弟がお姉ちゃんと呼んでくれない   作:狂骨

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苦悩の時間

 

叩いてしまった。

 

愛する弟の顔を___。

 

「私…」

 

元の姉弟に戻りたいとばかり考えていたにも関わらず、桃矢の発言に我慢できず、気づいた時には桃矢の頬を叩いて、言ってしまった。

 

『桃矢なんか大嫌い!!』

 

結果としてより深い溝が出来上がってしまった。

 

「ごめんね…桃矢…!!」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

その後、旧校舎にて、午後の授業が全て終わると皆は下校の用意を始めるが、今日の集会の話題で持ちきりであった。

 

「それにしても、さっきのアイツ凄かったよな…まさか殴っちまうなんてよ」

 

「しかも目が笑ってなかったぜ!?本気で俺らのためにキレてたとしても、おっかないぜ…」

 

「あぁ…いくらウチの問題児でもあそこまでしねぇって…」

 

前原や菅谷、前原など、E組の半数が先程の集会での出来事について話していた。それもそうだ。今まで集会前に殴るなんて事例などなかった。ましてや本校舎の生徒が本校舎の生徒を。

 

すると、

 

ガラガラガラ

 

「どうしました皆さん?先程からザワザワしているようですが、何かあったのですか?」

 

職員室からそのざわめきを耳にしたのか、殺せんせーが入室し、話題について尋ねると、倉橋が答えた。

 

「それがね。私達が並んでた時に桃花ちゃんと仲が良かった人達が色々と言ってきて、その時に桃花ちゃんの弟くんが、その子達を殴っちゃたんだ」

 

「弟…?」

 

 

「桃矢ちゃん…だったよね?何かあったの?あの子、3学期頃から顔色が悪い様だけど」

 

その名前に殺せんせーは先程の場面を思い出して驚きながら、倉橋とともに桃花へと目を向けるが、そこに座っていた彼女の表情は酷く曇っていた。まるでずっと悩み続けていたかのように、顔全体に疲れが現れており、明るい瞳からは少しばかりか光が消えていた。

 

「ねぇ大丈夫…?」

 

「…うん」

 

その表情を見た倉橋が少しばかり心配そうに尋ねると、桃花は首を横に振るが、それでも表情は晴れることなく、いつもよりも遅い手つきで荷物をまとめて立ち上がる。

 

「ごめん…今日は一人で帰るね…」 

 

「えぇ!?本当に大丈夫なの!?なにがあったの!?」

 

「大丈夫だよ…」

 

そう言い桃花はそそくさとその場を去ろうとする。

 

すると、彼女の肩に、殺せんせーの触手が優しく置かれた。

 

「矢田さん」

 

「ん?」

 

「良い機会です!一度せんせーと面談でもいたしましょう!」

 

「いや…いいよ…」

 

殺せんせーの明るい声と共に出された提案に桃花が断ろうとすると、そんな彼女に倉橋がまぁまぁと肩を叩く。

 

「ナイスアイデア!殺せんせー何でも相談乗ってくれるから、暗殺ついでに相談しちゃいなよ♪」

 

「その通り!それに中間テストも近いですし、その様な落ち込んだ気持ちのままでは試験を迎えられませんよ!」

 

倉橋に続く様に殺せんせーも頷き、まるで話すこと自体が楽しみであるかの様に肌をやや桃色に染めていた。

 

それについて桃花はしばらく考え込むと答える。

 

「そうか…うん。そうだよね、お願い殺せんせー」

 

「ヌルフフフフ!任せてください!

 

ーーーーーー

ーーーー 

ーー

 

その後、帰りは送ってもらう事を条件に、教員室にて殺せんせーに桃花は自身の悩みを打ち明けた。

 

それは、自身の弟である桃矢が益々、自分と距離を置くのみならず、顔色が悪くなっている事だ。

 

「なるほど。矢田さんがE組に落ちた理由が、弟さんの看病でしたね?」

 

「うん。正確にはまた従兄弟なんだけどね。その時、桃矢は何度もテストに行く様に言ってくれたんだけど、今まで何度も看病したり、家事も分担したりしてきたからさ…どうしても放っておけなくて」

 

「矢田さんの弟を想う優しい心遣い、実に素晴らしいですねぇ。ただ、弟さんはそうさせてしまった自分が許せずにいるという訳ですか」

 

その問いについて、桃花は頷き、その日を境に起き始めた桃矢の変化について話した。

 

「初めのうちは態度から変わり始めて…私の事を『桃花さん』って他人の様に呼んで…しばらく経ったらお父さんとお母さんの事も本名で呼ぶ様になって…まるで居候の様になっちゃったんだ…」

 

「また従兄弟という立場を気にしているのですね。お父さんとお母さんはどんな感じでしょう?」

 

「最初は叱ってたよ。何度もお父さん、お母さんと呼べ!って。だけど桃矢は全く直さないでいて…流石に二人も参っちゃって。それから日に日にどんどん顔色も悪くなって…」

 

「私も先程、貴方が弟さんと言い合ってた現場を目撃し、弟さんの顔を見て驚きましたよ。あの隈にやつれた表情…そして無理に作った笑顔…恐らく、貴方への態度のみならず、生活習慣も変わり始めたでしょう」

 

「…!!」

 

殺せんせーの言葉に桃花は最も重要な事を突かれたのか、頷くと同時に更に表情を暗くさせてしまう。

 

「うん…今まで大食いだったのに、食べる量が私よりも少なくなったり、夜通し起きる様になったり…最近じゃ私がいない合間にご飯とか済ませて登校したり帰ってきたりしてるから、もう顔すら見れない様になってきてる…の…」

 

そう告白するとともに、桃花は先程の集会の後、桃矢と話していた時の事を思い出す。

 

「せっかくさっき…話ができたのに言い合いになって…それで私が我慢できずに叩いちゃった…」

 

そう言った時には、既にもう涙が流れ始めていた。もっと落ち着いて話していれば説得できたのかもしれない。自分の気持ちを優先していたあまり、拒否された事で我慢ができず叩いてしまった事に後悔しきれなかったのだ。

 

「なるほど」

 

桃花から事情を聞いた殺せんせーは頷くと、頭を撫でる様に触手を置いた。

 

「よく話してくれましたね。とても辛かったでしょう」

 

「ありがとう…殺せんせー…」

 

諦めかけ、自分一人で何とかしようとしていたために、溜め込んでいた感情を受け止めてくれた事で心の中が落ち着き、少しずつ身体が軽くなる。

 

そんな彼女に対して殺せんせーはあることを尋ねる。

 

「そのお気持ちですと、矢田さんは弟さんともう一度、元の姉弟に戻りたい…という思いがあると言うことですね?」

 

「それはそうだよ!」

殺せんせーの問い掛けに桃花は頷くとともに己の気持ちを吐き出した。

 

「桃矢は今までずっと私を守ってくれた!嫌がらせされた時も、何度も助けてくれたし…相談にも乗ってくれた。それなのにこんな関係はもう耐えられないよ…殺せんせー…私どうすればいいの!?」

 

「簡単です」

そう吐き出すかの様に、自分の願いや疑問を殺せんせーへとぶつける。それについて殺せんせーは悩む事なくすぐに提案した。

 

「まずは弟さんとジックリ話す事。そのために“本校舎への復帰条件”を満たしてみましょう!弟さんが望むのはお姉さんである貴方の本校舎への復帰。その条件が満たされれば、多少は弟さんの心にも余裕が現れて話す機会が出来ると思いますよ!」

 

「え…でも殺せんせーが間に入ってくれた方が…」

 

「それではいけません」

 

殺せんせーに仲介を頼もうとすると、その頼みと考えを殺せんせーは顔に×マークを浮かべながら首を横に振る。

 

「確かにせんせーは貴方達の悩みを解決するのが仕事です。ですが、家族間での問題は、お互いが納得するような形で納めなければなりません。話を聞くからに貴方の弟さんは固い信念をお持ちのようですが、それは全て矢田さんに対する罪悪感からくるもの。無理にせんせーが間に割って入り、説得してしまえば、たとえ和解したとしても弟さんの気持ちが完全に晴れる事はないでしょう。

 

だからこそ、矢田さん自身が実力を示さないといけないのです。

 

 

____というか!せんせー国家機密じゃないですか!?また不用意に見られでもしたら、減給じゃ済みませんよ!」

 

「た…確かに…」

 

条件は厳しいものの、確かに殺せんせーの言う事やアイデアは間違っていない上に1番の近道だ。

 

このまま途方もなく話しかけていけば益々溝が深まるばかりである。ならば自身が本校舎に戻れる条件を満たせば桃矢自身も罪悪感が薄れて、元の姉と弟の仲に戻る事もできるかもしれない。

 

 

故に桃花は頷いた。

 

「うん…分かった!自信はないけど…やってみるよ殺せんせー!」

 

「その意気です!ただ、やはり今の生活を続けていては今日みたいに溜まってしまう事もあるでしょう。なので相談したかったら、溜め込まず、いつでもきてくださいね」

 

その心強い言葉は喪失しかけていた自信を再び湧き上がらせていった。

 

 

その後、殺せんせーに駅まで送ってもらった桃花はそのまま家へと向かっていった。

 

○◇○◇○◇

 

 

夜の20時を回る頃。図書館が閉館し、外に出た桃矢は駅へと向かおうとした。

 

 

すると

 

「こんばんは。初めまして桃矢くん」

 

「…ん?」

 

突然と横から声が聞こえ、その声に首を向けると、そこには2メートル後半はある程の巨大な影があった。

 

「…どちら様でしょう…?」

 

それを見た桃矢は鞄を置き、臨戦体制をとる。すると、その影がこちらに近づいてくるとともに月明かりに照らされて、その影の姿が露わとなった。

 

「ん?」

 

その姿を見た桃矢は臨戦体制を解く。そこに立っていたのは、集会の時に途中から現れた巨大で奇妙な教師だったのだ。

 

「貴方は確か……集会の途中から参加した…」

 

「えぇそうです。このたび4月からE組の担任となったものです。『殺田(ころた)』といいます。どうぞよろしく」

 

「殺田…?はぁ」

 

殺田と名乗ったその教師に桃矢は鞄を持ち直すと尋ねた。

 

「それで、その方が私にどんなご用で…?」

 

「立ち話も何ですから、近くの喫茶店でお話でもしましょう」

 

 

 

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