弟がお姉ちゃんと呼んでくれない   作:狂骨

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修学旅行の時間 2時間目

 

 

その後、烏間から詳細を聞いた桃矢はイリーナにも挨拶を済ませるとお風呂を済ませて、今は大部屋へと向かっていた。

 

「…」

 

すると、風呂の付近にある自販機には高い身長をもつ赤髪の少年の姿があった。

 

「お?やっほ〜」

 

「…?」

 

その少年は桃矢を見つけると、軽く手を挙げる。その少年について桃矢は珍しく知っていた。

 

「あなたは…『赤羽業』くん…」

 

「お?知ってんの?」

 

「えぇ。テストでも毎回、10位圏内に入っていたトップクラスの実力者でもあり、喧嘩も強いと」

 

「へぇ。よく知ってんじゃん!因みに、俺も君のことよく知ってるよ?部活の時も見に行ったし」

 

「…どうも」

 

「せっかくだし、話そうか」

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

それから合流した桃矢とカルマは大部屋へと向かう事となり、回廊を歩いていた。

 

「それにしても、まさか修学旅行1日目にE組行きになるなんて、そんな事もあるだね」

 

「寧ろ退学にならずにほっとしました。赤羽くんの場合は、停学を挟んででしたよね」

 

「まぁね。でも桃矢君が退学なら、俺も退学処分だよ。んで、どう?ウチのクラス」

 

「…そうですね」

互いに喋り合いながら歩く中、このクラスの面子について、カルマが尋ねると桃矢は少し考えながら答える。

 

「団欒としてる光景しか見てないですが、暗殺をしているような雰囲気とは思えませんでした。寧ろターゲットと楽しく過ごしてるだけに見えてます」

 

「お?やっぱそう見えるんだ。俺も同じだよ。何度も何度も殺しにいっても、あのタコに丁寧に手入れされちゃうし、あの雰囲気だから、自然とあぁいう感じになるんだ」

 

「なるほど。タイムリミットが1年もないのに、やけに緊張感もない感じですね」

 

「そうでもないよ?時間があればすぐに計画立てるし、毎日、誰しも必ず殺しにいってる。それが人によって違うし面白いから、俺もここ抜けられないんだよ。

ま、桃矢くんもいずれ分かるよ。あのタコと生活してたら、本校舎の生活がどれだけ退屈だったのか」

 

「はぁ…まぁ中間テストでほぼトップの貴方が本校舎に戻らないとなると、そうなのでしょうね」

 

 

そう言っていると、男子の大部屋へと着き、襖を開ける。

そこには男子達が集まり、何やら紙に書いていた。

 

「ん?面白そうなのやってんじゃん」

 

「お、カルマに桃矢」

 

「どうも皆さん。何をやってるんですか?」

 

桃矢が磯貝へと尋ねると、磯貝は紙を見せた。

 

「いま、クラスで気になってる子を投票してたんだよ」

 

「お前ら2人はいないのか?好きな子は」

 

 

「なるほ______」

 

手渡されたその紙を見た瞬間 

 

 

 

 

 

 

 

桃矢の額に青筋が浮かび上がり、目元から筋が湧き立つ。

 

「うぉ!?どうした!?」

 

「…これはなんですか…?」

 

血走った目を向けながら佇む桃矢に、慌てながら理由を尋ねる前原に対して、桃矢は紙を見せ、ある部分に人差し指を突きつける。

 

そこには、気になる女子リストでランクづけされていた。

 

1位 神崎 かわいい きれい

 

【2位 矢田 胸が大きい ポニーテール】

 

___と。順位と名前、好きな理由が書かれていた。そしてそれを突きつけると同時に桃矢の目の鋭さは更に増していき、顔や腕からは筋が湧き上がり、鋭い歯も剥き出しにしながら一同へと殺意を向ける。

 

 

「誰だ…?これ書いたやつは…ッ!!!」

 

「「「ひぃ!?」」」

 

それを突きつけられた途端、矢田につけた生徒達が震え上がる。それを見た磯貝は即座に前に立ち落ち着かせる。

 

「ま…まぁ落ち着けって!これはただ普通に気になる人ってだけ別にやましい気持ちはないから!」

 

「「「「「うんうんうん!」」」」」

 

磯貝に対して、矢田に投票した男子達は即座に頷く。そしてそれを確認した磯貝も桃矢へと話す。

 

「だから収めてくれよ。確かに俺達も配慮が足りなかった。今後は気をつけるからさ。な?」

 

「……………………わかりました」

 

磯貝の言葉に嘘偽りがないと分かったのか、浮かび上がっていた桃矢の髪の毛は垂れ下がり、顔に浮かび上がっていた血管も勢いを収めて、怒りが静まり返った。

 

「「「「た…助かった…」」」」

 

 

それから雰囲気を持ち直すと、改めて磯貝が尋ねた。

 

「話は戻るけど、2人は好きな子とかいないのか?」

 

「因みに、全員入れたんだぜ?お前らも入れろよ?」

 

そう言い前原も追撃を入れると、カルマは少し考えながら答える。

 

「う〜ん。俺は奥田さんかな?」

 

「お、意外だな。なんで?」

 

クラスでも物静かな雰囲気の彼女を選んだカルマに皆も予想外だったため、磯貝がその理由を尋ねると、カルマはニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「だって彼女、怪しげな薬とかクルルホルモンとか作れそうだし、俺の悪戯の幅が広がるじゃ〜ん?」

 

「「「「「「絶対くっつかせたくない2人だな…」」」」」

 

 

カルマの悪い笑みに全員が引く一方で、前原は今度は桃矢へと尋ねる。

 

「桃矢はどうなんだ?」

 

「…」

 

それに対して、桃矢は間髪入れず答えた。

 

 

 

 

 

 

「私は、桃花さんです」

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「え…!?」」」」」」

 

 

「そうか。矢田かぁ……って…えぇ!?」

 

「姉貴選ぶのかよ!?これ家族愛じゃねぇんだぜ!?恋愛なんだぜ!?」

 

「もちろんです」

桃矢の答えに磯貝と共に驚いた前原は慌てながら認識について尋ねると、桃矢は頷きながら答える。

 

「家族愛でも、異性としてても…私は桃花さんを愛してます…。こんな私を家族として受け入れて…愛してくれて、今もなおずっと………ん?」

 

 

 

そんな中であった。

 

 

桃矢はあるものを見つけ、言葉を止めると指を向けた。

 

「あれは」

 

「「「「ん?」」」」

 

そこには、窓ガラスに張り付き、顔をピンクにさせながらニヤニヤと聞き耳を立てている殺せんせーの姿があった。それから気づくや否や、何かをメモると、

 

ヒョイッ

 

すぐさま姿を消す。それを見た前原が叫んだ。

 

「メモって逃げやがった!!殺せ!!!」

 

○◇○◇○◇

 

 

「え?好きな男子?」

 

場所は変わり、女子部屋でも同様に恋バナが始まっていた。首を傾げる片岡に中村が頷く。

 

「そうよ!修学旅行の夜といえばそれでしょ!」

 

「ハイハ〜イ!私は烏間先生が好き!」

 

「はいはい。そんなの皆そうでしょ?クラスの男子よクラスの男子」

 

そう言い倉橋を軽く流すと、中村は次々と男子の名前を上げていく。

 

「ウチでかっこいいとなれば…磯貝と前原くらい?前原は垂らしだからまだしも、クラス委員の磯貝は有料物件でしょ!」

 

「確かに!でも“顔だけ”ならカルマ君もかっこいいよね!_________素行さえ良ければね…」

 

「「「「「「そうだね…」」」」」」

 

桃花の言葉に皆も頭の中に浮かび上がった悪魔の格好してゲスな笑みを浮かべるカルマに引き攣りながら頷いた。

 

 

そんな中であった。

 

「あ、クラスの子なら、桃矢ちゃんもいいんじゃない?」

 

「!?」

 

突如として倉橋によって、桃矢の名前が上がった。それと同時に、何故か桃花自身は驚きのあまり目を大きく開かせる。

 

その一方で、桃矢の名前が挙がると、昼間に彼に助けられた1班の女子達も頷き始める。

 

「確かに!助けてもらった時は怖かったけど、話しかけてみたら丁寧だし、普段は大人しいのかもね」

 

「しかも頭良いんだっけ?」

 

「そうそう!!それでね!あぁ見えてお姉ちゃん想いの凄い良い子なんだよ!」

 

そう言い片岡や岡野といった一班の女子達が次々と桃矢について盛り上がり始め、倉橋の言葉に速水や神崎、不破も興味を抱き始める。

 

「アイツ…本校舎の生徒にしては珍しく私達に優しいもんね…」

 

「そうなんだ。話してみたいなぁ」

 

「小さくて強くて成績優秀!!まさに火○丸相撲の火○丸じゃない!!だよね!?矢田さん!?」

 

「ふぇ!?ま………まぁそうだね…桃矢は確かに強いけど…」

 

突然と熱く盛り上がっている不破に尋ねられるも、どう答えたら良いか分からない。だが、彼女らが話しているのはほぼ事実なため、頷くしかなかった。

 

すると、さらに倉橋は盛り上がらせる。

 

「しかもあんなに強いのに、中身はお姉ちゃん大好きッコなんて、凄く可愛いよねぇ〜!」

 

 

 

 

____あれ?

 

段々と盛り上がるその様子を見た瞬間、なぜか心の中がモヤモヤとし始めた。

 

___何これ…どうしてこんなに焦るんだろ…

 

分からない。なぜこの感覚がいま感じるのか?そうしている合間にも話は進んでいき、中村がニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「なんなら、狙ってみようかな〜?」

 

 

「___ッ!!!」

 

その言葉を耳にした瞬間_____

 

 

 

 

「ダメッ!!!」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

____叫んでしまった。しかも声だけではない。気がつけば身すら投げ出す勢いで立ち上がっていた。

 

自分でも分からなかった。だが、もう遅く、皆の目線が此方に注目していた。

 

「あ…あえっと…その…」

 

皆が固まる中、何とか必死に言い訳しようと言葉を探すが、考えれば考えるほど言葉が出てこず、それどころか胸の奥が熱くなってきた。

 

「あの…今のは…!!」

 

「なになになに〜?今の『ダメ』は何なのかな〜?お姉ちゃ〜ん♪」

 

「もしかして、弟のこと好きなの?」

 

「そ…それは…」

 

何故だか分からない。だが、彼の名前が上がるとともに彼女らが桃矢を褒め称え始めると、何やら危機感のようなものが働き、叫んでしまった。

 

肩に手を回しながらニヤニヤと笑う中村と、真顔で尋ねてくる速水になんて言えば良いのか、どう言えば良いのか分からず混乱してしまう。

 

「私は…その」

 

 

 

その時だった。

 

「ま、あれだけしっかり者な弟なら、取られるのも嫌になるよね」

 

「…!!」

 

逃げ道が現れた。片岡の言葉にすぐさま調子を持ち直すと、全力で頷く。

 

「確かに。なんか離れられたら寂しくなるし!」

 

それに続いて倉橋も頷いていく。それは最高の抜け道であり、自身もそれに同調するように頷いた。

 

「う…うんうん!!そうなんだ!桃矢って頼りになるけど、寂しがり屋だからさ!!あははは!(あ〜!!メグ〜!陽奈乃ちゃん〜!ありがとう!!)」

 

心の中で2人に感謝しながら必死に空気に乗り、頷く。

 

 

 

 

 

だが、彼女は知らないだろう。あからさま過ぎるその様子に、フォローした2人でさえも呆れてしまっているのだから

 

「「「「「「(分かりやす…)」」」」」」

 

すると

 

「ガキども〜喋ってないでさっさと寝なさいよ」

 

襖が開き、ビールを手にしたイリーナが現れた。

 

「どうせ夜通しお喋りすんだろうけど、寝ないと寝坊するわよ」

 

そんな彼女に倉橋は頬を膨らませる。

 

「ぶぅ〜先生だけ飲んでずるい〜!」

 

「当たり前でしょ?大人なんだから……ん?あんた、やけに顔赤いけど、どうしたの?」

 

「えぇ!?あ…えっと…」

 

イリーナの目が自身へと向けられると、はぐらかしながらも即座に話題をすり替える。

 

「そうだ!!ビッチ先生の恋バナ聞かせてよ!!」

 

「え?」

 

それに対して彼女は呆気に取られるが、クラスの皆も同じ気持ちなのか、次々と頷いた。

 

「確かに!」

 

「興味ある〜!なんか為になりそうだし♪」

 

「なんですって……って!?ちょ…押すな押すな!!!」

 

「早く早く♪」

 

中村や倉橋に振り回される彼女の背中に回り込むと、自身の部屋へと押していった。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

その後、イリーナが話そうとする中、どさくさに紛れて話を聞こうとしていた殺せんせーを発見し、殺せんせーは即座に逃走。イリーナの指示のもと恋バナを聞き出そうとして女子達も後を追いかけ、後を追ってきた男子達も合流したことで大騒ぎとなったのであった。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

その後、消灯の時間となり、報告のために宿を後にした烏間を残し、生徒達全員は布団へと入った。

 

「なぁなぁ!枕投げしようぜ〜!」

 

「勘弁しろよ…さっきまであんなにはしゃいでたのに。明日、起きれないぞ」

 

前原や磯貝が軽口を叩き合う中で、先程まで殺せんせーを追いかけていた皆も次々と布団へと入っていく。

 

その中で、クラスの新参者である桃矢は布団を敷き終えると、すぐに横になる。

 

「ふぅ…騒がしいクラスだ…」

 

「あはは。なんだかんだ言って結局、暗殺になっちゃうんだよね」

 

「…?」

 

すると、ふと漏らした言葉に反応する声に桃矢は起き上がると隣に目を向ける。そこには、長い髪を一纏めにした小柄で中性的な少年の姿があった。恐らく隣の布団で寝るのであろうその少年に桃矢は首を傾げる。

 

「あなたは…」

 

「僕は潮田渚。気軽に渚って呼んでよ」

 

「はぁ…どうも渚くん。ではおやすみ」

 

「えぇ!?早くない!?」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

その後、電気も消された事で皆は眠りについた。だが、数分後には所々からイビキが聞こえ始め、それに便乗してイビキを立てる生徒や布団を被る生徒が出てくる。

 

 

そんな中、桃矢も目を瞑りながら、E組の雰囲気について思い返していた。

 

「…」

 

E組について、劣悪な環境下からモチベーションも意欲もない生徒達が多くいると想像していた。そしてその環境下におかれた彼女も同じようになってしまっているのではないかと思っていた。

 

だが、実際見てみれば想像とは全く違っていた。地球を滅ぼす超生物が担任となり、生徒達と遊び、その担任を殺すために生徒達は切磋琢磨している。

 

そして逃げ惑う殺せんせーを追う桃花の顔は、前よりも活き活きとしていた。

 

本校舎の時よりも楽しそうに。

 

「…」

 

彼女が苦しんでいる、酷い扱いを受けていると思い、本校舎へと復帰させるべく勉学へと打ち込んできた。

 

だが、今日のこの雰囲気から、それが本当に正しいのか疑問に思えてきた。

 

「…(このまま…ここにいた方がいいのか…?)」

 

本当に彼女はここで酷い思いをしているのか?本校舎に戻りたいのか?そもそもここから出た彼女はどんな思いになるのか?

 

考えて行くうちに、彼女に対する罪悪感というものよりも、自身の気持ちに対する疑念が浮かび上がってきた。

 

すると、不思議と目が閉じてきた。

 

「(あれ…眠気が…)」

 

いつもは眠れなかったものの、今日だけはその眠気に耐えきれず、そのまま意識を手放してしまった。

 

 

そして、いつものような悪夢も見る事はなかった。

 

 

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