弟がお姉ちゃんと呼んでくれない   作:狂骨

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説明と宿の時間

 

時間は数十分も前に遡る。

 

病院に送られた桃矢は検査と治療を受け、頭や腕に包帯を巻かれて治療を終えた。そして現在は駆けつけた担任の教師からお叱りを受けていた。

 

だが、その担任の口から吐き出されてくるのは心配ではなく“叱責”だった。

 

「まったく…E組なんぞの肩を持ちやがって!よりにもよって他校とトラブルだ!?もし他の人に見られ、学校の評判が落ちれば担任である俺の責任になるんだぞ!!」

 

「…」

 

待合室にて、担任の教師は蔑みの目を向けながら不平不満をぶちまけてくる。だが、そんなもの、戯言にしか聞こえない。黙って全て右から左へと聞き流していた。

 

「先ほど、俺からお前の処遇を申し出た。感謝するんだな?成績のおかげで退学にはならん。だがお前は“今この時”から________

 

 

 

 

 

 

 

 

____E組行きだ!!!」

 

担任から告げられたその処置は、特に心に響くものではなかった。あれ程の事をしたのならば、E組行きは当然だ。寧ろ退学にならなかっただけ幸運なくらいだ。

 

だから、普通に頷く。

 

「分かりました」

 

「全く…!!E組に親族がいるかなんか知らないが、E組の姉に暴力異常者の弟とは、とんだ狂った_____」

 

 

 

「あぁ?」

 

 

その言葉だけは鮮明に聞こえた。

 

 

「ふご…!?」

 

それを耳にした瞬間 座っていた脚が動き出し、気づいた時には目の前の教師の顔を掴んでいた。

 

「とんだ狂った…何ですか…?」

 

「〜!!!」

 

喋らせない。いや、喋る必要も、“喋る口を持つ”権利もコイツにはない。今直ぐその減らず口を塞ぎ黙らせるために____

 

 

 

 

 

______顎をブチ砕くために握力を強める。

 

 

 

その時だった。突然とその腕を掴まれる。

 

「そこまでにしなさい」

 

「…」

 

腕を掴んだのは、黒い髪にスーツを着用した男だった。その男は全校集会で見た事がある。E組の教師と名乗った『烏間』だった。

 

「これ以上は見過ごせん」

 

「…」

 

掴まれる力でわかる。この烏間という男は強く、今の自身では絶対に勝てない。それに下手に暴れて騒ぎを起こしてしまえば、今度は桃花のみならず、彼女の両親にも迷惑をかけてしまうだろう。

 

そう考え、手を離す。自身が手を離すと、烏間も手を離し教師を立ち上がらせる。

 

「後のことはこちらで引き受けます」

 

「ゲホ…ゲホ…頼みますよ…こんな問題児」

 

そう吐き捨てながら担任の教師は出て行った。そして、病室には自身と烏間のみとなった。

 

「何があったかは詳しくは聞かないが…君も災難だったな…」

 

「……はい」

 

烏間は既に本校舎の教師の質について理解しているためか、自身に何があったのか察していた。

そして彼は自身と目線を合わせるように膝をつく。

 

「初めまして……だな。俺は表向きではE組の担任である『烏間惟臣』という者だ」

 

「表向き…?担任…?“殺太”先生ではなく…?」

 

「詳しいことは宿に戻ってから話そう。車を呼んである………………ん?殺太…?誰の事だ?」

 

「へ…?」

 

烏間もそうだが、自身も理解が追いつかず、互いに首を傾げてしまう。それからすぐに烏間はようやく理解したのか、すぐさま携帯を取り出すと、相手に怒鳴り散らしていた。

 

○◇○◇○◇

 

それから車へと乗り込むと、元々、泊まっていたホテルから自分の荷物を取り出してE組が泊まる予定の宿へ向かう。その車の中で烏間は自身の正体と、今E組では何が行われているのかを話した。

 

「改めて、俺は防衛省の人間だ。訳あって今はE組の副担任と体育教師を兼任している」

 

「…?防衛省…?省庁の方がなぜ」

 

「あぁ。ここからの話は国家機密だということを理解してもらいたい」

 

「はぁ…」

 

 

それから烏間は説明を始めた。彼の口から発せられたのは、現在、3年E組で極秘に行われている超生物の暗殺の話だった。

 

・月を爆破した超生物『殺せんせー』は来年の3月にも地球を爆破する

・最高速度はマッハ20なためどんな兵器も通用しない

・地球爆破を防ぐために3年E組に暗殺の依頼

・成功報酬は100億

 

疑問しか湧かない。故にモヤモヤとする部分を片っ端から書いていく。

 

「なぜ数ある学校の中からこの学校のE組を?」

 

「詳しい事情は分からん。だが、奴の希望だ。『椚ヶ丘中学校3年E組の担任ならばやってもいい』と。生徒に危害を加えない事を条件にな。今の所、誰1人にも危害を加えている様子はない」

 

「……その話をこんなタクシーの中で話しても大丈夫なんですか?」

 

「そこは安心してくれ。これは一見普通の乗用車に見えるが…防衛省の車で運転手も俺の部下だ」

 

そう言いながら烏間が運転席へ目を向けると、運転席から『園川です』とお辞儀をしながら女性が挨拶する。

 

「なるほど。仮に外部に漏らしてしまった場合は?」

 

「その場合は、話を聞いた人物と君に記憶消去の手術を受けてもらう事になる」

 

「徹底されてますね」

 

「当然だ。なにせ国家機密だからな。それなのに……アイツはバレバレな変装で勝手に外出しやがって…ッ!!!」

 

そう言い烏間は相当、その生物に対してストレスが溜まっているのか拳を震わせており、運転席の女性も察しているのか無言であった。

 

「すまない…見苦しいところを見せてしまった」

 

「いえ」

 

見る限り、その超生物は酷く自分勝手なのか、烏間自身も振り回されているようだ。守秘義務を貫き通すために彼も彼で苦労しているのだろう。

 

 

ただ、別にどうだっていい。自身の目的は桃花を本校舎へ戻すだけだ。それに暗殺が加わろうと関係ない。

 

だから頷く。

 

「分かりました。受けます」

 

「感謝する。武器は後日、手配しよう」

 

そんな話をしていると、宿の前に到着したのか、車が止まった。

 

「着いたようだな。ここだ」

 

そう言われて、到着したのはやや年季の入った小さな旅館だった。先程まで自身が泊まっていたホテルと比べると雲泥の差である。ここでも本校舎とE組での差別が現れている。

 

「このあと、ミーティングがあるから先に荷物を置いてくるといい」

 

「分かりました」

 

そう言い旅館の中へと入ろうとした時であった。

 

 

その超生物はすぐさま現れた。

 

ビュンッ!

 

「お帰りなさい烏間先生!そしてお久しぶりです桃矢く___にゅやぁ!?」

 

「このバカタコ…!!国家機密である事を少しは自覚しろ!!」

 

「ヒィイイ!!ごめんなさい!」

 

突然すぎる光景だった。いきなり強風と共に殺太が現れたかと思ったら、その殺太の襟首を烏間が掴み、怒鳴り散らし始めていた。

 

 

この超生物こそが、『殺せんせー』ということだ。烏間は怒りながら旅館へと入っていき、彼から何とか逃げ延びた殺せんせーは自身の目の前にやってくる。

 

「改めましてお久しぶりですね桃矢くん。ここでは私の事を『殺太』ではなく『殺せんせー』と呼んでください」

 

「はぁ」

 

「生徒達もロビーにいます。では参りましょう♪」

 

それから殺太…改めて殺せんせーと共にロビーに入ると、既にそこには桃花達を含めたE組の生徒達の姿があった。

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

「…………以上が、ここに来る一連の流れです」

 

「「「「「「「は…はぁ…」」」」」」」

 

その後、残りの班の生徒達も帰ってくると、現在は大部屋へと集まっていた。

桃矢がここへ来た経緯を話し終えると、殺せんせーが取り仕切る。

 

「ではみなさん。知っている方もいると思いますが、この度、E組に新たな仲間が加わる事になりました。自己紹介を」

 

「はい」

 

殺せんせーの司会の元、肩に触手を置かれた桃矢は頷くと、深々と頭を下げながら自己紹介を始めた。

 

「初めまして。この度、E組に編入となりました矢田桃矢です。よろしくお願いいたします」

 

何も感じさせないような無表情のまま繰り出された自己紹介に、皆はどう反応すれば良いのか分からず、固まっていた。いや、それよりも一番は彼のやつれた顔だ。目元には大きな隈が出来上がっており、目からは生気すら感じない。

 

そんな不気味な風貌に気を取られている中で、茅野が恐る恐る手を挙げて尋ねる。

 

「えっと…矢田…ってことは矢田さん…桃花さんの兄弟ってことかな?」

 

「兄弟というより、また従兄弟になります。家庭の事情もあり、現在は彼女の家にお世話になっております」

 

「そ…そうなんだ…あ、私は茅野カエデ!よろしくね!」

 

「よろしくお願いします。茅野さん」

 

アタフタと自己紹介をする茅野に桃矢は調子を崩す事なく会釈する。なんともおっとりとしながらも、かしこまったその雰囲気に、皆は何も掴めないまま、質問できず、自己紹介の時間は幕を閉じた。

 

「さて、以上で今日のミーティングはお終いです。あとは自由に過ごしてください。それと桃矢君。このあと、烏間先生から詳しいお話があるので」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

その後、解散となると、皆は風呂へ向かうなり夜風に当たりにいくなりと、散らばっていった。

 

「さて…」

 

「桃矢」

 

「…?」

集会が終わり、烏間の元へ向かおうとした桃矢を呼び止める桃花の声が聞こえ、振り返るとそこには彼女に加えて数名の男女の姿があった。

 

「桃花さん、倉橋さんと…他の方は?」

 

「俺は磯貝悠馬。E組の学級委員だ。こっちは同じ班の前原と木村」

 

「私は片岡メグ。同じく学級委員よ。こっちはひなた。あとこの2人は知ってるでしょ?」

 

「えぇ。勿論」

磯貝と片岡の2人に紹介された4人が軽く手を挙げて会釈するも、桃矢にとっては桃花と倉橋以外は初めて見る顔であり、思わず首を傾げる。

 

「ただそれ以外の方々はお会いするのが初めてですね」

 

「そ…そうか?多分だけどみんなお前のこと知ってると思うけどな…」

 

「それよりもよ!昼間はありがとうな!岡野達を助けてくれてよ!」

 

磯貝が驚く中、それを押し切り金髪の生徒 前原が笑みを浮かべながら肩に手を置く。それについて桃矢は首を傾げる。

 

「昼間…?」

 

「あぁ。俺ら野郎は気絶させられちまったけど、お前が来てくれたおかげで助かったんだぜ!な?」

 

前原が呼びかけると、片岡達が頷く。

 

「うん!助けてくれてありがとう!」

 

「アンタ凄いじゃん!」

 

 

「昼間…」

 

片岡と岡野もお礼の言葉を送ってくるが、昼間の光景を思い出したと同時に、桃矢の表情が突然と暗くなった。

 

それを不思議に思った前原が尋ねる。

 

「あり?どうした?」

 

「…いえ、なんでもありません。気にしないでください。このあと烏間先生と話があるので、失礼いたします」

 

そう言い桃矢は軽く頭を下げると、そそくさと大部屋を出ていった。

 

「桃矢!?もう少し話そうよ!!」

 

「そうだぜ!それにテストの範囲を教えてくれた礼もまだ___」

 

「大丈夫です。それとすいません。烏間先生達を待たせているので」

 

○◇○◇○◇

 

桃矢が出ていき、その姿が見えなくなると、磯貝達は難しい表情を浮かべる。

 

「なんか、凄い他人行儀だよな。矢田にも敬語だぜ?」

 

「あぁ。昼間のあの暴走がまるで嘘みたいだ…」

 

前原に頷きながら磯貝達は昼間の光景を思い出す。叫び声を上げながら何度も不良達を嬲ったあの狂暴な姿が、まるで別人のように見えてしまう。

それよりももっと驚いたのは“姉”である桃花に対しての言葉遣いとやつれた表情だ。

 

それを不思議に思った片岡が桃花へと尋ねる。

 

「矢田さん。桃矢くんって、家でもあんな風なの?それに酷く顔色も悪いし、何かあったの?」

 

「確かに…桃矢ちゃんって前まではあんな隈なかったよね。なんなら、つい最近までは明るかったじゃん」

 

「…」

倉橋もそれについて同意して桃花へと尋ねると、彼女は表情を曇らせながら答えた。

 

「他人行儀なのは…多分私がE組に来たからだと思う…」

 

「確か桃花ちゃんが来た理由って、桃矢ちゃんの看病だったよね?」

 

「うん。その時はお父さんもお母さんも留守にしてて、放っておけなかったからさ。結局、個人的な理由で休んだから再試験も受けれずE組に落ちちゃって…それに桃矢は酷く責任感を感じて、その日から変わり始めたの」

 

「それが、今のような?」

 

「うん。しかも全国大会に出る寸前の部活を辞めてまで、勉強に打ち込み始めて、そこから朝も私達の朝食だけ作ったら起きる前に家を出て、夜も図書館で勉強して私が寝る寸前まで帰ってこなかったり…避けるようになったの」

 

「えぇ!?じゃ…じゃあ平日は…」

 

倉橋が思わず尋ねると、桃花は更に表情を暗くさせて頷く。

 

「全く話す機会がなかったし、なんなら一回も顔を見なかった日もあったよ。土日は早く帰ってくるから、それでいざ会話しようとしたら、あんな様子だし…」

 

そして、悩みを話し終えた桃花は大きく息を吐く。

 

「はぁ…テスト期間の時は全然違ってたのに…なんでまた戻っちゃったんだろ…」

 

彼女がE組に来た理由に加えて、桃矢の退部し、他人行儀のような態度へと変貌した理由を聞いた皆はようやく納得する。

 

「なるほどね。矢田さんがE組行きになったのを深く受け止めちゃったって訳か。じゃああの隈も、夜遅くまで勉強してできた感じかな」

 

「それなんだけど、違うんじゃないかと思えてきて…部屋は電気が消えてるんだけど、たまに酷い息遣いが聞こえてくるの」

 

「ほほぅ…それはもしかしたら思春期の___ぐべら!?」

 

「自慰こ___グボヘェ!?」

真剣な眼差しを向ける前原と岡島を岡野と片岡が鉄拳で黙らせると、片岡は少しばかり考える。

 

「それについて聞いてみたの?」

 

「うん。だけど『大丈夫』の一点張りだった」

 

「う〜ん…そうなると原因が分かんないよね」

 

その後、桃矢の雰囲気に首を傾げながらも、皆はそれぞれの自由時間に浸るのであった。

 

 

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