弟がお姉ちゃんと呼んでくれない   作:狂骨

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全校集会の時間

 

「ほら、サッサと立って。別に強く殴ってないでしょ?」

 

そう言い桃矢は地面に倒れる女子生徒の髪を掴む形で無理矢理立ち上がらせた。

 

「いぃ!?いたい!やめて!なにすんのよ!?」

 

「元気ありますね。じゃあサッサと並びましょう〜」

 

そう言い、桃矢は意気揚々と髪を引っ張りながら列へ連れて行った。当然ながらその光景を目にした教師が注意しに行くが、今の場面を目の当たりにしたE組の一同は驚きのあまり言葉を失っていた。

 

「あの人が…矢田さんの弟…?」

 

「スカッとしたけど怖ぇよ…あいつ笑いながら殴ってたぞ!?」

 

渚と菅谷が驚きの声をあげる。それもそうだ。あの時、女子生徒を殴っていた時の桃矢の表情はただ純粋な笑顔であったのだ。そんな明るい笑顔で殴るなど正気ではない。

皆もざわめく中、全校集会が始まるのであった。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

その後、全校集会が始まったが、椚ヶ丘中学校の全校集会は実に陰湿極まりないものであった。

 

『え〜要するに皆さんは全国から選ばれた優秀な生徒です。…が、ちゃんと勉強してないと、どうしようもない誰かさんみたいになっちゃいますよ〜』

 

『『『『ハハハハハ!』』』』

 

壇上に立った校長の腑抜けた言葉と共にE組へ向けられる視線に全校生徒達の笑い声が響き渡る。

 

「こ〜ら君達笑い過ぎ!先生も言い過ぎました!」

 

謝意もなにもない、軽快な声で注意を終えると、校長の話が終わる。

 

 

『続いては生徒会からのお知らせです。生徒会は準備を始めてください』

 

アナウンスと共に、生徒会の一人が壇上に上がると共に、全校生徒へとプリントを配って行った。

 

『はい!今みなさんにお配りしたのが、生徒会行事の詳細になります』

 

壇上に上がった生徒会の役員の一人のアナウンスがプリントを確認するように上に上げて見せる。だが、

 

「…あれ?すいません!E組の分がまだなんですが…」

 

E組の列だけプリントが配布されておらず、それに気づいた皆を代表して前列に立つ磯貝が声を上げた。

 

「あれ?おかしいな〜E組の分忘れてきたようです!すいませんが記憶して帰ってくださ〜い!」

 

『『『『ハハハハハ!!』』』』

 

その言葉と共にまたもや生徒達の笑いの渦が巻き起こり、再びE組は暗い雰囲気に包まれた。

 

 

「…」

生徒達の笑い声が鳴り響く中、プリントを握り締めていた桃矢の腕に筋が沸き立つ。 

 

____うるせぇ…

 

校長の話に積み重なり、桃花を含めたE組を侮辱する笑い声が、頭の中に響くと同時に、自身の不甲斐なさや無力感、罪悪感が膨れ上がる。

 

あの日、ベッドに伏して何もできなかった自身に腹が立ってくる。

 

何度も

 

 

何度も何度も

 

 

膨れ上がったマイナスの感情が掻き混ぜられていく中で、その感情は“怒り”へと変わり、桃矢の表情を突き崩すかのように現れた。

 

____くだらねぇ事すんなよ…

 

そして、最大限の怒りと怨念が掻き混ぜられた目を向ける。

 

 

______荒木ッ!!!!!

 

 

「あはははは!!___は…!?」

 

 

その瞬間

 

「!?」

 

壇上の生徒である荒木の笑い声が急に止まると共に硬直する。

 

突然と壇上の生徒が表情を変えるどころか、動きも止まった事で、全校生徒達の注目が集まり笑い声が止まった。

 

「なんだ…?」

 

「なにやってんだ?あのひと…」

 

周囲の生徒達は急な変わりように驚き、ザワザワと声があがっていく。

対する生徒である荒木には見えていた。目の前に広がる整頓された列の中から、コチラを怒りの込められた恐ろしい瞳で見つめるたった一人の生徒の姿が。

 

『えぇと…何かあったのかな?荒木くん』

 

「あ…あの…えぇと…」

 

校長が尋ねるも、荒木は細々と声を上げ、なんとか持ち直そうとするが、桃矢の目線は離れることはない。

 

まるでこのまま襲いかかる勢いで荒木を睨みつけていた。

 

 

すると

 

ピューン…!!!

 

「「「「「!?」」」」」

 

突然と小さな風が吹くと共にE組生徒達の手元へプリントが“出現”した。

 

 

「磯貝くん。問題ないようですねぇ〜手書きのコピーがあったようで」

 

「!?」

突然と聞いたこともない声が聞こえてきた。その声に驚いた桃矢は目線を荒木からE組の方面へと目を移す。

 

「……へ?」

 

それを見た途端、目を点にしてしまった。

 

そこに立っていたのは妙な姿をした大柄な教師であった。大学生が卒業式に着用するかのような服装に加えて、月の模様のネクタイ、いや、最も不思議なのはウネウネとしている手の関節であった。

 

 

「(だ…誰だ…?)」

 

 

その正体は勿論、E組の担任である殺せんせーであり、彼の姿とプリントが揃うと磯貝が声をあげた。

 

「あ、プリントあったので続けてください!」

 

「え…!?あ…えっと…はい!続けます…」

 

その声に桃矢の視線に遮られていた荒木も持ち直し、再びお知らせへと戻った。

 

その後も色々とE組教師の何やらナイフのような物を殺せんせーに向けて振り回したイリーナが、烏間によって静かに外に連行されてく様子にE組の皆はクスクスと笑い声をあげるのであった。

 

 

「…」

 

桃花も含めてE組の皆が愉快そうに笑うその光景に思わず桃矢は見つめてしまう。

 

「(楽しそうだな…)」

 

その後はゆるやかに全校集会は進んでいき、解散となったのだった。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「…」

 

全校集会が終わると、桃矢は持参した水筒に水をいれて飲み干す。

 

「ふぅ…」

 

先程の途中までは少しばかりか調子が悪かったものの、現れた教師によって、その感情は薄れていた。

 

「(なんだったんだ…?あの教師…変な姿だったし…)」

 

あんなユニークな姿をした教師なら、入ってくる時は誰しも注目するはずだが、気づくことなく体育館の壁側に立っていた。それがどうも気になって仕方がなかったのだ。

 

 

すると

 

「やぁ。ちょっといいかな?」

 

「ん?」

 

背後から声を掛けられた桃矢は振り返り、笑みを浮かべる。

 

「これはこれは」

 

そこに立っていたのは2人の男子生徒。彼らはこの学校のトップに君臨する『五英傑』と呼ばれる優秀な生徒のうちの二人である。

 

中でも桃矢に話しかけてきたのは、やや赤い髪を持つ鋭い目つきの生徒である。その生徒こそが、椚ヶ丘の生徒会長であり、全国トップの成績を持つ『浅野学秀』であった。

 

「私に何かご用でしょうか?生徒会長」

 

「荒木から聞いたよ。先程、彼の様子がおかしくなったのは君の仕業だとね」

 

「何のことでしょう?」

 

「しらばっくれるな!!」

 

浅野の質問に対して桃矢が白々しく首を傾げると、先程の壇上で威圧された生徒である荒木が怒りながら指を向ける。

 

「さっき凄い眼力で睨みつけてきただろ!?」

 

 

「おやおや。私は貴方の背後に立つ悪霊を睨みつけていたつもりでしたが、誤解させてしまったようで失礼」

 

 

「そ…そんな嘘が罷り通ると思っているのか!?」

 

 

桃矢の馬鹿馬鹿しい言い訳に荒木が更に逆上し、浅野を避けて詰め寄ってくるが、桃矢はその目を見つめる。

 

「いや見えますね。貴方の背後にメチャメチャキレてるババアの悪霊が。『1クラス分もプリント忘れてくるような管理能力のないバカが生徒会やってんじゃねぇよ!』と。もうカンカン」

 

 

「こ…この!!」

 

 

「落ち着け荒木」

 

思わず胸ぐらを掴みそうになりながらも狼狽える荒木を浅野は制すると再び前に立ち桃矢へ尋ねた。

 

「なぜあんな事を?…いや、理由はある程度推測できる。確か君はE組にお姉さんがいたようだね」

 

「姉…?」

 

その単語を耳にした瞬間 桃矢の目の色が変わり虹彩の中の光が消え失せるも、笑みを崩す事なく答えた。

 

「何を仰るのなら。私に姉はいませんよ。いるのはまた従兄弟です」

 

 

「そうかい?まぁ関係性はどうだっていいさ。親戚が笑われたら、腹を立てるのは不思議ではないからね」

 

 

「ほぅほぅ。……だから何でしょう?」

 

 

「ただの注意さ。今後は態度を改めてくれ。荒木への威嚇はともかく、先程の集会が始まる前の暴力は見過ごせないな?過剰な暴力は停学…何件も重ねれば退学につながるからね」

 

 

「おやおや、そこまで交流がない私に直々に忠告とは…随分とお優しい事で……」

 

 

浅野の忠告に桃矢は顎に手を当てながら考え込む。確かに暴力沙汰を起こしてしまえば自身のみならず親も巻き込み大型になってしまうだろう。そうなれば退学のみならず近所で悪い噂話も出る可能性もある。

 

それは何としてでも避けなければならない。

 

 

「承知しました。これからは善処いたします。なら、其方もそのクソメガネ、どうにかしてくれませんかね…?」

 

「クソメガネ!?」

 

「先程の仕打ちは酷く腹が立つ。生徒会なら、言動はともかく、お知らせなど行うなら、E組含めて公平に扱うべきでは…?」

 

「なるほど。それについては改めよう。僕から言っておく」

「おい!?クソメガネってどういう意味だ!?」

 

「助かります。あとそれと…」

 

 

浅野の忠告を素直に受け入れ、更に此方の要求を飲み込んだ事を確認すると、荒れる荒木を無視しながら、今度は桃矢から浅野へ尋ねる。

 

「気になってしょうがない。なぜ交流のない会長が直々に私に注意するのですか…?」

 

 

「君にはないかもしれないが、僕は一度、君に得意科目である数学で負けて、少しばかり目の敵にしているさ。ウチのクラスの小山もね」

 

 

「小山…?あ〜あのおっかない山姥ですか」

 

 

「文系科目は別として、得意な理系科目に負けてしまっては流石の僕も黙ってはいられない。次の中間テスト、今度は君に勝たせてもらうよ」

 

注意と共に宣戦布告ともとれるその発言に、桃矢は何の意味が込められているのか、まったく理解できずにただ、首を傾げながらも頷くだけであった。

 

「…えぇ。こちらこそ」

 

 

その後、荒木を連れて浅野は自身の教室へと去っていったのであった。

 

 

その場に取り残された桃矢もスマホを取り出して時間を確認する。

 

「…そろそろ戻らないと」

 

もうすぐ昼休み後の授業が始まる時間のため、桃矢もすぐさま戻ろうとした。

 

 

その時であった。

 

「桃矢!」

 

「!」

 

背後から聞き慣れた声が聞こえ、その声を耳にした途端、手にしていた水筒をその場に落としてしまい、その水筒が背後にコロコロと転がっていく。

 

「あ…ごめんね!あの…落としたよ…?」

 

そして背後に立った人物がそれを拾い上げて此方に差し出してきた。その水筒を手に取ると、桃矢はゆっくりと、“笑顔を作りながら”振り返る。

 

「どうも。桃花さん」

 

そこに立っていたのは、先程まで差別を受けていたE組の列に並んでいた桃花だった。

 

「桃矢…さっきはありがとね。お姉ちゃんのこと庇ってくれて…」

 

「いえいえ!私も女子生徒の態度に腹が立っただけですよ!桃花さんが気にすることじゃありません!」

 

「…」

 

そう答えた時であった。桃花の目が変わる。

 

「ねぇ。いつまでそうしてるつもりなの…?」

 

「はい?」

 

表情を暗くさせながらも桃矢へと迫ると肩を掴む。

 

「もうその喋り方も何とかしなよ!すぐにとは言わないからさ…お父さんとお母さんも本名で呼ばずに!私の事だって!」

 

「……いやいや。変えろと言われましても、私はいつもこんな」

 

「こんなんじゃないでしょ!?いつもの桃矢に戻ってよ!まさかあの日のことまだ気にしてるの!?本当にもう良いんだから!!」

 

桃花が何度も肩を揺すり訴えていくが、桃矢の目や笑みは崩れることはなかった。

 

「なんでそんな他人みたいに接するの…?桃矢は…私の大切な弟なんだよ!?」

 

「私と貴方の関係はまた従兄弟ですよ?そんなに強い繋がりがある訳では_____」

 

 

 

その瞬間

 

 

パチン

 

 

頬を叩く音がその場に響き渡る。桃矢の頬を叩いた手を押さえながら、桃花は涙を流す。

 

「もういい…桃矢なんか…大嫌い…!!」

 

○◇○◇○◇

 

同じくして、全校集会が終わり、殺せんせーは烏間と行動を共にしていた。

 

「俺は急用ができたから防衛省へ戻るが、お前もすぐ旧校舎に戻れよ…!?」

 

「ヌルフフ!ご心配なく」

 

注意をし終えた烏間が去っていくと、殺せんせーも旧校舎へと帰還すべく、飛び立とうとする。

 

そんな中であった。

 

「…ニュ?」

 

ある光景が目に映る。そこには、まだ旧校舎に戻っていなかった桃花の姿があり、見れば黒髪の生徒と話していた。

 

「ほぅほぅ…これはこれは矢田さん…まさか本校舎に彼氏がいたとは…!ちゃんとメモっておかなければ…」

 

それを目にした殺せんせーは体色を桃色にするとメモ帳を取り出し書き足していく。

 

殺せんせーの弱点:下世話

 

 

だが、聞こえてきたのはそんな甘酸っぱいものではない。

 

 

______もうその喋り方も何とかしなよ!すぐにとは言わないからさ…

 

 

___何のことでしょう?私はいつもこのような調子ですよ!

 

 

____こんなんじゃないでしょ!?いつもの桃矢に戻ってよ!まさかあの日のことまだ気にしてるの!?本当にもう良いんだから!!

 

 

___だから、私はいつもの通りと…

 

 

耳を澄ませて聞こえてきたのは、何やら喧騒な雰囲気を醸し出す会話であった。

 

「桃矢…?もしや矢田さんの…それに彼の顔…」

 

会話と男子生徒の名前から察するに痴話喧嘩ではない事を悟ると、同時に、男子生徒の顔を見た途端に殺せんせーの体色が通常に戻る。見ればその男子生徒の隈は酷く深く、髪の毛も癖ばかりで、目からは光が失われていたのだ。

 

「一体何が…」

 

 

すると

 

 

 

 

 

パチン

 

「!?」

 

その場に凄まじい音が鳴り響く。見れば桃花の手が桃矢の頬を叩いていたのだ。

 

 

そして聞こえてきたのは

 

 

_____もういい!!桃矢なんか大嫌い!!

 

桃花の悲痛な声だった。

 

「ニュウ…」

 

一部始終を見ていた殺せんせーはその壮絶な現場に何も言い出せず、しばらく硬直すると、すぐさま旧校舎へと戻るのであった。

 

ーーーーー

ーーー

 

桃花と別れ、B組へと向かっていた桃矢は左頬を押さえていた。

 

____いいんだ…これで良いんだ

 

心の中から湧き上がってくるその感情を押し殺すかのように自分に言い聞かせていく。

 

____私みたいな居候、E組に落ちる原因となった居候な私を嫌うことが普通なんだ

 

何度も何度も言い聞かせていく。これが現実なのだと。

 

だが、不思議と涙が止まらなかった。

 

 

 

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