だが、不良達も抵抗した。複数で押さえ込み、殴りつけたり、持ち品の棒などを振り下ろしたりと、何とか桃矢を気絶させようとしたが、
いくら殴りつけようとも桃矢は倒れることなく、寧ろ更に狂暴性を剥き出しにし、残りの不良達へと襲いかかって行った。
その結果、
リーダー格を除く不良達を全て倒してしまい、周囲には血の海が出来上がっていた。
その惨状に、リーダー格の男は完全に戦意を喪失してしまう。
「う…嘘…だろ!?」
もう誰も残っていない。残っているのは自分自身。そしてそれ以外の仲間は全員が血を流しながら倒れている。
すると、その中心に立っていた桃矢の目が、ゆっくりと向けられた。
「…」
「ひぃ!?」
それを見た途端、全身を恐怖感が襲う。
“自分も同じ目に遭わされる”
その恐怖心がジワジワと全身を蝕んでいくが、考えている間も桃矢は迫ってくる。
すると、不良は懐からナイフを取り出し桃花につきつけた。
「う…動くな!!動いたらこの女を刺すぞ!?」
「!?」
その言葉と共に、懐から出されたナイフの刃が桃花の首筋に突きつけられる。それを見た倉橋はすぐさま飛び出そうとする。
「桃花ちゃん!!」
「ちょっと!!いくら何でも下劣すぎるでしょ!!」
「うるせぇ!!ほらテメェも動くな!!」
「く…」
片岡や岡野、倉橋に叫びながら男は桃花を強く拘束する。それによって、桃花の目からは涙が溢れ出た。
「とう…や…!!」
「…!!」
恐怖によるその涙が流れた事で、それを見た桃矢の動きが止まった。
「へ…へへ…う…動くんじゃねぇぞ!?」
そしてすぐさま携帯を取り出す。
「この隙に応援を____」
その時であった。
「ヴァアアアアアア”ァ”ア”ア”ァァァア”ァ”ア”ア”ァア”ァ”ア”ア”ァァァアアア”ァ”ア”ァァアアア”ァ” ア”ァ”ア”ア”ァァァアアア”ァ”ア”ア”アアア”ァ”ア”ア”ァァァアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
「!?」
今まで以上の悍ましい叫び声が響き渡ると共に桃矢が迫ってきた。
「な!?テメェ!!この女を___」
そう言いナイフを突きつけようとしたが、それよりも前に桃矢は目の前まで迫っていた。
その瞬間___
___無理矢理退かすかのように、桃花の首筋に迫ろうとしたナイフの先端に腕を突き出す形で振り払う。それによって、桃矢の腕に突き刺さると同時に不良の手から外れ、更に振り払った勢いで投げ捨てられた。
「な…ナイフが___」
得物がなく、完全に無防備になってしまった不良は顔面を蒼白させる。見れば既に大量に出血しながらも力強く握り締められた桃矢の腕が迫ってきていたのだ。
そして
____ッ!!!
肉を叩き潰す激しく鈍い音が鳴り響くと共に男の顔面へと拳が突き刺さり、その身体を吹き飛ばすのであった。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「ゲホ…ゲホッ…!!」
「桃花ちゃん!!」
不良から無事に引き離された桃花はその場で膝をつき、ようやく縄を解けたのか、車の中から急いで倉橋達が降りてその身を抱き起こした。
「大丈夫!?怪我はない!?」
「う…うん…何とか…桃矢が助けてくれたから___そうだ!桃矢!!_____え?」
倉橋から背中を撫でられながら息を整えた桃花は、すぐさま桃矢の方へと目を向けるが、その光景を見た瞬間、言葉を失ってしまう。
「桃矢…?」
そこには自身を拘束していた不良の身体に馬乗りする桃矢の姿があった。
「ちょっと待って桃矢…何する気なの…?」
恐る恐る尋ねるも、桃矢は答える事はなかった。
更に桃矢の目はまだ元に戻ってなどいなかった。いや、それどころか更にドス黒く染まり、その目は殺意に満ちていく。
「…」
そして、黒い瞳でリーダー格の男を見下ろしながら、ゆっくりと拳を握り締める。
「ゲホッ………へ…?お…おい!!何やって___」
_____ッ!!!
その瞬間 握り締められた拳がリーダー格の男の顔面へと深く突き刺さった。
桃矢はまだ、止まらなかったのだ。