弟がお姉ちゃんと呼んでくれない   作:狂骨

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壊れる関係

 

__E組が口答えしてんじゃねぇよ!!

 

 

「いつ…」

 

寝るたびに見てしまう。 

 

 

_____お前なんかと仲良くするんじゃなかったわ  

 

「やぁ!!髪引っ張らないで!!」

 

桃花さんが本校舎の生徒から蹴られ、踏みつけられ、後ろ指を刺されている酷い夢だった。

 

それを見るたびに胸が痛くなってくる。見たくもないのに、自分の意思に関係なく、何度も何度も流れてくる。

 

 

やめろ…やめて…やめてくれ!!!

 

 

願っても願っても、目を背けても映像が頭の中に流れ込んでくる。その度に胸が張り裂けそうで頭も割れるように痛かった。

 

 

すると、目の前に蹲っていた桃花さんが起き上がり、俺の方へと振り返った。

 

「お前の所為だ…お前なんか____」  

 

 

その目は真っ黒な穴となって、おれを睨んでいた。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「____!!!」

 

その悪夢に、桃矢は飛び起きる。

 

目が覚めた時には、まだ辺りは暗く、時計を見れば夜中の3時半であった。

 

「まだ…こんな時間…」

 

額に手を当てると、とてつもない量の汗で濡れており、更に全身からも汗が出ていたのか、シーツの所々に少しシミができていた。

 

「また…見ちまった…」

 

汗を拭いながら桃矢は汗をタオルで拭き取ると、机の灯りをつけて椅子に座る。

 

一度でもこの夢を見てしまえば、寝る前まではあった眠気など一瞬で消え失せてしまい、もうこのあとは寝たくても寝る事ができなくなってしまうのだ。

 

「………」

 

目が覚めてしまえば、もうここからは1日の始まりみたいなものだ。そうなればやる事は一つだけである。

 

本棚から参考書を取り出すと、机に並べて、勉強を始めた。

 

できるだけ集中しやすいようにクラッシックの音楽をイヤホンで聴きながら、今日の予習の部分から始めていく。

 

 

 

 

それから数時間後。鳥の囀りと共に朝日が昇り、街を照らし始めた。

 

こうして少年の一日は始まる。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

その後、登校する1時間ほど前になると、桃矢は学校への準備を済ませて、部屋を出る。

 

「あ」

 

扉を開けるとそこには桃花の姿があった。桃矢が起きるのを待っていたのか、桃花は恐る恐る手を振る。

 

「あ…おはよう。桃矢」

 

それに対して桃矢は笑顔を浮かべながら頷いた。

 

「えぇ。おはようございます。桃花さん」

 

そんな挨拶に、桃花はまた表情を暗くさせる。

 

 

それから彼女と共に食卓に向かうと、そこには先に起きて椅子に座る父と母の姿があった。

 

「おはよう。2人とも」

 

「おはようお父さん!お母さん!」

 

父親らしき人物の声に桃花は元気に答えるが、桃矢は違った。まるで他所他所しく、居候であるかのように頭を下げる。

 

「おはようございます。橙子さん、隆さん」

 

すると、2人の表情は一変した。

 

「うん…」

「…おはよう桃矢」

 

その挨拶を耳にした2人の表情は先程より少し辛くなり、まるで期待を裏切られたかのようにショックを受けているみたいであった。

 

 

その後、

 

「ごちそうさまでした橙子さん」

 

桃矢は出された食事を全て平らげ、白米も米一粒残さず食べ終えると、会釈して立ち上がり、自身の皿を洗う。

 

そして片付け終えると既に用意していた鞄を背負う。

 

「では、いってきます」

 

「あ…桃矢!一緒に___」

 

その姿を、食べ終えた桃花が呼び止めるが、それを聞き入れることなく家を出ていた。

 

「…はぁ…」

 

それを見送った父である『矢田 隆』は桃矢がいなくなると、額に手を当てながらため息をつく。

 

「アイツ…まだ気にしているのか…」

 

「そうみたいね…」

 

それについて、母である『矢田 橙子』も頷くと、桃花の表情は更に暗くなり、その場は沈黙に包まれた。

 

「……お母さん…お父さん…私ももう行くね…」

 

その後、桃花も食べ終えると席を立つ。

 

「あぁ。桃花、環境が変わって辛いとは思うが、頑張るんだぞ」

 

「うん…」

 

父親の言葉に頷きながらも、桃花は表情を暗くさせたまま、家を出るのであった。

 

○◇○◇○◇

 

桃花さんとは登校したくない。登校したくなかった。

 

俺とあの人は姉弟という関係だが、血の繋がりがある訳ではない。祖父が兄弟のまた従兄弟の関係だ。親戚といえば親戚だが、強い繋がりがある訳ではない。

 

桃花さんは俺を弟として見てくれていたが、俺はもうそんな扱いを受ける程の身ではない。居候の身であるにも関わらず、俺はあの人をE組に落としてしまった。

 

「…」

 

3年となる前の3学期。B組の教室の自分の席に座り、ふと窓の外に目をやると、そこには本校舎には向かわず裏山に入っていく生徒達の姿があった。彼らが登校するのはこの本校舎ではない。ここより離れた裏山に聳える旧校舎だ。

 

それが特別編成クラス『3年E組』成績や素行不良など問題を抱えた者達が集まる場所であり、本校舎生徒達の蔑みの的となることから、通称“エンドのE組”と呼ばれていた。

 

「おい見ろよ!E組の奴らだぜ!?」

 

「朝からご苦労なこったね〜」

 

教室の隅からはその光景を嘲笑う生徒達の姿が見えてくるが、

 

「…くだらねぇ…」

 

心底気に入らない。聞いているだけでコイツらのレベルが知れる。上だけを見てれば良いものを、わざわざ下の者を見るなんて一種の安定剤にしかならない。

 

だけど、そんなクラスに俺は桃花さんを落としてしまった。

 

彼女のみならず、同じく登校する生徒を見た瞬間から、益々、自身が許せなくて仕方がなかった。

 

 

 

E組の環境が劣悪であることは知っている。以前にも偶然、E組の担任である雪村先生から桃花さんについて聞かれた。

 

 

_______お姉さん、何かあったのかな?凄く表情が暗かったけど

 

 

「…」

 

やはりそうだ。E組の環境があの人にとっては辛いんだ。それもその筈だ。本校舎の人から差別され、酷い環境に置かれているのだから。

 

だから俺は何としてでもあの人を本校舎へ連れ戻す。連れ戻すためには彼女に教えられるように知識を詰め込まなくてはいけない。

 

 

そうだ。そのためなら何だってやってやる

 

○◇○◇○◇○◇

 

あの日から、弟は変わってしまった。テスト当日、お父さんとお母さんが留守の時、桃矢は風邪を引いてしまった。特にその日は発作が酷く、どうしても放っておけずに無断でテストを欠席し、看病に徹した。

 

桃矢自身は私にテストに行くように言ってくれたが、たった1人の弟を放ってはおけなかった。

 

その結果、桃矢は病欠という形で後日にテストを受ける事ができたが、私の場合は無断欠席という形となり、素行不良としてE組行きが決定してしまった。

 

 

けど、それはあらかた予想はできていた。だからあまり大きなショックは受ける事はなかったけれど、自身の進路を少しばかりか気にしてしまった。

 

それを聞いて最もショックを受けたのが桃矢だった。責任を感じていたのか、泣きながら何度も何度も私に頭を下げてきたけど、私自身が選んでやった事だから、桃矢は悪くは無い。何度も言って聞かせたけど、それでも桃矢は謝る事を辞めなかった。

 

 

 

 

その日から 桃矢はまるで別人のように変わってしまった。

 

距離を置くかのように、私達と話す時は敬語を使うようになり、それどころか、お父さんとお母さん、遂には私までも下の名前で“さん付け”で呼ぶようになってしまった。

 

いや、もっと酷いのはそれからだった。いつもは私と登校していたのに、私よりも早く、酷い時には起きる前に登校してしまうし、帰りも遅い。更に家でも夜遅くまで部屋には灯りがついており、何かに取り憑かれたかのように机に向かっていた。

 

それによって、日に日に目元には大きな隈が出来始め、顔色は益々悪くなっていった。

 

 

本人に聞いても答えてくれないし、休めと言っても休んでくれず「大丈夫」の一点張りだった。

 

 

 

「どうしたの?桃花さん。何か悩みでもあるのかな?」

 

E組での授業の際に、担任の教師となった雪村先生が私の顔色を見て気にしてくれたのか声を掛けてきた。

 

「…ううん!何でもないですよ!」

 

悩みは持ってる。だけど、これは私と桃矢の家族間の問題。他人を巻き込む訳にはいかない。

 

桃矢はただ罪悪感を持っているだけだ。だからそれを消すために私が今までのように積極的に関わっていけば良い。罪悪感なんて時間が経てば薄れていく。毎日毎日、コミュニケーションを取っていけば、いつかはまた、前みたいな関係に戻れる筈。また、私を『お姉ちゃん』と呼んでくれる筈。

 

 

 

そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、私が話しかけていく度に、桃矢は変わるどころか更に悪化していった。

 

もはや険しい表情すら浮かばせず、心配させないようにするためなのか、ただ笑顔だけ見せるようになった。

 

それは、私どころかお父さん、お母さん、果ては学校や日常生活でもだ。桃矢の顔はもう笑顔以外見たことが無い。

 

 

表情どころか感情をさえも繕うなんて、もう家族どころかまるで気遣う他人のような仕草に私は耐えられなかった。

 

 

____ねぇ桃矢…いつまでそのままでいる気なの…?

 

 

_____なんでそこまで自分を責めるの…?そんなに責任感じてるの…?

 

 

ねぇ…お願いだからさ…また『お姉ちゃん』って呼んでよ…

 

 

 

 

そう悩んでいる合間にも、寄り添ってくれた雪村先生は退職し、3年になると同時に新しい先生がやってきた。

 

 

「私が、月を破壊した犯人です。来年には地球もやる予定です。皆さんの担任になったので、どうぞよろしく」

 

 

「…………は?」

 

 

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