殺せんせーの教え方はとても見事なものだった。こちらが分からない箇所が明確でなくとも正確に見抜いてくる。逆に具体的に説明すれば事細かく説明してくれる。
「…桃花さんの学力が良くなる理由が分かります」
「ヌルフフ!さて、ひと段落ついたところで…どうです?」
「え?」
殺せんせーはノートを閉じると、その瞳をこちらに向けて尋ねた。
「桃花さんと仲直り出来ましたか?」
「…」
それを聞いた途端に、緩くなっていた心がなぜだか再び硬くなり、目も何もかも思っていたことも無くなるような感覚になった。
「えぇ。まぁ」
すると
外からE組の生徒達の声が聞こえてくる。それを耳にした桃矢はノートを片付けた。
「では、私はこの辺で。見てくれてありがとうございました」
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教員室を出ると、そこには早く来て、何かを見つめている片岡と倉橋の姿があった。
「…ん?」
彼女達の目線の先には、朝来た際に見かけた黒い箱のようなものがあった。
「…(あれは…朝来た時にあったやつ…どうでもよかったけど…なんなんだ?)」
すると
「あ、おはよう。今日からよろしくね?桃矢君」
「おっは〜!」
片岡は桃矢を見つけると笑みを浮かべながら手を挙げ、倉橋と共に挨拶する。それに対して桃矢は頭を下げる。
「おはようございます。片岡さん倉橋さん。…なんですか?これは」
挨拶しながら目の前に置かれた巨大な物体について尋ねると彼女らも首を横にふる。
「いや、私もわからないんだよね。朝来たら置いてあってさ」
すると
ジジ____
突然と画面が光出すと、そこにはやや薄めの紫色の髪を持つ少女の顔が映し出された。
『おはようございます。本日より転校してまいりました『自律思考固定砲台』と申します。よろしくお願いします』
その言葉と共に再び画面が消えた。
「…は?」
突然すぎて何が何なのか理解ができなかった。彼女は何なのだろうか?殺せんせーを殺すための兵器なのか?
「何なんですか…今のは」
「いや…私にも。あ、そうだ桃矢ちゃん」
「はい?」
倉橋はある事を伝えた。
「桃花ちゃん怒ってたよ?また置いてかれたって」
「はい?」
ガラガラガラ!
突如として扉が乱暴に開かれた。その音に皆が振り返ると、そこには激しく息をつく桃花の姿があった。
「やっぱり…声が聞こえて駆けつけてみれば!桃矢!!」
「桃花さん。おはようございま___くぇ」
ドカドカと近づいた桃花は桃矢の両肩を掴むとユラユラと揺さぶる。
「おはようございますじゃないよ!?また置いてってさ!一緒に行こうって言ったじゃん!!」
「あぁ…それはすみません。次からは気をつけますよ桃花さん」
それから、次々とE組の皆が登校して、桃矢は皆へと挨拶していった。そんな彼らも、桃矢と共に転校してきた四角い黒い物体が気になり過ぎており、始業のベルがなるまで釘付けだったという。
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「皆…転校生を紹介する…ノルウェーからやってきた『自律思考固定砲台』さんだ…」
朝のHR。烏間の何とも言えない雰囲気から発せられる自己紹介に皆は彼の心中を察する。
(((烏間先生も大変だな…)))
「ぷぅークスクス笑」
「お前が笑うな!同じ色物だろうが!…言っておくが、彼女も生徒として登録されている。教師であるお前が彼女に危害を加えることはできん」
笑う殺せんせーに烏間が突っ込むと共に説明すると殺せんせーはまるで面白がるように頷く。
「なるほど!いいでしょう!自律思考固定砲台さん。貴方を歓迎します!」
『よろしくお願いします。殺せんせー』
その一言と共に、モニター画面が消失する。
そんな重苦しい空気の中、殺せんせーが触手を合わせながら再び切り出す。
「さてさて皆さん。今回は自律思考固定砲台さんだけでなく、もう1人、新しく仲間が加わります。改めて紹介しましょう。3年B組から来た『矢田 桃矢』くんです」
その言葉と共に、皆の視線が教室の後ろの業の隣に座っている桃矢へと向けられた。
それに対して、座っていた桃矢は立ち上がると、皆へ目を向ける。
「『矢田桃矢』です。改めてよろしくお願いします」
その一言と共に、桃矢はすぐに席へと座る。
「「「「「……ん?」」」」」
短すぎる自己紹介。なんなら機械の自律思考固定砲台と変わらない。流石に皆も不思議に思ったのか、そのうちの1人である中村が声をかける。
「え…えっとそれだけ…かな?隣はまだしも、アンタは人間なんだし、もう少し趣味とかなんか聞かせてよ!」
「「「「うんうん」」」」
「…趣味ですか」
中村の提案に皆も頷くと、桃矢は目の角度も瞳も何もかも変える事なく答えた。
「散歩する事でしょうかね。それだけです」
そう言い桃矢は話を終えると、再び座る。あまりにも早すぎかつ淡々とした答え方に皆はもうどう言えばいいのか分からず、それっきり、質問をする者はいなかった。
「さ…さて!では気を取り直して一時限目と参りましょう!!」
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それから授業が始まった。皆は桃矢よりも、固定砲台の方へと興味を向けており、何度も何度もチラ見していた。
あの立方体からどのように攻撃するのか?どのように仕掛けるのか?
今か今かと待ち構えるように、皆は見ていた。
すると
ガシャン___ウィィィン
自律思考固定砲台の側面が展開され、複数の銃が現れた。
「や…やっぱり!?」
「かっけー!!」
ある程度予想していた渚が驚き杉野が感心する中、展開された銃から無数の弾丸が放たれた。
「ニュヤ」
それに対して殺せんせーは即座に避ける。
「ふむふむ!ショットガン4門!!機関銃2丁!!濃密な弾幕ですが、ここの生徒達は当たり前のようにやっていますよ!授業中の発砲は禁止とされています!…ニュ!」
そう言い殺せんせーがチョークで最後の弾を弾き飛ばすと、それを目測した自律思考固定砲台の画面に次々とデータが出力されていく。
「気をつけます。続けて砲撃を再開します」
「「「「!?」」」」
淡々と反省の言葉の直後、更に銃器が展開され、その銃撃の雨は激しさを増していった。
「弾道再計算、射角修正」
大量の分析と共に次々と再計算されながら、弾幕は激しさを増していく。
その時であった。
グシャ
「「「「「!?」」」」」
先程と同様にチョークで弾こうとした殺せんせーの触手の一本が、吹き飛んだ。
「…!!」
その光景に皆は勿論だが、殺せんせーも驚きを隠せず、動きを止めてしまう。
『隠し弾(ブラインド)』
殺せんせーがチョークで弾くその所作によって発生した死角に入るように、弾丸を打ち込んだのだ。
「にゅ…」
殺せんせーが冷や汗を流す中、固定砲台の計算式が開始されていた。
「右指先破壊。増設した副砲の効果を確認。次の射撃で殺せる確実0.001%未満、次の次の射撃で殺せる確実0.003%未満。卒業までに殺せる確率___
___90%以上」
「「「「!?」」」」
その告げられた数字に、皆は言葉を失ってしまう。
だが、そんな皆の反応を気にも止める事なく、固定砲台は集計したデータを元に再び銃を展開した。
「続けて攻撃に移ります」
その言葉と共に、再び対先生用BB弾の嵐が吹き荒れた。
「ひぃぃ…!!ここまでやるなんて〜!!」
「いや…一番驚いてるのは桃矢くんだと思うよ!?ここに来てマッハ20の超生物に、こんなの…ねぇ!桃矢く……えぇ!?」
その激しい弾幕に頭を抱え低くしながら伏せていた茅野に対して、渚は頷きながらもすぐさま桃矢の方へと目を向けると、
見れば桃矢はノートを広げて自習していた。
「なにやってんの!?」
「自習です」
「集中できんの!?」
「できます」
「てか僕の声、聞こえるの!?」
「聞こえます」
それから自律思考固定砲台が乱射する中、
そのほぼ隣の席に座っていた桃矢は、勉強に取り組んだ。そんな姿を横の席に座っていたカルマが興味を持ち覗き込む。
「ねぇ桃矢くん。何の科目やってんの?」
「数学です。待ち時間が勿体無いので」
「ひゅ〜真面目ぇ〜。なら俺は、お昼寝タイムだね」
そう言いカルマはイヤホンを装着すると目を閉じた。
「余裕…天才気質……なるほど」
その姿勢は強者としてか?はたまた自身を見下すためか?そんなことどうでも良い。
それからしばらくして、授業の終了のチャイムと共に、射撃の音が止まった。
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授業終了後、教室に散らばっていたのは、固定砲台が撃ち尽くした対先生用BB弾。それをみて皆は呆れ果ててしまう。
「これ…俺らが片すのかよ…」
「しょうがない。当の本人があのザマじゃな」
磯貝の言葉に前原は固定砲台へと目を向けると、そこには先程までイキイキとしながら銃をぶっ放していた固定砲台が、まるで勢いを潜めているかのように元の形に戻り、モニターもオフになっていた。
その一方で
「桃矢大丈夫!?弾当たってない!?」
桃花は桃矢の身体をベタベタと触りながら声を掛けていた。確かに隣に座っており、流れ弾が当たってもおかしくはないだろう。
「アイツの真ん前や横に座ってる菅谷や原さん、お前は危なかっただろうな」
「特に菅谷はデカいからな…よく当たらなかったよ」
そう言い磯貝や前原も心配する声をかける中、桃矢は本を閉じる。
「全く。途中で慣れましたよ」
「慣れるのかあれ!?」
「それよりも、次の授業は体育でしたよね」
前原が突っ込む中、桃矢は次の授業について、クラス委員である磯貝へと尋ねる。
「ここの体育ではどのような授業をするのですか?」
「あ…あぁ」
尋ねられた磯貝は驚きながらも落ち着くと、分かりやすくまとめて教える。
「最初はナイフの振り方の訓練、あとは銃、そこから烏間先生が考えた訓練をやってく感じだ」
「なるほど…」
「本校舎よりもキツイからな!ま、筋肉痛にならねぇように頑張れよ!」
そう言い前原は後から入ってきた桃矢に対して自慢かつ余裕があるかのように背中をバシバシと叩いた。
「キツイ…ですか」
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その後、休み時間が終えると共に体育の授業がやってきた。自律思考固定砲台は停止。それ以外の皆はジャージへと着替えて外の校庭へと集合する。
そして全員が集まると、烏間が授業を始めた。
「今日は事前に知らせたペアで訓練を行ってもらう。その前に」
すると、授業を始めかけようとした烏間の目が、桃矢へと向けられた。
「まずは桃矢くん。来なさい」
「はい?」
それに対して呼ばれた桃矢は首を傾げながらも彼の元へと向かうと尋ねた。
「なんですか?」
「今回は君の力を見せてもらいたい。俺と戦い、そのナイフを俺に当ててみてくれ」
「これをですか」
桃矢は持参したナイフを手に取る。これは烏間から事前に銃と共に渡された武器である。殺せんせーの細胞を破壊する所謂『対先生ナイフ』。これを当てることで殺せんせーの細胞を豆腐の様に柔らかく変質させて破壊する事ができるらしい。それは銃弾も同じだ。
因みに、銃弾はBB弾、ナイフもゴム質であるため、人には無害だ。故に実機を用いて訓練が可能となる。
それよりも、桃矢はナイフの扱い方など知らない。
「ナイフ術の心得などありませんが」
「確かにそうだろう。だからこそだ。
体育の授業では、個別訓練の時間もあり、それぞれに適したメニューをやってもらう時がある。今後の参考のために君の実力を図りたい」
「なるほど。分かりました」
烏間の説明に理解した桃矢はナイフを取り出すと、手に取る。
「君達は言われた通り、バディを組んで訓練を始めてくれ。少しばかり、場所を借りる」
烏間は線を引き、皆を線の外へと避難させると、桃矢と戦う場所を作った。
共に準備を完了すると、桃矢はナイフを握り、烏間も閉めていたネクタイを緩める。
「さぁ、始めよう。いつでも来なさい」
「…はい」