大丈夫だよ桃花さん
貴方に手を出す悪い奴は全部、私が壊してあげるから
二度と…二度と手を出せない様にしてあげるから
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不良達を全て殴り倒した桃矢は、その内のリーダー格である男に乗ると、その顔面へ目掛けて拳を打ち込んでいた。
「ギィ…!!」
1発。また1発。歯を軋ませ、喉を唸らせながら拳を打ち込む。その拳が振り下ろされる度に、男の顔面へと拳が突き刺さると歯がへし折れ、顔が腫れ上がると共に鼻から血が吹き出す。
その痛みは次々と男の身体を蝕み激痛を与えていった。
「いでぇええ!!!て…テメェ!!ただじや___」
最後まで言いかけようとした瞬間に、2発目の拳が放たれた。
「く…が…!!なか…ま…つれ…てテメェの…いえを……___」
___ッ!!
その一言は、桃矢の怒りを限界点から臨界点へと達しさせてしまった。
「ヴァアア"ア"ア"ァァアア"ア"ア"アア"ァアア"ア"ア"ア"ア"!!!!!」
「へ…?」
その瞬間 不良の顔面へと先程よりも強く拳が打ち込まれ、顔面が深く陥没した。
「「「「「!?」」」」」
その光景を見た一同は驚きのあまり固まってしまう。先程よりも、悲しく、怒りと怨念が込められた拳は不良の顔面を深く陥没させ、遂には鼻の形が原型を失い、口元から大量の血が吹き出す。
その拳の痛みに、もはやリーダー格の男は完全に戦意を喪失し、痛みに苦しみながら恐怖に飲まれてしまった。
「や…め…」
拳の下からは、涙を流しながら助けを請うように懇願する声がする。だが、その声を発したと同時に___桃矢の目が更に血走り、拳が振り下ろされた。
「ごめ____」
謝罪の言葉を口にした瞬間、更に5発目の拳が振り下ろされる。
そして、それを境にその拳が何度も何度も振り下ろされた。
1発。また1発。声が聞こえなくとも、喋るために口を動かそうとするたびに拳が振り下ろされていった。
何度も何度も。何度も__。血が噴き出そうと決して止めない。その血が周囲に飛び散っていく惨状に、遂には倒れていた不良達も恐怖のあまり震え始めていった。
「やめてくれよ!!これ以上は死んじまうよ!!!」
「悪かった!!俺たちが悪かったから!もうやめて!!やめてくれぇえ!!!」
不良達が涙を流しながら懇願する。それでも桃矢の殴り付ける手は止まらず、それどころか更に強くなり、先程よりも打ちつける音が激しくなった。
「ちょっと…これ以上は不味いって…!!」
その光景に背後で桃花を介抱していた岡野達は冷や汗を流し始め、すぐさま桃矢へと呼びかけた。
「桃矢くんストップ!!」
「いくらなんでもやりすぎだよ!!」
「桃矢ちゃん!!」
岡野や片岡、倉橋が次々と呼びかけるも、桃矢は聞き入れる事なく殴り続けていく。
そしてその様子に、遂に桃花も口元を震わせながら叫んだ。
「桃矢!!もういいよ!!もういいから!!!これ以上はやめて!!」
これ以上殴ってしまえば、本当にその男は死んでしまう。更に目撃者がこれ程までいるならば、確実に桃矢が殺したことになってしまうだろう。
そうなれば、桃矢は退学だけでは済まされない。
「…!!桃矢!!ねぇ桃矢ったら!!お願い!!」
心の底から叫び、訴えかけていくも桃矢の動きは止まる事はなく血まみれとなったその拳を打ち続けていった。
「もうやめてよ!!桃矢ぁあああああ!!!!」
その時であった。
「おい矢田!!なにやってんだ!?」
「「「「!?」」」」
路地から声が聞こえると共に、大柄な影が飛び出して、殴りつけようとする桃矢の腕を掴んだ。それによって、殴りつけようとする桃矢の動きは止まり、桃花達も驚きその影へと目を向ける。
「君って確か…杉野くんと同じ野球部の…」
「し…進藤!?」
「え?」
そこにいたのは、進藤だった。思わず驚きの声を上げた片岡と岡野に進藤も彼女らに気づくと同じ反応をする。
「お前らはE組の…」
すると、
「ちょっと待ちなさいよ!!」
彼に続くように、彼が現れた路地から次々と走ってくる足音が聞こえ、磯貝、木村、前原の3名と2人と3人の男女が現れた。
「急に走らないでよね!?こちとらアンタらみたいにバカみたいな体力ある訳じゃ………へ!?メグメグ…!?」
「げ!?心菜!?」
続くように路地裏から現れたのは、進藤や桃矢達と同じ班である心菜達であった。彼女と面識があり、複雑な過去があったのか、片岡が少しばかり表情を引きづらさながら驚く。
「メグメグぅ〜!!超偶然〜!丁度良かったから今度のテスト、分からないとこ教え_____いやぁああああ!!!」
一方で、心菜は周囲の状況を見た途端に絶叫してしまう。
「なによこれ!?ガラの悪い連中が倒れてるけど!……まさか進藤…!?」
「違ぇよ!!いくら俺でもここまでやらねぇよ!!」
「じゃ…じゃあ誰が…」
「んなもん…」
磯貝が恐る恐る尋ねると、進藤は歯を噛み締めながら桃矢へ向き直る。
「おい矢田!何があったんだ!?これ全部…お前がやったのか!?」
「…」
進藤が恐る恐る尋ねるも、拳を止められた桃矢は進藤へと振り向く事なく、不良を睨み続けると、再び拳を握り締める。
すると、桃矢の腕に筋が湧き上がり、それを掴む進藤の腕が少しずつ引っ張られ始めた。
「うぉ!?」
突然と感じられた桃矢の力に進藤はすぐさま力を入れて押さえ込もうとする。だが、いくら力を込めても桃矢の腕を止める事はできなかった。
「こ…コイツなんつう馬鹿力だよ…!?」
野球部の主将かつ、その豪速球から他校から注目されている進藤でさえも止められない桃矢の腕力に一同は絶句してしまう。
その一方で、腕が止められなくとも、進藤は必死に力を込めながら桃矢を説得するべく話しかけていた。
「ぐ……!!おい馬鹿…!!何があったか知らねえけどまず話してみろって…!!」
その時であった。
「ヴァアア"ア"ア"!!」
「!?」
再び掠れた叫び声が響き渡ると共に、桃矢の腕の筋肉が膨張する。
「邪魔するなぁああああああ!!!!」
「!?」
そして、掠れた叫び声と共に桃矢の腕が動き出し、勢いよく振り回される。それによって、進藤の身体が投げ飛ばされた。
「ぐ!?」
「ぎゃあ!!」
投げ飛ばされた進藤はそのまま近くにいた心菜目掛けて倒れてしまう。
「ちょっとデカブツ!!重いのよ!!さっさと退きなさいや!!」
「お、すまん…いつつ」
投げ飛ばされて下敷きにされた心菜から起きあがり尻を撫でる。
その時であった。
「桃矢!!」
「あ!?おい!」
「危ねえぞ!離れろ!!」
桃花が駆け出し桃矢へと向かっていった。それを進藤や前原は呼び止めるも、桃花は耳を貸す事なく、再び不良へと拳を撃ち込もうとした桃矢へと抱きついた。
「桃矢!!」
抱きついた桃花はすぐさま両手で殴りつけようとした手を握り締めると共に耳元へと叫んだ。
「お願い!!お願いだからやめて…!!お姉ちゃんは大丈夫だから!!」
必死に。心へと届かせるように耳の奥深くに突き刺さるように訴えていく。
「良い子だから…桃矢…!!」
すると
「と……うか…さ…」
「うん…!!」
掠れた声と共に殴りつけようとした拳の動きが止まった。そしてその声を耳にした桃花は頷きもう一度、耳元で訴える。
「大丈夫。もうお姉ちゃんは大丈夫だから」
その声に今度は桃矢の殴りつけようとした腕が下ろされた。
「よかった…」
ようやく止まってくれた事に安堵すると、抱き締めたまま、頭を撫でる。
「ありがとう…お姉ちゃんを助けてくれて」
落ち着かせるように、刺激しないようにゆっくりと。すると先程の凶暴な目は勢いを潜める。
「た…助かった…」
「ひ…ひぃ…」
そして、桃矢の暴走がようやく終わると、必死に懇願していた不良達も安堵したのかそのまま気を失った。
その一方で、桃花は落ち着いた桃矢の顔を見る。
「桃矢…!」
桃矢の顔面は不良達に殴られた際に流れ出た鼻血や頭部から流れ出る血で濡れており、真っ赤に染まっていた。髪も乱れて目も開いたままずっと一点を見つめていた。
それを見た桃花はすぐさまポケットからティッシュを取り出して血を拭き取る。
「ごめんね…こんなに怪我させて…大丈夫…?立てる?」
「…」
取り出したティッシュである程度の血を拭き取り終えて尋ねると、桃矢はゆっくりと立ちあがろうとした。
一方で、後ろでその光景を見ていた皆は安堵のあまりその場に座り込んだ。
「ふ…ふぅ…一安心だぜ…」
「それはこっちのセリフ…」
「良かったぁ…桃矢ちゃんが戻ってくれて…」
進藤に同意しながら片岡や倉橋も力が抜けて座り込んでいく中、改めて進藤は肩で息をしながら、先程の状況について尋ねた。
「ところで…マジで何があったんだよ…!?それに磯貝も…お前らも何であそこで倒れてたんだ…!?」
「それは…まぁ」
片岡は事の経緯について全て話した。他所の修学旅行の高校生に突然と暴行を加えられ、磯貝などの男子達は気絶、残りの女子生徒達は車に連れ込まれそうになり、そこへ桃矢が駆けつけ、現在に至る という事を。
「なるほど…」
簡単な経緯を聞いた進藤は、桃花に肩を支えられている桃矢へ目を向ける。
「だからあの時、走り出したのか…そりゃ姉ちゃんに手を出されりゃ誰だってキレるわ…」
「いや…んな事よりも、あんな小さいなりで俺ら気絶させた高校生全員、ボコボコにしちまうってどんだけ強いんだよアイツ…」
前原が疑問の声を上げる一方で、磯貝は携帯を取り出す。
「取り敢えず…殺せんせ____いや、烏間先生に連絡を…」
B組の生徒がいる前で安易に殺せんせーを呼ばないため、烏間へと連絡を取るのであった。
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その後、連絡を聞きつけてた烏間とイリーナが駆けつけた。彼らによって、すぐさま救急車が呼ばれると、倒れた不良達は次々と担架で運ばれ、救急車へと乗せられていった。桃矢も出血が多かったため、輸血を受けるべく同じく救急車に乗せられていった。
そして、救急車が走り去っていくと、烏間は磯貝達へと頭を下げる。
「すまなかった…すぐ駆けつけてやれず…怪我はなかったか?」
「は…はい…」
磯貝が頷く中、同行しようとした桃花が烏間へと尋ねる。
「あの烏間先生…桃矢は…」
「彼はB組の生徒だからな。この後、俺が連絡して向かってもらうようにする。悪いが君達は、このままタクシーで宿に戻ってくれ。B組の君達もだ」
「は…はい…」
「分かりました…」
烏間の指示に桃花と進藤は頷き、それぞれタクシーへ乗り込むと、宿へと戻るのであった。
そして、全員がこの場を去ると、烏間とイリーナは現場を見渡す。
「…改めて見ると凄いな…とても喧嘩とは思えん。一歩遅ければ事件になっていたぞ…」
「あら、寧ろ桃花のためにここまでやるなんて男らしいと思うけど」
「日本じゃ、そんな風には済まされん…」