弟がお姉ちゃんと呼んでくれない   作:狂骨

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中間テストの時間

 

1学期中間テスト。本校舎の生徒にとっては、今後の進路即ち本校舎の在籍継続を賭けた重要なテスト、E組にとっては殺せんせーの暗殺ができるか否かを分ける重要な境目。

 

どちらにとっても己の人生を賭けたイベントである。

 

 

普段は旧校舎で授業を受けているE組の皆もテストの際は本校舎へ赴き、一室を借りてテストを受ける。その際の試験監督も本校舎の教師である。

 

 

___トントントン

 

「いいか?E組だからといってカンニングするんじゃないぞ?俺は見逃さんからな〜」

 

渚やカルマの元担任であり、現D組の担任である教師の小煩い机を叩く音や野次がテスト中であるにも関わらず飛んでくる。

 

その小賢しい妨害とも取れる行動に悩む中、皆は目の前の問題に集中していた。

 

たとえ中間テストであろうと、ここは中高一貫の難関高。出題された問題はまさにモンスターだ。複雑に入り組んだモンスター達がE組の皆へと襲いかかって来る。

 

「…」

 

そんな中であった。皆はある事を思い出す。殺せんせーから何度も何度も教わった問題の“殺した方”

 

___問題文を一箇所ずつ分析してそれらを繋いで全体を見てみれば、ホラ。大した相手じゃない

 

 

彼の声と優しい触手の感覚が、緊張感をほぐらせてくれる。

 

すると、先程まで人喰いワニのような姿をした凶暴なワニは、いつの間にかまな板の上で捌くのを待っている魚へと変わっていた。

 

___さぁ、君の手で料理してしまいましょう!

 

 

問題文の見方と解き方のコツ。

 

殺せんせーとの特訓の成果を思い出しながら、皆は少しずつ問題の外皮を切り取り、その中に眠る“正解”を見つけ出して行った。

 

 

 

その時であった。

 

E組の多くの生徒達が、突如として現れた巨大なモンスターによって殴り殺された。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

次の日の午後

 

皆の表情は沈んでいた。

 

その原因はテストの結果である。返却されたテストの点数は高得点とは言い難いものであり、更に“ほぼ”全員の生徒が50位圏外であった。

 

範囲については問題はない。ほぼ全て履修した箇所から出題されてた。

 

だが、重要なのはそこではなく、問題の内容だ。

明らかに難易度が桁違いなのだ。扱っている問題が範囲の範疇であるにも関わらず、記述に必要な内容や量全てが多すぎる。特に数学に関しては最後の問題は大学受験レベルの問題であり、中学生である彼らが太刀打ちできる様な問題ではなかった。

 

 

ならばなぜ、大半の本校舎の生徒に負けたのか?

 

それは実にシンプルな理由だ。

 

正答率が低い問題については、本校舎の授業で扱った問題からそのまま引き出されていたからだ。

 

それによって、大半のトップは特進クラスのA組と他クラスの最上位層のみである。特に生徒会長である浅野は500点とダントツのトップであった。

 

 

それによって皆は失意の念に落ちていたのだ。

 

一方で、烏間自身も少し焦りを感じていた。生徒達が気の毒なのは勿論だが、提示された条件を満たさなかったため、殺せんせーが本当に去ってしまうかもしれないという懸念が生じてしまったのだ。

 

 

そんな中、

条件を提示していた殺せんせーは皆よりも落ち込んでいるのか、責めるどころか、寧ろ自信を喪失したかのように背を向けていた。

 

「先生の責任です…この学校のシステムを甘く見ていました。皆さんに顔向けできません…」

 

改めて問題を見た時は、殺せんせー自身もこれ程の難易度とは考えていなかったため、実力不足よりも、寧ろこの対応を予測できなかった事を悔いていたのだ。

 

 

 

すると

 

__ヒュン

 

「ニュヤ!?」

 

背後から対先生用ナイフが投げつけられ、寸前に殺せんせーを通り過ぎて黒板に当たる。

 

見ればそこには答案を握り締めながら歩いて来るカルマの姿があった。

 

「いいの〜?顔向けできないなら、俺が殺しにくる姿も見えないよ?」

 

そう言いカルマは答案を教卓の前に広げた。

 

「ちょ!カルマくん!先生は今落ち込んで____えぇ!?」

 

広げられた答案を見た途端、殺せんせーは驚きのあまり言葉を失ってしまう。

 

そこに広げられた答案は全て、高得点のものであったのだ。

 

「俺、難易度上がっても問題ないし」

 

その内容にクラスの皆も驚きを隠せず、彼の答案に注目する。特に数学は満点である。

 

『赤羽カルマ 総得点494点 学年総合4位』

 

「アンタが俺の成績や進み具合に合わせて難しい問題も勧めてくれたお陰だよ。だからムズくても対応できた。だけど、俺はこのクラス出る気はないよ?前のクラス戻るよりも、コッチで暗殺してた方がよっぽど楽しいし♪あれ〜?それとも殺せんせー」

 

すると、落ち込む殺せんせーに対して、カルマのイタズラ心に火がついたのか、答案を見つめる殺せんせーの顔を覗き込む。

 

「全員が50位に入らなかったって理由つけて逃げるってことは〜俺らに殺されるのが怖いの〜?」

 

「…ムキ!」

 

すると、殺せんせーの反応に皆もカルマの意図を理解したのか、次々と頷き始める。

 

「なんだ怖かったのか殺せんせ〜!」

 

「そうならそうと早く言ってくれりゃいいのに〜」

 

 

「ぬぅぅぅ…にゅやぁああああ!!!!」

 

次々と聞こえてくる声に殺せんせーは顔を真っ赤にさせながら声をあげる。

 

「逃げません!!!逃げる訳にはいきません!!期末テストでアイツららに倍返しでリベンジです!!!……って!!何がおかしいんですか!?」

 

殺せんせーのその姿に、次々とクラスの皆からは笑い声が上がり始めた。その光景に殺せんせーが驚くも、笑い声は収まる事なく、烏間達も安堵の表情を浮かべ、クラスの雰囲気は和気藹々とした雰囲気へと戻っていったのであった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

それから授業が終わり、皆が次々と帰っていく中、桃花と談笑していた倉橋はある事を尋ねた。

 

「ねぇねぇ桃花ちゃんはどうだったの?今回のテスト。特に数学とか、桃矢ちゃんに教えてもらってたじゃん?」

 

「フッフッフ…」

 

倉橋から尋ねられた桃花は嬉しいのか、笑みを浮かべながら苦手科目である数学と理科の答案を見せた。

 

「じゃーん!結構上がったよ!前まで50点台ギリギリだったけど、なんとか60後半まで持って行けたし。理科も同じくらい上がったんだよ!」

 

「凄〜い!!」

 

倉橋はパチパチと拍手をしながら称賛するが、総合点を見た桃花は表情を曇らせる。

 

「だけど…順位は80位。50位にはいかなかったな〜」

 

「それは確かに残念だったね…でも良かったじゃん。桃矢ちゃんとも仲直りもできたんでしょ?」

 

「うん!……あれ?そう言えば、桃矢は今回のテストどうだったんだろ?」

 

○◇○◇○◇

 

本校舎の廊下では、テストの結果について喋っていた生徒達の姿があったが、奥の方から次々と道を開けていた。

 

「…」

 

道を開けていく中、その間を通っていくのは、目の前を虚で充血した瞳を向けながらおぼつかない足取りで歩く桃矢だった。

 

矢田桃矢

 

国語:68

数学:100

英語:76

社会:80

理科:99

 

合計423点 学年28位

 

A組に匹敵する成績をとったにも関わらず、その表情は暗く、そして血の気が抜けたかの様に真っ白であった。

 

「…なぜだ…」

 

浮かび上がるのは、桃花を50位以内に入れられなかった自身の無力感と罪悪感のみ。

 

___どうすれば良かった?

 

___どうすれば桃花さんにもっと高い点数を取らせる事ができた?

 

___どの科目をどういうふうに教えれば良かった?

 

___なぜそれが出来なかった?思いつかなかった?

 

何故だ?何故だ?何故だ?何故だ?何故だ?何故だ?何故だ?何故だ?何故だ?何故だ?何故だ?何故だ?何故だ?何故だ?何故だ?

 

 

次々と頭の中がその文字に埋め尽くされていく。今回教えたのが苦手科目だけだったのがいけないのか?

それともこの事態を予測できなかったからか?

 

 

 

いや、違う。

 

____自分に力がないからだ。足りない。努力が__。

 

 

桃花は何も悪くない。悪いのは、今回の事態も予測できない上に、得意科目しか教える事が出来なかった自分の落ち度だ。

 

 

極めなければならない。理数科目は勿論だが、苦手な文系科目も。

 

 

その結論に辿り着いた桃矢はA組の扉を開く。

 

「生徒会長はいらっしゃいますか?」

 

「「「「「!?」」」」」

開けた途端に、A組の全員の目線が桃矢へと注目する。それもそうだ。赤く黒い不気味な目に加えて無造作に伸びた髪といった風貌の生徒が突然と扉を開いて、浅野を尋ねてきたならば、誰でも注目するだろう。

 

 

すると、机に座っていた浅野が気づき、笑みを浮かべながら立ち上がる。

 

「やぁ珍しいね。君から来るとは。何の用だい?」

 

「…」

 

相手は全国でもトップの成績を誇る生徒。教えを請うならばこの人しかいない。そう確信した桃矢は、理由を尋ねて来る浅野に対して、頭を下げた。

 

「お願いします生徒会長…私に文系科目を教えていただきたい」

 

「…!?」

 

多くの生徒達は勿論だが、入室して早々、自身に頭を下げた浅野自身も予想していなかったのか驚く。

 

「唐突すぎるな。理由を聞こうか…?」

 

「今回のテストで、私は2科目でしか桃花さんの力になれなかった。いや、それでも無理でした。だから全科目抜け目ない会長から教えていただきたいのです」

 

「なるほど……」

 

桃矢から明確な理由を聞き出すと、浅野は目を鋭くさせて問い掛ける。

 

「それはつまり、僕にE組生徒の指導を頼みたいということかい?間接的に」

 

浅野のその言葉にA組の生徒達が次々とざわめき始める。それに対して桃矢は間を開けることなく頷いた。

 

「えぇ。おっしゃる通りです」

 

「……嫌だと言ったら?」

 

「何度も請います。貴方が折れるまで」

 

「…」

 

考える事も、間を置くこともなく淡々と桃矢は答えていく。その様子に浅野自身は嘘偽りなく本気であると感じ取り、頷いた。

 

「まぁ、君に教えるくらいならいいだろう。放課後、ここへ来たまえ」

 

「おぉい!?いいのか!?」

 

「あぁ」

 

荒木や他のA組達の生徒が疑念の声を上げようとするが、浅野は頷き桃矢へ目を向ける。

 

「そもそも君には格闘技を教えてもらった恩があるからね。丁度、借りを返そうと思ってたところだ」

 

「ありがとうございます」

 

「…ちょっと待ちたまえ」

 

浅野から了承をもらった桃矢は頭を下げて教室を出ようとすると、それを浅野は呼び止めた。

 

「なんでしょう?」

 

「少し話をしよう」

 

浅野は桃矢を連れて、人の気配のない階段の踊り場へと移動する。

 

「…よし」

 

自分と桃矢以外、誰もいない事をその場で確認すると、浅野は切り出した。

 

「君に一つ頼まれてくれないかな?」

 

「…?」

 

何かの頼み事に桃矢は首を傾げて、詳しい内容を尋ねる。

 

「何をですか?」

 

「簡単さ。君のお姉さんから、今のE組で何をしているのかを聞き出してほしい」

 

 

 

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