迫り来る1学期中間テスト。
その晩、桃花は机に座りながら苦手な理数系科目に苦戦していた。
「はぁ…数学と理科は難しいな…図形の部分なんて全然分からないしどうしよう…」
そんな時であった。
コンコン
「ん?」
突然とノックと共に扉が開き、振り返る。
「な〜に_____え?」
思わず固まってしまった。そこに立っていたのは、参考書を抱えた桃矢だった。
「桃花さん!なにか分からないところありますか!?」
「へ…?」
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次の日の朝。
「「「「「「「さぁ!!始めましょう!!」」」」」」」
『『え…?なにを…?』』
E組の教卓の前には、マッハで分身を作りながら張り切る殺せんせーの姿があった。その光景に皆が驚きのあまり唖然としながらもつい尋ねると、殺せんせーが張り切りながら答える。
「1学期中間テストが迫ってまいりました!」
「そうそう!」
「なのでこの時間は…」
「「「「各教科高速テスト学習を行います!!」」」」」
次々と言いながら殺せんせーは鉢巻を巻いて分身を作ると、一人一人の生徒について教え始めた。
見れば生徒ごとというより、苦手科目によって鉢巻が変わっている。1人だけナルトがいるのは放っておこう。
その中でも、桃花は数学が苦手であったため、数学の鉢巻を巻いた殺せんせーから、数学について復習していた。
「____と。ここまでは分かりましたか?矢田さん」
「うん!」
「それにしても、苦手な数学の飲み込みが早くなりましたねぇ。何かあったのですか?」
復習していく中で、見られた桃花の理解力に驚いていた殺せんせーは、その変わりようが気になり理由を尋ねる。
すると、桃花は頬を赤く染めながら答えた。
「えへへ!実は桃矢にも教えてもらってて」
「おぉ〜!!なんとなんと!」
それを耳にした瞬間 殺せんせーの分身が涙を流し始めた。
「そうですか…私の声が届いたんですね…!!良かった…!よかった…!!あの時、話し合ってみた甲斐がありましたよ〜!」
「えぇ!?泣いてる!?というかせんせー桃矢になにしたの!?」
突然の涙に桃花が突っ込むも、殺せんせーの涙は止まらず、片岡や前原達のノートや足元にも涙?いや、粘液が垂れ始めた。
「ちょっと先生!?涙か鼻水か知らないけど粘液!!粘液が垂れてる!!」
「のわ!?脚についたぞおい!?」
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それからいつも通り授業を終えた桃花は、今日は倉橋と共に帰路についていた。
「そういえば、桃花ちゃん桃矢ちゃんに教えてもらってるって言ってたけど、何教えてもらってるの?」
「数学と理科だよ。理数系の科目苦手だからさ。凄いんだよ!!質問したら何でも教えてくれるんだ!」
「そうなんだ!良かったね!これでまた仲良しの2人に戻れるね!」
「うん!」
倉橋の言葉に桃花も笑みを浮かべながら頷いた。
そんな中で、倉橋はある事を尋ねる。
「でも不思議だね。なんで突然そうなったんだろ?」
「え?確かに…なんでだろ?」
そう考えながら桃花は昨日の事を思い出す。
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数日も前。
「一緒に勉強しましょう!」
その言葉に一瞬、凍りついてしまった。今まで自身を避けていた桃矢が勉強に誘うなど、考えた事も無かった。
「え…?桃矢!?えぇ!?嘘!?本当に桃矢!?」
「ん?」
思わず身を乗り出して、桃矢の肩を掴んで揺らしてしまうが、夢ではない。現実だ。
桃矢は首を傾げながらも笑みを浮かべながら参考書を取り出した。
「テスト範囲も急に変わったらしいので、それも兼ねて。良かったら教えますよ!」
「桃矢…!!」
その笑顔を見た途端、もう言葉にできず思わず身を乗り出して抱き締めてしまった。
「いいよ!一緒に勉強しよ〜!!…………………え?範囲の変更って…どういうこと…?」
そこからの時間は自分にとって、最高の時間だった。勉強は苦手だが、ずっと避けられていた桃矢と並んで行う勉強はとても楽しく、何度も何度も質問してしまい、次々と内容が頭に入っていった。
「…と、こんな感じになります。分かりましたか?」
「うん!ありがとう桃矢!」
それから夕食の時間となると、食卓で食事をしながら両親にも、桃矢が勉強を教えてくれた事を話した。それを聞いた2人も一瞬は驚き硬直したが、その後に笑顔を見せて桃矢を褒めていた。
「良かった。ようやく吹っ切れたようだな!」
「ん?」
父が笑う中で、桃矢は首を傾げながらも笑みを浮かべていた。その光景に思わず涙が出てしまう。
これこそずっと待ち望んでいた光景だった。
それから、夕食を済ませお風呂も久しぶりに共に入り、就寝の時間となる。
「ねぇ桃矢!久しぶりに一緒に寝____」
「おやすみなさい。桃花さん」
誘うよりも素早く、部屋の中に入っていった。それでも、そんな姿を見れただけで幸せだった。
「もう〜照れ屋さんなんだから♪」
態度は変わらないが、少しずつでも良い。このまま少しずつ家族に戻ればいい。
「ふんふ〜ん♪」
その日から勉強に対するモチベーションは今まで以上に高まっていった。
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ー
今思い返せば、何やら唐突すぎるモノであり、寧ろ不思議でしか思えない。まるで“別人”のようだった。
「なんでだろ…」
その後、倉橋と別れた桃花は考え込んでいた。
なぜ今までずっと自分を避けていた桃矢があそこまで変わったのか?突然と勉強を教えてくれるようになったのか?考えれば考えるほど不思議に思えてくる。
なぜなのか?何が原因だろうか?
そんな事を考えていると家に到着し、扉を開けた。
「あ、おかえりなさい!桃花さん!」
そこには待っていたかのように桃矢が立っており、此方を見つけると笑みを浮かべた。それを見た途端に先程の疑問などが一気に消し飛んだ。
「ただいま!桃矢!」
なぜ桃矢が突然変わったのか理由はわからない。だが、そんなことはどうでも良かった。
「ねぇ桃矢〜!数学で分からない所あるから教えて〜!!」
「いいですよ!」
○◇○◇○◇
それから今日も桃矢に理科と数学の不明な箇所を教えてもらう中、桃花はあることに気づき尋ねる。
「ねぇ桃矢。ここってまだ先の部分でしょ?どうしてやるの?」
「え?」
桃矢の開いてる参考書の部分が、E組で殺せんせーと復習した箇所とは異なっていた。それについて疑問に思い尋ねると、桃矢は不思議そうに首を傾げながらも答えた。
「聞いてなかったんですか?テスト範囲が変更になって、コチラも入るんですよ?」
「うそぉん!?」
衝撃の事実に思わず倒れてしまうも、それに目を向けることなく、桃矢はテスト範囲が変更された書類を見せた。
「ほら、このように」
見れば確かに変更されていたが、変更幅が大きすぎる。範囲は更に広くなり、復習したページについてはいくつか範囲から抜き出されている。
「こ…こんなの知らなかったし、そんなお便り貰ってないよ!?」
「そうなんですか?」
E組だからと言ってここまで差別されてしまうのだろうか?それについて焦りと怒りを覚えるもすぐさま桃矢の両肩を掴む。
「ねぇ桃矢!!それ写真撮らせて!?」
「いいですよ」
それからすぐさま写真を撮り、クラスLINEと殺せんせーに送信した。
すると、皆も同じ時間帯に勉強していたのか次々と既読が付き、殺せんせーに至ってはすぐ返信が来た。
パニックに陥ってしまうが、それでもその事実を知る事が出来ただけでホッとしてしまった。
「はぁ…ありがとう桃矢〜お陰で今度のテスト、ずっこける所だったよ〜」
「いえ」
相変わらず笑みを崩さず淡々と答える。だが、悠長にしている暇はない。
「お願い桃矢!その範囲も教えて〜!!」
「勿論ですよ」
手を合わせながら頼み込むと、桃矢は笑顔で頷いた。
テスト範囲が変更された不安もある。だが、こうして桃矢と勉強しているだけで凄く心が満たされていった。
ずっと深まっていた溝が少しずつ埋まり、桃矢と家族に戻り始めていっている事に嬉しさが止まらなかったのだ。
それによって、いつしか桃矢と話すキッカケをつくるためのテスト勉強へのモチベーションは下がり、
代わりに殺せんせーを殺す事で得られる100億円という一世一代の大チャンスを思い出して、其方のモチベーションが上がっていった。
○◇○◇○◇
次の日
「「「「「さぁ!!今日も張り切っていきましょう!!」」」」」
殺せんせーはもっと増えていた。最初は1人につき1人の分身だったが、今回は1人に対して3人もついており、そのせいか鉢巻も分身の形も曖昧となっている。
「ね…ねぇ殺せんせー…ちょっと張り切りすぎじゃない?」
「にゅや?そうですかねぇ」
茅野の疑問に答えながらも殺せんせーは授業を続けていった。
それから時間が経ち昼休み。
「ニュヤァ…疲れました〜」
流石に複数人の分身を長時間も続けていたためか、完全にダウンし、教卓に倒れながら休憩していた。
「完全にダウンしてやがる…」
「今なら殺せるかも」
「というか、何でそこまでするかね…」
生徒達が次々と口にする中、殺せんせーはニヤリと笑みを浮かべる。
「ヌルフフ。このまま君達の成績があがれば___」
【殺せんせーの妄想タイム】
「先生〜!!先生のおかげでいい点取れたよ!もう先生の授業無しじゃいられない!殺すことなんてできないよ!」
『生徒達の尊敬の眼差し』
「せんせ〜!私達にも教えて♡」
『噂を聞きつけた近所の巨乳女子大生』
【殺せんせーの妄想タイム】終了
「___となって、先生にとって良いことずくめ♪」
そう殺せんせーがニヤニヤと笑みを浮かべている中、その様子を見ていたクラスの中で、磯貝が今回の事に難しい表情を浮かべる。
「それよりも驚いたな…テスト範囲の急な変更なんてよ」
「全くだぜ。殺せんせーが教えてくれてるけど、覚え切れるか…矢田さんが教えてくれなきゃどうなってたか」
その言葉に皆も頷く。先日、桃矢により本校舎にてテスト範囲の大幅な変更が行われた事が発覚し、それを聞いた桃花がすぐさまクラスLINEで発信したのだ。勿論、それを聞いた殺せんせーも大急ぎで対応し、今日はこれ程まで増えていたのだ。
それでも、変更範囲が広すぎるため、1日で教え切れたとしても、詰め込めるかどうか、本人次第の問題となってくるため皆は悩んでいたのだ。
そんな声を耳にすると、殺せんせーは顔を上げる。
「ヌルフフ問題ありません。もう数十分すれば完全回復します。今日中に範囲を通してしまいましょう〜…」
そんな中であった。
「ま、勉強は程々で良いよな」
「あ〜まぁな」
クラスの1人である三村がふと零した。その言葉に同調するかのように中村や他の生徒達も頷き始める。
「ニュヤ!?ちょっと!?なんでそんなこと!」
「だって殺せば100億だもん」
「矢田さんまで!?前まで弟さんと仲直りするために頑張ってたじゃないですか〜!?」
「いや〜最近の桃矢、凄く優しいしもういいかな〜って」
「そんな〜!!」
桃花の変わりように殺せんせーががっかりのあまり涙を流す中、岡島が切り出した。
「だってよ殺せんせー。俺らE組だぜ?そんな俺らに100億稼げるチャンスなんてこの先ねぇんだもん」
「そうそう!」
皆も同じ思いを持っているのか、次々と頷き始めた。
「……」
皆の口から次々と出てくる100億円という金銭への声。それを耳にした殺せんせーは手を止める。
「なるほど。よく分かりました。今の君達には先生を殺す資格がありませんね」
そして、顔全体に大きな×印の模様を浮かび上がらせると立ち上がり教室を出る。
「校庭に出なさい。烏間先生とイリーナ先生も連れてきてください」
突然と不機嫌な様子になった殺せんせーに皆は不思議に思いながらも、校庭へと出た。
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ーー
校庭へと出ると、殺せんせーは雑草が大量に生えた校庭にポツンとあるサッカーゴールなどを隅に押して移動させていた。
その光景に皆が首を傾げる中、殺せんせーの目がイリーナへと向けられ、突然と問いかける。
「さてイリーナ先生。プロの殺し屋としてお伺いしますが、貴方が暗殺の際に用意するプランは一つだけですか?」
「…いいえ。いくら顕密に計画を立てても本命のプランが必ずうまく行くとは限らないわ。だから予備のために複数のプランを考えて置くことが暗殺の基本よ」
イリーナの答えに満足したのか殺せんせーは次に烏間へと問いかける。
「では烏間先生。ナイフ術や格闘術を教える際に、大切なのは最初の一撃ですか?」
「……第一撃は重要だが、次の動きも大切だ。強敵相手では高確率で躱される。そのあとの第二、第三の攻撃をいかに繰り出せるかが勝敗を分ける」
「そう。先生方の言うとおり、自信をもてる次の手があるからこそ、自信に満ちた暗殺者になれる。対して君達はどうでしょう?」
すると、殺せんせーの身体が次第に回転し始める。
「『俺達には暗殺があるからいい』それは劣等感の原因から目を背けているだけです」
その回転は次第に速くなり、周囲の風が殺せんせーを中心に吹き始めていった。
「先生がこの教室から去ったら?もしも他の暗殺者が君達より先に殺してしまったら?暗殺という拠り所を無くした君達にはE組の劣等感しか残らない。そんな君達に先生から警告という名のアドバイスです」
その言葉と共に、殺せんせーの回転は超速度へと達し____巨大な竜巻を発生させた。
【第二の刃を持たざる者 暗殺者を名乗る資格なし】
その言葉がこだますと共に竜巻が吹き荒れ周囲の木の葉を吹き飛ばしていく。
そして
しばらくして竜巻の勢いが次第に収まると、目の前の砂煙が晴れていき、そこには、先程まで大量の雑草が蔓延っていた運動場が全て引き抜かれている上にラインが引かれており、本校舎と遜色がないほどまで手入れされた校庭があった。
「先生はマッハ20の超生物。この校庭を平らにすることなど簡単です。もし君達が第二の刃を示さなければ、先生を殺すに値しないとみなし、校舎ごと平にして先生は去ります」
「だ…第二の刃って…?」
「決まっているでしょ。明日の中間テストでクラス全員で50位以内を取りなさい」
「「「「!?」」」」」
「第二の刃は先生が既に育てております。確かに急な範囲変更が入り50位以内を取る事は難しくなりました。ですが、タイミングを考えればそれは本校舎の生徒も同じ。そして本校舎の先生に遅れを取るほど、柔な授業は行っておりません。自信を持って示してきなさい。君達の刃を。仕事を成功させて笑顔で胸を張るのです。___
____自分達が暗殺者であり、E組であることに」
ーーーーー
ーーー
ー
一方で
「な…なんだ!?E組の山から竜巻が!?」
本校舎にて。B組の教室では、E組校舎のある裏山から発生した竜巻に全校生徒達が集まりながらその光景に注目していた。
「お…おい矢田…お前…大丈夫…か…?」
野球部エースであり、注目されている生徒である進藤一孝の目線の先にいるのは、一心で勉学に勤しむ桃矢の姿があったが、その目は真っ黒に染め上がっていた。
しかも何やらブツブツと呟いている。
「この場合だとこの条件とこの条件が…」
「お…おい…」
思わず声をかけた時であった。その動きが止まると共に、コチラに顔を向けた。
「ヒィ!?」
それを見た途端、進藤は思わず悲鳴を上げる。向けられたのは、以前よりも酷く深い隈が出来上がった桃矢の顔であり、その目からは完全に光が消え去っていた。
「ど…どうしたんだよお前…!?」
その姿に震えながら尋ねると__
「ん?おはようございます!進藤くん!」
突然と桃矢は満面の笑みを浮かべた。しかも言葉の一つ一つがおかしい。その急な変わりようは不思議というより、もはや狂っているとしか言いようがなく、その様子に進藤は冷や汗を流し始める。
「お…おはよう!?いま昼だぞ!?」
「あれ?違いましたっけ?すいません。授業で扱った問題があまりにも複雑すぎて」
「それよりも見ろ!!E組校舎のある山に竜巻が_____」
「竜巻?どこに?」
「へ…?」
桃矢の返答に進藤が首を傾げ、もう一度、窓からE組校舎のある裏山へ目を向ける。
だが、そこにはもう竜巻などはなく、変わりに雲が晴れて美しい太陽の光が差し込んでいた。
「おかしいな…さっきまでは…ふごが!?」
「くだらない妄言で私の集中力を切らさないでくださいよ」
それから桃矢は再び目の色を変えると、勉強を再開した。
そして翌日。中間テストの時間がくるのであった